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ベンチャーキャピタリスト中垣徹二郎さんに聞く!大企業でイノベーションを実現する人材の要件や行動特性(全4記事)

米国の成長企業の共通点は「オープンイノベーション」のうまさ 日本でも始まっている、伝統企業をしのぐ新興企業の台頭

昨今では、新規事業に加えて既存事業における事業変革、DXによる組織改革など、企業のさまざまな領域でイノベーション人材の必要性が高まっています。本イベントでは、人事担当者や新規事業担当者に向けて、イノベーション人材の育成のヒントをお伝えします。本記事では、ベンチャーキャピタリストの中垣徹二郎氏と株式会社ローンディールの原田未来 氏が、伝統的企業がスタートアップと向き合うべき理由について語りました。

ベンチャーキャピタリストの中垣氏が登壇

司会者:では、中垣さん、そして、ローンディール原田さん、ご登壇お願いいたします。

中垣徹二郎氏(以下、中垣):おはようございます。

原田未来氏(以下、原田):お願いします。

司会者:さっそくですけれども、中垣さんのほうでご講演をお願いできればと思います。

中垣:はい。じゃあ、まず20分ほどお話にお付き合いください。時間もあまりありませんので、さっそく。みなさん、朝からありがとうございます。中垣と申します。よろしくお願いいたします。

今日は、「大企業の中でイノベーションを実現する人材」について、少しお話をさせていただければと思っています。

(スライドに表示されたアジェンダの通り)先ほどもローンディールのサービスの話で、スタートアップとの交流を通じてイノベーションを実現する人材を育てようみたいな話があったと思います。なぜスタートアップがこんなに注目されているのかとか、それを実現していくには何をしたらいいのかみたいな話をしていこうと思っております。

私は、大学を卒業してからずっとベンチャーキャピタルの仕事をやらせていただいていました。気がつけば27年も経っています。直近では、DNX Venturesというベンチャーキャピタルを立ち上げて、私がGeneral Partnerを務めていた間に600億円ほどの運用総額になるまでのファンド規模となりました。

特徴として、かなり多くの事業会社さんからもお金をお預かりしています。事業会社さんは、当然運用の観点でリターンを出してほしいという意向がなくはないんですけれども。

どちらかというと、ベンチャーキャピタルを通じていろんなスタートアップやイノベーションに触れて、新しい事業の種を見つけていきたい。もしくはそれを作っていけるような人材を育てたいという意向の中でご出資をいただくわけです。しっかりとそういった意図に即したかたちでスタートアップと付き合っていただけるように伴走してきました。

今は過去の自分の投資先も含めて社外役員等をやらせていただいたり、事業会社さんに対していろんなアドバイスをさせていただきながら活動しているところでございます。

伝統的企業とスタートアップの歯車役となる「ポリネーター」

中垣:『両利きの経営』という本を聞いたことがある方は多いかと思います。その(著者である)オライリー教授の共同研究者である加藤(雅則)さんと、早稲田大学の根来(龍之)名誉教授と、3人でこの『企業進化を加速する「ポリネーター」の行動原則 スタートアップ×伝統企業』という本を書かせていただきました。

私はいろんなスタートアップともお付き合いしてきたんですけれども、この本の内容としては事業会社さんとのお付き合いを通じていろいろ感じてきたこと等々書かせていただいてます。まさにここで書かれているポリネーターが、一つのイノベーションを加速させていく人材の代名詞となればと思っています。

今日も、話の中でも少し触れるんですけど、ポリネーターについて少しだけ話をすると、伝統的企業に属しながらスタートアップと接点を持ち、新規事業につなげていく方のことです。元々の意味は受粉媒介者ということで、花と花の間を行ったり来たりしながら、結果的に花粉を運んで受粉をさせていくミツバチとかチョウチョウを意識していただければいいと思います。

それを、スタートアップと伝統企業の間を行ったり来たりしながら新しい種を生んでいく人たちになぞらえて、使ってみた言葉です。

ローンディール原田氏とのつながり

中垣:今日、こういった機会になんで中垣が呼ばれたのか。私のバックグラウンドで呼ばれたところもあるんですけど、実はローンディールの代表の原田さんとは、本当に長いお付き合いをさせていただいています。

2000年に僕がまさにネットバブル、華やかなりし頃に投資をした、本当にマンションの一室で始まったスタートアップがあったんです。

それまでアルバイトしかいなかった会社に僕が投資をして、やっと社員さんがどんどん集まってくるタイミングで原田さんもやってこられてですね。僕の記憶では、大学を出て半分フラフラしていたのではないかなという雰囲気があるんですけれども(笑)。

