女性管理職の比率を上げるのが難しい3つの理由

篠田真貴子氏:企業経営とか投資、他の領域もそうですけれども、お一人おひとりの動機はさまざまだと思うのですが、社会全体としてなんで女性管理職の比率を増やさないといけないかと言うと、ここです。意思決定をする、あるいはその意思決定されたものを実際に社会に届けていく影響力を持つ立ち位置が、管理職ですよね。

ここでダイバーシティ&インクルージョンがないと、結果この歪みが未来社会にどんどん波及していってしまうんです。未来社会のために、この管理職レイヤーのダイバーシティ&インクルージョン、特に日本においては女性の比率(を上げること)がまず一丁目一番地で、大事です。

まずこの構造をぜひ理解していただければと思います。その上で、大事なのはわかりましたと。みなさん一定の努力はされていると思うのですが、でもなんでこれが難しいのか、次に話をしようと思います。大きく3つあります。

1つは、やはり今の社会の環境に埋め込まれて、知らず知らずのうちに我々が男女の役割意識を内在化してしまっているから。2つ目が、個別の人に当てはまらないのに、当てはめてしまうから。

3つ目が無意識バイアスです。でも大きく言うと、これらは3つとも広い意味での無意識バイアスの話ではあるんです。1つ目から聞いてください。まず、社会に埋め込まれているとはどういうことか。

これは私も調べて勉強して、初めて知ってびっくりしたんです。例えば、安全性に関して社会の法律やさまざまな基準がありますが、実はかなりのところで女性のデータがまったく反映されていないんですね。

例えば、実は自動車事故で重症を負う確率が女性は男性よりも47パーセント高い。中程度の障害を負う確率はなんと71パーセント高い。死亡率は17パーセント高いんですよ。おかしくないですか。

これは、自動車の衝突安全テストの時に使っているあのダミーのお人形が、男性の体格をしているからです。それに合わせて作っているから、結果として女性の体格での安全性テストがなされていなかったんですね。

データを調べた結果わかったので、アメリカでは2011年から、日本では2018年から、一応助手席のダミーは女性になっています。だけど、運転席はまだなっていない。医療機器でも同じようなことが起きています。

ジェンダーギャップが街の過疎化を引き起こした例

世界中のこういった機器の安全基準を定めているISOという公的機関がヨーロッパにあるんですけれども、ISOでは今すべての規格にこのジェンダー視点を入れるようにアクションプランを立てて実施中だそうです。だから今、見直している最中です。

例えば日本ではこの視点を行政に取り入れた例がありまして、兵庫県の豊岡市です。市の中で調べたところ、結局町の、社会のありよう。あるいは雇用の機会が特に若い女性に対してまったく親切ではない。だから女性が帰ってきたいと思わない街になってしまっていた。

そりゃ少子化も起きますよね。それに気がついて、「私たちの町は女性に対する公正さに欠けてきた」と振り返りをし、ジェンダーギャップ対策室を設けて、地域の役員会や商工会議所も連携しながら、是正に取り組まれています。

これも先ほどの技術とはまた別の面で、ジェンダーギャップがあることで町が過疎化していくことのつながりに気がついて、是正をされていこうとしている例です。これが社会環境に埋め込まれてしまって、知らないうちに内在化しているんです。

例えば車のシートベルトは、私は女性としてもわりと体がちっちゃいんですけど、普通にシートベルトをすると、やはりここに(首元を指しながら)シートベルトが当たるんですよ。

自分の体しか知らないから、それが当たり前だと思っていたんですよね。このように、知らないからわからない、ということが起きます。2つ目、一般論は個別の人に当てはまらないのに、当てはめてしまう。

これは、一般的に統計と自分の目の前のことを混ぜて認識してしまうというバイアスで「普通はこう」とか「一般的にはこうだ」。これはこれで事実ですけれども、だからといって、必ずしも目の前の人がそれに当てはまるわけではないんですよね。

一般論と「目の前のこと」を混ぜてしまう認知のずれ

「普通と違う」とか「この人は変だ」ということはまったくない。例えば身長で考えてみると、一般的に、男性のほうが女性より平均的に背が高いじゃないですか。

(スライドで)身長の分布のグラフを今お見せしていますけれども、これはもう事実なので、「普通男性って女性より背が高いよね」ということ自体は別に女性差別に当たりません。これは事実だから、当たり前です。でもそれはあくまで平均値ないしは分布のことを言っています。

だから、目の前の女性がたまたま隣にいる男性より背が高かった時に「女なのに背が高いっておかしい」とか「女なのに大きいんだね」なんて言ってしまうのは、間違っているし、そういう指摘は失礼に当たります。

今私が申し上げた例は、この身長グラフでいくと、ちょうど(女性の身長分布を示す)赤と(男性の身長分布を示す)青が重なっているところに当たるわけで、目視でいくとざっくり男性・女性、それぞれ3分の1ぐらいずつが重なっている領域にいらっしゃるわけです。ここがごちゃごちゃになってしまうんです。

