無意識バイアスがある組織でどうやっていくかが大事

篠田真貴子氏:ここまでいろいろ話してきたので、ちょっとご自身の整理の時間になればなと思います。ここまでの私の話を聞いてくださった上で、ご自身を振り返っていただいて、「男性は仕事、女性は家庭」という性別役割分担のバイアスがどれぐらいあると思いますか? 今オンラインで視聴されている方には選択肢が出ます。

匿名ですので、ご自身で(バイアスの)度合いをどう感じていらっしゃるかボタンを押してみていただけますでしょうか? どんどん答えてくださっていますね、ありがとうございます。

一応、選択肢としては「とても強そう」「多少はありそう」「ほとんどなさそう」「逆に『男性は家庭、女性は仕事』のバイアスがむしろ自分にはありそう」という4つの選択肢をご用意しました。どうでしょう、ご参加のみなさんの回答がほぼ済んだようなので、オープンしていただけますでしょうか?

「とても強そう」という方が28パーセント、「多少はありそう」という方が50パーセント、「ほとんどなさそう」という方が22パーセントとなりました。これ自体は何が良い悪いということではありません。そのバイアスを持っている、持っていないこと自体が問題なのではなくて、そういう自分あるいは周りだとした時に、じゃあ実際どうやっていくか。ここがこれからのポイントになっていきます。

このように率直に自分を振り返る機会を一緒に持ってくださってありがとうございます。次に進んでいきますね。こういうバイアスを持っている、あるいはご自身はほとんどバイアスがないという方も、この比率を見ますと、同僚の方あるいは職場の組織風土としてこのバイアスがある状況を十分に考えられた。

じゃあどうしたらいいのか、ですよね。そこで私から、まず男性・女性からいったん離れて、これからの管理職はどういう役割で何が求められるのかをお話しして、そこからまた女性としてという話に戻ってきます。

管理職にとって重要な2つの視点

私は、これから管理職になる人、それから実際に今管理職になっている方も、大きく2つの視点が極めて大事だなと思っています。それは「自己理解を深める」そして「多様性を力に換える」つまり「聴くを知る」、この2つです。

これはどこから来ているかと言うと、つい3週間前、実は経団連のD&Iの推進活動で「JOINnovator!」という大きなイベントがあったんですね。そこで私も登壇をさせていただきました。

このイベントは経団連が主催で、経団連参画企業のD&I推進の、トップの方々がみなさん参加されていたんです。そこで「D&Iを推進するには、この4つの要素が必要です」と研究結果として出されたんですね。

それがこのスライドの4つで、まず左上の「自分を知る」こと。それで左下の「聴く」こと。それで右上の「観る」そして「言う」。このはじめの2つのステップ、「自分を知る」と「聴く」が、ダイバーシティ&インクルージョンを推進する上で大事だと経団連からも出ています。これはD&Iだけではなく、管理職全般に必要です。

まず自己理解ですね。自己理解とはどういうことか、事例も含めてお話しします。まず自己理解とは、自分で「うーん」と考えていても出るものではなく、やはり人に話を聞いてもらう。それでじっくり話して、思いを言葉にしていくことを通して深めていくものです。

ここでお見せするのは、我々エールを利用していただいた方がセッションの後に書いてくださった感想から抜粋してきたものです。例えばこの方は、はじめはサポーター、つまりお話を聞く人と話せて有意義だったと。次に「モチベーションがこの1年ぐらい低かったけど、モヤっとしていたその原因に気づけました」とおっしゃっています。

それが、3行目にあるように、「そのモチベーションの源泉が必ずしも自分の業務範囲には留まらないことに気がついた」。この方はわりと仕事とプライベートを分けて考えている方だったのですが、実は自分の中で相互のつながりがあると気がつき始めたんですね。

対話を通して自分の本音に気づく

その後内省をしていくと、ちょっと暗い気分になったんですけど、下から2段目ですね。「自分のありたい姿に必要な要素として、信頼や仲間、共感が大事だとだんだん気がついた」。

