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『職場にやる気が湧いてくる対話の技法:令和の管理職の必須スキル』出版記念セミナー(全2記事)

管理職の「良かれと思って」は、かえって部下が離れていく やる気を削ぐ“負のループ”から抜け出せない職場に足りないもの

人が辞めないためにはどうしたらいいか、人を育てるためにはどうすればいいのか。本イベントでは、こうした悩みを抱えるリーダー・マネジメント層に向けて、これまでの価値観を変え、組織活性化につながる方法が語られました。本記事では、スコラ・コンサルトのプロセスデザイナーである髙木穣氏が、これからの時代に必要な組織運営について解説します。

組織開発コンサルタントの高木氏が登壇

髙木穣氏:よろしくお願いします。今日はおいでいただきましてありがとうございました。9月28日に『職場にやる気が湧いてくる対話の技法』を出版しました。出版したら出版記念セミナーだろうということで、今回企画させていただきました。

勢いで企画したんですけど、これはいったい誰に向けて何をしゃべったらいいかとちょっと考えあぐねていました。参加者を見たらけっこうセミナーにいらして、知っている顔もいらっしゃるし。誰の記念だって言ったら、あえて言うと僕の出版記念だから、今日は僕がしゃべりたいことをしゃべる体が若干入っていると思いますのでよろしくお願いいたします。

(書籍は)当然読んでいない方もいらっしゃると思います。中身に関してもちゃんと後半に触れますので聞いていただければなと思います。よろしくお願いします。

髙木穣と申します。スコラ・コンサルトのプロセスデザイナーをしております。20年前ぐらいからスコラ・コンサルトに入っております。転職がけっこう多くて、いろんな会社が合わなかったんです。けっこう純粋なので、いろんな会社のしがらみに合わなかったり、上司が社長の時があってうまくいかなかったりして、コンサルタント業界に入りました。

組織開発系のコンサル会社はスコラで3社目になりますね。本は「出せ出せ」と言われていたんですけど、やっと出すことになりました。私はコンサルとか研修、公開セミナーもいろいろやっているのですが、今回書かせていただいた本は、その中で比較的受けの良いコンテンツをもうバーッと入れられるだけ入れて、あまり分厚くせずにコンパクトに読めるようにしました。

ただ、すぐ使えるノウハウというよりは、ちょっと管理職向けに書いていますけど、場作りとか、チーム作りみたいな観点で書いていることが多いので、すぐにやるにはハードルが高いと思われるかもしれません。ですがやはりそっち側のチャレンジをみんなでやっていきたいなと思って、そういうコンテンツをまとめた本になっております。

管理職の「良かれと思って」は、かえって部下が離れていく

まずこの本をどういう思いで出したかを少し話します。僕の考え方にけっこう影響を与えているのは、この『学習する組織』というコンセプトです。25年前、スコラに入る前に出会いました。人が学んでいく、よりお互いを高め合っていく組織をどう作るかが書かれている本です。

たまたま縁があってスコラ・コンサルトに入って、2003年にこの『フィールドブック 学習する組織』の監訳チームにも参加させていただきました。今は絶版になっているんですけど、『学習する組織』の基本的な考え方と、スコラでの現場経験をもとにして今回の本の中身をまとめています。

学習する組織の中でもシステム思考というのがあるんですね。この本を書いたきっかけにもなっているんですけど、やはり今は、人が辞める問題、人の辞めるのを止められない問題がけっこうありますよね。なんとかしようということで心理的安全性とかウェルビーイングとかキーワードがいろいろあって、結局現場の管理職にけっこう重圧がかかってきたりする。

そしてがんばっているけど結局辞めてしまって、傷ついてしまうみたいなことも頻繁に起こっている気がします。『学習する組織』で学んでいることもあって、これだけ多くの会社で起きていて、多くの人が苦しんでいるということは、基本的な今までの考え方を変えなきゃいけないだろうというのが、根本にはありました。

管理職が良かれと思って一生懸命やっても、このスライドの図のドミノ倒しのように、今やっていることが回り回って自分をまた苦しめることになる。これが『学習する組織』の中で言うシステム思考なんですね。

人間が利便性をどんどん追求したことによって地球が滅びかけているとか、自分が情熱的に仕事をするにしたがって、部下たちは冷めて離れていくとか。良かれと思ってやっているのに、それが回り回って問題を深くしている現象が多いように感じました。

やはり辞める人を抑えようとすると、どう説得するかとか、管理職がいかに話をして部下を納得させるかというかたちでやられている方が多いですが。それだけではうまくいかないだろう、根本的な発想を変えていくべきだろうという問題意識がまずありました。

典型的なPDCAでは解決できない問題

『学習する組織』的に言うと、西洋医学は対症療法なんですよね。症状があってそれに薬を当てると治るんじゃないかと。その症状を起こした根本原因には触れない。東洋医学はその症状が出てくる気の巡りとか、生活習慣を根本的に治そうとします。

やはりこれだけ問題が蔓延していてなかなか解決できないということは、根本的に考え方をあらためなきゃいけないと思ったのが、この本を書くきっかけというか、この本に込めた思いですね。

