忙しい時ほど“力の抜きどころ”が重要

高橋浩一氏:「大量行動×気づき」の高速学習が回ると、成果が出て忙しくなって、次のステージにいく。楽になっていくから大量行動をして、気づいて学ぶ、武器が増える、気持ちに余裕ができて積極的にいろいろ試せる。こんなふうにどんどんお客さまが増えていくような人は、まもなく忙しくなりますよね。

ただ、第4ステージは、忙しくなった時に力の入れどころと抜きどころをつかんで、「メリハリ」を利かせられるようになります。「メリハリを利かせる」ってどういうことなのか、いくつかの角度からお話しをしていきたいなと思います。

まず1つは、営業プロセスの角度からの「メリハリ」です。ここに示されているのは「アプローチ」「ヒアリング」「プレゼンテーション」「クロージング」、さらにこの図で言うと、細分化された営業のプロセスがあります。

最初は、全部を真面目にがんばると。全力ですべてのプロセスをがんばるかもしれません。ただ、案件が増えてくるとどうでしょうかね。とてもこれだと回らないことになります。そこで「メリハリを意識した力のかけ具合」というのは、「ここは少し力の入れ具合を落としても大丈夫かな」というポイントが見えてくるわけですね。

もちろん全部において手を抜いたら成果は出ません。ただ、多少「メリハリ」を利かせないと、自分の時間に限界がきてしまうわけじゃないですか。ということで、営業のプロセスにおいて「メリハリ」を利かせることで余白が生まれますよね。

ハイパフォーマーはメリハリの利かせ方がうまい

営業プロセスの話をしましたが、今度は提案のタイミングです。提案のタイミングにおいて「メリハリ」を利かせることで、アドバンテージが取れる。

例えば、お客さまのニーズが顕在化されている流れはこんな感じです。まだ社内で議論されない段階から、次に経営の上層部で議論・検討される段階。そして、経営から現場に方針が提示される段階。経営から現場に具体的な指示が飛んでくる段階、現場で対策が具体的に動き始める段階と、段階が進んでいく。

これがお客さまのニーズが顕在化されていく流れなんですが、すべてのタイミングにおいてがんばると、やはり限界がきますよね。ですので、例えば経営の上層部で議論・検討されているところから、現場に方針が提示されるぐらいのところが、一番お客さまとの接点が作りやすい。

ここで、お客さまと二人三脚でディスカッションを重ねることによって、より上位段階で当社の提案を入れてもらえるための土台が築かれます。

そうすると、まだ社内で議論されていないような段階だったら軽い定期接触をしておいたり、だんだんと具体化されてきたら提案に移るわけです。ただ、ツボを外してしまうと、例えば経営から現場に具体的に指示がされてきた段階や、現場で対策が動き始めた段階から競合が接触してきても、競合にとってはもう手遅れとなりますね。

逆に当社としては、経営から現場に対してコミュニケーションされる上流段階において、しっかりお客さまとコミュニケーションしていれば、かなり効率的にアドバンテージを取ることができます。

だからハイパフォーマーの方って、上流段階で早めに実質案件を決めていることが多くないですか?

ぎりぎりのところで、必死に値引き交渉とかをしながら受注する案件は少なくて、むしろ早めの段階でうちのサービスを入れてくれていることがお客さまの中で既成事実になっているような、こういう動きをしているじゃないですか。これが「メリハリ」なんですよね。上流段階で捉えているんです。

アプローチ先の「第2優先」を明確にする

さらに「メリハリ」にはもう1種類あって、アプローチ先に対する「メリハリ」もあります。例えばこれは、予算と取引実績の有無でお客さまをセグメンテーションしていますが、もちろん第1優先は、予算も大きいし取引実績があるお客さま。すなわち、ここの図で言うところのAセグメントは絶対落としてはいけないお客さまです。

ただ、その次に「第2優先はBが大事? それともCが大事?」という議論ってあるじゃないですか。「メリハリ」が利いている人は、この時に2番目をどっちにするかが決まっているんですよ。