「一般的に女性はこうである」ことと、「目の前のこの人がそうである」ことが混ざって、「女性なのに背が高いってどうなの」という意識になってしまう。これがもう1つの難しさです。私たちの認知のずれとして難しいということです。

最後の3つ目、この男女の役割分担の無意識バイアスです。無意識バイアスという言葉を聞いたことがある方も少しいらっしゃるかなと思うんですけれども、あらためてご説明をします。まず一般的には、私たちが経験とか習慣、あるいは周りの環境によって身につけた、無意識の中にあるものの考え方の偏りですね。

これ自体は本当に生きていく上で欠かせないものなので、「無意識バイアスをなくしましょう」と言うのは、「人間であることをやめましょう」と言うのと同じぐらい難しいんです。だから基本的に生きていく上で欠かせないんですけど、ただ過去の経験パターンと今の状況に齟齬がある時は、問題になってしまう。

「無意識バイアス」は人間が生きていく上で欠かせないもの

かつ、人間は知性がありますから、自覚すれば必要に応じてその影響を緩めることは可能です。ちょっと1個、例をお見せしますね。すごく高いところで、人が細い板の上に立って、下を見下ろしている画像ですね。この画像を見て「うわ、怖い」と感じるでしょうか。私も高所恐怖症気味なので、ちょっと足の裏がムズムズします。

この足の裏がムズムズする感覚、あるいはちょっと身を固くするような感覚、これは無意識バイアスのせいです。なぜかと言うと、私はこれまで生きてきた中で、「高いところから落ちたら怪我をする確率が高くて危ない」とどこかで学んできているからです。

でも例えば赤ちゃんはそうはならないんですね。なぜかと言うと、赤ちゃんは高いところから落ちたらどうなるかを学んでいないから。これが無意識バイアスです。なので、私が先ほど申し上げた無意識バイアスは、基本的に人が生きていく上で欠かせないものだと伝わりましたでしょうか。

いちいち「ここは高さ何メートルぐらいで、ここで足を踏み外したらこうなるな」「落ちたら怪我して死ぬかもな」とか理性で考えている暇はないんですよ。命の危険があるから、自分が落ちないように、反射的に身を固めるんですよね。

この反射が男女の役割分担意識になると、現代社会において悪影響があるのがポイントです。今お見せしているグラフは1万人超の大企業の方々に、男性は仕事、女性は家庭の結びつき、つまり無意識バイアスがどれぐらいあるかを計測してグラフ化したものです。

この無意識バイアスはこのように心理学の手法を使うと数値化できて、「あなたは何点です」とわかるんですよ。これを「ANGLE」というサービスを展開しているチェンジウェーブという会社がやっています。

この分布を見るとわかるように、これは分布図の真ん中が完全にニュートラルな状態です。右にいけばいくほど、女性は家庭、男性は仕事の結びつきが強いという意味です。

女性も男性と同じくらい無意識のバイアスがある

逆に言うと左にいけばいくほど、女性は仕事、男性は家庭という結びつきが強い方で、そういう方も少ないですが一定数いらっしゃるんですね。そうやって見ていただくと、かなりこの分布が右のほうに寄っているのがわかります。管理職の多くの人たちは、やはりこの、男性が仕事で女性は家庭という、性別に関する無意識のバイアスが強いんですね。

特に赤で囲ったところは、心理学的にもバイアスが強い人と認定される領域です。次に注目していただきたいのは青とピンクの棒です。これは男性・女性で分けてみました。そうすると男女間にこの分布の偏りがないことがわかります。ということは、女性管理職も男性と同じぐらい無意識の性別役割分担バイアスがあるのです。

ですので、女性管理職だからバイアスがなくてフラットであるということはまったくないとこの調査から読み取れるんですね。ちなみに私もこのテストを受けました。結果が、実はこの縦向きの矢印があるところ、つまり右から2番目、数字でいうと0.8いくつだったと思います。

私自身、女性は家庭、男性は仕事という無意識バイアスが強いほうです。だから逆に言うと、バイアスが強いから管理職になれないんだとか、やる気がないんだというわけではないとも言えるわけです。

ちなみにですけれども、この会社では同じ調査を一般社員の方々にもやっていて、それによると実は、管理職よりも一般社員のほうがバイアスが強め。特に女性のバイアスが強めだということがわかったそうです。

上司の「良かれと思って」が、女性の成長の機会を奪うことも

この無意識バイアスが、別になんの悪影響もなければ放っておけばいいんですけれども、どういう影響があるかもこの会社が調べています。総論賛成各論反対になるという話なのですが、例えば「仕事と家庭の両立は、歓迎すべき」に対してどれほど賛成するかと言うと、管理職も非管理職も「とてもそう思う」ないしは「そう思う」という方が95パーセント以上いらっしゃいます。これは総論です。