スタートアップに入ってきて、その後もうめきめきと、最終的に営業のトップをされていました。その後、さらにちょっと違う経験をしたいと、上場企業に移られたりとか、その後起業したいという相談を受けたり、節目節目で本当に縁があったんです。

ローンディールを作る時にも、私自身も大企業とスタートアップの間で活動している立場にあったので、僕の思うままのことを勝手にいろいろ言わせてもらいました。彼も違う切り口でそういうサービスを作っていきたいと(考えていました)。

後で触れようと思うんですけど、今思えば、本当にこのローンディールのサービスは、僕がこの本で書いてるような人材を育てられる、非常にいいサービスだなと思っています。そんな会話をずっとしてきた、本当に同志のような方です。今回初めてみなさんの前でお話しできるということで、非常に楽しみにしているところです。

評価額10億ドルのユニコーン企業が毎週生まれている

中垣:どんどんいきます。なぜスタートアップかという話です。本当にスタートアップがどんどん伸びてきています。これはちょっと古い資料ですけど、1Billionを1,000億円と書いてる時点でかなり古いことがバレてしまう。今1Billionというと1,500億円ですね。

未上場の会社が1,500億円(1Billion)の価値をつけることを、ユニコーンと言います。それは日本でも聞いたことがあると思います。(そういう会社が)どんどんできている。もう変な話、毎週生まれていると言われています。

もともとは、アメリカでも伝統的な大企業で、Fortune 500カンパニーといって、20年かかって時価総額が1,000億円まで上がっていた。それを、Googleが8年で成し遂げて、Facebookは5年で成し遂げて、SnapchatやOculusは2年もいかなかった。

この後、もう本当に数ヶ月でそこ(時価総額1,500億円)にいった会社がどんどん出てくるんです。本当に増殖しているんですね。スタートアップなのに、ものすごく大きな価値を持っている会社がどんどん生まれてきている。

気がついたら、時価総額の観点では、もう何十年も上場している会社をとっくに抜かしている。日本の会社にとってみると非常に衝撃的だったと思うんですけど、Teslaがトヨタの時価総額をはるかにしのいでしまった。そういうことが起こってきている。

もちろん企業の価値は株価だけで測るべきではないんですけれども、非常に大きな一つのインパクトを出してきている。気がつくと、まさに凌駕されるような関係になってしまうので、その動きにちゃんと注目しないといけないよね、という話があります。

ベンチャーを買いながら拡大し続けたGAFA

中垣:実際にもともとスタートアップで今世界を牽引しているとも言える、世界経済の中でも時価総額トップクラスにあたるGAFAみたいな会社。それらの会社は新規事業に取り組み続けたりスタートアップと協業し続けて成長を遂げている。まさにオープンイノベーションを一番上手にできている会社とも言えるのではないかと思うんです。

同じようなIT(の会社)を買っているからやりやすいのではないかと思う方もいらっしゃるかもしれません。実は非常におもしろいのが、GAFAは自分たちが新しいことをやる時に、自社でもいろいろやるんですけど、足りない部分を買収して強化するんですね。

今ではGAFAはAIに強い会社だという印象が、みなさん強いと思うんですけど。例えばAmazonであればeコマース(電子商取引)の会社。ITの会社ではありますけど、初めは別にAIの会社でもなんでもないんですね。

そういう意味ではコアとなる人材やチームだったりプロダクトを買収して、結果的にそれを取り込んでAmazonはAIの大手になっていく。まさにベンチャーを買いながら大きくなり続けていった。彼らもそれをやらなければ逆に凌駕される存在になっててもおかしくなかった。アメリカの急成長企業は、ここを非常に上手にやられている。

「ITのスタートアップだからできる」というわけではない

中垣:ただ、やはりこれはもともとITのスタートアップだからできるんじゃないの、とみなさん思うんですね。でも実はそうではなくて、同じようなことを伝統的企業もかなり積極的にやられています。例えばウォルマート(Walmart)だったり。ウォルマートは、実は今eコマースの分野ではAmazonの次で、シェアを徐々に増やしているんです。

ウォルマートは、いくら流通業で世界最大手と言っても、eコマースとしてはぜんぜん強くはなかったんですね。そこでJet.comを買収した。これも(創業者が)非常に有名なインターネットのシリアルアントレプレナー(連続起業家)の方です。その会社を買収して、そのままウォルマートのデジタル部門トップに据え置いたんですね。

元ベンチャーの社長だったこのJet.comのCEOが、さらにどんどんスタートアップやベンチャーで足りないところを買っていって、実はアメリカでも2番目に大きいeコマースの会社にもなってきています。