取引実績はないんだけれども、予算が大きいBが第2優先だったら、一応検討事項として「即効性のある業績アップを犠牲にする代わりに、将来の販路拡大が可能である」と。すなわち他社が既に入り込んでいるお客さまについて、時間をかけて攻略する。すぐには売上につながらないけれども、うまくいったら将来大きいぞということです。

「まずは今期はCを優先する」ということが、割り切りとしてあるケースも出てくるかもしれません。もしCが2番目だったら、「将来の販路拡大というよりも、即効性を求めて今期の数字をしっかり作っていこう」ということになります。

でも、ここでしっかり今期の数字を作っておけたら、来期はチャレンジできることもあったりするわけですね。いずれにせよ、第2優先を明確にすることが大事であり、アプローチ先によって「メリハリ」を利かせることで、将来のリターンが大きくなります。

いきなりメリハリを利かせるのは「ただの怠惰」

ただ「メリハリ」で難しいのが、前提があるんですよね。いきなり「メリハリ」を利かせるのは、ただの怠惰であるということなんですね。「優先順位」という言葉がやたら出てくる新人の方もいるじゃないですか。マネジャーの方はやきもきしますね。「いきなり優先順位というよりも、まずは全部やるんだよ」というか。

でも、なんかいきなりメリハリを利かせる人っていたりしますが、残念ながら何の土台もなかったら、ただの怠惰で終わってしまいます。

そして、「仮説検証ゲーム」を覚えたら「メリハリ」を利かせることもありがちなんです。これだとまさに器用貧乏一直線で、いつまでたっても頼れる柱ができない。「型」がしっかりできてない状態で「メリハリ」を利かせようとしても、肝心の実力が伴っていないということですね。

じゃあ、「型」が習得できたらメリハリかというと、高速学習のサイクルができてないと応用力がついてないんですよ。応用力がついてない人が「メリハリ」を利かせると、労働時間は確かに短くなるんですけど、そのうち伸び悩んでしまいます。

「高速学習」を身につけてからの「メリハリ」は最強ですよね。基本・応用を押さえつつ、常にアップデートし続けるということです。土台がしっかりあった上で「メリハリ」があるのが理想的だということですね。

余裕が生まれると魅力的な案件に取り組める

ということで、第4ステージ「『メリハリ』におけるポイントは?」なんですが、「営業プロセス」「提案タイミング」「アプローチ先」などにおける、力の入れどころと抜きどころがわかってくるということです。

そして「忙しさによるマイナス感情」がなくなってくる。忙しいけれども、追われて疲弊したり、消耗したりする感覚がなく、わりと営業を楽しくやっている。だから忙しくて充実している先輩って、まさしく第4ステージにいたりするわけですね。

そして「メリハリ」のステージの次に行くためには、大変なことをしなくても成果が上がる状態になっているかどうかが、ステージ卒業の鍵になります。そんなに大変なことはやってないんだけれども、どんどん成果が上がる状態になっていたら、次のステージは「自然体」です。

ある程度メリハリの利いた営業活動ができるようになってくると、余裕が生まれてきます。そうなると、たくさんの提案機会はあるんだけれども、時間の余裕は失っていない。冷静に考えて優先順位をつけた上で、魅力的な案件に取り組めるということですね。

要するに、自分のもとにはいろんな案件がいっぱいあって、「どのお客さんに注力しようかな」と、わりと余裕があるということです。

「無理なくいつも目標達成している営業」を目指すには

さらに、質の良いお客さまの基盤に恵まれている。短期的な目標達成の心配をせず、長期的目線で営業活動ができることになりますね。お客さまの中にも、明確な優先順位がついてきているわけです。

そして、紹介やリピート、クロスセル、アップセルが生まれることによって、こちらからお願いするよりも、お客さまからお願いされることが増えてくる。高速学習が効いて、「メリハリ」で次の紹介、リピート、クロスセル、アップセルにつながるポイントに特に注力した状態ができていると、当然お客さまからのご相談も増えます。

