大企業の大きな流れに抗うのは非効率

倉貫義人氏(以下、倉貫):おもしろいですね。本当に「踏まれたら立ち上がらなくてもいいじゃないですか」と、常識に対してアンチテーゼ(否定するための主張)を言い続けている。めちゃくちゃカッコいい、シンパシーを感じるな。

稲垣栄洋氏(以下、稲垣):実際に彼ら(雑草)は、それで成功するわけですからね。

倉貫:いや、僕もずっと言われましたよ。「納品しないでビジネスなんか成り立つわけないだろ」と。

稲垣:(笑)。なるほど。

倉貫:「納品しなくてもいいんじゃないですか?」とずっと言い続けていたので。

仲山進也氏(以下、仲山):あと倉貫さんは、がんばらなくてもいい働き方を追求していますしね。

倉貫:本当に「無理しない」のが僕らの会社の経営理念の1つなので。

稲垣:すごくいいですね。

倉貫:僕は前の会社が大きな会社だったので、その中で社内変革というか、「社内のカルチャーを変えよう」という活動をずっとがんばったんですけど、抵抗勢力が多すぎて。

大きな会社の大きなエネルギーの中で、そうじゃない方向に一生懸命がんばることは、摩擦で自分のエネルギーを削られることが多い。それをがんばってやっていくことも、もちろんカッコいいし、やれたらすごいことなんだけど、ムダというかね、摩擦でエネルギーが消えるのは本当に嫌だった。

自分の会社を作って、自分に共感してくれる人たちとだけ仕事をしていけたら、摩擦もなくエネルギーがめちゃくちゃ前向きに進むので「そっちのほうが絶対にいいな」と。

なるべく摩擦や抵抗のないところで物事を進められるようにしたほうがやりやすいし、ムダとまでは言わないけど、「変にエネルギーを減らしたくない」という気持ちで、ずっとビジネスや組織を作ってきているんですね。根性や気合は一時的にはがんばれるけど、ぜんぜんサステナブルじゃないので。

僕らは「納品のない自社開発」「お客さんとずっとパートナーでやっていきます」「プログラマーを一生の仕事にする」とめちゃくちゃ長い目線で見ている会社。そこで「短期的に根性を入れてがんばるのはムリだな」「なるべく長く続けられるにはどうすればいいか」ということだけを考えたら、「無理しない」になったんですよね。

本当の強さは「根っこ」に表れる

稲垣:たぶん最終的にそういうところがブレなかった。「がんばらないために、摩擦を越えてがんばる」というのも何かおかしいですよね(笑)。

仲山:(笑)。「根性」とは「根」の「性」だと思うんですけど、「がんばる」という意味じゃない根性は何なんだろう?

稲垣:何でしょうね。でも「根はいい人」「性根が」とか「根っこ」は大事な部分ですよね。別に「がむしゃらにがんばる」が根性ではない気もしますけど。言葉の「根っこ」が持つ意味合いからすると、もっと静かに深く伸びていくものですよね。私たち人間には見えない成長ですよね。

仲山:「根本」もありますけど。

稲垣:そう、「根本」もそうですよね。もちろん植物にとっても、一番大事なのは根っこです。そしてうまくいかない時に根っこは伸びるんです。植物が葉っぱをうまく茂らせない時は、その栄養分で根っこを深く深くしていくんですよね。

よく夏の暑い時、毎日世話をしている花壇の花はしおれちゃうんですけど、誰も水をやらない雑草はぜんぜんしおれないじゃないですか。

倉貫:ぜんぜんしおれない。

稲垣:そうなんです。あれは根っこの量が違いますからね。何か困難があった時その根っこの量が物をいって、本当の強さ、乾燥に対する強さが見える。

仲山:それが「根性」なんだ。

稲垣:(根性)かもしれないですよね。

倉貫:雑草の根っこはめちゃくちゃ強いから、いくら抜いても生えてきますからね。

稲垣:そうですね。スギナやツクシは地下茎という地面の下に茎があるんですけど、それが1メートルぐらい下まであるんですよ。そこからさらに根っこを伸ばしている。だから雑草は、地上で何が起こってもびくともしないんですよね。

