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「成長が早い」営業メンバーに育てる4つの鍵〜メンバーの「営業センス」を鍛えるとマネジャーはグッと楽になる〜(全4記事)

なかなか変わらないメンバーに「ダメ出し」しても効果はない 「営業センス」向上にもつながる、効果的なマネジメント手法

営業力を上げるノウハウを詰め込んだ『無敗営業』などの著者であるTORiX代表取締役の高橋浩一氏が講演を行いました。「『成長が早い』営業メンバーに育てる4つの鍵」と題し、メンバーの「営業センス」を伸ばすためのヒントをマネージャー視点から解説。本記事では、伸び悩むメンバーに対して効果的なマネジメント手法を語りました。

前回の記事はこちら

人の意見に耳を傾けない「確証バイアス」には注意

高橋浩一氏3つのセンスの話をしましたが、当然みなさんがお知りになりたいのは「どうやったらセンスって磨けるの?」ということですよね。

今日は、営業の責任者クラスの方が多くいらっしゃいますので、どちらかというとマネジャー目線から、どのようにメンバーのセンスを磨いていくのかをお話しをしていきたいと思います。

あらためて「センス」の定義を確認しますと、「目的に向かって、スキーマを柔軟にアップデートできること」がセンスであると捉えています。スキーマの歪みに気づいて、すぐに軌道修正しながら、より良いスキーマにしていける「しなやかな感性」ということですね。

そして「スキーマの基本性質と注意点」なんですが、スキーマには性質があります。まずは「意味づけの機能」。スキーマは、外界にある膨大な情報から、必要な情報にのみ注意を向けさせる働きがあります。だから、何かは目に入るけど、他のものは目に入らないことがあるわけです。

そうすると「確証バイアスの誘引」に注意しなくてはいけません。人は自分の信念に一致しない現象を無視しがちなので、情報の取捨選択がバイアスを生みやすいということです。

要するに、自分が信じていることにちゃんと一致していることは受け入れようとするんですが、自分が信じていることと一致しないことは、勝手にないものとしてしまう。だから、人の意見に耳を傾けないように思える方は、こういう確証バイアスが働いていたりするわけです。

「ダメ出し」はほとんど意味がない

もう1個、スキーマの基本性質で「体感と納得による更新」があります。自分の理論と矛盾する現象を経験し、自分の思い込み理論がおかしいことに納得すると、スキーマは更新される。これは非常に重要なポイントなので、ぜひ押さえていただきたいと思います。

自分の理論と矛盾する現象を経験し、自分の思い込み理論がおかしいことに納得すると、スキーマは更新される。すなわち、何らかの経験を伴うものでなければ更新されないとも言えます。

ですから、科学的に正しいスキーマを直接教えることってできないんですね。経験を経由しないと教えることはできないです。スキーマは、そもそも人の自然な世界の認識の仕方を反映して自分で作るものなので、言葉では教えられないんですね。

例えば「遅れる時には事前に1本ぐらい連絡を入れようよ」と言う時に、相手が「いや、そんなの別に2~3分ぐらい平気でしょ?」って思っているとするじゃないですか。それを言葉で言ってわからせるのは相当難しいということなんですね。

だからそれと矛盾する現象、すなわち「2~3分ぐらい遅れたことで大打撃を受ける」みたいなことがあると、スキーマが更新されるんですよ。矛盾する現象を経験するとスキーマが更新される。これは重要なポイントです。

ということで、なかなか気づかないメンバーに指導する際に心得ておくことは、「直接的に考え方を否定したり、変えさせようとすることに意味はない」。恐らくこれは、多くのマネジャーの方は衝撃を受けるんじゃないでしょうか。

ほとんどのメンバーに対するダメ出しは意味がないということなんですよ。メンバーに「気づくきっかけ」をどういうふうに作るかが大事です。

よくマネジャーの方が「いやぁ、高橋さん。うちのメンバーは何回言っても聞かないんですよ」とおっしゃるんですが、それはメンバーがおかしいのではなくて、そもそもそういう指導が無理なんですね。

人間の認識の構造として、人から考え方を変えるような働きかけをされたとしても、そんなに素直に変わらないということです。

人間の脳には2種類の思考モードがある

さて、「経験を伴う」という話をしましたね。じゃあ、どうやったら「気づくきっかけ」をうまく作れるようになるのでしょうか? ではここから、みなさんスライドにご注目ください。さあ、今から表示するものは何と書いてあるでしょうか?

