エール取締役の篠田真貴子氏が登壇

篠田真貴子氏:みなさん、こんにちは。エール株式会社の篠田真貴子です。土曜日の午後、お忙しい時間にこのセミナーに参加してくださって本当にありがとうございます。ここからおよそ80分、私のほうからお話をし、最後15分間、みなさんからのご質問にお答えする時間を設けております。

ご質問は思いついた時に随時、オンラインで参加していらっしゃる方であればQ&Aに、会場で視聴されている方は手元に紙が配られると聞いておりますので、そちらに書いていただければと思います。全部にお答えできるかわかりませんが、そちらを最後にまとめて私がお答えしたいと思います。

あらためまして、「管理職・これからの時代のわたしスタイル」というタイトルでお話をします。

この80分ぐらいの時間で、私が申し上げたいことを一言でまとめるとこちらです。今は「多様性を力に換える時代」ですね。その時代の管理職にはやはり「聴く」とか「聴かれる」ことがマストです。これだけだと何のことやらとお感じになるかもしれません。

今日は大きく4つのパートをお話ししていこうと思います。まず私の自己紹介とキャリアの話ですね。続きまして、そのD&I(ダイバーシティー&インクルージョン。多様な人材を受け入れて活かすこと)が何のためにあって、なんでそれが簡単ではないのか、私なりの見解をお話をします。

今日の開催趣旨にあった、私たち一人ひとりが管理職になることに対して、不安を感じてしまう背景の1つになるかなと思っています。

それを踏まえて、じゃあこれからの管理職にはどういったものが求められるのかが3点目、そしてそれを推進するために大事な「聴く」力について具体的にお話しして締めていこうと思います。

組織と人の関係性をライフワークにする篠田氏

まず私の自己紹介から入りますね。あらためまして篠田真貴子です。現在エールの取締役、他いくつかのお役目をいただいております。これまで5社で働いてきて今エールが6社目ですね。

単に転職してきて社数の経験が多いこと以上に、本当に働いてきた組織のタイプが多様であったなと思います。そういった経験から、まずは個人的なところから組織と人の関係性に関心を持つようになりまして、それが結果的にライフワークになってきました。

今日のテーマである女性が働いていくこと、女性の人生ということですと、こちらにご紹介している『ALLIANCE』という本の監訳をしたり。仕事と家庭は両立できないのかという本、『Unfinished Business』の前書きを書きました。

そして3つ目にある『Harvard Business Review』に、制度より無意識バイアスのほうが、実は会社、経営としてアプローチすべきテーマなのではないかと書いたりいたしました。

それから今日もう1つお話しするテーマである「聴く」ことに関しては、この『LISTEN』という本の監訳をしました。おかげさまでもう8万5,000部ほど売れており、ベストセラーにしていただきました。

「本を読むのはなかなか時間も取れないし大変だな」という方には、こちらの「COTEN RADIO」というポッドキャストで、私がお話しした回をおすすめしたいと思います。「聴く」ことについて、それから女性が働くことについて、それぞれお話をしております。

1回30分から1時間程度の話が3回ですので、もしご興味があったら、私の名前と「COTEN RADIO」で検索していただくと出てきますので、ぜひ聞いてみてください。あわせて、今日私がお話しする内容の中には、今エールでやっている仕事から引用しているものがあります。

「聴く力」で自律的な組織を作るための支援を行う

ですので、背景知識としてエールが何をやっている会社なのかも簡単にご紹介をしますね。私たちがやっている事業は、社外人材による1on1、一対一の面談ですね。これで一人ひとりが変わっていく。「個の変容」に伴走して、結果として自律的な組織になっていくようにサポートをする事業をやっています。

「これは何のことや」とお感じになるかもしれません。今この図の上のほうにあるように、人的資本であったりDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン。多様性・公平性・包括性を教育や企業の理念に取り入れ、力を発揮できる環境を作ろうとする概念)などが経営テーマになっています。

経営陣の方々がこれを事業戦略にし、戦術・仕組み・制度、そして研修にしても、最後の最後はやはりお一人おひとりの腹落ちがあって、納得がないと、なかなか行動が変わらず、戦略が絵に描いた餅になってしまうんですよね。

そこに対して私たちのところには、お話を聴くサポーターが3,000人いらっしゃいます。みなさん、8割ぐらいの方が副業でやってくださっています。我々サポーターが聴いて企業の社員の方が話す。この30分の面談を、隔週で行うサービスを提供しています。

主に2つのアプローチがあって、管理職やリーダーの聴く力を高める「聴くトレ」というサービスと、それ以外の会社のさまざまな取り組みですね。制度の自分ゴト化とか、研修内容の定着に伴走させていただく「伴走YeLL」という2つの取り組みがあります。

職場に女性管理職は何人いるか?

こちらのロゴはほんのごく一部なのですが、多くの企業で活用していただいています。今日はこの事業からも、私たちが学んできたことを少しご紹介します。ではさっそく本題に入ってまいりましょうか。まず、このD&Iはなぜ簡単ではないのかという話をします。

その前段として、そもそもD&Iが何のためにあるのかをお話ししたいのですが、私からみなさんの様子が全部はわからないので、ちょっと教えていただけますでしょうか。「あなたの職場に女性管理職は何人いますか?」。

この「職場」とは、会社というよりも、ご自身が実際になんとか話しかけられるとか、物理的に見かけられる範囲とお考えください。

会社というと、人によってはもう社員が何千人とか何万人いらっしゃると思うのですが、ご自身の職場としてお答えいただけますでしょうか? 私の手元で見るとだいぶ回答のインプットが落ち着いたようなので、ここでいったん投票を終了してみなさんに結果を表示していただければと思います。けっこう票が割れていますね。

