2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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社会の大変動に対抗し、新時代の組織づくりと経営戦略の本質を掴むヒントをお届けすべく開催されたSmartHR Next 2023。本記事では、株式会社小西美術工藝社 代表取締役社長/元ゴールドマン・サックス証券金融調査室長のデービッド・アトキンソン氏、株式会社SmartHR取締役COOの倉橋隆文氏、株式会社We Are The People 代表取締役の安田雅彦氏が、今後経営者にのしかかるプレッシャーと打開策を語ります。
デービッド・アトキンソン氏(以下、アトキンソン):さっきの話にちょっと戻りますけども、例えば今の小西美術工藝社の会社の経験から言うと、これはおもしろかったんですよ。
さっきの新橋の話と一緒で、自分たちの場合は文化財なので、文化庁との関係が重要になってきますよね。それで業界団体の会合に行くと、文化庁の悪口大会みたいな感じになったんです。
それを聞いてて、「わかりました、今までは文化庁にその意見を誰がどうぶつけたんですか?」と聞くと「いや、そういうことはとてもじゃないけど、お上には言えません」みたいなことを言っていました。
直接言えないんだったら、その悪口大会はただの時間の無駄じゃないのって自分は思ってるんですね。それは止めましょうと。だから、言うか止めるか。「自分はこの会合に二度と来ないよ」と言って、みんなに反対されたんで、文化庁に言いに行ったんです。
文化庁に行った時にいくつかの問題に関しては、「あぁ、そうですか」「この提案はちょっと勘弁してくれ」と。「その問題を解決するのは難しいかもしれないけど、ただ、これとこれは簡単にできますから変えましょうよ」と言いました。(すると文化庁側は)「ここの問題があることを知らなかっただけであって、別にやるつもりがないこともない」と。
それで小西美術の社長になった時に、「小西美術に何を期待しますか」と当たり前のように得意先のお客さんに聞いたんですよ。すると「いや、そういうのは聞かれたことがない」と。小西美術は380年続いてるんですが、たぶん1回も聞いたことがないと思うんですよね。
聞けば「これとこれでやってほしい」ということを言われて、それをやっていればお客さんの評価が上がるんですよね。
安田雅彦氏(以下、安田):なるほどですね。
アトキンソン:今までなんでお客さんに聞かなかったんだろうって。
安田:確かに「だったら聞けばいいじゃん」というのは、マーケットに対しても社員同士のコミュニケーションでもけっこうよくあることで。
イノベーションの源泉としては、そこは我々が突破しなきゃいけないところかなと思うんですけれども。気づいたらけっこう質問をいただいてるので。
今回の生産性とかイノベーション、DXも、一番恩恵を受けるのはまずファーストライン(現場に直接関わる役割)じゃないかなと実は僕は思ってるんですけども。ここに中間管理職の話がちょっと出てきてるんですが、倉橋さんはいかがですか。
倉橋隆文氏(以下、倉橋):そうですね。まさにそのとおりだと思っています。2つお話があって。まさに先ほど中間管理職の方からDXで効率化できますよっていう話をさせていただいたんですけど。
今、アトキンソンさんに言っていただいたこの変化が起こりつつあるかなと思っていて。ちょっと自分たちのサービスの歴史の話になるんですけど。
私たちはもともとは人事労務業務の効率化でスタートしていて、それがすごく売れていたんですね。ところが、それを導入されたお客さまは、従業員のデータがどんどん溜まっていくので、私たちの2つめのサービスラインであるタレントマネジメントに今すごく興味を持ってくださっていて。
まさに最初の効率化から始めたんですけど、先ほどまだ2割の人しかやってないと言っていた新しい付加価値であるタレントマネジメントで、従業員に対してよりよいサービスを提供していくように移っていっています。
