人が欲しい物を得られないイライラや不安を手放せる時

坂東孝浩氏(以下、坂東):「指示ゼロ経営をやりたい」って問い合わせとか、すごく来ていると思うんですけど、今のような話の本質的なところからやりたいと思っているとか、あるいは実際に変われる会社って、僕はすごく少ないんじゃないかなと思うんですけど、どうなんですか?

米澤晋也氏(以下、米澤):僕は指示ゼロになるのは必然だと思っていて。

坂東:必然。

米澤:直面する課題が大きければ大きいほど、「共創」「協働」をしないといけなくなると思うんですよね。1人の知恵で経営できているうちは、別に指示ゼロや自然(じねん)になる必然性がないと思うんですよ。

坂東:うんうんうんうん。

米澤:ただ限界が来た時に、社長はすごく苦しむだろうし、前科持ち(経営や起業の失敗)になるかもしれないし、1年間放浪するかもしれないし、あるいは過去の出来事とかを思い出したりして自分の人生に向き合うことになると思うんです。

またはそういう経験をした人の話を聞くとか。そういうふうにして少しずつ必然性があれば、痛みを伴いながら変わっていくと思うんですよね。

最初に予告みたいな感じで、「自分の会社にならないような気がする」と言ったんですけど、僕は今50歳ですけれども、40代後半になって思い出したんですよね。

末期癌だと告知せずに、親父が本当にぴったり半年で亡くなったんですけど、その時に親父に起きた変化をずっと見ていたんです。本人に聞いていないから、僕の勘違いかもしれないという前提でちょっと聞いていただきたいんですけれども。

僕たちはこの娑婆で、努力して何かを得るというパラダイムで生きているじゃないですか。努力して何かを得ることが「美徳」とされている。それはいいんですけど、それが強いと得られた時は幸せだけど、得られないとイライラしたり、不安になったりすると思うんですね。

さっきの図の上のほうの結果に過ぎないものを目的にして追いかけると、数字を追って数字に追われることになるじゃないですか。

坂東:そうですね。

米澤:手に入らないとイライラしたりするという。娑婆がそういうパラダイムになっているからしょうがないんですけど。

坂東:そうですね。

米澤:そのパラダイムからほぼ完璧に抜け出せる瞬間が、僕は2つあると思っていて。1つは生まれる時だと思うんです。

坂東:(笑)。

米澤:他の人がどうかはわからないけど、僕は子どもが生まれた時、努力して有名になってほしいとか、努力して金持ちになってほしいとか、何かを得て欲しいとかは一切思わず、とにかく幸せになってほしいと思ったんですよね。

坂東:はいはいはいはい。

死期の近づいた親に現れた変化

米澤:あと、僕の親父が死んだ時。本当に死ぬ3週間前まで、親父は努力して得たものがすごく多かったんです。名誉もあったし財産もあるし地域の名士と言われていたし。看護師のお姉さんとかにその自慢話をすごくしていて。

末期癌って告知はせずに「胃潰瘍だ」って言ったんだけど、たぶん親父は「胃潰瘍でこんなに悪くなり続けるのはおかしい」って思っていたと思うんですよね。その時に親父は、自分が努力して得たものが近い将来自分のものでなくなるってことにたぶん気づいたと思うんです。それって本当に生きていながら死ぬ苦しみだったと僕は思うんですけど、それをずっと見ていたんですよね。

死ぬ2〜3週間前は、努力して得たものの話をまったくしなくなりました。そんな話をする元気もなかったんでしょうけど。ものすごく残酷な現実じゃないですか。得たものが数週間後には自分のものではなくなるわけですよ。

もうこれは手放すしかないんじゃないですかね。それが僕の原体験だなって、40代後半で思ったんです。

僕の体験で、何か感じてもらえるところがあればいろんな人に伝えたいなと思っていますし、人間は何かが変わる可能性を秘めているので、そうなっていけばいいかなって思ったんです。