一番多いのは「職場に2人から5人いますよ」というお答えで4割ぐらいの方々なのですが、「いない」という方が17パーセント、「1人」が19パーセント。それでさらに「6人から10人以上」が12パーセントと、本当にかなり職場によってバラバラ。

今日来てくださっているみなさんも「何人か職場に女性管理職がいるな」という方もいれば、「見たことがありません」とか「いても1人だけです」という方も、実はほぼ同じぐらいいらっしゃるということですね。ありがとうございます。

業界によって女性管理職の比率はかなり違う

これは、実際の東京都の調査の統計をスライドで見ていただいています。令和3年度の調査でいくと8割の事業所では「少なくとも1人は管理職がいますよ」ということになっています。

先ほどみなさんのアンケートでも「いない」という方が17パーセントでしたので、ほぼこの東京都の調査と同じような割合ではあったようですね。もう1つ同じ調査の中で見えてくるのは、業界によってかなり女性管理職比率に違いがあるということです。

医療・福祉、教育、それから学習支援、そういった企業では管理職の3割から5割が女性ですけども、他の業種はおしなべて2割以下であると。建設業などは、このグラフの一番上ですけれども、4.4パーセントというように、かなりの差があることも調査からわかっています。みなさんの職場はどうでしょうか? どの業種に当たりますでしょうかね。

じゃあここから、私の話を少ししますね。私の経験談でもありますし、そこから導かれる、より多くの女性たちに向けて。特に管理職になっていく、あるいは今やっていらっしゃることに関して、直面しがちな課題への橋渡しとしてお話ししますので、そのように聞いていただければと思います。

まずここで示しているのは、私のライフラインチャートです。つまり私の主観で、これまでの人生の気分的なアップダウンがどうであったかを書いたものです。一番上に20、30と書いてあるのは、おおよその私の年齢です。その下にロゴが入っているのは、その時に所属していた職場や学校のロゴですね。

そこに中間管理職とか役員と書いてあるのが、その時の私の役割。それで青い四角で結婚と出産、子どもが2人いるのですが、そのタイミングもプロットしました。その中でアップダウンがいろいろあって、その時にやりたいことがわからないとか、うまくいかないとかいろいろ書いてあります。

「女性社員を躾ける」ことが立派であるとされた時代

ちょっと今日のテーマに沿って、この表から離れて、具体的に私が女性として仕事をする、あるいは家庭を持つことに関して、何を感じてきたかをお話ししますね。まず私は今55歳で1968(昭和43)年生まれです。

私自身、私の世代の女性にはわりと珍しく「女の子だからこうしなさい」とか「女の子だからこれをしてはいけません」ということは、かなり言われずに育ったほうかなと思います。

ですけれども、「女だから」「男だから」という意識は、私の家庭も含めて世の中全体に、もう価値観の隅々にまで浸透していたので、「女の子だから」と言われないことイコール「男のように」というニュアンスを帯びていたなと思います。

例えば車を運転するのは男で、「女の子なのに運転するのは珍しいね」みたいに言われてしまうんですよね。そんな中で育ったのですが、1986年に男女雇用機会均等法が施行されます。この法律が入る前は、企業は性別を指定して採用しても罰せられなかったんですね。

それが、「そういうことはしてはいけません」となりました。その結果として、旧来の職場ではいわゆるキャリア職というのでしょうか。基幹職は男性、アシスタントは女性という明確に性別を分担して採用していたのが、男女かかわらず採用するようにと決まったわけです。

これが高校3年生の時で、ちょうど自分の進路、大学だったりそれからどういう大人になっていきたいのかを真面目に考える時期でした。私としては、この法律ができて世の中が変わったことで「あっ、私も例えば父親と同じように、大きな会社のサラリーマンの基幹職として海外出張に行ったり、いろいろできるんだな」と大変励みに感じました。

ただ、同時にその頃の時代背景は、こういう本が普通に売られている時代です。『女子社員の躾け方』ですよ。

こちらの本は、実は今もある大手の銀行から出ているもので、こういう価値観がむしろメインストリームであるし、そういった立派な会社は、「女性を躾けられるから立派である」のだと思われていた時代です。

仕事と女性らしさの間で葛藤したことも

そんな時代感がまだまだ強い中、私は総合職、つまり当時で言う男性と同じ職種に入りたいと思って就職活動をします。ここで初めてジェンダー問題に直面します。面接で「結婚したら仕事を続けるんですか」「子どもが生まれたらどうするんですか」。

果ては「あなたが総合職を受けることについて、お父さまはなんと言ってらっしゃいますか」と。つまりどういう躾けを受けてきたんだという話ですよね。

こんなことを面接のたびに聞かれては、真面目に「(仕事を)続けたいです」と答えていました。ただ、それまではやはり学生ですので、特に勉強において、女性だからといって何か機会が損なわれたり、評価を低くされることがなかったので。その時に初めて「あれあれ?」と感じたことも覚えています。

その後は日本の大手の金融機関に就職をしてがんばるわけですけれども、仕事はやっぱりおもしろいなと思って、がんばっているのです。でもそれは同時に、女性として認められることと、どうもずれていく感覚があったのも事実です。

例えば、20代前半から半ばは、ざっくり言うとモテることは大事じゃないですか。恋愛でいずれは家庭を持っていくパートナーを見つけたいわけですよね。今はいろんな価値観が変わっているかなとは思うのですが、当時は仕事をがんばるのは、より女性らしさから離れていくことであると。

言ってみればその恋愛市場において、私はどんどんモテなくなっていくんですよね。それで片や、同僚の男子たちは会社の名前が有名であるとか、仕事でとてもがんばっていることがわかればわかるほどモテるんですよ。この差は何なのかなと葛藤した覚えも正直あります。