まずはDXして効率化しつつ、データを貯めていただいて、そこから新しいプラスの付加価値、タレントマネジメントでちゃんと従業員に「どういうキャリアを歩みたい?」「給与に満足してますか」と聞いたり。「給与に満足してますか」と聞いて「はい」って答える人はいないと思うんですけど、まあうまく探っていただいて。
新しいサービスをしていくところは、まさにやり始められていると思ってますので、そこは推進していきたいと思うんですけど。
倉橋:それに加えて2つめなんですけど、先ほど経済同友会の中でも、やっぱり評価が一番中心ですよねっていう話になっています。
特に日本の企業さんでよくあると聞いているのは、今までの年功序列、年次で給与が上がっていく世界から、本当にその時の活躍における評価、昇格、昇進、昇給をしていくというふうにシフトしなきゃいけないと。もう本当に待ったなしで動いていると思います。
特に先ほどの序盤の話で、もうどんどん転職しやすい世界になっていきますので。企業側ないしは人事側は早めにそれに取り組まなきゃいけないんですけど。
経済同友会の話を聞いていると、この仕組みを変えるのに4年はかかると言われています。例えば人事制度で「年功序列をやめてこういうふうに変えてきましょう」と決めるのはたぶん1年以内にできるんですけど、それに魂がこもらないんですって。
やっぱり今まで年功序列でやっちゃってたんで、どうしても年功序列で給料が上がっていっちゃうので。そのマインドをぐっと変えるには、経営者や人事部がコミットして、3年は言い続けてやっと実力主義の評価がつけられるようになるらしいので。
もうとっとと従業員が転職しやすい世の中が来てますので、早めに取り組んでいただくのが一番大事になるのかなと思っております。
安田:ありがとうございます。あともう1つ、これはぜひアトキンソンさんにおうかがいしたいんですけど。これに関連して年齢のことがちょっと出ていて。
この枠の一番下に「日本では60歳を超えても働かないと生活できないため、日本の労働者人口は指摘されるほど減らないのではないでしょうか」ということなんですけど。アトキンソンさんは定年制についてどうお考えですか。
アトキンソン:「65歳以上(の人口)も仕事に戻ってきて、労働人口は減らないんじゃないの?」という質問だと思います。
ただ、確か2~3年前から65歳から75歳の人口は相対的に減っています。今75歳以上の人口が激増しているので、高齢者人口は減ってないんです。
もう1つ問題としてあるのは、やはり40代の人の生産性と60代~70代の人の生産性はだいたい平均して2倍の差があるんですけども、70代になると、もう3分の1ぐらいまで生産性が減っちゃうんですよね。
ですから人間の数で言った場合に、生産年齢人口が減る分だけ就業者数(も減る)と言いますけど、高齢者の労働者を増やせば、就業者数はそこまで減らないかもしれない。ただ高齢化は生産性に対して、どうしても悪影響を与えてしまうというか抑えていくような効果になることは間違いないんですよね。
今、日本の労働参加率は世界第3位まで上がっています。だから働ける人はもうパンパンになってるわけなんですけど。当然ながら生産年齢人口が減っていっても、労働参加率を上げることによって(生産性が)純減しないってことはできるんですが、もう今(労働参加率が)90パーセント以上になってるわけなので。
要するにこれから働ける人が減れば、GDPは減り気味になっていきます。そうすると、さっきの年功序列の話で、海外の経験からすると多少修正するべきところはあると思いますけども、どの国でも実は年功序列なんですよ。
安田:まあそうですよね。
アトキンソン:どの国でも、やっぱり年齢が上がっていけば給料も上がってますよ。
安田:それはもうある程度ケイパビリティ(能力)も上がっていくという話なんですよね。
アトキンソン:問題は、日本では差がつけられてないんです。
安田:要はパフォーマンスのいい人と悪い人の差っていうことですね。
アトキンソン:基本的には上がっていくんですけど、あんまり解離してないんですよね。上がっていくのはおかしいっていうことじゃないんですよ。
自分がいたゴールドマン・サックスという会社は、みんな成果主義だって言うんですけど、実際に見ると自分なんか減額になったことは1回もないですもん。成果によって、その年その年の違いがあるにも関わらず、じゃあ給料がボーナスも込みで減るかと言うと、報酬は減らないんですよ。