そうしたら最後には「『仕事はやらねばならない』ではなくて、自分が将来ありたい姿に対して『仕事のどの部分を使ったら自分の将来像に近づけるだろうか』という視点に大きく変わりました」、こうおっしゃっています。これは、「気がついていないけれど、本当は思っていること」が我々にはあるということです。

もう我々は大人ですから、言いたいことや言いたくないこともTPOや相手を選んで話しているんですけども。実は気がついていないことがたくさんあって、これは今お見せしたようなじっくり「聴かれる」という機会がないと自分でも気がつかないし、出てこない。

先ほどお話しした、私自身がその男女の役割分担の無意識バイアスに気がつけたのも、こういった対話を通してだったと思っています。さらに、それに気がつくだけじゃなくて、じっくり聴いてもらえると、人は考えを変えることに柔軟になるんですよ。

じっくり話を聞かれることで、考えが変わっていく

これはこの『THINK AGAIN』という本で出ていたmotivational interviewing、動機面談という手法の事例です。この手法自体、行動科学の分野で最も強いエビデンスで支えられている手法なんですね。組織開発、あるいは医療の分野で使われているのですが、この本で出ていた例がこのスライドの右上に書いてあります。

予防接種を忌避する若いお母さんがいて、それに対して医師がこの動機面談を使って45分ほどインタビューをしたんですね。実際どうやったかと言うと、お医者さんはひたすらお母さんの話をじっくり聞くだけなんです。

「予防注射についてどういう考えなのか」「なんで嫌だと思っているか」「なんで子どもに打たせたくないのか」「どういうところに葛藤があるのか」をじっくり聞いて、「なるほど、そうですか」と。

最後の5分ぐらいで医師が、「私は医師なので、お母さんとは予防接種に関してちょっと違う考えを持っています。聞いてもらっていいですか」と言って医学的なエビデンスのある話をする。

そして、「私はお母さんと予防接種に関して考え方は違うけれども、話を聞いて、とにかく子どもにとって良かれと思って予防接種について考えていらっしゃるということがよくわかりました。なので、赤ちゃんに予防接種を打たせるかどうか、どちらの判断をしたとしても、私はあなたを立派な母親だと思います。尊敬します」と言って返すんですね。

そうすると、高い確率でそのお母さんは「予防接種を打たせます」と言って戻ってくるんだそうです。つまりじっくり話を聞かれるということは、人の考えを変えていく。この無意識バイアスに基づく行動を変えていくポテンシャルがあるということなんです。

かつて理想とされていた、ブロック塀のような均一な組織

もう1つ、「この多様性を力に換える」、この「聴く」という力、こちら側についてもお話をします。

ちょっとマクロの話になりますけれども、管理職という話が出る以上、当然これは組織の中の役割なわけですよね。この組織には、OSとも言うべきものがあると私は思っています。組織風土のさらに根底にあるものですね。これは事業観、人間観、それから組織観といったものから構成されると思っております。

特に事業観に関しては、もちろんその会社固有のものもあるんですけれども、社会が「立派な会社ってこういうものだよね」と期待するものが、事業における人間観や組織観に大きな影響を与えるという構造になっていると思います。

具体的に、これまで・これからを左右で対比して示しております。単純化するために、これまでの組織イメージとして、私が社会人になったばかりの30年以上前を思い浮かべてお話しすると、その時代、立派な会社と言うと一般的に思い浮かべるのは、製造業の工場組織のイメージでした。

再現性、連続性が大事で、ピカピカの工場から均一な品質の立派な商品がブワーっと生産される。漫画とかアニメーションで出てきた会社はこういうふうに描かれていました。その世界においては、このスライドの三角形の左上、人間観は人の数とか時間、目に見えるスキルが大事だった。