「え? 何を言っているの高橋さん。こんなの『ABC』に決まってるでしょ」って思われるかもしれません。これを詳しく知りたい方は、『ファスト&スロー』という本を読んでいただければと思います。

例えば2枚目を見ると「あれ?」って思いませんか。さっきまで真ん中が「B」だと思っていたのに、「13」に見えてくる。さっきのスライドで「B」と書いてあったものが、「12」と「14」に挟まれていると、なんとなく「13」に見えてくるかもしれない。ということで、頭の中に「おや?」という意識が働くと思うんですよ。

人間の脳みそには2種類の思考モードがあります。「システム1」は速い思考(ファスト)で、直感的・感情的です。さっきの(スライド)で言うと、1枚目に「ABC」が表示された時に、「あれ、これって『ABC』じゃん」と瞬時に頭の中に浮かびますよね。これは「システム1」という脳の働きです。

そして「システム2」は、2枚目を見せられた時に「あれ、ちょっと待った。真ん中の文字って変わってないよな。左が12、右が14で挟まれているってことは『14』と『12』の間だから、『13』ってことなのか? でもさっきは『ABC』の『B』だったよな」と考え出しますよね。

これが遅い思考、すなわち「システム2」。論理的・理知的でスローということですね。これがもう1つの脳の働きです。

営業メンバーをマネジメントする際の心得

人間の脳は基本的に怠け者なので、だいたいのことはシステム1で日常的に処理しています。だから、ほとんど条件反射的にやっているんですね。

システム2はいわばバッテリーみたいなもので、バッテリーが切れると「もう考えられなくなる」ってよくあるじゃないですか。そのように、システム2にはキャパシティが存在します。

世の中って、基本的にシステム1による条件反射があふれているわけですね。ですから、「メンバーの気づく力を上げてあげたいな」と思うマネジャーの方は、ぜひシステム2を活性化させることをこれから指導にとり入れていただきたいと思います。

システム1は働いているけどシステム2が働いてない人は、お客さまのことがわかったつもりになっていたり、商談の大事な情報をキャッチし損ねたり、お客さまとの関係が築けていなくとも気づかない。鋭いか鈍いかで言うと鈍いように見えてしまうのは、システム2がうまく働いてないということなんですね。

一方でシステム2も働いている人はどうなのかと言うと、「ちょっと待てよ。お客さまがおっしゃったことは本当なんだろうか?」と、とことん理解しようとしたり、商談における大事な情報を逃さず拾うようにしたり、お客さまとの関係がポジ、あるいはネガに振れた時にすぐ気づくことができる。

すなわちセンスに長けた営業の人は、システム1による思い込みを排除して、ちゃんと現場を観察し、判断がスキーマで歪まないようにコントロールができているということなんです。

でも、本人はそんなことをたぶん意識してないと思うんですよ。「システム1とかシステム2とか、そもそも知らないよ」という方もたくさんいらっしゃるはずです。ということでですね、これはどちらかというと指導する側、マネジメントする側の方がきちんと知っておくと良い考え方です。

「ダメ出しの気配」を出さずに冷静な指導を

さて、みなさんは「どうやったらシステム2を活性化させることができるの?」と思われますね。はい、そういう指導方法がございます。

これは「MMOT(The Managerial Moment of Truth)」と呼ばれるもので、『最強リーダーシップの法則』という本に書かれていますので、もし詳しく知りたい方は本をお手にとっていただければと思います。

例えば「事実確認」は何かと言うと、メンバーに対する指導をどのように行っていくかということなんですが、マネージャーとメンバーが1対1で話をする場面を思い浮かべてください。

その時に、さっき言いましたが「ダメ出し」は効果がない。いきなりダメ出しをしても、聞く耳を持ってくれないわけです。ですから、まずは現実を確かめる。ダメ出しをする前に、「ちょっと冷静に、まずは現実を見ようか」ということです。

ここでメンバーが現実を見ることを拒絶したとしても、「まずは現実を落ち着いて見ようよ」と言うわけです。ダメ出しの気配を出してはいけません。

まずは現実を見て、次に「思考プロセスの検証」。そういう現実に至った原因について、メンバーがどう考えているかを検証します。これもいきなりダメ出しをするんじゃなくて、どういうふうに頭の中で考えていたのかを辿っていくように質問するわけですね。

だらだらと言い訳するメンバーに有効な手段

メンバーの思い込みに気をつけるということなんですけど、こっち側の思い込みにも気をつけなくちゃいけないです。例えば「相手はダメだから」と思い込んでしまうと、こういうの(メンバーの思考過程)が見えなくなってしまうわけです。

意外に大事なのが「設計と実行、どちらが問題なのかを考える」です。設計と実行、どちらが問題かを考えるというのは、そもそも設計の段階でうまくいってない設計をしてしまっていたのか、それとも設計はうまくできていたけどやらなかったのか、ということです。

3番目のプロセスは「行動計画策定」なんですが、うまくいかなかったことに対して、メンバーにどうやって改善するかを考えてもらいます。

「はい、でもゲーム」というのは、延々とだらだら言い訳をしてしまうことを「はい、でもゲーム」と呼んでいますが、こういうふうにならないようにちゃんとメンバーに考えてもらいましょう。

マネージャーが「こういうふうにやってみたらいいんじゃないの?」と言っても、メンバーが「いや、でもそれはちょっと」みたいに言うことってあるじゃないですか。それが「はい、でもゲーム」で、メンバーに考えてもらうことが重要です。