こういう状態になった人は、「無理なくいつも目標達成している営業」になっていくわけなんですが、これはどういう人なのか。

「上流の原則」は、受注間際でがんばるよりも、案件達成段階で実質的な決着をつけにいく。そして「間接の原則」は、「今すぐのお客さま」だけに終始するわけじゃなくて、「そのうちのお客さま」を大事にする。だからずっと数字に困らない。

そして「悲観の原則」。「たぶんうまくいく」ではなく、「うまくいかないリスクは何か」で考えるから隙がないわけですね。

そして「分散の原則」。一部のロイヤル顧客に売上を依存するのではなく、ふだんから顧客層を増やしておくことができている。さらに「先行の原則」は、期末にがんばって追い上げるんじゃなくて、期初の段階で貯金を作って、先行しておくということです。

こんな人たちは、身にまとう雰囲気が違うわけですよね。表面ではなく本質を悟った雰囲気があり、にじみ出る余裕、そして営業を楽しむ姿勢。こういった人たちは「自然体営業」をやっているわけですね。

無理に売り込まなくても顧客に必要とされるために

ということで、第5ステージを簡単にまとめていきますと、「無理をしない」「売り込まない」。でも、お客さまのほうから必要とされる。そうやって楽しみながら卓越した成果を上げる姿が、独特の雰囲気を醸し出しているということです。

ここまで第5ステージまでお話しをしてまいりました。あらためて見てみると、入り口として、普通の人がいきなり「型の習得」から入らない。「仮説検証ゲーム」で選択肢を増やしていかないと、正解がないことへの恐怖がなくならないということですね。

そして「型の習得」があった上で、「高速学習」になります。ある程度頼りになる柱があると、経験学習サイクルが非常にスピード感を持って回せるようになります。高速学習が回ってくると、「メリハリ」が利かせられるということですね。

そして、メリハリを覚えてうまく成果が上がるようになってくると、自然体の営業の姿が見えてくる。自然体で営業をする人は、社内で有名なハイパフォーマーの域に達していますよね。

営業パーソンを育成する際の5つの注意点

ここで注意点があります。5段階の成長ステージを踏まえた、育成上の注意点を5つお伝えしたいと思います。

まず1つは、「仮説検証ゲーム」がわかってないうちに、いろいろとアドバイスを各方面からしてしまう。これはハマるパターンですね。「どれをやったらいいんだろう?」と迷ってしまうから、「仮説検証ゲーム」をしっかり教えておきましょう。

あとは、いきなり最初から「型の習得」を押しつけると、成長の限界を作ってしまう。これは先ほどもお伝えしましたが、応用が効かなくなってしまいますし、教えてもらわないと何もできない人が育ってしまいます。

「高速学習」の土台ができる前に、「やっているうちにわかるよ」と、闇雲な大量行動をやらせてしまうと、洗面器に息を止めて顔を突っ込むみたいな感じで、とにかく我慢という感じになってしまいます。これだと高速学習が回りません。

そして「メリハリ」の段階に来たメンバーです。これはちょっと組織的なコミュニケーションの見方になるんですが、「メリハリ」のところに来た人って、全部を一生懸命やらなくてもいいわけですよ。ただ、まだそこの域に達していないメンバーもいますよね。ここのコミュニケーションを混ぜるとけっこう危険なんですよ。

まだ「メリハリ」に来ていない人は、まだ真面目に取り組むべき領域がけっこうたくさんあるんですが、変に怠けたり手を抜くことを覚えてしまったりするわけです。だから、ここはコミュニケーションを分けないといけないです。

そして「自然体」の段階に来たメンバーが、そのまま素の状態で他のメンバーにアドバイスしてしまう。「自然体」の人は本当にすばらしいハイパフォーマーなんですが、はっきり言って「自然体」の人の言葉は他の人に通じませんので、その状態で他のメンバーにそのままアドバイスしても、ちょっと迷ってしまいます。

ということで、5段階の成長ステージを踏まえた育成上の注意点をぜひお持ち帰りいただきたいと思います。ここまでお聞きいただき、本当にありがとうございます。