みんなで「ワーっ」となった写真を求人で使わないほうがいい理由

坂東孝浩氏(以下、坂東):お客さんとの関係性づくりを大切にするようになったわけですが、米澤さんがいなくなっても会社のアイデンティティをちゃんと残したまま、事業も伸びている感じですかね。

米澤晋也氏(以下、米澤):そうですね。アイデンティティはちゃんと残っていますね。

坂東:そのために気をつけたことはありますか?

米澤:やはり採用と対話だと思います。

坂東:なるほどね。一人ひとりに文化が根づいていくってことなんですよね。

米澤:そうですね。対話はものすごく重ねてきました。その人に役割があるとはどういうことかを話したりして。

坂東:なるほど。

米澤:ちなみに、僕が継いだ頃の求人広告ってこんな感じなんですよ。

坂東:うんうんうん。

米澤:午前1時から午前6時まで働いて、一度家に帰ってひと休みして、午後3時間フレックスで出れるっていう。ただ給料はいいですよね。

坂東:うん。いいですね。

米澤:そうすると、待遇に動機が偏った人がすごく来ちゃうという。

坂東:待遇で出していますもんね。

米澤:それを、恥ずかしいですけど、「あなたの個性が発揮され『私っていいじゃん』と思える瞬間を」って求人に変えて。

坂東:だいぶズバっと本質いっていますね(笑)。

米澤:ちょっとウザいですけどね(笑)。でも、求人広告って本当に書いた通りの人が来るんだなと思ったんです。

坂東:へえ!

米澤:みんなでワーっとやっている写真とかをよく使うじゃないですか。僕はあまりお勧めしないんですよ

坂東:はいはいはい。

米澤:そうすると「ワー」がやりたい人が来るんですけど、(実際には)なかなかやんないでしょ。忘年会とかぐらいしか。

坂東:そういうプロセスもあったんですね(笑)。

メンバーとの対話で重視すること

坂東:先ほど、対話をすごく重視したと言われたんですけど、チャットに「対話の時にかけた言葉は何ですか?」っていう質問が来ていて。どんなことを重視したとか、どういう対応をしていたかについて良かったら。

米澤:僕は対話力はあまりないと思うんですけど、僕が思いを伝えたあと、それに対してどう思うかというので、聞くことに徹することは心がけました。

坂東:まず思いを伝えるんですね。そのあとは聞くと。

米澤:うん。

坂東:やはり実務的な話ではなく、対話ですね。

米澤:ただ、そんなにテクニックはないと思います。

坂東:そもそも対話って、米澤さんも言われたように、「お互いが向き合うこと、以上」みたいな感じですよね。社長とか上司の側がそういう姿勢だったら、自然といい対話になるってことなんでしょうね。

米澤:うん。そうですね。僕は「銀だら事件」という前科持ちなので、自分の意見に対して自信がないっていうのがあるから。

坂東:その前科は、いつぐらいに自分の中で昇華できたんです?

米澤:1年近くの放浪で、だいぶできたんじゃないかなと思うんですけどね。

坂東:でもそのあとも自分の意見に自信がないってことが、けっこうベースになっていたように聞こえますけど。

米澤:うん。ないですね。具体的なビジネスアイデアとか、例えばキャッチコピーとかも自信ないですね。

坂東:なるほどね。たけちゃんも起業の失敗という前科持ちだと言ってて、そこらへんも共通点があるんですかね。原体験というか、何なんだろう。

武井浩三氏(以下、武井):失敗したからこそこういう系にたどり着いているので、うまくいってたらそのやり方を続けますよね。

坂東:そりゃそうだわ。

武井:そりゃそうだよって話で。やはり僕も米澤さんも、そういうタイプではなかったっていう、何の運命のいたずらかわかんないですけど、こういう領域を開拓する役割があるんでしょうね。

坂東:確かにね。本当に開拓者、イノベーターって感じですよね。

ホワイト企業大賞に応募する会社の特徴

武井:今、Facebookにも質問が来ていて、「お二人はなぜホワイト企業大賞の委員をされているのでしょうか。またお二人が考えるいい会社、これから残っていく会社についてお考えを教えてください」。ホワイト企業の委員をなぜしていますか?

