田尻氏が考える、生産性を上げやすい業種

井上和幸氏(以下、井上):田尻さん的に、業界全体で見た時に特にこのビジネスは生産性を上げやすいというのはあるんですか?

田尻望氏(以下、田尻):できるだけ変数の多い業種が上がりやすいですね。例えば人材系だと派遣よりかは人材紹介のほうが経営はやりやすいです。IT系も変数が多いのでやりやすいです。

井上:なるほど。人材紹介だったら、どうアプローチすればいいんですか?

田尻:人材紹介は、まずヒアリングの仕方。通常みなさんは、スキルや経験のような表面的なニーズを聞いてしまうんですよ。「こんな人がいたら紹介してください」と聞いて、「わかりました」と求人票を書いてしまうパターンですが、やはりプロは違うわけです。

「そんな人材が欲しいんですね、わかりました」という表面的なものに関しては、もちろんちゃんと受け止めた上で、「その方がいることによって御社は何を成したいんですか」と聞く。「どんなプロジェクトを成していきたいのか」「どんな目標を成していきたいのか」とそっちを聞くわけですね。

その中に本当のニーズがある。僕らはそれを裏のニーズと呼んでいます。例えば「これからの時代AIが発達してきて日本は高齢化が進むから、私たちはこんな目標を立てているんです」と。

「この目標に対して貢献するプロジェクトがこれです。このプロジェクトがうまくいくためには、こんなスキルが必要です」と。スキルと言っていても、本当に欲しいのは「このプロジェクトをしよう」という話じゃないですか。

井上:そうなんです。

“顧客の要望通り”が最適解とは限らない

田尻:そういうことをちゃんと言語化をしてみると、おもしろいことが起こるんです。「今高齢化の中でAIが発達してきて、こんな人材が欲しいという方がけっこういらっしゃるんですけど、御社も欲しいですか」と聞いたら、「うん、うちも欲しい」となって他社にも売れるニーズになる。

ちなみにこの流れをセールスフォース(顧客管理ソリューションシステム)に入れていくと、体系的にみんなを成長させる使い方になるんです。残念ながら日本ではセールスフォースの使い方を知らなかったり、使えなかったりという方が多い。

理由は「ニーズ」「裏のニーズ」「背景」の3つをきっちりと切り分けず、それぞれの利用用途を知らないことが原点にあるんですよ。

井上:なるほどね。確かにそれはそうですね。当社は今日のような事業のほかに、エグゼクティブサーチで経営層・幹部層の採用と転職のお手伝いをしているんです。当然人材紹介業なわけで、ただ……。

田尻:よく考えたら大先輩がいらっしゃるのにちょっと……。

井上:いやいや、おっしゃるとおりで勉強になりますよ。ポジショントークではなく、特に僕らは経営層と幹部層に特化しているからなおさらなんですけど、僕自身もうちのメンバーの中でも当たり前の話になっちゃっているんですが、人材紹介業をやっている意識が本当にないんですよ。

何をやっているかというのは、まさしく今お話しくださったとおりで、その会社はどういう事業をやろうとしているのかとか、今何に直面しているのかとか、次はどういうことに向かっていきたいのかを僕らはいつも聞いていて。

そこに対して、あと組織的なフォーメーションの中のマネジメントという観点のところで、満ち足りていないものがあるからご相談いただいているので。「なるほど、そういった時にはこういう方にそこの部分をやっていただいたらいいですよね」となるのですが。実はうちでは、その大元のテーマとか課題のほうで考えて、お預かりしたお話そのものじゃないかたちの人をご紹介することはすごくあるんですね。

顧客の大元のニーズを捉えることが付加価値につながる

井上:結局、そういうかたちの方がすごく採用されて、ご活躍いただいていることが本当にあります。それを今日の話とかこつけると、よく僕らは独占案件とかエクスクルーシブ(独占権)とか言うんですけど、結果的にそういうものなんですね。

というのは、CFO(最高財務責任者)が欲しいですというオーダーは、顕在ニーズとして一応言われているんですけど。ただ例えば、CFOが欲しいって話なんだけど、大元のニーズや課題を考えた時に「COOの人がいいんじゃないか」ということで採用されたりします。そうすると今日の話と一緒なんです。

それってある意味すごく付加価値だと思いますし、結果として独占なんですよね。他のエージェントさんがそういうふうに探していないというのは当然あるので。そういう結びつきを今のお話でも感じました。

田尻:ありがとうございます。実は求職側もやはりだいたい自分の特長を話してしまう。例えばエクセルが得意ですと。エクセルが得意なのは別にそんなに価値じゃないんですと。

そうなんですけど、「それが得意だったことによって、過去のプロジェクトでどんなことがうまくいったんですか」って聞いたら、「実は開発のプロジェクト案件をマネジメントして、開発期間がもともと3年だったのを1年半にできたんです」「そっちを言いなさい」と。

井上:いや、田尻さん、うちの業界もできますね(笑)。

田尻:がんばります!