1つそのモデルにしたのが、この本の中に入れているシングルループ学習とダブルループ学習です。シングルループ学習というのはPlan、Do、Check、Action、PDCAを回していきます。

ダブルループ学習は、ちょっと発想を変えていこうというものですね。本にも書いていますけど、シングルループ学習の典型的な例が、奥さんの機嫌が悪いという例。すみませんね、家庭の話をしたほうが話が入りやすいので、よくそういうのを使うんですけど。

奥さんが機嫌が悪いから、会社の帰りにケーキを買って帰った。一瞬喜ぶんだけども、基本的な機嫌は直らない。

次の日に、女性は花が好きだろうということで花を買って帰った。一瞬喜ぶんですけど、根本的に変わった感じはしない。じゃあ今度は奮発してアクセサリーを買って帰りました。けれども今度は喜びもしないみたいなのがPDCAの典型的なものですね。どんどん手段を変えるという。

企業を見ていてもよくあります。「これが流行っているからこの手法を入れよう」「これは駄目だからこれを入れよう」と言ってどんどんDoを投入するのはシングルループ学習ですね。一発ソリューション型と呼んでいたりもします。

若手や自分と価値観の異なる人には「ダブルループ学習」が効く

今の例だとおかしいところはわかりますよね。そのPDCAを回している根本に、物を与えれば機嫌が良くなるというメンタルモデルがあるわけですね。そこを変えない限り事態は深刻化していくわけです。

お金はたくさん使っているのに、奥さんの機嫌はだんだん悪くなって深刻化していくわけですね。その時にダブルループ学習を回しましょうという話です。まず事実実態を押さえましょう。「SEE」ですね。本当の事実は何か。なんで奥さんは機嫌が悪くなっているのかを見に、確かめに行くわけですね。

話を聞いて「私は相談事があるのに、あなたは忙しくてぜんぜん聞こうとしないじゃない」みたいなことだったとすると、話を聞くことが新しいサイクルとして生まれてくるわけですね。事実実態をおさえましょうということです。それをダブルループ学習と言います。シングルループ学習はけっこうみんな慣れているんですよね。

仕事の処理が早い人ほど、これはいろんなパターンを持っているのでカンカン回すんですけども。事態が変わっている、あるいは若い人は自分たちと同じ発想ではうまくいかないという時に、自分の価値観を置いてまず「SEE」することが大事になってくるのがダブルループ学習です。そういう発想に変えていきましょうと全体的に言っている本です。

<h2「自然とやる気が湧いてくるような組織運営」の必要性

以前同僚の刀祢館ひろみが『オフサイトミーティング』という本を同文舘出版で出してもらったので、彼女を通してその出版社の人に僕の本の企画書をお渡ししたんです。それで会うことになったんですけど、前の企画書はぜんぜん取り扱ってくれなくて、「やる気に関する本を出してください」と言われたのが最初なんですね。

僕のことをよく知っている人はわかると思うんですけど、僕はあまりやる気を出すタイプじゃないんですよね。

「やる気を出していこう」みたいな感じじゃなくて、どっちかと言うとやる気のない雰囲気なんですよ。だからそういう中でどうやって僕が思っていることを伝えようかなと。書き出したら早いんですけど、構想でかなり蛇行しました。

やる気を出す本を書こうかなと思ったんだけど、やはり性に合わないので、やる気を出すというのはやめて、今タイトルになっている「やる気が湧いてくる」「自然と出てくる」みたいなものだったら書けるなと思いました。このやる気が湧いてくるという本のタイトルは編集者が作ったんですけど、そういうテイストで書いています。

これからの社会は、やはりできるだけ自然とやる気が湧いてくるような組織運営をするのが大事になってくる。今までは、やるべきことをやらないと飯が食えないみたいなのを基本にしてがんばってきたんですけど。

今度は仕事が楽しいとか、自分に合っているとか、やりがいを感じるとか。そういうテイストの組織運営に切り替えていかないといけないだろうという問題意識もあって、やる気が湧いてくるという筋で本を展開しようと思いました。

昭和的な企業の価値観がブレーキになっている

僕がやる気を表現する時にどういうことを気にしているかは、太極図で示しています。自然とやる気になる、その人のありのままでやる気になるところは「個人の本質」と難しく書いていますけど、個性ですね。

「こういうのが好きだ」「ああいうのがやりたい」と自発的に持っている個性をいかに活かすかがまず1個、大事だろうと思っています。僕らは組織改革を進めていくんですけども、その時にも組織のアクセルとブレーキを見るんですね。

「ここを中心にやるとみんなエネルギーが集まっていけるな」というところがアクセルです。けれども動きを止めるものもあって、それがブレーキだったりするわけです。アクセルをいかに踏んで、ブレーキをいかに緩めるかが変革の動きにおいて大事なんですね。

その時にやはり個人のやりたいこととか特性、個性をいかに引き出していくかがアクセル側で、時代の流れもうまく乗ればそれはアクセルになるんです。だけど、どうも企業では前の時代の流れを引きずっているので、ブレーキになっているなと思いました。

特に昭和の流れを引きずっているので、それはブレーキになる。だからモチベーションを自然と上げていくためには個人の本質にフォーカスし、過去の呪縛をいかに取り除いていくかが大事だなと考えました。

昭和と平成、仮面ライダーにもある違いが

ここから時代の流れに関して、どういうものが僕の頭の中にあったか、ちょっとしゃべりたいことをしゃべります。1つ僕の中でインパクトが強い日本の社会の流れを表しているものに、古い本なんですけど、宇野常寛さんの『リトル・ピープルの時代』があります。これは(表紙に)仮面ライダーを描いていますけど知っていますかね?

