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経営者力診断スペシャルトークライブ:キーエンスに学ぶ!高付加価値経営はこうして実現する(全5記事)

営業と開発が不仲な会社は、組織構造に問題がある 元キーエンスのコンサルが語る、「価値ある商品」を創り出す鉄則

本イベントは、高付加価値経営や生産性の高い組織開発を目指す経営者、マネジメント層に向けて開催されました。本記事では、キーエンス出身の株式会社カクシン代表取締役CEOの田尻望氏と、株式会社経営者JP・代表取締役社長CEOの井上和幸氏が、キーエンスと一般的な会社の違いについてお伝えします。

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「うちの業界は特殊で」という企業の盲点

田尻望氏(以下、田尻):あと、よくお客さまから「(うちは)特殊な業種なんです」と言われるんですが、特殊な業種ほどやりやすい。

井上和幸氏(以下、井上):それはなんでですか?

田尻:特殊な業種ほど、だいたい特殊ではないので。

井上:あぁ、実は当人が特殊だと思っているだけだと。

田尻:そうそう。例えば私のクライアントで医療卸の会社さんがあるんですよ。4大卸のみんなが同じことを思っていまして「いやぁ、うちの業界は特殊で、みんな同じものを持っているんですよ」と。

これは保険業界も一緒です。ほかの商社の人たちも「みんな同じものを持っているんです」と。別に特殊じゃないんですよ。普通なんです。でもこれは逆におもしろくて、みんなが「いや、うちの業界は特殊で」と言っている時、その業界は思考停止なんです。

井上:確かに。

田尻:だから価値ある攻めの一手に回った瞬間に勝てるんです。だってほかの会社が油断して、もう思考停止の状態で「とりあえずお客さまに言われたら、がんばったらいいよ」と思っているだけなので。もちろんがんばっている5パーセントぐらいの人はいますよ。

その人たちを敵にする必要はなく、がんばっていない95パーセントがいる。これはつまり日和っているんです。特殊だと言っている業界の人たちは「特殊だからがんばっちゃだめだ」と思っている。でも価値ある流れを教えてあげて、前向きに行動した瞬間に「えっ、御社でもそんなことができたんですか」となる。

特殊な業界と言われたらラッキーと思うのは、そういうことです。「そんなに特殊なんですね」ということは「御社が動き出せば勝てますね」という話なんです。

田尻氏が「ピンチはチャンス」を実感した出来事

井上:だいたいそうですよね。業界のこれまでのやり方が当たり前になって、考えなくなっているということですかね。

田尻:おっしゃるとおりです。正直「ピンチはチャンス」というのは本当だなと思っています。私も研修業界にいたので、やはりコロナの時にピンチがチャンスに変わったんです。2020年の3月26日に小池百合子都知事が「自粛」と言ったんですよ。

翌日の研修が止まり、当時そこまで事業がうまくいっていなかったので、1社の研修だけでもちょっと涙が出た中で、さらに小池さんは「不要不急の外出は避けてください」と追い打ちをかけたわけです。「あっ、僕の研修は不要不急だったんだ」と(笑)。

井上:確かにそうですね(笑)。

田尻:そこで翌日1日空いたから僕はがんばったわけです。朝から晩まで考えて、自分のコンテンツの中で必要かつ緊急な内容だけを残しました。

井上:なるほど。

田尻:短期間でいかに成果が上がるかに集中して、必要かつ緊急のものだけを残して、それを全部オンラインで受けられるようにしようと。すると売り上げが大きく上がりました。

井上:なるほど。

田尻:周りの研修業界の方々は「コロナが終わったらみんなが戻ってくるよ」「今は仕方がないから、僕たちの研修は対面でやらないとね」「そうだよ」と言っていたわけですね。これがみんなが日和ってくれている状態なんです。ピンチになった時はみんなが日和ります。日和っている時こそ動けば勝てます。その実感を私も持ちました。

キーエンスの商品はすべて「ニーズ起点」

井上:なるほどね。ちょっと話を進めさせていただきます。(田尻さんは)プロダクトアウト(商品開発や生産、販売活動を行う上で、顧客のニーズよりも企業側の理論を優先させること)ではなくてマーケットインで、とにかく徹底的に今の顧客をしっかりと捉えていこうと。しかもある一部の組織だけではなくて、全社・全機能・全員がマーケットインで動けているかどうかが大事だとおしゃっています。

田尻さんはどの著書でも一貫してこのメッセージを伝えられていると思うんですが、ただ顧客から考えようと言っても考えていないことが多い気がしますよね?