じゃあ各論で具体的な場面を想定して問いかけていきます。1歳の子どもがいる社員に、海外出張の打診を検討している状況を思い浮かべてください。(スライドの)上のグラフですね。上司の方に、そういった1歳の子どもがいる社員に海外出張を打診しますかと聞いたら、その相手が男性社員の場合は、7割が打診しますと言っているんですね。25パーセントは「ちょっと大丈夫かな」と迷う。

それに対して、その社員が女性だった場合、なんと「打診する」が46パーセントに落ちます。ほぼ同じ比率の44パーセントが打診するのを迷うと言うんですね。

もしこれがこのまま本当に実施された場合、男性社員の71パーセントは打診してもらえるんですけど、女性は46パーセントしか打診を受けません。その差の25パーセントの女性は、本当は海外出張の機会があったかもしれないのに、その機会があったことすら知らないままキャリアを積んでいくわけです。

海外出張は、これから力をつけていこうというビジネスパーソンが、わかりやすく力をつける大変貴重な機会です。上司側が良かれと思ってその機会が奪われている、これがその可能性を示唆している調査ですね。

「管理職を薦められたら引き受ける」女性は4割に止まる

この海外出張に関しては、一度冤罪で逮捕されたけれども、最終的に冤罪が晴れて、厚生労働省の事務次官にまでなられた村木厚子さんという方がいます。この方は旦那さんが単身赴任中でご自身はお子さんがいて、要はワンオペで育児をしている時に1ヶ月の海外出張の打診が入った。

その時に上司が、一度は自分に打診してくれたと。村木さんとしては、「やっぱりこのチャンスはぜひ活かしたい」と考えていろいろやりくりをして、実際海外出張を実現されました。これで大きな成長のチャンスをもらったと振り返っておられるわけです。これを、今日のテーマである管理職になるかどうかという話に持ってきた時に、いろいろ示唆があると思うんですよね。

これもはじめにお見せしたのと同じ、東京都の調査から引用しています。「もし管理職を薦められたら引き受けますか」という問いかけに、男性は7割が引き受ける、あるいは条件によっては引き受けると言っているのに対して、女性は4割しかいないんですよ。

さらに女性を年代別に分解した分析もついていて、年齢間で差がないんですね。これは女性が男性と比べて引き受ける人が少ないという事実。

さらにその雇用主側、打診する側ですね。女性管理職が少ない職場の雇用主に「なんでいないの?」と聞いたところ、雇用主側は「まず経験やスキルが十分足りる女性がいないんです」と言う。それから「女性側が希望しないんです」という答えが上位に入ってきているんですね。

ここまで私がしてきた無意識バイアスの話。女性に対して、良かれと思って成長の機会を与えない行動に出る可能性があるという話。ここを組み合わせると、こういうことが見えてくるんじゃないかと思うんです。つまり、自然体では女性が経験を積む機会が不足したり、あるいは仕事をがんばることに葛藤してしまうことが起きているのではないかと。

スキルや経験は十分なのに管理職を希望しない女性

まず1個目の「うちの女性社員は経験が十分じゃないんです。だから管理職にしないんです」という話に関して言うと、このグラフの下に書いてある横軸が、スキルや経験が低いか高いか、縦軸が意欲が高いか低いかですけども、その雇用主は「スキルが低い、経験が足らん」と言っているので、グラフの左側(スキルや経験が低い)の話をしています。

ご本人は意欲が高いかもしれないけど、無意識バイアスによって、良かれと思った結果、同僚の男性社員と比べて、十分に成長する機会を与えていなかった可能性があるわけです。

出張かもしれないし夜勤かもしれないし、ちょっと精神的、体力的にきついと思われるような仕事。これをなんとなく女性に与えてこなかったせいで、結果「経験値が足りないね」という社員が出てきているのではないか。もう1つ、「本人が希望しないから」という話がありました。これはこの図でいくと右下にあたるものです。

周りから見ると、スキルや経験を十分に積んでいらっしゃる。だから「やったら」と周りは言うんだけども、ご本人が「いやいや」と。これは、この女性ご自身が、その男女の役割分担意識のバイアスを持っていて葛藤している可能性があります。

ですからその女性は、自分が女性であること、あるいは家庭の中で持っている役割と、管理職であること(の葛藤がある)。管理職は男性がすることで、女性はサポート役であるべきなのではないか。あるいは家庭において自分は主婦、あるいは母親、あるいは介護を主に担うべきで、管理職とは両立できないのではないか。

事実かどうかはともかく、ご自身がそういう役割分担意識を、私のように気づかず持っていらっしゃることが、ブレーキになっている可能性があるのではないかと思います。

今日ここで雇用主側の方がどれほど参加されているかわかりませんが、少なくとも女性本人である時に、ご自身が「管理職になりたいのにまだなれない」と感じていらっしゃるのであれば、もしかすると職場で十分な機会をこれまでもらえてこなかったのかもしれない。

あるいは今「自信がないな」と感じていらっしゃるのは、ご自身、ご家庭、あるいは職場の役割分担の無意識バイアスが影響している可能性があるのではないかなと思います。