CLOSE

株式会社FiT(旧社名:株式会社LifeCoach) 代表取締役 加藤恵多氏(全1記事)

社会人経験なし・学生起業ならではの資金繰りや採用の課題 フィットネス業界に革命を起こす若き経営者の苦労と挑戦

高齢化で健康寿命の延伸が課題とされるなか、実は日本のフィットネス人口は諸外国に比べて低く、わずか4パーセント程度と言います。そんなフィットネス業界に新たな風を吹き込み、テクノロジーとの組み合わせによって日本のフィットネス人口拡大に取り組む、株式会社FiT(旧社名:株式会社LifeCoach))。本記事では、同社の代表取締役の加藤恵多氏が、大学3年で起業しフィットネス事業にコミットしてきた経緯を語ります。 ※このログはアマテラスのCEOインタビューの記事を転載したものに、ログミー編集部でタイトルなどを追加して作成しています。

一つのことに集中したら、とことんのめり込む子ども時代

アマテラス:まず、加藤さんの生い立ちについてお伺いします。現在につながる原体験のようなものがあれば、教えてください。

加藤恵多氏(以下、加藤):私の生まれは陶器の瀬戸焼で有名な愛媛県瀬戸市です。父と母、そして姉と私という4人家族で育ちました。父は工場勤めのサラリーマンで、起業・経営とは特に縁はありませんでした。

住んでいたエリアが最寄り駅から車で30分ほどかかる閉鎖的な田舎だったため、幼い頃から外の世界に強く憧れていました。その思いが原動力となって、中学校では必死に勉強し、無事に名古屋の明和高校へと進学できました。

明和高校は名古屋の公立校の中でも上位に位置する進学校です。地元では高校から名古屋に進学する人はほとんどいなかったため、モデルとなるような人もいませんでした。そのため、勉強のやり方も進学の仕方もすべて自分で情報を集め、アクションを起こしていきました。

今思うと、子どもの頃から一つのことに集中したら、とことんのめり込む性格はあまり変わっていないような気がします。小学校時代にはそろばんにハマり、4年生の時に3桁×3桁が1秒ぐらいで浮かぶレベルの暗算八段の認定を得ていました。その集中力が中学校での受験勉強にも役立ったのでしょう。

通っていたジムのコロナ禍での閉鎖が大きなきっかけに

加藤:高校からはラグビーにのめり込みました。それまでの私はいわゆる”色白のガリガリ”だったので、自分の体格がコンプレックスでした。そのため、部活では周囲のメンバーにふっ飛ばされて骨折することもしばしばありました。

ただ、スキルも経験もないところからのスタートだと自覚していたので、「全力でやってボコボコにされたとしても、成長していけばいい」という思いで振り切っていました。ラグビーのお陰で、精神的にも肉体的にも鍛えられたと思います。

中学から引き続き高校でも勉強に打ち込んでいたかいがあって、大学は京都大学へと進学しました。その時は、iPS細胞の研究がしたいという思いがあったので、医療系の学部を選びました。

大学生活は、医療の研究とラグビーに時間と労力を費やす日々でした。それなりに充実していたとは思いますが、心のどこかに「これが本当に自分のやりたいことだろうか?」という疑問が浮かんでいました。

大学院に行くのか、就職をするのか。3年次になり進路に迷っていた私に、ある転機が訪れました。2020年から始まったコロナウィルスの感染拡大です。当時通っていたジムがコロナの影響で閉鎖され、ラグビーのために日々励んでいた筋トレができなくなりました。

そこでふと「思い切って自分で部屋を借りて筋トレすればいいのではないか」というアイデアが閃きました。月8万円程度でも利益が出れば生活には困らないだろうという感覚でフィットネス事業の立ち上げを決めました。

SNSで情報を集め、資金50万円でパーソナルジムを立ち上げる

アマテラス:大学在学中の事業立ち上げとなると資金的に厳しかったのではないかと思いますが、その点はいかがでしたか?