田尻:はい、そうですね。この資料は、私が知るマーケットイン型組織の1つの事業のかたちです。お客さま・市場に対してコンサルティングセールスがニーズの探索をし(①)、商品の企画者が価値を創出し(②)、商品開発が実現をし(③)、販売促進が価値展開(④)、つまりマーケティングをし、そしてセールスがお客さまに対して価値を実現しにいく(⑤)。

もう言われてみたら当たり前なんですが、逆に言うと「これ以外に何かあるんですか」というのがポイントです。これはすべてお客さまからのニーズ起点でマーケティングをしていて、ほかのお客さまに対してもどんどん展開はするんですけど、すべてニーズ起点なのです。

ちなみにキーエンスの商品を、ホームページで見てみてください。商品群がすべて載っています。私は商品企画の方に言われて感銘を受けたことがあったんですが、「これらの商品群の中に、キーエンスが作りたいと思って作った商品は1つもない」と。

すべてがマーケットイン、お客さまの潜在ニーズから作った商品だとおっしゃっていて、「すげぇな」と思ったのを覚えております。前提としてお客さまのニーズが起点なのでムダな組織がまずないです。

つまり大企業さまや大きくなってきた企業さまだと「何かできるんじゃないか」とこのへん(商品開発や商品企画などのまわり)にいろいろと組織が出来上がっていくんですよ。でもキーエンスはお客さまのニーズしか知らないという。

井上:なるほど。

営業と開発のけんかがキーエンスでは起こり得ない理由

田尻:常に「お客さまが欲しがっているものは何か」「気づいていないけど欲しがっているものは何か」を読む。それを調査するための組織ならよいのですが、「なんかできることないかな」で作り上げた組織はだいたいムダです。組織体ごとムダですね。

井上:ありがちですよね。でも今のお話の矢印の起点が①(ニーズ探索)から始まっていない、商品企画の②(価値創出)から始まっていたりするんですかね。

田尻:けっこう多いのが、3(商品開発の商品実現)から始まっちゃうんですよ。それで2の意味を知っている人が少ない。

井上:確かに。

田尻:よく日本の組織だと営業と開発がけんかするという。

井上:一番のあるあるですよね(笑)。僕らもよくつき合うのはその部分ですけど。

田尻:僕はキーエンスで営業と開発がけんかしているのは1回も見たことがないです。

井上:それはすばらしいですよね。

田尻:その答えがこの図の中にあるのです。

井上:ちゃんとこの流れになっているからですよね。

田尻:そうなんです。営業と開発のコミュニケーションはほぼないです。なぜかと言うと、商品の企画者がすべての責任を持っているからです。

商品企画の価値創出は何か。ちょっと松下幸之助さんっぽく言ったら、「あそこに、電灯を持っていなくて、夜になったら暗くて勉強ができなくて困っとる子たちがおるやろ。私たちは電灯を灯し、光を灯すことによって、みんなが勉強できる社会を作るんだ。だから電灯を作るんや」と。

この電灯を作るのは、商品開発者の仕事だと思います。でも「光がなくて勉強ができなくて困っている子たちがいる。その子たちに光を届けることによって勉強ができる社会を作る」、これが価値なんですよ。

この価値を作るのが商品の企画なんです。これと商品の開発は別なんですね。営業はそれを売るのが仕事。開発はこの価値を実現するのが仕事。価値自体を見出すのは、本当は日本では創業者の方とかなんですよ。

創業者や経営者の方はそれを見据えてきたはずなんです。でも、その方々は自分ができたことを当たり前だと思ってしまっている。またお年を召してきたり、組織が大きくなってきたりすると、営業部長と開発部長の2人と会話して「商品を企画してがんばるんやで」と言って去っちゃうんですね。これでは価値ある商品は作れません。

井上:なるほど(笑)。おもしろいな、確かにそうですね。

セールスが起点となるキーエンスの強み

田尻:つまり営業と開発がけんかをするのは、営業と開発のせいではなく、組織構造の問題です。

井上:もう一度今の図を見せていただいていいですか?