井上:いやいや(笑)。

日本×海外の理論を組み合わせた、キーエンス独自の仕組み

井上:なんかちょっとつなぎでこんな話をしていますけど、みなさんぜひせっかくですから、田尻さんにお聞きになりたいことは書き込んでいただければと思います。

田尻:ぜひぜひ、なんでも聞いていただいて。

井上:「(書籍を)全部持っています」。

田尻:ありがとうございます。

井上:「キーエンスさまの付加価値創造提供の考え方は欧米や海外ではよく理解されている概念でしょうか、日本オリジナルでしょうか」と、これはおもしろい質問ですね。

田尻:これは難しい。私のひもとき方で言うと、海外の例えばチェーンストア理論(アメリカで生まれた経営手法)であったりとか、船井幸雄さんの一番店商法だったりとか、ジェイ・エイブラハムさんとか、フィリップ・コトラーさんとか。

マーケターのいろんなものを読ませていただいているので、その観点からキーエンスをひもといてみると、僕の話の付加価値創造って実は複合理論になっているんです。

キーエンスはやはり僕のイメージで言うと独自かなと思います。何が独自かと言うと、確かに海外の理論から見てみたら、類似しているところはいっぱいあるんですけど、たぶんここまで細かく詳細に仕組みを作って、動かして、時間を守り、情報を守り、細かくやれているのは日本独自。

それで、日本独自×海外のマーケティング理論であったりとか、創業者の方は海外で学ばれたと聞いているので、たぶん海外理論もあると思うんですけれども。これを複合してできているのは、キーエンスだけなんじゃないかなと思います。答えになっていたらいいですが。

井上:そうですね。やはりキーエンスさんが自分たちごととして積み上げてきたもので、ただそれはもちろん、いろんな端々に他で研究されたり、形式化されているものや、結果同じになっているものがある。そこを田尻さんはたぶん「この部分はこの考え方と同じになっていますよ」と言ってくださっている感じでしょうね。

田尻:そうですね、おっしゃるとおりです。

井上:ありがとうございます。

企業の組織構造を変えるための道筋

井上:「今日は貴重な内容のお話をありがとうございます。特にキーエンスの組織設計のお話、コンサルセールスから商品企画、商品開発にあるべき姿など非常に共感しました。一方でそれを実現できない企業も多く」、本当にそうなんですよね。

「頭でわかっていても実行しない会社も多い。導入する際にどういう障壁があり、どう突破したらいいかなど、コンサルティングの例があればおうかがいできないでしょうか」ということですが。

田尻:ありがとうございます。まだ300名ぐらいの会社さまだったんですけれども、それを突破しようとしてくださっている会社さまはやはりおられて。

その時はトップの方ともお話しさせていただいて、そもそも新しいマーケットイン型組織ってどんなものかというところを、組織構造を変えていける方とお話しさせていただく。そうするとみなさんに浸透していくというのが、まず1点あるかと思います。

ただ、このご質問のされ方から、大きな企業さまの中のお一人なんじゃないかなと思いながら見ているところもありまして、もしよかったらその情報をいただけると。

正直、中小企業さまであれば、社長さま、役員さまクラスがちゃんと決断をして、マーケットイン型組織になるんだと、ちゃんと役割を合わせていけばできることはありますし。どっちにしても私たちが一番最初にやるとしたら、「みんながちゃんとコンサルティングセールスをできるようになりましょう」と言います。

なぜかというと、今ある組織でセールスが強くなるだけで、普通に売上はグンっと上がります。そうしたらお金の余力ができるので、そのお金の余力を使って組織改編するというのが普通にできるようになりますから、そのあたりでまず順番に進めていったらいいかなと思います。

大企業で周囲を巻き込み、組織を動かすには

田尻:困ったところの部分でいくと、例えば大企業さまですね。何万人もいらっしゃる組織体の中のこのご意見のパターンで言うと、正直、最終的な決定権のギリギリ、もちろんトップの方までいけたらいいんですけれども。なかなか「いや、さすがにこの意見は通りません」ということもあります。その時は、簡単に言うと出来うる限りの方を巻き込んで、このマーケットイン型を実践する。

マーケットイン型の中で私が大事だなと思っていることがあります。それは、まさに井上さまが先ほど言ってくださった「作る」から最後の「売る」だけでなくて、もうちょっといってほしいのは、売って、使って、そしてお客さまが役に立つ。ここまでを一気通貫で社員の方に理解させたとしたら、正直なところ、自分がマーケにいようと営業にいようと開発にいようと、全部動かせます。