昭和の仮面ライダーと平成の仮面ライダーは特徴が違うらしいんですよ。昭和の仮面ライダーは強くて、変身してショッカーを倒す。正しいものと正しくないものがはっきりして、強いものが勝つ単純構図ですね。

平成ライダーになると、仮面ライダーのくせに悩んだりするらしいんですよ。「俺、このままでいいんだろうか」とか。挙句の果てにはライダー同士が戦うという、何が正義かがわからなくなってきたのを、宇野さんはビッグ・ブラザーの時代からリトル・ピープルの時代と言っていたんですね。

僕は1993年ぐらいからコンサルをやっているのでこのへんにちょっと敏感なんですけど、社会にもそういう転換があった。1990年代はけっこう大きなターニングポイントなんですね。特に1995年。バブルがはじけたのと、米ソ冷戦が終わったのが32年前の1991年。1995年に象徴的なのは阪神淡路大震災と地下鉄サリン事件ですね。

阪神淡路大震災は久々の大きな地震だったので、頼りにしている大地が揺らぐという象徴でした。大企業にいれば安心だったのに、そのそもそもの土台が揺らぐんだみたいな。地下鉄サリン事件は、オウム真理教みたいなカルト集団に国がちょっと危うい目に遭わされる、国として微妙な危うさを感じさせられる事件だったということです。

2000年頃に生まれた、大きいものより個人を優先する流れ

企業で言うと2年後に山一証券や北海道拓殖銀行といった大手金融会社が倒産するという、今まであるわけないだろうと思っていたことがどんどん起きて。このへんで「大きいものに安住していたら駄目かもしれない」みたいな雰囲気がなんとなく形成されていった。

米ソ冷戦も終わっているので、こっちとあっちを分けて強いものが勝つみたいなのもだんだん薄らいできた。2000年からインターネットの普及、2008年にTwitter(現X)とかが出てきて、どんどん社会的に大きい正義より小さい正義、自分の大事なことが大事だみたいな流れが来ている感じですね。

僕は2000年ぐらいにある空港の入国管理局に行ったんです。入国する時に検査を受けるところですね。2000年の前まではあまり文句言わずにみんな来ていたんですけど、2000年を過ぎたあたりから文句が増えだしたらしいんですよ。

カーディーラーさんも言っていました。お客さんの要求が前より自分勝手になってきた。それが2000年ぐらいが境で、個人がいろいろものを言いだしたみたいなのがありました。いずれにしろ、個人という流れがありますね。

ここからずっと、大きいものを優先するより、個人を優先する流れが出てきていて、その流れは今後も続いていくんだろうなと思っています。

長時間労働が、国全体の経済成長率低下につながる

もう1つ最近知ったんですけど、中田敦彦のYouTube大学って知っていますか? オリエンタルラジオという芸人をやっていた中田のあっちゃんですね。

「【日本経済再生計画】脱ブラック労働国ニッポン!」とYouTubeで言っています。これはよかったら見ていただければいいんですけど、非常にロジカルにまとめられています。要するに、経済成長率は労働人口の比率とほぼイコールだと。

15歳から64歳までの年齢が国の中でどれぐらいいるかによって、経済成長率がほぼ決まってくる。だから昭和の時代は労働人口比率が高かったわけです。この時代は男性中心社会で長時間労働でガンガンやっていけば、経済成長していく感じですね。

奥さんは家にいて、男、特に若い人がガンガン長時間(労働)する。人の量も多いですし、動けば動くほど伸びていく時代が1990年代だったんですね。1995年あたりから労働人口比率が減っていくんですって。そうすると社会をどう切り替えなきゃいけないかと言うと、労働力を確保すること。

そもそも労働人口が減るわけなので、労働力を確保することが必要になってくる。つまり女性や介護者も活躍できるように、チームワークで工夫していく必要があるという主張ですね。だから時短でも生き生き働ける。それでこの男性中心社会の長時間労働でまずいのは、子どもを産みにくいことなんですよね。

「もうこれ以上はちょっと無理だから2人でやめとこうか」と、みんな(産むのを)2人でやめると人口が伸びないんですよね。(出生率が)2.07人にならないと伸びない。未来の労働力である子どもが産み育てやすい環境もいるので。いずれにしろ企業はチームワークでうまくいろんな人たちが仕事ができる体制にしないと、国全体の経済成長率低下に加担するようになっていくんですね。

だから長時間労働をずっと強いている会社は、長い目で見ると国力をどんどん上げない方向で動いていることになりますね。これもあって、要するにチームでいろんな個性がある人が生きていく体制を作らなきゃいけないのが、一応その論の前提になります。

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