武井浩三氏(以下、武井):もう100パーセント共感しますね(笑)。共感し合っちゃってますけど。

坂東:共感し合っちゃっているよ(笑)。本当に。

武井:ダイヤモンドメディアを辞めるか辞めないか、すごく迷って悩んでいた時に、ちょうど母親が末期癌だったんですよね。余命1年って言われて、ぴったり1年後に亡くなったんですけど、その1年間が家族みんな、めちゃくちゃ辛かったんですよね。

うちの母親は旅行がすごい好きだったし、散財する人ではなく、ブランド品とかをすごく大事に使っていたんですけど、余命宣告されてから自分の持ち物を親しい友人とかにどんどんあげ始めたんですよ。

「欲しいもの何にもなくなっちゃった」と言って。ただただ毎日、「いつものように買い物に行って、ご飯を作って、みんなとそれを食べたい」と言っていて。母親は食道癌だったので、最後の半年は点滴だけで、まったく固形物が摂れなくなっちゃったんですよね。

「食事に行こうよ。みんなでおいしいもん食べようよ」とか、「じゃあ、みんなの分出すから食べに行こうよ」と言うと、みんな「わーい」とか言って、予定を調整して集まったりするけど、それがなくなったんですよね。食事ができなくなると、家族で集まる機会がなかなか作れなくなるんですね。

身近な人の最期の日々を見て気づいたこと

武井:身近な人の死っていろんなことを考えるんで、それもあって、俺は自分が行きたい世界や大切にしたいものを大切にするために、もう次に進むタイミングだなってけっこう踏ん切りもついたんですよね。「手に入れることに意味がない」ってことを目の当たりにしましたね。

米澤:その現実って、周りの人から見てもけっこうショックですよね。トラウマになっちゃうぐらい。最後に息を吸って旅立った時に、人ってこうやって死ぬんだって怖くなったんだけど。それを48~9歳の時に思い出して、その時に僕は新聞店の社長を引退したんで、なんとなく武井さんと同じタイミングで、同じような選択しているんだなと。

武井:うん。

坂東:今は手放してどういうことをされているんですか?

米澤:僕は今、公立高校とかに行って、子どもたちに自分たちで考えて、PDSを回すというキャリア教育の授業を2コマやったり、あとは企業研修。学校はほとんどお金にならないんで、企業研修をやらせていただいたりとか、そういうふうにして生計を立てています。

坂東:なるほど。学校教育の中でそういうのができるの、めちゃくちゃいいです。

米澤:1人では解決できない、みんなで力を合わせないと解決できないような課題だけを与えて、こっちは何を聞かれても答えないよっていう。担任の先生にも「お願い、答えないで」と。それでも子どもたちは聞いてくるんですよね。何度聞かれても「それ、自分たちで考えてみて」と返す。それを5回ぐらいやると、「このおっさん、本当に何も教える気ないんだな」って初めて気づいて。

坂東:なるほどなるほど(笑)。

米澤:仲間に聞き始める。

坂東:諦めるわけですね。

米澤:そう。そうすると仲間に聞くしかないから、自分たちの力で自律的に動くっていう体験をして、その体験から気づいたことを、子どもたちに持ち帰ってもらうっていうような。楽しいですよ。いかに大人が斜めの線を引いて、お膳立てをずっとしていたかっていうこともよく見えます。

対照的な理論をぶつけあうことによる学びや気づき

坂東:あっという間に時間が迫ってきているんですけど、ちょっと僕のほうから案内をして、クロージングしたいと思います。

次回12月のトークライブは、米澤さん、識学ってご存知です?