安田:まあそうでしょうね。わかります。
アトキンソン:上がっていく時に成果の分だけ上がっていかないけれども、下がった時にその分だけ減らないっていうことなんです。ただ成績トップの人と普通の人の(能力の)差が、どんどん広がっていくことは事実なんですよ。
だから、日本では「年功序列はおかしい」と言うんですけどそうではなくて、(給料の)差がつかないことがおかしいんです。
安田:倉橋さん、今のを聞いていかがですか。
倉橋:そのとおりだと思いますね。先ほどの私の発言は、ちょっと言葉足らずだったと思うので。まさに実力に応じてお給料がもらえる。だからこそ人々はがんばる、インセンティブになるというのは、会社と従業員の関係もそうですし。会社と顧客の関係でもそうかなと今日の話を聞いていて思いました。
安田:ありがとうございます。あっという間に時間になってしまいましたけど。今回いろいろとお話ししてみて、アトキンソンさん、いかがでしょうか。
アトキンソン:そうですね。いろんな問題がありますけども、私としてはこの生産性問題で日本経済が伸びないっていうのは、7年ぐらいずーっと分析をしてきたんですけども。
もう政府が悪いんだとか、リーダーが悪いんだとか、中小、大企業が悪いんだとか。やっぱり責任転嫁をみんなやってますけども。何がポイントなのかを簡単に言えば、賃金を上げないといけないということなんですよ。
当然ながら経営者としては、真面目にタダ同然で働いてくれる人がいれば楽ですよ。毎年毎年賃金を上げなきゃいけないっていうのは、経営者としてはもう最悪のシナリオなんですよね。
それは海外でみんな毎年やってますけども、1990年までの日本の経営者だって毎年上げてきたんです。だからそういう意味では労働者も大変だし、政府も大変だし、経営者も大変です。いろんなプレイヤーがいる中で、誰かが楽になればいいっていうことはあり得ない話なんです。
そういう意味ではやっぱり、賃金が安いことによって生産性を上げる必要もない。(生産性を)上げないから賃金が低い。賃金が低いことで会社として成り立つわけだから、そのままでなんとかやりましょうっていう、こういう悪循環がずっと続いたんです。
そして物価が上がっていく中で賃金を上げなきゃいけないとなれば、それに対して、「さあみなさんどうするんですか」っていう。そうなって初めて、設備投資とかDX、人的資本だとかをどう生かすが一番のポイントになってるんじゃないかと思います。
だから、いろんな俗説はもういらないから、賃金を上げていく。それを実現するためにどうすればいいのかという。
安田:経営者としてどうすればいいかと。
アトキンソン:手段を目的化してはいけないんです。
安田:倉橋さん、いかがでしょうか。
倉橋:まさに今日の話を聞いてて、もう動かなきゃいけない時期なのかなと思っております。
例えば人が少なくなってるんで、人に対しての投資とか賃金を上げなきゃいけないプレッシャーは上がっていますし。賃金を上げなきゃいけないプレッシャーがあるからお客さんに対してより多くのお金を要求しなきゃいけない。価格転嫁をしなきゃいけないプレッシャーも上がっていて。
それでサービスの小さなイノベーションを起こすプレッシャーも上がっています。ここから先、日本の企業って残念ながら減ると思うので。働く人が減る以上、会社も減ると思うんですけど。その時生き残れるか生き残れないかの差が、この上がってるプレッシャーに対して(出てきます)。プレッシャーに追いやられて、最後の最後にコーナーギリギリで動いているとたぶん負けちゃうので。
早めに一歩変化を起こすことがすごく大事なんだろうなと、今日の話を聞いてて思いました。
安田:まさに現実を見て、経営者としてどう動いていくか。まず最初のセッションはこれで終了させていただきたいと思います。アトキンソンさん、倉橋さん、今日はどうもありがとうございました。
アトキンソン、倉橋:ありがとうございました。
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