2024.11.25
「能動的サイバー防御」時代の幕開け 重要インフラ企業が知るべき法的課題と脅威インテリジェンス活用戦略
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本の学びを深めるオンライン講座「flier book camp」を運営する株式会社フライヤーが主催したイベントに、『この世は贈与でできている 資本主義の「すきま」を埋める倫理学』の著者・近内悠太氏が登壇。2種類ある哲学の入門書や、哲学をやる意味などを語りました。
久保彩氏(以下、久保):自分で納得できる言葉を持つために、どう鍛錬するのかを聞きたいんですが、私も肌で感じることはあって。おっしゃるとおり、考えているつもりで考えていない。
言葉の定義を深く掘り起こすことのおもしろさを理解していても、仕事の中では忙しくてすっ飛ばしてきている。いかに共通言語化してルール化し、その上のところをやるかという世界で生きてきたので。
そういう哲学をやったことがない人が、どういうアプローチをすればいいのか。どういう鍛錬なのかをもうちょっと聞きたいです。
近内悠太氏(以下、近内):鍛錬の方法?
久保:方法(笑)。例えば今回の4回の(講座の)進め方の話にしてみます? スライドを出してみましたがちょっと話しにくかったら、これじゃなくてもいいです。
近内:自分の中にある問題意識がどこにあって、それをちゃんと言いきれたなという感覚が持てるまでは、まずしゃべってみる、考えてみることだと思うんです。
これは講座の実例です。DAY1、DAY2、DAY3は永井均や野矢茂樹の考えたものを使って、こういう問いが自分の中にあったと思い出すと思うんですよね。これは5~6分ではしゃべれないと思う(笑)。
どうやるのかが簡単に説明できるようだったら、絶対に世の中にパッケージ化されて誰でもアクセスできるかたちになっているはずだから。合気道みたいに時間をかけて練習するとか、「とりあえずやってみてください」という世界が広がっているはずです。
久保:そうか。そうか。
近内:なぜアカデミックなものや知的なものはわかりづらいかというと、例えば、超一流のテニスプレイヤーのパフォーマンスがすごいことは、テニスがわからない人でも見ていればパッとわかるじゃないですか。でも「これは数学の最先端のちょっと画期的な論文だよ。見て、ほら!」と言っても、そのすごさは絶対にわからないわけですよね。
サッカーの(リオネル・)メッシがすごい角度でドリブルで抜いてシュートを打ったら「これは超人的なプレイだ」と、サッカーを知らない人でも見てわかる。そのためには「まずはリフティングからだよ」「まずはドリブルの練習だよ」とわかるわけじゃないですか。
つまり、あそこに行くためにはこのステップを踏むというのが見てわかる。野球だったら素振りに意味を見出せるかもしれない。だけど哲学や物理学、なんでもいいんだけど、最高峰の知的なものを理解するためには、そもそも鍛錬しないとそのすごさがわからないという。
近内:「おいしい部分だけを教えてくれ」と言っても無理なんです。そこに登った人だけが見える世界がある。だから信じて進んでもらうしかない。「この先に何かがある気がする」というのを感じ取ってもらうために、まずは「一緒にこの本を読んでみましょうか」というところです。
久保:なるほど。
近内:そうすると先が見えてくると思うんですよね。
久保:そうか。
近内:「この山に登りたい」と。
久保:ああ。
近内:山の全貌は登る前には見えないんです。
久保:なるほど。今回この本をピックアップしていただいたのは、山の頂で登りやすいものになっているから。例えば『翔太と猫のインサイトの夏休み』(永井均著)や『哲学の謎』(野矢茂樹著)は物語調でちょっと問いがあって、それを一緒に考えながら思索していく流れです。
だから考えることや前提を問い直していくプロセスが再現できます。自分でも「ん?」「今のはちょっと1回戻ろう」と思いながら読むことができます。これを元に近内さんと2時間の講座で話すことで、知らず知らず自分でそれを問う、本気で自分の言葉にしていく感じですかね。
近内:たぶん世の中の哲学入門みたいな本は2種類あると思っていて。
久保:ほう!