倉貫:びくともしない。庭に生えている雑草側としては、そうやって生き延びている(笑)。

稲垣:人間からすると、本当に大変ですけどね。

倉貫:人間からすると「お前、何回抜いても出てくるな」という感じなんだけど。

強くない生き物にとっては、変化はチャンスしかない

仲山:「雑草はなくすことができない」と書かれていますものね。

稲垣:人間と雑草は1万年ぐらいそうやって戦い続けてきて、戦いながら進化をしてきましたからね。そんな簡単にはなくならないです。

仲山:「唯一雑草をなくす方法は抜かないこと」と書かれてましたよね(笑)。

稲垣:はい、草を取らないことだと言っています。それはどういうことかと言うと、例えば庭だったら、他の強い植物が生えてきてだんだん藪になり、最後は森になっていくんです。

倉貫:森になったら雑草がいなくなると。

稲垣:いわゆる「雑草」と呼ばれる植物はなくなるんですけど、木がぼうぼうになっていくので。

仲山:あはは(笑)。思った通りになるとは限らない。

稲垣:そうです。雑草にとっては「変化が起こる」ことが非常に重要で、変化が起こらない環境では「強いものが勝つ」。シンプルなんですよね。どんな植物や動物にとっても「変化する」のは絶対に嫌なことだと思うんですけど、変化が起これば「強い植物が勝つ」ということが崩れますよね。

倉貫:ああ、崩れますね。

稲垣:だから強くない植物や動物にとっては、変化はチャンスしかないんですよ。

倉貫:確かに、チャンスしかない。

稲垣:これは高校の生物の教科書に出ている話なんですけど、ちょっと変化があったほうが生物の種類は増えるんです。つまり勝ちパターンの数が増えるんですね。

何も変化がないと、本当に「強いやつにはかなわない」となってしまいます。でも変化が起こると、結果「いろいろな成功のパターンが出てきたよね」「こういう勝ちパターンもあるよね」と生物の種類は共存できる。変化によって、いろいろな動植物が共存する社会が起こるんですよ。

仲山:「強い」というのは「でかい」ということですものね。

稲垣:植物にとっては「でかい」ということですよね。

仲山:仕事で言えば「売上が高い」とか。

倉貫:そう、大企業じゃないですか。

稲垣:そうですね。

倉貫:ザッソウラジオのリスナーの方はたぶんビジネスパーソンの方が多いので、今の先生の草の話を聴きながら、「これは普通に会社の話やん」と思っていると思うんですね。

仲山:みんな思っている。

先行きが見えない時代におけるスタートアップの強み

稲垣:だから今、未来が見えないとか予測不能な時代と言われていて、それは嫌なことでもあるんだけど、でもその他大勢にとっては絶対にチャンスなんですよね。そこをどう利用するか。もちろん大変なことを克服しなくてはいけないかもしれないけれど、雑草は「チャンスでしかない」と言っていると思います。

倉貫:実際にこの十数年ぐらいで、スタートアップという小さい会社が自分たちの強みを活かしてビジネスを立ち上げたり、社会を変えていこうという動きがたくさん出てきたし。

そこに資金も流れるようになってきた。一方で大企業は変化の時代になりやっていけなくなるから「変わらなきゃ」となったり。これまでのように変化が少なくゆっくりだった時代は、大量生産や大企業、強いものがより強くなる時代だった。

それがITやロボット、コンピュータによって世の中の変化が早くなり、だいぶ混沌としてきたので、むしろ多様な会社が生き延びたり、思ってもみなかったところがすごく大きな会社になったり。

仲山:「スタートアップ」というくくりは、どっちかというと「雑」じゃなくて「将来は巨木を目指していますよ」というニュアンスがちょっと強い感じがしますね。

倉貫:強い強い。

仲山:もっと雑草的な会社が増えていくとおもしろいですよね。

倉貫:おもしろいし、さっきの「変化があるほうが雑草にはいい時代だ」というのは希望がある話ですよね。

稲垣:実は、雑草は草取りされないと困るんですよね(笑)。

倉貫:(笑)。どんどん変わってほしい。

稲垣:(雑草は)「どんどん草取りしてほしい、どんどん踏んでほしい」と思っている。

倉貫:環境の変化があって、大変であってほしいという。

稲垣:そうですね。それに耐えるんじゃなくて、いかにそれを利用するかが雑草の基本戦略。草取りされることによって増える、踏まれることによって種をくっつけて遠くへ運んでいくとか、プラスに変えていくんです。