米澤:誘われたから。

(一同笑)

米澤:僕は現場に行って社員さんの話を聞くのがすごく楽しいんですよ。ホワイト企業大賞には、すごくエネルギーのある会社が多いじゃないですか。感動する。武井さん、よく泣いてますよね。

武井:(笑)。

米澤:社員さんの話は本当に泣けますよね。

武井:泣けますね。マジで。

米澤:みなさん、お金を払って感動する映画を見に行くじゃないですか。僕はお金を払ってでもそういう会社を見に行きたいですけど、ちゃんと交通費を出していただけるんだからすごくありがたい。

武井:そうですね。俺も本当に一緒です。ホワイト企業大賞の委員って、完全にボランティアで、むしろ持ち出しのほうが多いんじゃないか説がありますけど。

坂東:説がね。

武井:俺も天外(伺朗)さんから「武井、やれよ」って言われたから、「はい」って言ったという、ノリはそうなんですけど。けっこうホワイト企業大賞に応募してくる会社って、いわゆるキラキラした会社ってそんなに多くなくて。

地方の誰も名前を聞いたことがないような中小企業とか、社員30人の大手企業の下請けの会社だったり、「こんな会社があるんだ」っていう感じ。俺でさえもそういうふうに感じる。でも、たぶんそれが日本経済のけっこうなリアルだと思っていて。ホワイト企業大賞って「一隅を照らす」ってコンセプトがあって。

坂東:うんうんうんうん。

武井:メディアでどこかで見かけるようなキラキラした会社が取り上げられたり、華やかに表彰されたりしていて、ともすると「そういう会社だからそうなんでしょう」みたいに、「私たちとは違う」って思われちゃうかもしれないんだけど。

ホワイト企業大賞に集まってくる会社って、超リアリティがあるというか手触り感あるというか、親戚のおじちゃんちみたいなぐらいの距離感の会社に見える。そういう人たちのリアルな話を聞くと、めちゃくちゃ努力しているし、想像を絶する苦難を乗り越えている人たちもいるし。

その苦労話を聞くと、上場企業の社長の苦労本とかがくだらなく見えるぐらい、すごいもん背負ってみんなやってんなって。命って言うとちょっと大げさですけど、本当に人生を懸けて、地域とか、そこに関わる人たちがきちっと生活を営んでいるっていう。そういうのを世の中に知って欲しいなってすげえ思うんですよね。

米澤:うん。本当にそう。

武井:一人ひとりが本当に主役だと感じてほしいなって。

どうなるかわからない時代における対話の重要性

米澤:去年12月に武井さんと栃木のお布団製造会社さんに2人で行ったんですよね。

坂東:へえ!

米澤:自分たちの布団作りにすごく心を込めていて、社員さんに説明を受けているうちに、武井さん、その場で注文してましたもん。

坂東:早い早い早い(笑)。

米澤:でもね、話を聞いていると欲しくなっちゃうんですよ。だから「何を買うかじゃなくて、誰から買うか」ってよく言われるじゃないですか。こんなに心を込めて作っているんだって思ったら、欲しくなっちゃうよね。

武井:いや本当に。実際物がいいし。

坂東:なるほどね。

米澤:さっきの質問の1つがいい会社。

武井:「これから残っていく会社についてお考えをお聞かせください」ですね。

米澤:いろいろな考え方があると思うんですけど、僕は社員さんと対話できる会社はいい会社だと思います。

坂東:ああ! なるほど。

米澤:要するにP、D、Sの三角形の真ん中に何を置くか。お客さまから預かった車をどうやって壊そうかってことじゃなくて、「いい会社を作っていこう」をテーマに、みんなでPDSを回せるという。

武井:うん、なるほど。すばらしい。

坂東:たけちゃん、どうなんすか。

武井:いや、俺も今の回答したかったな(笑)

(一同笑)

坂東:本当にかぶっているんすね。

武井:でもそのとおりだなって思いますね。VUCAの時代とかって言いますけど、どうなるかわからないから、「どうする? どうする?」って本質を問い続けられる組織じゃないといけないわけで。その時に社長が言ったことを実践するだけの会社だと、みんな受け身になっちゃう。

それを、みんなで「今こんな時代だけど、何をするのがいいのかな」って、対話できる会社は、もちろん確率論はありますけど、いろんな変化に対応していける可能性が高まると思いますよね。忖度なくフラットに、ちゃんと社長と対話、意見交換ができる状態とか。依存しすぎていないとか。

売上拡大が目的ではない社会で経営者に必要な視点

武井:もう1つ、ちょっと外的なところから僕なりに見ると、僕は今、お金を作るeumoっていう会社をやっていて、お金、貨幣が本当にゴロッと変わる時代だと思っているんですね。