加藤:元手となる資金は、バイクを買いたくて貯金していた50万円しかありませんでした。大学生には融資を受けるための社会的信用もありませんから、必要経費はできる限り抑え、ミニマムで始めようと思いました。

ところが、いざ動こうと思っても、何をどうしたら良いのか最初はさっぱり分かりませんでした。「大学三年生で、パーソナルジムを自己資金50万円で作る方法」なんて、どこを探しても出てきません。当時の私には起業家や経営者のつながりもなかったので、相談できる相手も皆無でした。

そこで頼ったのがTwitter(現X)です。パーソナルジムを作った経験がありそうな人を見つけては片っ端からDMを送り、「このマシンはどこで買いましたか?」等、さまざまな質問をしました。とにかく手当たり次第にアプローチしていたので、送ったDM数はよく覚えていません。ただ返信率は10パーセントもなかったと思います。

多少心が折れそうになったことはありますが、返信が来なかったからといって私が失うものは何もありません。人生には振り切らなくてはいけない時がある。なら全力で振り切ってとことん楽しもう。そんな思いで1通1通、熱量を込めて文章を書き続けました。

そうしてさまざまな方の知恵をお借りしつつ、ワンルームの部屋を借りてできたのが最初のパーソナルジムです。コスト削減のため、当時の外装はDIYでやりました。

業界ナンバー1を目指して急ピッチで進めた「LifeFit」事業

アマテラス:個人経営のパーソナルジムから始められて、そこから学生専用の会員制ジムにしていったと伺っていますが、スタッフ不要ですべてがアプリで完結する「LifeFit 24h Smart Gym」の構想はいつ頃生まれたのでしょうか?

加藤:学生専用の会員制ジムに事業形態を切り替えたあたりから、日本のフィットネス人口が増えてないことに対する課題感を抱いていました。そして、この先もジムを経営していくのなら、業界トップを目指していきたい。その思いから、就職活動をすることなく、在学中にスタートアップとして起業に踏み切りました。

大学4年生の7月に、ベンチャーキャピタルファンド「THE SEED」の廣澤 太紀さんから創業投資を受けたのも大きな転換点だったと思います。廣澤さんとは大学3年の時に、京都のイベントで知り合ったのですが、出資いただいたことで、フィットネス業界でやり抜く覚悟がさらに固まりました。

「LifeFit」の構想が生まれたのも、ちょうどその頃だったと思います。学生専用ジムの経営を通じて、「サービスの価格を下げればより多くの方に使ってもらえる」という学びがありました。

海外のジムでは元々、月額10〜30ドルが一般的な価格帯です。こういった海外のモデルを上手く取り入れることができれば、国内のフィットネス人口の向上に貢献でき、かつ最速で業界ナンバー1を目指せるのではないかと考えました。

そうして出来上がったLifeFit 24h Smart Gymの構想のもと、1号店のオープンとアプリのリリースに向けてエンジニアやデザイナーの採用を行い、事業を急ピッチで進めていきました。

加藤氏のスピード感の秘訣と、若さゆえに直面した課題

アマテラス:20歳で事業を立ち上げられて、21歳で法人登記、さらに1年で4店舗を出店して数千人のユーザーを獲得しておられるわけですが、そのスピード感の秘訣などがあれば教えてください。

加藤:自分がやりたいことを追求し続けてきたというのが正直なところです。「仕事」とか「儲かるから」という感覚ではなく、楽しいことをやり続けてきたら今に至っているという感じです。

とはいえ、事業を進めていく中で幾度となく壁にはぶつかっています。特に、社会を知らない学生が起業したこともあり、若さゆえの課題を感じることは多々ありました。

たとえばLifeFit 24h Smart Gymの立ち上げに当たり、人材の採用やアプリ開発に先行投資をしていたのですが、実はサービスリリースの1ヵ月前に会社の運転資金がショート寸前に陥りました。

支出を少なくし、売上を作るという当たり前の対策をとりましたが、それでも追いつきません。そこで融資をしてもらえるように金融機関を回ることにしましたが、大学生ということで社会的信用はほぼゼロ。しかも当時の売上はまだ低かったため、門前払いされる可能性が極めて高い状態でした。

それでも諦めずにこれまでの実績や事業の今後の展望を訴え続け、何とか1000万円の融資を受けることができました。そして、2022年2月にサービスを無事リリースしました。

学生起業ならではの難しさを感じたことも

アマテラス:資金面以外の壁についてもお伺いできればと思います。たとえば採用面などはいかがでしょうか?