そして人と組織をつなぐロジックは左下の四角ですね。要は人の均一性を鍛えて、それを力に変えることで立派な会社になっていこうとする力学が働いたので、組織観としてはブロック塀みたいなものですよね。それが今、そしてこれからの組織のイメージ。これは右側に書いたように、創造性や独創性が大事になる知的生産組織のイメージです。

具体的に言うならGAFAMの世界です。今の20代の方々にとって、物心ついた頃からメディアで立派な会社の代名詞として語られているのは、そういったIT企業の中でもソフトウェアエンジニアが活躍するような会社です。そこにおいては、人間観は人の数ではありません。人の思考であり、やる気とかパッション、あるいは社会的意義のような価値観なわけです。

現代の「石垣的な組織」で必要とされる多様性

実際そういったソフトウェアエンジニアの組織を見たり、経験された方だったらよくわかると思いますが、例えばエンジニアを100人から200人に増やしたら、アウトプットが2倍になるかと言うとまったくそうではないんですね。場合によっては100人を精鋭の80人に減らしたほうがアウトプットが増える世界なわけです。

この世界においては、やはりアイデアの出し合いも、違ったアイデアが組み合わさることで生産性が上がっていきますから、そうすると均一性ではなくて違いを鍛えることが大事なんですね。

その多様性を組織の力、事業の力に換えていくことが必要であって、先ほど工場組織をブロック塀になぞらえましたけれども、こちらはむしろ石垣のような組織と言うことができるんじゃないかと思います。

ブロック塀型組織と石垣のような組織。ブロック塀は均一制、石垣は一人ひとり大きさも形も違う石を適切に組み合わせて、立派な素敵な壁を作る。この能力が組織を運営する管理職に必要になってくるし、働く一人ひとりにも必要になるわけです。

ブロック塀の世界は汎用的な規範、つまり「このブロックの大きさ、形、固さが正解」というものが先にあります。管理職はその点において、より完成度が高いから管理職になっているという前提があるので、「正しいことはこれですよ」「篠田さんは大きさが足りません。角が丸すぎます」という指導を上から伝えることが大事な世界観だったわけです。

しかし右側の石垣のような組織、多様であることが価値の源になる組織においては、まずメンバー一人ひとりに、自分はどういう形、大きさなのかという自己理解の必要があり、周りの同僚に対しても、自分と比べた時にもっと大きいのか、小さいのか、尖っているのかといった他者理解をする必要がある。

管理職としては一人ひとりの、大きさや形を理解して、それを適切に組み合わせていくことが主な仕事になっていくので、そうすると「聴く」こと、そして自己理解のために「聴かれる」ことが大事になる。

これからの管理職に欠かせない「聴く」から始まるマネジメント

あるいは先ほどのmotivational interviewing、動機面談の例にあったように、じっくり聴く、あるいは聴かれることで柔軟に違う考えになって、自分も考えを変えることが大事になってくるんですよね。なので、これからの管理職には「聴く」ことから始まる、「対話によるマネジメント」の力が欠かせないと私は信じています。

「聴く」とか「聴かれる」ってまさに人間らしさ、まず目の前の人を人として扱うことに他ならないんですよね。お互いに、「まず人間ですよね」というところから始まる。それを最終的な事業の提供価値と結びつける。これが管理職の役割なんだと思います。

まず「聴く」から始まって、「対話によるマネジメント」をする。つまり「聴く」力をつけて、まず聴いて、それでお互いの自己理解、他者理解、そして会社の方針の理解を促し、それによってより人間らしさが発揮される。つまり自律的になる。これを長期的な成果に結びつける。これによって事業も、働く人も、ポテンシャルを存分に発揮する。

ここに働きかけるのが管理職の役割であるし、これが成された時は、管理職とは本当に尊い、すばらしい仕事だと思います。

これからの管理職はまさに「多様性を力に換える」、要になる役割であって、まず自身が聴かれるということ、そして周りを聴くということ。周りの人にしてみたら、聴いてもらう機会、聴かれる機会を提供されるということがすごく大事なんじゃないかとお話ししました。