田尻:もちろんです。

井上:ほかでも現場からいろいろと取り入れようとしている会社もあると思うんですよね。その中で、田尻さんは重要な考え方をいろいろと我々に提示してくださっていて、特に僕の大学のゼミ友(中央経済社・坂部さん)が編集をしていた田尻さんのご著書1冊目の『構造が成果を創る:価値を構築するストラクチャリング思考と手法』を読んで、僕は感銘を受けたんですよ。

タイトルにすごく惹かれたんです。「その構造がすべてを作る」というメッセージに「あぁ、そうだよな」と思って手に取らせていただいて。(先ほどの話は)まさしくあの話なんですよね。

一般的な会社が、今田尻さんがお話しくださったことを何もやっていないわけではないんだけど、組織的な観点で商品企画のような位置づけにある人(マーケティング部など)が商品企画も含めてやっていたり、営業ではないのに一生懸命顧客のニーズを探しに行ったりしている感じがしますね。

田尻:井上さん、さすがですね。まさにキーエンスの商品企画はもともと販促もセールスもされていた方が多いです。だから販促にもセールスにも強いです。

井上:なるほど。内部的にそうなっているわけですね。

田尻:もちろん開発から(商品企画に)なった方もいらっしゃるんですが、(商品企画は)正直スーパーマンです。なんなら「自分が作った商品を僕が一番売ってやる」ぐらいに思っている方々です。データ分析をして最適化して売るには、販売促進のほうがデータがそろっているからという話で、「もしもできないんだったら僕がやってやる」ぐらいに思っていらっしゃると思います。

井上:商品企画はキーエンスさんでも非常に起点になるわけですね。悲しいかな、優秀なマーケティング部や商品企画部ががんばっていて売れ筋を出す会社はあるけれど……。たぶんキーエンスさんとの差はコンサルタントかなと。キーエンスさんではセールス(フロントの営業)が完全に起点になっている。

普通の会社だと逆で、(セールスは)商品企画が作ったものを受け取って売りに行く方向だけになると思うんですよね。

高収益・高賃金を実現する組織構造

田尻:キーエンスとの差を挙げれば、たくさんあります。一般的な組織なら、セールスはセールス、販促は販促、商品企画は商品企画じゃないですか。

(キーエンスでは)セールス、販売促進、商品企画、これだけお互いに踏襲しているんです。商品企画が営業の方々の動きに責任を持たないのかと言ったら、「いや、持ちますよ。営業の方の動きが悪かったら商品は売れないんですもん」という。

つまり踏襲範囲がぜんぜん違うんです。販売促進もこれくらい(セールス、販売企画まで)見ています。だから一般的なマーケティング部門はリードを稼いできて「営業がんばってね」ですけど、キーエンスは違うのです。

営業が受注できないようなリードを取ってきてしまったら、逆に時間のムダになり反省しなきゃいけない。キーエンスでは踏襲範囲がちゃんとあって役割分担はしているんですけど、責任を持てる範囲がものすごく重複している。

井上:なるほど。

田尻:はい。このあたりが優れたあるべき姿の1つだなと思います。商品企画の方でも開発の方々の半分とは言わないですけど、ある程度のことはわかりますし。開発の方々も、なんだかんだ言ってある一定のデータはわかっています。だからこそ、すごく綿密な組織体が出来上がる。

井上:販売促進や商品企画の方が(踏襲範囲を)見て行動するには、どうしているんですか? もちろん役割がそうなっているからだとは思うんですけど、職務定義や組織定義なのか、あるいは評価制度にもそういう部分があるのか。どんな感じなんですか?

田尻:例えばマーケティングで言うと職務定義というか方向性がちゃんとあって、やるべきことがとてもたくさんあります。

1対Nの展開、デモツール、コンサルティングセールスの指導、シェアアップ方針がきっちりとある。その方向性に対してきっちりと評価制度、目標制度が組まれている。

しかもみなさんがご存知のようにキーエンスは高収益かつ高賃金なので、目標制度に対して達成していくとちゃんと分配が多くなるんですね。みんなで成果を上げると、みんなの分配がちゃんと多くなる仕組みになっているので、努力する価値があるんです。

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