近内:例えば富士山を外から見る。つまり「富士山はこういう山ですよね」「ほら、富士山はきれいですよね」という鑑賞の仕方が1個あるわけでしょ。もう1個は「実際に富士山からどんな景色が見えるだろう」というのがあるじゃないですか。
「あの山はきれいだね」「高いよね」と外から見るのは気が楽です。でも山の良さがわかるのは、登ってみて「この場所からはこんな風景が見えるのか」というのを感じること。それがないと、また登ってみようとは思わないわけです。
「あ、ちょっと景色が変わってくるね」「空気がひんやりとして心地いいんだね」というのは登ってみないとわからない。それを「登る前に教えてください」と言われても「これは体験型アトラクションなんでダメ」という。
久保:(笑)。でも今チャットで、楽しそうに登っている様子を近内さんが見せてくれている(笑)。
近内:「何とかついてきてくださーい」「この道は通れるので、僕が通ったんで大丈夫です。崩れないで登ってきてください」と。だから誰かが書いた「哲学をする」という本をまずは読んで、批判するのではなくて自分で問いから始めてちょっと考えてみる。そうやって実際の山を登るというね。
久保:この間Takram(タクラム)の渡邉康太郎さんの講座の最後に、主語は「ものづくりは」ではあったんですけど「旅だ」と言われていて。
例えば旅行の本やサイトを見て、「ああ、きれいだな」と思ってもそれは「旅する」にならない。インスタでもいいですけど「きれいだな」と思って「行きたい」と思って、行ってようやく、それは「旅する」になるわけで。
やはり足を踏み出して作ってみたりやってみたりしないと、その世界の良さは見えていないのと同じだよって。「作ったものを鑑賞するより、自分で作ってみようよ」という投げかけだったんですが、それと同じだなと思いました。
近内さんが「『哲学する』をしてみたら楽しさがわかるよ」「ついてきてよ。こっちは楽しいから」と言ってくれている。
近内:だから「哲学の良さを5分で語ります」なんて、語れるわけがないんだよ。そんなの絶対に偽物です。
久保:(笑)。
近内:みんなももうそれに飽き飽きしてきたわけでしょ。どうやったらファストなもので得られるかなと思ったけど、どうやら得られないことがわかってきて、やってみるしかないと。もう、どこかでやるしかないんですよ。
久保:(笑)。
近内:そんな都合のいい話はないことに、ようやく気づいてきたんじゃないですか? ファストで都合よくいい感じに摂取できて、「なりたい自分に5分でなれます」とかってない! いい加減諦めましょう。
ファストな何かが「効率よく自分を変えてくれる」「きらびやかなものがある」という幻想は諦めましょう。ないです! そんなものがあるんだったら、おそらく人類はとっくに次のステージに行っているはず。
「これを摂取すれば誰でも変化します」みたいなものはドラッグ以外はないんです。自己啓発を読んで「自分を変えてくれるかも」と思っても、そうではないです。読んだ上で自分がやってみなきゃ、いずれにせよ変わらない。
久保:この野矢さんの本の冒頭「哲学とは」で書かれていたことがすごく印象的だったんです。「言語と実践に仕掛けられた毒は、どこかで我々を痺れさせる」と書いてあって、「言語と実践とは必ず一致しない」という表現が秀逸だなと思いました。
要はファストな情報で「こうすればこうなるよ」というものがあったとしても、実際にそれを取り入れてみたら、自分の性格や体、志向性と合わずにギクシャクして「なんか違うな」になるし。仮にうまくいったと思ってそれを他人に説明しようと思うと、ぜんぜんうまく伝わらないし。言語と体験が一致しない。
でも、哲学とはまず立ち止まってどんどん謎を解明していく。伝わらないのはわかっていても、チャレンジしていくものだと書いてある。
近内:フワッとした言葉を使わないのが大事で、例えばみんなは「犬」ってもうあると思うじゃん。でも、典型的な「これが犬の見本です」という犬らしい犬はいないんですよね。1匹1匹全部違うのに、なぜか僕らは強引に「犬」という言葉でまとめちゃうわけです。
言葉にはそういう能力があるんです。本当は全部違う、バラバラなはずなのに、1個のカテゴリーとしてまとめあげちゃう。コップならコップとまとめあげられちゃうんだけど、「どこからがコップじゃなくなるの?」という境目ってよくよく考えたら曖昧で、そういう言語は僕らの思考に罠を仕掛けてくるんですよ。
つまり「犬ってかわいいよね」「わかる」と言った時に、「今、どういう犬だと思っています?」と聞くと「え? ゴールデン」「え、私、チワワだと思ったんだけど。ぜんぜん違うじゃん」ということもある。言葉はむしろ逆に伝わってしまうという問題があるんだよね。
久保:ああ。
近内:「犬ってかわいいよね」「わかる」は一見すると伝わっているんだけど、本当は伝わっていないわけです。これは別に犬に限らず、たぶんいろいろな場面であると思うんですよね。
例えばビジネス戦略の打ち合わせやミーティングでも、「あれ? 言っていることがなんか違った」とあとあと露呈することがあったりします。言葉はヘンテコなかたちで伝わってしまうんですね。
哲学をやる意図や意味とは、ちゃんとここを解きほぐして、共通の言葉、共通言語と思えるところまで降りていくところなのかなと思いますね。
久保:ありがとうございます。
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