そしてその後に「フォロー」ということで、その計画がどれほど実行されたかを把握するため、フィードバックの仕組みを築いておく。指導の結果がちゃんとうまくいったかどうかを、後で確かめましょうということです。

すぐに結論づけず、事実を丁寧に拾うことが大事

さあ、ここから3つほど例を出していきたいと思います。「目標達成センス」に働きかける場合はどんな指導をするか。

まずは「今の目標達成率は何パーセントだっけ?」「今、1週間当たりいくらのペースで見込みが増えているのか」「このペースでいくとどうだろうね?」というふうに、事実を確認していきます。マネジャーはさっさと結論づけず、事実を丁寧に拾っていくことが大事です。

例えばここで、パーセントとしてかなり達成率が低かったとします。いきなり雷を落としてはいけません。まずは「ちょっと具体的に振り返っていこうか」と、メンバーがどんなふうに考えて仕事をしていたのかを一緒に探っていきます。

たぶん、思考プロセスの検証をやっている方はかなり少ないと思うんですよ。頭の中を再現してもらって、スキーマの歪みを一緒に発見していくわけなんですね。

スキーマの歪みが見つかったら「じゃあ、結局どうする? 自分の中では、何を変えようという結論に行き着いたの?」「具体的にどこをどう変えていこうか?」というふうに、相手に計画を考えてもらう。スキーマをアップデートする言語化をメンバー自身にやってもらいます。

そして、「じゃあ来週の月曜日から試してみて、水曜日の段階でいったん15分のショートミーティングをやろうか」と、アップデートしたことで良い変化が起こったことを2人で確認します。これは目標達成センスですから、「いつもぎりぎりで達成できない人との会話」というふうに捉えていただけたらと思います。

なぜかお客さまを怒らせる営業、どのように指導する?

では、次が「顧客志向センス」。なんかよくわからないけど、お客さまを怒らせてしまう方もいらっしゃったりしますよね。あるいは本人が気づいてないんだけど、お客さまから「あの担当を代えてくれませんか」と言われてしまうメンバーは、どうやって指導していったらいいんでしょうか。

まずは「事実確認」です。「さっきの商談について少し振り返ろうか」「お客さまがおっしゃっていたセリフを思い出してみよう」と、あくまでも最初は事実から入って感想を深掘りする。これは悪いことじゃないんですが、まずは事実をちゃんと深掘りしないと、テーブルの上に大事な情報が乗っていないということになります。

そして「思考プロセスの検証」なんですが、ここでまた相手の頭の中にアクセスするわけです。「このページを説明する時、頭の中でどんなことを考えたの?」「お客さまはさっき『不明点はありません』とおっしゃったけど、あれはどういうふうに思った?」と聞いてあげるわけです。

例えばお客さまにプレゼンをして、「ご不明点はありませんか?」「いえ、大丈夫です。社内で検討してお返事します。ありがとうございました」という商談の場面ってありますよね。こういった時に、お客さまが本当は何かの潜在的な不満や不安を抱えているんだったら、キャッチしないといけないじゃないですか。

でも、お客さまに「はい、大丈夫です。不明点はありません」と言われて、それをそのまま言葉通り捉えて帰ってしまうと、失注してしまったりするわけです。こういうのは、ちゃんと思考プロセスをつぶさに追いかけていきます。

そしてスキーマの歪みが見つかったら、「じゃあ、どういうふうに自分の中で変えようと思ったの?」「具体的にどこをどう変えていこうか」と、コーチング的に促してあげると。

そしてまた「次の商談から試してみて、商談の後にいったん15分のショートミーティングをやろうか」と、ちゃんと確認する時間を未来に設けてあげます。

さあ、どうでしょう。お客さまとの商談でダメ出しをするというのとは、ちょっと違ったアプローチですね。まずは事実を巡って、思考プロセスを追いかけて、行動計画を策定して、フォローです。

営業センスをアップさせるための打ち手

最後は「自己認識センス」に足りないところがあると思われるメンバーとの会話です。例えば、「そういえば、確か先週も同じアドバイスをしたね。大事なケースだと思うので、前回と今回のケースを振り返っていこうか」という入り口から入ります。

この「先週もしたね」というのは、決して責め立てる口調で言ってはいけないですね。客観的に事実を振り返ります。いら立ちをぶつけてはいけません。「何回同じことを言わせるんだ」と言っても、メンバーは変わりません。

例によって、「思考プロセスの検証」で頭の中をどんどん掘り下げていきます。ここでまたスキーマの歪みに行き当たるので、深掘りをしていきます。

そして「行動計画の策定」です。スキーマの歪みが見つかったら、どういうふうに変えていくかをコーチングしていき、そしてまた未来に確認の場を作っておいて、「じゃあ、水曜日の段階でいったんまた話そうか」と言うわけです。

これは「MMOT」というものですが、メンバーのセンスを磨くことに役立つ会話ということで、ご参考にしていただけたらと思います。

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