加藤:創業期に事業を主に手伝ってくれたのは大学の友人や後輩でした。学生起業はまだ少数派ということもあって、私の事業に興味を持ってくれたようです。

手伝ってもらえたことは大変ありがたかったのですが、テスト期間に左右されたり、他の用事が優先されたりといった学生ならではの特性が課題になりました。会社が部活やサークルに近い状態になってしまったのです。

このままではスタートアップとしての成長が行き詰まってしまう。今後の展開を考えると、自分の熱量を常に高い状態でキープしつつ、組織の方向性を整えていく必要がありました。

そこで、もっとキャリアが豊富な人を採用していこうとしたのですが、ここで壁になったことは私が社会人経験のないまま起業したことです。それまでにアルバイト経験はあったものの、企業に就職したことがないため、当時の私は「会社」のことがよく分かっていませんでした。

社会人経験者を入れる必要は感じつつも、どうすればそういった人たちにも会社の魅力を感じてもらえるのか悩みました。また、社会人経験がある方に入っていただくにしても、たとえば学生30人の会社に経験豊富な人1名だと、せっかく入ってくれた方が居づらくなってしまいます。

学生メンバーが活躍してくれるという学生起業の良さは残しつつ、構成メンバーの属性にグラデーションを持たせていくために、この1年間はずっと採用を模索していたように思います。

組織に変化をもたらした、社会人メンバーの採用

アマテラス:そういった状況だと、社会人経験のある方をまず1名採用するのが大変なように思います。

加藤:最初にフルタイムでコミットしてくれた社会人経験者の方とは、実は学生時代に通っていた近所の銭湯で仲を深めました。その方は見るからに体格が良く、フィットネスが好きそうな印象があったのですが、当時ちょうどキャリアチェンジを検討中だという話を耳にしました。

そこで思い切って声をかけて、立ち上げを手伝ってもらったのがきっかけです。彼も社会人としては若手で、第二新卒くらいの年齢でしたが、それでも企業勤めを経験しているのは非常に大きな要素でした。

最初は副業的に手伝ってもらっていたのですが、自分と同じくらいの熱量で同じ方向性を見てくれていると感じられたことが何よりうれしかったです。価値観や方向性が合う社会人メンバーが初期にコミットしてくれたのは本当に助かりました。

他方で、残念ながら、そこから社会人のメンバーが増えて組織のあり方が切り替わっていく中で、他メンバーとの価値観のズレも発生しました。どんな物事も結局ポジティブに捉えながら進むしかないのですが、そういった部分はやはり悲しかったですね。

ただ、一人ひとりが「本当にやりたいことをそのときに選択した」結果が今だと思っているので、会社のミッションやビジョンに共感して集まってくれているメンバーたちとあらためて、今後もLifeCoach(現 株式会社FiT)が目指す未来に向けて共に突き進んでいきたいと思います。

マネジメントや戦略的な人事戦略を意識していく

アマテラス:ご自分より年齢もキャリアも上の方を採用していくにあたり、マネジメントで工夫されている点などあれば教えてください。

加藤:みなさん私よりも経験豊富な方々なので、あまりマネジメントという意識は持たずに、会社の課題感や方向性の共有から入るようにしています。共通認識さえできてしまえば、そこからどのように考えて実行していくかについては各々に裁量を任せながら事業を進めてきました。

そのおかげで、特にフルタイムで参画してくれているメンバーは全員熱量高く事業にコミットしてくれていると思います。とはいえ、これからのフェーズではより戦略的な人材採用が必要だと思うので、マネジメントもより学んでいく必要があると考えています。

