従業員エンゲージメント向上施策の「罠」

中塚敏明氏(以下、中塚):ここまで、WILLとSKILLの2つの大きな柱のもと、6つの具体的なポイントを深掘りしてきました。この2つをあげたのは、冒頭でお話ししましたように、人が仕事を遂行しない時はやる気がないか、能力が不足しているかのどちらかの理由が隠れているからです。

そして、これら6つのポイントを実践すれば、従業員のエンゲージメントを飛躍的に向上させることができます。なぜなら従業員エンゲージメントとは、企業が示す方向性に対する従業員の理解と共感、その方針に対する自発的な貢献意欲と実行力を意味するからです。

しかし、これらのポイントを実際に導いていくのは非常に大変なんです。もちろん経営者もなんですが、それをやっていくのが人事部門や現場のマネージャーの役割になります。

ここでは、陥りがちな1つの罠について注意点をあげたいと思います。それは、マネージャーが独自の方法で、教育や一度きりの研修で従業員を育成しようとするアプローチです。

この方法は(スライド)左下のように、教育がマネージャーの個人的なスタイルに依存し効率が悪くなる、マネージャーの負担が増大する、研修や教育が一過性のものとなり、持続的な効果が期待できないということが諸々あります。

マネージャーをする世代は30代、40代の方が多いと思うんですが、我々自身はそういった教育や1on1みたいなものを受けたことはありません。だから、その方法もわからないことが多いかなと思います。

ですから独自のスタイルで行くよりは、やはりさっきの6つのポイントをしっかり押さえながら、そして組織全体として進めていく仕組み化が大切なのかなと思います。

このへんは、やはり経営者さま、人事さまがしっかりと整えることが重要になってくるのかなと思います。そして、あまり人に頼りすぎない、仕組み化やシステム化で推進することをおすすめしております。

PDCAを適切に回すための「スキルマネジメント」

中塚:この能力開発の仕組み化とシステム化、運用が「スキルマネジメント」になります。このスキルマネジメントにより、PDCAサイクルを適切に回すことができますので、これまでご紹介した6つの施策の内容を、組織のDNAとして無理なく定着させることができます。

お時間の関係もありますので、スキルマネジメントについては、ぜひこの書籍をご覧いただければと思っております。『スキルマネジメント』は能力開発だけではなく、エンゲージメントにもしっかりと取り組まれたい方にも、ぜひ手に取っていただきたいと思う内容になっております。

Amazonの書籍紹介欄には、「エンゲージメントの高い組織になるチェックポイント」もご用意してますので、ぜひセルフチェックにご活用ください。

最後になりますが、スキルティ株式会社は能力開発、人材育成を仕組み化することによって、従業員の成長を促進して、組織の生産性の向上を最大化することに寄与することをミッションとしております。

本日の内容をご参考いただき、自社に合う方法でより良い組織作りの実験をしていただければ幸いです。ご清聴ありがとうございました。

松岡永里子氏(以下、松岡):中塚さん、お話いただきありがとうございました。WILLとSKILLのバランスというところで、塊で考えがちで、分解して考えることがない方にとっても「分けて考える」という視点は、プラスになったのかなと思っております。

一番怖いのは“経営者の思い込み”だけで施策を行うこと

松岡:ここからパネルディスカッションに移っていければと思うんですが、ご感想というか質問が1つ来ています。「社会人基礎力の3要素は、ダニエル・キム氏の成功の循環モデルにある『関係の質』『思考の質』『行動の質』と一致しますね」。まさに「前に踏み出す力」と「チーム力」と「考え抜く力」というところが。

中塚:そうですね。関係性がチームでということで、まさに当てはまるかなと思います。「社会人基礎力」に限らず、こういったものを独自にスキルとして落とし込んでマップにしていくのでも良いのかなと思います。

やはり、ある程度研究されたフレームワークを活用するのがいいのかなと思います。その中で、自社に合うものをピックアップする。

よく陥りがちなのが、「とにかくこの会社にはこれが必要だ」と、経営者さんの思い込みで行ってしまうのが一番怖くて。私はそういった失敗をしたんですが、傾聴力、人の話を聞くことが自分の価値観として大切だなと思ったので、それに偏ったスキルマップみたいな評価制度を作ってしまったことがありました。

そうなると逆に発信力が劣っちゃって、関係者やステークホルダーからも「みんな大人しいね」みたいになっちゃったんです。やはり、今お話ししたフレームワークを使いながら、網羅的にスキルマップを作るのは重要なのかなと思います。

松岡:ありがとうございます。確かに網羅性を確認するというところでも、すでにあるものを活用していくところ(がポイント)ですかね。ありがとうございます。

WILLとSKILLを高める打ち手、まずは何から着手する?