倉貫:むしろ逆境が生き延びるための術になるという。

稲垣:そうですね。

倉貫:「踏まれたほうが、靴の裏に種をつけていろいろなところに行けるじゃん」と。

稲垣:そうなんですよね。

倉貫:その発想は、普通にビジネスをしているとなかなか思いつかないというか。

稲垣:普通は踏まれることは耐えることだって思いますものね。

「『根性』とは立ち上がることじゃなくて、根を張ること」

倉貫:「コロナ禍の期間の逆境を耐え抜こう」となっちゃいますけど、「いや、これは、もしかしてチャンスじゃん?」と考える。ポジティブに考えられるんですね。

稲垣:その結果、本当に図鑑通りではない生き方をしている。「こうあるべき」から自由になっているのが雑草の戦略です。

倉貫:これは会社もそうだし、個人もそうですね。

仲山:まさに個人も。

倉貫:完全に個人も変化の中で「自分はどう生きていくのか」を考えた時に……。

仲山:耐えちゃダメですね。それこそ「我が社もパーパスを大事にするぞ」と言っている会社で困難なことが起こった時に、「踏まれても立ち上がれ」と言う社長もいそうじゃない?(笑)。

稲垣:(笑)。

倉貫:いやいや、それはもうみんなが言うでしょう。

仲山:「なんか稲垣さんが言っていたのと違うんですけど。『雑草的にパーパスを大事にする』と言っているのに、見た目の努力を要求してくるんですけど」という。

稲垣:(笑)。

倉貫:本当の雑草を知ってもらわなきゃいけないですよね(笑)。

稲垣:そうですね。本当の雑草魂を知ってもらわないと(笑)。

倉貫:いやあ、本当の雑草魂とか本当の根性、おもしろいな。「『根性』とは立ち上がることじゃなくて、根を張ることですよ」と。

稲垣:確かに。そうですね。

仲山:そうですよね。

倉貫:根を張っていたら、なんとでも生き延びられる。

稲垣:根っこが一番大事ですからね。だから茎を伸ばさないで、根っこだけの雑草もいっぱいあるんですけど。特にこれから冬の時期は、雑草にとっては地面の下が勝負です。地面の下にどれだけ根っこを持っているか。

倉貫:おもしろいなあ。

雑草の専門家が考える、組織の多様性

仲山:最近いわゆる「多様性が大事ですね」と言われて、働き方もメンバー構成も多様性が大事になっていますけど、そういう動きは稲垣さんから見るとどう見えるんですか? 

稲垣:これはすごく難しくて。いや、僕も「多様性が大事だよ」「個性が大事だよ」と言っているんですが、例えば研究室のメンバーが来ると「そこそこそろってほしいな」と思ってしまう(笑)。

仲山、倉貫:(笑)。

稲垣:例えば「個性が大事だよ」だと「あんまり優等生じゃなくて、個性的な学生に集まってほしい」と思ってしまうことがありますよね。でもそれはちょっと違うよなと。やはり人間が多様性を扱うのはすごく難しいことだと思います。

倉貫:いや、そうですね。

稲垣:自然界は多様なんだけど、人間が理解するためにはある程度分類したり順位をつけたり比較をしなきゃいけなくて。でもそれは人間の脳のために仕方なくやっていることで、「本来は多様なんだ」としっかりわかっておくことは大切ですかね。

正直なところ、僕も「揃ってほしい」「外れものは出ないでほしい」と思ってしまうし。でも人間の脳のために仕方がないことで、それは私の評価であって別に彼らの価値とは関係ないという。私もここを行ったり来たりです。難しいですね。

倉貫:そうですね。

稲垣:みんなが「簡単に多様性と言うけど、実は難しいことなんだ」と知って扱うことが大事かなと思います。

倉貫:「多様性を求める」というよりは「結果として多様になってしまう」ことだなという感じがするし。

稲垣:そうなんですよね。

倉貫:研究室もそうかもしれないし、ゼミや会社もそうかもしれないけど、ある程度の目的を持った時に一定の揃った価値観で人が集まってしまうのは、目的のためにはしょうがないところがある。でもそうした時にも一人ひとりを見ていったら、めちゃくちゃ違う人間なんですよね。僕は個々を見たら「めちゃくちゃ多様だな」と思う。

僕らの会社は「価値観が揃っていますね」と言われるけど、「いや、中にいる人たちは一人ひとりまったく違う人だぞ」と思うんです。だから「どこに目線を置くかで、多様と見るかどうかはけっこう変わってくるな」と。でもそれは別に狙ったわけじゃなく、いろいろな人が集まった結果、多様になっていたというだけなんですけど。

こんな多様性の話までできて、第2回も十分取れ高がありましたが……。

仲山:あっという間ですね。

倉貫:いやあ、「雑」から始まり「草」の話が出て、根っこの話まで来たので、第3回はどんな話になるかわからないですが、また次回お話しできたらなと思います。