話すと100%驚かれる、日本の働き方の実情

喜多桜子氏(以下、喜多):世界と日本では働き方はもちろん、価値観も違うよねというところで、1つ目の質問です。シンプルとミニマルの違いから聞きたいんですけど、この本の中であったパリジェンヌの話などからうかがってもいいですか?

四角大輔氏(以下、四角):世界を旅する中で、世界中に友だちができるわけ。その中で、どうやって生きているのか、どうやって働いているのか、どうやって暮らしているのかが必ず会話のテーマになる。

「日本はどうなの?」という時に、実情を話すと「えー!」って言われる。100パーセント驚かれるかな(笑)。どの国の人も、どの世代の人も「えっ、そんなに働くの? なんでそんなに休まないの? そんなに寝ないの?」と。

『超ミニマル・ライフ』にも書いたけど、日本の睡眠時間は世界最短で、有休消化率は先進国で最低、労働時間は先進国最長なのね。「みんなこんな感じで働いてるよ」と言ったら「えー!」って言われる。その時のパリジェンヌのリアクションが特にやばかった(笑)。

喜多:実際のエピソードとしてあったんですね。

四角:そう。すごく仲のいいパリジェンヌがいて、彼女はのちにフランスの田舎の川沿いの町に引っ越すんだけど。そういうライフシフトをするぐらいだから、お互い「水際族」だよねって話したり共感ポイントが多いのはあると思うけど(四角氏は東京からニュージーランドの湖畔へ移住)。

それに加えて話すのが物の多さ。もう、便利すぎ。彼女は日本に来たことがあって日本が大好きなんだけど、やっぱりその物の多さにはびっくりしていて。

喜多:パリジェンヌは、必要最低限の物しか持たないって言いますもんね。服とかもそんなに持たないというのは有名な話で。

四角:そう。彼女たちは物質に限らず、非物質のステータスや地位のようなものも、自分の美意識や身の丈に合わなければ別にいらないし、身の丈に合っていなければ幸せにもつながらないってことをすごくわかっている。

世界でもトップレベルの日本の若い世代のミニマリストっぷり

四角:ミニマリストブームのきっかけになった、2012年発売の『自由であり続けるために 20代で捨てるべき50のこと』という僕の本がある。

喜多:大ヒットのやつですね。

四角:そうそう。これが過去一番売れた本で、今の時代のミニマリストたちのバイブルになっていたのね。僕自身はそれを知らなくて、「なんかずっと売れてるな」と思っていて調べたらあとで知った(笑)。

喜多:ミニマルという言葉は、本当に四角さんが最先端ぐらいでしたもんね。

四角:でも実は、僕はあの本でミニマルって言葉を使っていなくて。当時の編集者さんに「いや、ミニマリストとかミニマルって言葉は伝わらないから、シンプルという言葉で統一しましょう」って言われて。

「確かに一般的には使われてないな」と思ってそういう言葉を使わずに書いた。でも、あの本の裏側にひっそりとミニマルという言葉が隠し文字で入っているんだけどね。

喜多:えー! みんな読んでみましょう。

四角:裏表紙のある場所ね。その本が売れたことによって「四角さんはミニマリストですよね」みたいに言われるようになった。でもいつも「あえて言うなら僕は、パリジェンヌ型ミニマリストなんですよ」と答えてきた。

あの本を書いたのは自分だけど、今の次世代のミニマリストはもっとすごくて。彼らのミニマリストっぷりは本当に世界でもトップレベルなわけ。

ミニマリストは世界中で大ブームで、その中でも今の20代、30代の日本のミニマリストたちはすごいわけ。

喜多:その違いは確かにあります。

四角:日本のミニマリストって、減らして減らして、断捨離して物を削って以上、と勘違いされていて。でも、実は彼ら彼女たちはそうじゃない。

「パリジェンヌ型ミニマリスト」の特徴

四角:そうじゃないという話は、去年の『超ミニマル主義』でも詳しく書いたし、今回の『超ミニマル・ライフ』にも書いているんだけど。世間一般のミニマリストのイメージはそうでしょ? 超ストイックで削り続けて終わり、みたいな。

喜多:そうですね。物がとにかくなくて、個性も正直ないというイメージがありますね。

四角:実際に物はないんだけど、その代わり、何か最大化しているものが必ずあるわけ。

喜多:なるほど。

四角:最小化して終わるんじゃなくて、何かを最大化するために最小化している。もしくは、もっと軽快に生きたくて最小化した結果、すごく大切なことを最大化できたことに後付けで気づいたり。

僕は、ミニマリスト研究家って言ってもいいぐらい、この2冊の本を書くために世界中のミニマリストたちの生態を調べたの。その調査の結果、日本のミニマリストたちは圧倒的ということがわかった。

話を戻すと、自分を「パリジェンヌ型ミニマリスト」と呼んだ理由は、ミニマリストの真髄を端的に伝えられるから。彼女たちは服をたくさん持たないとか、お気に入りのバッグは1つしか使わないとか、そこだけ取るとストイックなイメージだけど、パリジェンヌといわれたらむしろ優雅で、そんなゴリゴリストイックなイメージはないでしょ。

喜多:うん、ないです。

四角:パリジェンヌたちは、そういう身の丈に合わない、自分の美意識に合わないものは持たないけど、その代わり最大化することはしっかりとある。人それぞれ違うんだけど、家族との時間とか、大切な人との食事にお金を使うとか、美を追求するとか。

つまりどうでもいい物事を削った結果、こっち(最大化するもの)に投資するという発想がある。投資は金融投資のことではなくて、人生を豊かにするため、そして自分の幸福度を高めるためにしているわけ。

ある意味パリジェンヌという友人の存在と、僕の本『自由であり続けるために 20代で捨てるべき50のこと』を読んでくれてミニマリストになった若い人たちの存在が、『超ミニマル主義』と『超ミニマル・ライフ』の原動力になったのはあるかな。

自分の身の丈を知り、自分の美意識を持つ人たちの生き方

喜多:確かに、自分の人生のリソースをどこに割くかはすごく大きいと思います。この本の中にもありますし、私も幸福学とかいろいろな研究をしている中で、例えば給料として800万円以上稼いだところで幸福度は高まらないと言われていたりするんですけど。

年収800万円の人が1,000万円稼ぐために時間を投資するというのではなくて、そのパリジェンヌたちは自分の身の丈を知りながらどこに時間を割くかが、日本人とはぜんぜん違うということですよね。

四角:そう。自分の身の丈を知って、自分の美意識をしっかり持つことは、つまり自分自身をわかっていることになる。周りがどうとか、世の中で流行っているとか、パリジェンヌはそういう流行りに興味はない。自分の世界観を持って生きているわけ。自分のファッションやインテリアのセンス、食器はこういうスタイルが好きとか。

フランスは、アートや芸術、ライフスタイルに対するこだわりが特別に強いから、先進国の中でも異色の存在で僕は大好きで、コロナ禍までは毎年通っていた。パリジェンヌたちは、パリという大量生産・大量消費の大都市に暮らしながらも、そういう生き方ができている。

喜多:確かにそれはすごいですよね。物や情報があふれかえる大都市に生きながらも自分の美意識を持って、他人軸で生きないという。