米澤:はい、聞いたことあります。

坂東:今日の話といわゆる対極にあるような、管理をきちっとするマネジメントの会社ですね。その会社の社長と我らが武井浩三が、激しいバトルを繰り広げるという、おもしろい内容になっています。これだけ豊かな話をしておいて年末にバトルする。

米澤:(笑)。

坂東:格闘家の祭典みたいな感じですね(笑)。

武井:たまにはエンタメ的にね。

坂東:そうですね。対照的な理論をぶつけあうところに、いろんな学びや気づきがあるんじゃないかなって。今日はシンクロ度がほぼ100パーセントだったんで、スムーズに済んだんですけど、そうじゃないのもいいんじゃないかなっていう感じですね。

武井:坂東さん、レフェリーになって。

坂東:ストップストップ(笑)。

武井:(笑)。

坂東:これは12月11日に行うんですけども、ライブ配信は無料ですけど、のちに公開するアーカイブは有料になるんで、ライブ配信で見てもらったほうが楽しめますしお得です。

それから寄付もありがたく受けつけております。先ほどたけちゃんが言ったeumoやPayPalとかでも受け付けております。

あとイベント系もけっこうやっていまして、先ほどの識学の安藤社長とのトークライブはオンラインですけど、リアルでもイベントをやっていまして、栃木の中條裕介さんが経営する会社で「経営をアップデートする勉強会」っていうのを、今月の24日にやります。

自律型の経営を実践している中條裕介さんの会社の取り組みをお聞きしながら、福岡で同じく自律型の組織を実践している経営者の川添克子さんという方にも栃木まで来てもらって、そこでお互いの事例を話してもらうというイベントです。これは栃木に行かないと見れないんで、ぜひ来ていただきたいと思います。

会社のあり方が変わる時

坂東:こういった「経営をアップデートする勉強会」は、全国でリアル開催をしています。あと10月27日は武井さんが青森に行って、ドラゴンキューブさんっていう会社でトークイベントをやります。

平井博子さんっていう方が、ドラゴンキューブの創業者で、夫婦で創業したんですけど、今年の9月末に退任して、株を一切手放したんですよ。パタゴニアみたいに。基本的に無償で手放しているんですよ。なかなかすごいなと思って。

武井:ドラゴンキューブ、すごいっすよ。めちゃくちゃすごい。

坂東:この手放し方がすごい。「なんでそういうことしたんですか?」って聞いたら、「持ち物が増えると不自由になるじゃない」って言い方をするんですよ。「収入もなくなるから、また仕事しないといけないのよ」とか言って。

米澤:すごい。

坂東:いや、すごすぎるなと思って。二部制になっているので、そういう話も聞きたいなと思っています。

ということで、今日は多岐にわたって話が展開されました。最後はお二人のご家族の話も出てきて、僕は非常に豊かな時間だったなと思うんですけども、あらためて最後に、米澤さんから、指示ゼロ経営とは何なのかを、クロージングの言葉としていただいてもいいですか?

米澤:指示ゼロ経営とは何なのか。「何でもない」って感じでしょうかね。

坂東:(笑)。

米澤:必然なのかもしれないですし、それが起こらない時は起こらないでしょうし。

坂東:なるほど。僕自身の感想ですけども、いい会社とは何かっていうことを考え続けて、それを実践し続けた結果として、こういうかたちになった。結果として起こるかたちの1つの例ってことかなと思いました。

米澤:そう。うまいまとめをしていただいて。

坂東:(笑)。さっきそういうふうに言っていただいたんですけども、僕らが今まで一般的に教わったような「経営とは何か」とか、「いい会社とは何か」とは違うものを大切にし、それを目的にする時に、結果的に会社のあり方が変わってくるんだなと思いましたので。

僕自身も武井さんと一緒に、手放す経営ラボラトリーをやっているんですけど、何を大切にするのか。いい会社って何かというのは、あらためてちゃんと考えたり、対話していきたいなと思いました。

僕はまだ「こうしたい」とか「こんなふうにしたい」みたいなのが言えているわけじゃなく、残り香もあったりするもんですから。

ということで、貴重な時間を、そして楽しい時間をありがとうございました。これでトークライブを終わりたいと思います。

米澤:どうもありがとうございました。

坂東、武井:ありがとうございました。