なぜなら、「お客さまが欲しいって言っているんだから、これを作りましょうよ」と。「売れたら自分の人事評価制度が上がる」って言ってみんなが動くわけですよ。売れなかったら最悪ですけど、お客さまが買うのがわかっていたとしたら、みんなの評価が上がりますから。それを糧にして(組織を)動かすことができるかなと思います。

なので私も小さな会社ながら、大企業さまに対しては、目の前の人には「人事評価がありますよ」と、経営者には「儲かりますよ」と、現場の方には「今より楽になりますよ」と、マネージャーさんには「マネジメントが楽になりますよ」って言いながらお話をさせていただいています。

こんな外部の小さい会社でも何万人もの会社さまにコンサルティングができるのは、すべての人たちに対してのWin-WinーWin-WinーWin-WinーWinを考えて、それを一気通貫にする。ということを想像できる方が、たぶん社内に少ないんだと思います。もしもできるようであれば、ぜひコンサルティングセールスなどでお役に立てればなと思っています。

キーエンスが徹底して数値化にこだわる理由

井上:そうですね。大手さんだった場合には、小ユニットの中で回せるサイクルもあると思うので。そこから取り組んで、そういったロールモデルがどんどん広がっていくケースはどの会社もあったりしますし。

田尻:そうですね。

井上:なんか大手あるあるみたいなことだと、「お客さまがそうしたいって言っているじゃないですか」って言った時に「全員なのか」とかね(笑)。「違う人もいるだろう」みたいなことで茶々が入りがちな場面に直面してらっしゃる方もいるかもしれないですね。

田尻:本当にそういう人がいたとすると、ちゃんと数字のことを学んでいただきたいですね。10パーセントの人が買えば十分なんですよと。でも「買うのか?」って言われた時に「数字を見て」と言えないのもちょっと問題かもしれないですけれども。

「正直10パーセントの人が買ったとして、これだけ認知を広げていったらこのくらいの売上が上がりますので、もともと投資した金額がこれくらい、粗利益がこれくらいなので売れますからやりましょう」って言えたらいいんですけれども。

「みんなが欲しいって言っている」って数字が入っていないので、これも報告の仕方とかフォーマットの部分で改善できるかなと思います。

井上:キーエンスさんはそこのところを数字で徹底的にやってらっしゃるので、そういうやり方もちゃんと合わせてやらないとですね。今日(ご参加)のみなさんはそういう話し方はしないと思うのですが。感覚だけで言っても戦えないですよね。

田尻:良い言葉がありまして、なぜ彼らがこんなに数値化をやっているかと言うと、やはり共通言語、共通認識なんですよ。私と井上社長も、キーエンスの中で言うと、営業と開発も事業部が違っても数字は一緒なんですよ。

お客さまとも、アメリカと比較しても数字は一緒なんです。つまり、グローバルでの共通言語は、実は数字しかないという。

英語よりも、中国語よりも、日本語よりも、数字が一番共通言語と考えると、ここを共通言語としていないのは、ビジネス上むちゃくちゃもったいないと気づいていただくといいんじゃないかなと思います。

商談数が多すぎる時の優先順位のつけ方

井上:そうですね。あっという間に時間になってしまいましたが、本当にありがとうございます。ちょっとあちらこちらに話を飛ばして恐縮でしたが。

田尻:とんでもない、めちゃくちゃ楽しかったです。

井上:1つ追加でいただいた質問がありました。「キーエンスさんは多くの商談があると思いますが、どんな商談を捨てて、どんな商談を取りますか。面展開ができる商談でしょうか?」。商談の取捨選択を1つだけお答えしていただいて締めましょうか? 

田尻:ありがとうございます。面展開というよりも、最終的な成果額。成果は営業利益ベースみたいなものを見ていますので、最終的に成果額が一番取れるものを展開していくかたちになるかと思います。

どんな商談を捨てて、どんな商談を取るか。キーエンスとかになってくるとアポイント数がたくさんありますから、行けるアポと行けないアポがありますと。おっしゃるとおりだと思います。

ただ月50アポのうち行けない商談は確かにあるかとは思うんですけれども、出来うる限り捨てる商談がないように組織体を組んでいくことかなと思います。

なので、これはマーケットイン型の採用なのかもしれないんですけれども。マーケットイン型の採用は、市場の声を聞いて、来年の需要、再来年の需要を考えていった時に、「今後この商品の需要はこれだけ上がるから、何人採用しよう」と決めていると思います。

「何人採用したから、ここでがんばってね」ではなく、「これからのマーケット需要がこれだけあるから、何人採用したい」と、マーケットの需要をもとに採用をしているので。できる限り捨てる商談がないようにしているかとは思いますが、もちろん取捨選択する時は、いわゆる最終成果額が一番取れる場所になると思います。

井上:ちょっと時間も回ってしまいましたが、今日は本当に田尻さん、ありがとうございました。

田尻:ありがとうございました。