松岡:パネルディスカッションとQ&Aを進めていければと思います。今いただいている質問と重なる部分で、「何から着手すべきか」というところです。いただいている質問でも、「WILLとSKILLを高める点で、職場の関係性の質、思考の質、行動の質の順番も大切だと思いますが、いかがでしょうか」と来ています。

中塚:そうですね。先ほど少しご紹介したように、まずはWILL面の環境を整えることが大切かなと思っています。まずは、社長さまの思いをしっかりまとめて言語化していくプロセスが大切なのかなと思います。

社員は「目標のためにがんばっていこう」みたいなかたちで入社もされてると思いますので、ご自身のキャリア、ビジョンもそうなんですが、まずは目標をしっかりと定める環境を整える。それから、そのために必要なスキルをスキルマップに落としていくというプロセスが大切なのかなと思います。

松岡:なるほど、ありがとうございます。関係の質というよりは、思考の質にちょっと寄ってる部分もあるのかなとは思いますよね。

中塚:そうですね。パーパス的な目標や、意義とかのほうが大切なのかなと。

松岡:確かに。

中塚:(そういった考え方が)Z世代と言われてる人たちの思考でもあるのかなというところはあります。「何のためにやるのかがわからないと、ちょっとやりたくないよ」と(笑)。

松岡:なるほど、ありがとうございます。

“まずは若手社員から”など、徐々に始めることもポイント

松岡:続いて、やや斜めの質問にはなってしまうんですが、思考はもちろんスキルの部分ですね。多様な職種や職務の方がいる時に、要件を定義するのがけっこう難しかったり、整理する情報が煩雑になってしまうことがあるのかなと想像すると、「こういうところに着眼するといいよ」みたいなことって何かありますでしょうか?

中塚:そうですね。まずは各職種、職務に対する役割をしっかりと明確にする。役割定義と言われてるものをしっかりと作成をして、その中で職種ごとに必要な特殊専門スキルをそれぞれ作っていかないといけない。

あとは職位ですね。職務に関しては、ソフトスキルやノンテクニカルスキルという要素をそこに当てはめていって、分布したそれぞれのマップを作らないといけないということは、確かにあるかなと思います。

少し時間かかるところではありますが、それが各職位、職種ごとの評価にもつながってきますので、しっかりと定めていくことが必要。役割からスキルマップにどんどん書く、職位・職種ごとに落とすということですね。

松岡:そこは諦めずに、しっかりやっていただくということで。

中塚:やれると思います。小さな会社さまであれば、「マネージャー」「一般社員」みたいに、まずはざっくりと切ってもいいかなと思います。まずは一般社員だけ、若手社員だけ始めようとか、そこから徐々に作って、会社全体でPDCAを半年、1年、数年かけて作っていくのが大切かなと思います。

松岡:一気に全部やろうとしないのも、もしかすると大事なところなのかもしれないですね。

中塚:おっしゃるとおりですね。

松岡:ありがとうございます。

形骸化しがちなスキルマップ、どう仕組み化する?

松岡:続いてのテーマも、ちょうどチャットでもいただいているところです。「スキルマップなど一時的に盛り上がって準備をするんですが、形骸化したり、持続活用することができません。そのための仕組み化が重要だと理解していますが、能力開発を持続的にするために必要なことは」。

「どんな働きかけが有効か?」というのに近しいかなと思うんですが、続けていくために必要な視点。それは仕組み化というのが答えではあるんですけど、その手前で仕組み化しきれなかったり、仕組み化できたんだけどそのあと担う人がいないとか、そんな時にどんなことができますか? ということですね。

中塚:これは私も非常に苦労して。働きかけとして、マネージャー陣から「作ったからがんばっていこう」「やっていこう」呼びかけてみたいにやっていったんですが、本当にこれは継続的な意思の力というか、もうみんな疲弊してしまうので(笑)。

松岡:(笑)。

中塚:人ってちょっと弱いところがあって、楽なほうに行っちゃうので、これはもう制度に入れるしかないかなというのが私の答えです。例えば、週報や月報とか、今あるものに能力開発のスキルマップのチェックを一緒にやってもらうとか。あとは、本当は評価制度にもスキルマップの進捗度合いを入れ込んでおく。

先ほど「数値化ができるように、出来高がわかるように」という仕掛けをお話したんですけど、そういうかたちで数値化して評価制度に入れていく。また1on1にも入れてくというかたちで、今回っている制度に組み込むことが非常に大切です。