今の貨幣システムはもう絶対に長く続かない仕組みなんで、それぐらいの世界の転換が起きた時に、本当に必要とされる仕事って何なのか。みんなが必要としてないものを、無理やり売る力がある会社よりも、本当に世の中が良くなる活動をできていないと意味がないというか。

例えば、今までの日本の産業っていうと自動車産業とかが挙がりますけど、でも新車をバカスカ売り続ける会社って、環境負荷が高いに決まっているじゃないですか。そう考えた時に、新しい車をたくさん売れる会社よりも、環境負荷がなくみんなで使い回すとか、いいものを長く使うとか、そういうふうにシフトしていく。そういうふうに転換しちゃうと、売上が下がると思うんですよね。

でも、売上を伸ばすことが目的じゃない社会になった時に、本当に社会に必要な機能とか価値を提供できるかどうか。これは少し先の話かもしれないですけど、5年後10年後とかはそういう問いを持って経営していないと、本当に存在する意味がなくなっていくと僕は思ってると言うか、そういう世界になってほしいと思っている(笑)。

坂東:なるほど。

ソニーに見る「いい会社」のかたち

米澤:100パーセント共感します。「どういう会社がいい会社だと思いますか?」って社員さんと対話をすると、どんな会社でも「人間関係がいい」「自発的に考えられる」とか、「チームワークが良くて助け合える」とか、「お客さまに喜ばれる」「価値を創造し続けられる」とか、本当に普遍的な言葉が出てくるんですよね。

本当にそれをやっていくと、僕、最終的には、その関係性資本が強化されると思うんですけど。僕は昔からソニーが大好きで、天外さんがいたってこともあると思うんですけど、あの会社って1946年に井深大さんが、「設立趣意書」を書いているんですよね。

武井:うんうんうんうん。

米澤:公開されているものだから、ここで公開してもいいと思うんだけど、(スライドの)こういうものなんですよ。

ソニーは自分たちがワクワク働くことを目的にしているんですよ。

僕は本の中でこういう図を出しています。

人って、ワクワクした風土でワクワク働くとすごくクリエイティブを発揮するじゃないですか。お客さまに喜ばれる接客だとか、商品開発だとかでクリエイティブを発揮すると、お客さまに喜ばれて「ありがとう」と言われる。心のごちそうをもらえる。

4歳のまみちゃんから手紙がもらえる。そうするとまた風土が耕され、これがグルグルグルグル回り始めますよね。ある人から、「これ、1,000回転ぐらいするとお客さまとの関係性が変わるよ」って言われたんですよ。

坂東:ええ。

米澤:この矢印がずっと循環している感じ。すごく勘違いされるのがこれなんですよ。

「(スライド上部の)こっちが目的で、そのための手段として自分たちの風土とかを作るんでしょ」って言われるんですけど、ソニーってそうじゃないんですよ。(スライド下部の)こっちが「目的」って書いてあるんですよね。

現象としてこういったもの(スライド上部の結果の部分)が生まれるってことだと僕は解釈して、この本に書いたんです。時間はかかるんだけど、そういうふうにして結果的にお金が生まれるという世界を僕は作っていきたいと思うし、たぶん武井さんがおっしゃっていることに、すごく近いんじゃないかなと思っています。

社長が「いい会社」を定義するといい会社にならない

坂東:一番大切なものに何を置くかっていう話だと思ったんですけど、社員と対話できる、考え続けられるっていうのがすごく大事。僕も本当にそうだなと思ったんですけど。いい会社について、社長が定義するといい会社にならないなと思って(笑)。

社長はやはり「こういう会社にしたい」の中に、社長という性格上、どうしても結果、数字、利益とかが入ってくるなと思って。これをいかに社員に共感してもらうか。そのために対話を使うケースがけっこうあると思うんですよ。だけどそれは手段であって、対話じゃないですよね。説得ですもんね。

僕はずっとそうしてきたから自戒を込めて言うんですけど、社長が自分の意見を脇において、社員とフラットな関係性で対話ができるってことが、本当にすばらしいなと。社長のほうがいい答えを持っているとは限らないというか、そうじゃないケースが多いんだなって思いました。

なので、それをいかに取り入れて、社長が自分なりにアレンジすると言うよりかは、そういうみんなの声にある本質的なものを大事にする。それを大事にすれば売上が上がるということじゃなく、大事にすること自体を大事にするってことです。めちゃくちゃ難しいと思いますが。

米澤:めちゃくちゃ難しいですね。