同じように、ある意味で日本の会社で考えると、メーカーさんではP&Gとか、ユニリーバみたいな会社が、非常にイメージがつきやすいかと。日本で言うと花王さんとかが非常に近いタイプの会社かもしれません。

同じように、例えばDirect to Consumer(D2C:メーカーが中間流通を介さず自社のECサイトなどを通じ、商品を直接消費者に販売するビジネス)は、スタートアップを取り込みながら強化されているんですね。

なので、実は先ほどのGAFAのような、もともとITのスタートアップの会社ではないところも積極的にやられていて、こういう部分を意識して動いていきましょうとよく言わせていただいています。

伝統的企業がスタートアップに凌駕される時代

中垣:次に、「そうは言ってもこれってアメリカのことじゃないの」とみなさんおっしゃるんですけど、そうじゃないよと。日本でも同じようなことが起こるんですよ。

これは、僕がかなり昔に使っていたスライドです。まさにここに「As of 2018」と書いていますけど、2018年頃、コロナ前によく使っていたデータです。

金融危機の後に何が起こったかみたいな話の中で、まさにスタートアップの時代が来ましたと。しかも下手をすると、伝統的産業がスタートアップに凌駕される時代が来ていますよという話でよく使っていたスライドです。

Airbnbが、世界最大手のホテルチェーンのHiltonの時価総額を超えたとか、UberがHondaさんを超えたとか。こういう話をしていても、まさにみなさんは「アメリカだから」と言うんですけど、そうではない。

これもちょっと前のスライドで、今は証券市場がいろいろ動きましたが、あえて2020年の時にやっていた一つの象徴的な話をします。まさにこの2020年頃に日本でも、各業界のリーダーたちを、もともとスタートアップだった会社が時価総額という観点において同等、もしくは超えてくるみたいな話が出始めたんですね。

アステラス製薬さんとエムスリーさんが同じかどうか、業界としては製薬ですよね。ただエムスリーさんは初めはメディアの会社でしたけど、今、実は治験の分野だったり、製薬業界のサプライチェーンの中のいろんなところを始めています。

薬そのものを作っていないだけで、そのマーケットでは影響力がどんどん増えてきたりするんですね。そういう会社が、気がついたらアステラスさん、この年は確か武田薬品工業さんとか第一三共さんよりも、一時(時価総額を)超えていたんですね。当時、上には中外製薬さんしかいなかったんです。それくらいの時価総額までいくとか。

マーケットプレイスをやっているモノタロウさんが、丸紅だったり住友商事さんも越えた時期だったりとか。今サイバーエージェントさんは下がってしまいましたけど、この時は電通さんとサイバーエージェントさんが1兆円ぐらいで並んでいた。

今こそスタートアップと向き合うべき理由

中垣:決済ではJCBさんのほうが規模は大きいかもしれませんけど、クレディセゾンさんが上場している中では(時価総額は)ナンバーワンです。決済という分野においては、セゾンさんの時価総額をGMOペイメントゲートウェイ社がはるかに上回るとか。

オービックさんよりもfreeeさんとかマネーフォワードさんのほうが時価総額が高くなるみたいなことがあったんですね。やはり日本で同じことが起こり始めています。

もちろん未上場かどうかとかはあるんですけれども、同じ大企業と思ってこの(伝統的産業とスタートアップの)両方を見ていた人たちは少ないと思うんですよね。(スライドの)右側の会社を、どちらかというとまだ若い会社だと見ていた人は多いと思うんです。こういう時代が日本にも来ている。

当然意識しないと、アメリカと同じようなことが起こってしまいますよという話をしています。「いや、でも本当にそんなのがどんどん出てくるの」みたいな話ですが、でも、やっぱり本当に急成長する会社があります。

これは僕がアーリーステージの時に投資をして上場していて、今も社外役員をやらせてもらっているSHIFTという会社です。

システムインテグレーターの会社がある意味で競合になってきますが、まだ日本だけでビジネスをやっていても、僕が投資した時に2億円の売上だったのが、現在880億円。今期は1,000億円を越えそうな勢いです。

時価総額も私が初めて投資した時と比較すると300倍になる。従業員数も70人だったのがもう1万人を超えて、今期は2,000人から3,000人を採用するくらいで、日本でもこういった急成長企業は生まれてくるのです。

こんな時代が来ているので、やはり同じようなことはどんどん起きてきます。スタートアップを見ておかないと、気がついたら、業者的に使っていた会社が自分たちよりすごい会社になることが起こりうる時代がきてしまった。

なので、ちゃんとスタートアップと向き合って付き合っていこうという話を伝統的企業には言い続けてきました。ただ見るだけだとなかなかうまくできないので、スタートアップとの付き合い方の話に入っていきます。

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