そうすると自動で回っていくというか、やらざるを得ない状況になるので、言い方が悪いんですが、ちょっと「やらせる」みたいな仕掛けは絶対に必要かなと思います。これは本当に意思だけだと難しいです。

松岡:なるほど、ありがとうございます。今回っている制度というところは、確かに相乗りじゃないですが、自然とみなさんの負担も少なくできるかもしれないと。

中塚:そうなんですよね。急に「やろう」と言っても、みんな「わー! 仕事増える」みたいな感じになっちゃうところがあって(笑)。正直、もちろんトップからしたら絶対に大切なことではあるんだけど、社員目線からは「わっ」となっちゃうので。

松岡:そうすると、今、回ってる制度に着目してみるというところが、1つのポイントになりますかね。

中塚:ポイントかなと思いますね。

松岡:ありがとうございます。

人材育成の仕組み化で生産性を向上させる

松岡:ディスカッションとQ&Aはまだ受けつけてはいるんですが、今の時点で来てないので、中塚さんからもご案内があると事前に聞いていたんですが、もしよかったらされますか?

中塚:ぜひご紹介させていただければと思います。最後に少しスキルマネジメント、スキルティのシステムについて、ちょっとご紹介させていただければと思います。このシステムは人頼みの能力開発、オンボーディングマネジメントから脱却する、新たなスキルテックツールになっています。

SKILLマップをベースとして、自ら自己完結で成長、評価、分析を可能にするシステムになっていて、リーダーには的確なフィードバックする材料を提供することができます。最近話題のAIも取り組み、効果、効率的な能力開発を推進するツールとして飛躍させようとしております。

ポイントなんですが、先ほど少しお話ししたように、毎週、毎月、週報のように活用できますので、自己完結でスキルマップを元にしたスキルチェックが可能になっております。そのチェックの割合を出来高としまして、視覚的に自身の成長度合いを把握することができます。

そして自分のスキルセットも、こういったかたちでレーダーチャートで瞬時に把握することができます。スキルギャップは強み・弱みを把握して、日々の成長軌跡も確認しながら、自己の成長を感じて意欲に変えて、かつ上司のフィードバックも可能にしております。

eラーニングと連携して、スキル習得に向けた学習やギャップの補填も可能になっています。技能だけではなく、自社理解、制度理解、キャリアの見直しなど、WILL面でのチェック機能もありますので、これ1つで能力開発やオンボーディングを効果・効率的に推進することができます。

以上になりますが、スキルティ株式会社は人材育成を仕組み化することによって、従業員の成長を促進し、組織の成長と生産性を高めることに寄与していくということをミッションとしています。

最後になりますが、本日の内容をご参考いただきまして、自社に合う方法でよりよい組織作りを実現していただければ幸いです。本日はご参加いただきまして、本当にありがとうございました。私からは以上です。

松岡:中塚さん、ありがとうございます。

多忙な管理職が人材育成に取り組むための工夫

松岡:1件ご質問が来ていて、私も気になるので、これをお願いしたいです。

中塚:ありがとうございます。

松岡:さっき「仕事が増えちゃう」というお話もあったんですが、「管理職、管理業務がどんどん増えていって時間が足りません。管理職が人材育成に、より時間を振り向けられるようにするための工夫は何かありますでしょうか?」ということです。

仕組み化する手前のところで、そもそも時間がないよっていう叫びなのかなと思うんですが、いかがですかね?

中塚:そうですね。基本的にみなさんが育成する中で、ティーチング、コーチング、1on1とか、今やられてるものもあると思うんですが、システム側が役割になってやっていく中で、システムが自己完結で全部補填していくということになります。

ティーチング、コーチング、1on1は対面で、もちろん時間もあるんですけど、そのへんの工程をセルフチェックで全部やっていく仕掛けになっています。今までやられたものが全部システム側になっていきますので、かなり時間が削減されるかなと思います。

まったくやっていない方であれば、ちょっと増えてしまうと思うんですが、やっていったものに関してはかなり削減できるかなと思っています。

松岡:すでに行っている業務で、代替可能なものがないかを見ていくと、もしかするとツールで変えることがあるかもしれないと。

中塚:そうですね。気づいていないことがあるかもしれないですね。

松岡:人がやらなきゃいけないことに絞って、管理職が人材育成のところを担えると良いという感じですかね。では最後になりますが、中塚さん、あらためてお時間をいただきありがとうございました。

中塚:ありがとうございます。