また、チームビルディングに関しても悩みどころです。当社は基本、フルリモート・フルフレックスで、メンバー全員がより生産的に働けるように意識してきました。ただ、今後組織が大きくなっていくと今のやり方では限界が来るかもしれないと感じています。

たとえば、新しく入ってきてくれるメンバーはみなさん入社当初から意欲的に動いてくれますが、どうしても創業期のメンバーと比べれば情報ギャップや意識の壁が生じてしまいます。結果、離職率が高くなったり、その人本来のパフォーマンスを損ねてしまうリスクが考えられます。

当社の場合、こういった問題が表面化していくのはこれからですが、せっかくいいメンバーが集まってくれているので、会社の成長に応じて社内コミュニケーションを今後見直していきたいです。

採用は事業内容よりもビジョンとのマッチングが重要

アマテラス:人材採用について、特に意識されているポイントなどはありますか?

加藤:私たちの会社が目指しているのは「一人でも多くの人の生活を、スマートなフィットネス体験により豊かにする」ことです。このミッション・ビジョンに共感してもらえないと、アルバイトでも離れていってしまうというのはこれまでの経験で学びました。

必ずしもフィットネスが好きとか、事業内容が好きという必要はないのですが、「LifeCoach(現 株式会社FiT)でこういうことがやりたい」というWant toの部分だけはきっちり本音でうかがうようにしています。

そのWant toが会社の方向性と合えば会社に入ってもらいますし、逆にズレていたらどれだけスキルがあってもお断りするようにしています。

私たちのコアバリューは「圧倒的オーナーシップでやりまくる組織」です。つまり、「チームや事業といったメンバー全員が目指していく方向性に対して『クリアしていくぞ』という熱い想い」を持ち、自走できる人にこそ参画して欲しいと考えています。

そこの判断基準をぶらさずに来たからこそ、「こんなに一緒に働いてて楽しい会社はない」とメンバーから言ってもらえるようになりました。今後どれだけ会社が大きくなっても、そこの基準だけは貫いていきたいと思います。

フィットネスジム業界の「価格の障壁」を外すために

アマテラス:最後に、今後の展望について教えてください。

加藤:「LifeFit 24h Smart Gym」はフィットネス業界のマーケットの負を改善したビジネスモデルですが、正直なところ参入障壁は低いと考えています。だからこそ、これから競合他社との差別化やブランディングがより重要になっていきます。

すでに同価格帯で競合サービスがでてきている中で「表面的には同じではないか」と言われることも今後増えていくはずです。だからこそ、私たちは会社のミッション・ビジョンの通り、「スマートなフィットネス体験」の創造を徹底的にやり抜く必要があります。

事業のベースにあるのは、フィットネスジム業界の「価格の障壁」を外すという考えであり、そこは大きな価値だと考えています。そこにさらなる付加価値を加えながら、より多くの方に使っていただけるサービスを創っていくことが今後の課題です。

まずは日本、そして、やがては世界のフィットネス人口を伸ばしていくために、私たちはこの会社や事業をより魅力的にしていく必要があります。

私たちの会社は創業から1年でメンバーを増やし、急成長を遂げてきました。しかし、まだまだ会社としては創業期であり、未成熟です。だからこそ、創業メンバーに近い感覚で活躍していただける場だとも思います。

オーナーシップあふれる新たなメンバーとともに、レガシーなフィットネス業界になくてはならないインフラのようなサービスを築いていきたいですね。

アマテラス:本日は貴重なお話をありがとうございました。

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
著者フォローや記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

会員の方はこちら

この記事のスピーカー

同じログの記事

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

  • リッツ・カールトンで学んだ一流の経営者の視点 成績最下位からトップ営業になった『記憶に残る人になる』著者の人生遍歴

人気の記事

新着イベント

ログミーBusinessに
記事掲載しませんか?

イベント・インタビュー・対談 etc.

“編集しない編集”で、
スピーカーの「意図をそのまま」お届け!