フォロワーの好きなものや行動を見つめる

司会者:石田さんも今までさまざまなアカウント運用に携わられてきたそうですが、何か具体的に経験した事例などございますか。

石田哲也氏(以下、石田):飯髙さんの話を「すごいなぁ」と思って聞いていました。私の場合、前職がゲーム会社だったので、例えば『週刊少年ジャンプ』のゲームのSNSを運用させていただいてました。初期フェーズで考えたことは、やはり濃いファンを作ることが大事かなと。ユーザーが何を感じてどう反応するかを細かく見ていました。

具体的にやっていたことは、IPモノで濃いファンがいたので、ニッチなキャラ紹介とか、ネタに対してどんな反応をするのかをある程度つかんだ上で、例えば近い属性のネタキャラを定期的に挟んで、ユーザーとのやり取りとかツッコミが入るようなかたちにして、まず濃いファンを作っていくように注力しました。

中期以降で言うと、そこから実際にフォロワーの属性の分析をして、さらに理解を深めて、次の打ち手を考えていきました。もちろんSNS上でのフォロワーを増やすところもいろいろ施策は打ちました。

これは別のゲームアカウントの話ですが、SNS運用では売上とか成果を出すところがかなり大事なのですが、既存のフォロワーさんを分析したらVTuberが好きだったことがわかったんですね。じゃあVTuberとのコラボをやったらいいじゃん、と。キズナアイとかミライアカリなどのVTuberさんとコラボして、実際にかなり売上を上げたりしました。

SNSはユーザーの反応が直に見えるところなので、実際にユーザーの反応を見た上で、「自社のファンに刺さる内容は何なのか」ということから商品開発をされると、かなりいいのかなとは思っております。

司会者:一方的な発信やコミュニケーションになりがちだと思うんですが、しっかりとフォロワーとかファンの好きなものや行動を見つめるということですね。

「キャラクターとのコラボ」で失敗するケース

飯髙悠太氏(以下、飯髙):今のは僕も補足させていただきたいんですけど。まさに石田さんが話した通りで、やっぱり結果的に売上につながったのがすべてじゃないですか。

今(スライドで)出ている図なんですけど、一番はサービスや商品文脈でUGCが出ることなんですけど。でもこれって手に取った回数とか、現状ではやっぱり限界があるんですよ。

その派生でコミュニケーションが重要だよねということで、どこかとコラボしたりするんですけど。どの案件かはちょっと言えないんですけど、キャラクターとコラボするブランドさんっているじゃないですか。失敗しているケースも実は少なくなくて。

めっちゃUGCは出ているんですよ。「なんとかブーム」とかあるわけじゃないですか。そういうのって事例でもよく挙がるんですよ。

でもこれがホットリンクの場合だったら、実際に口コミデータと売上がどう連動しているかを重要視していました。すると、そのキャラクターのことはつぶやかれているんだけど、そのブランド名は言及されてなかったり検索されていない。

そうなると、SNSだけでバズは起きているけど売上に直結しない。実はそのコミュニケーションのミスディレクションを行っているんですよ。そういったところは、本当にここの中だけじゃなくて。その後にじゃあどう検索に連動して売上をつくるのかは、ちゃんとこの三つ巴で考えないとけっこう危険を伴うと思いますね。

石田:まさにそうですね。コラボ先を間違えるとぜんぜん売上が跳ねないので。やっぱりそこはユーザーさんをちゃんと見てしっかりと売上につながるところを設計できるとかなりいいなと思いますよね。

丸亀製麺が「M-1グランプリ」放送直後にやったこと

司会者:お二人のご意見が一致したということで。それでは、鉄則の2から深堀りの2に入らせていただきます。先ほどもちょっと言及がありましたが、「言及在庫」のストックの入庫方法についてですね。

1人で担当していたりすると、もう1ヶ月分まとめてカレンダー上に用意してドンと置いておくと。ちょっと安心感もあってそういう方法になりがちかなと思うんですけれども。

しっかりとフォロワーさんの反応を見ながら都度都度決めていったほうがいいのか、それとも前者のような方法でも問題ないのか。そのあたりをお聞かせいただけますか、飯髙さん。

飯髙:これはどっちのパターンもあるかなと思います。私もこれまで数多くやらせていただきましたけども、さすがに1ヶ月先まで考えている企業さんとあんまり出会ったことがなくて。1ヶ月から2週間ぐらい先を見て作っている企業さんもいますが、多くはないです。

これは本当におっしゃったように、「この時にこういうモーメントがある」という安心感ですよね。例えばその月に50投稿するんだったら、それ(口コミのもとになるネタ)を用意しておくことによって他のところに時間が割けるし、モーメントにぶつけて投稿企画アイデアを考えられるところで言うと、それ(在庫)はあっていいと思います。

プラスオンで、2週間とは言わずとも1週間ぐらいで(在庫が)あると安心できますよね。あとはその時々によってトレンドって動くじゃないですか。そこに自分が関連性を持てるんだったら、そのトレンドを取りにいくために、ハッシュタグの中に会話で入っていくみたいなところはすごくわかりやすくて。

2021年の「M-1グランプリ」で、とある人(ロングコートダディ)が、うどんをネタにしたんですよ。

司会者:肉うどん。

飯髙:丸亀製麺さんはすぐにそれを投稿しこれが功を奏しました。そういうことは都度考える必要があるかなと。ストックの入庫方法に関しては、先ほどの1個手前で話したように「自社といえば〇〇」を本当にちゃんと10個考えて、これを投稿パターンとして持っておく。日々の投稿でも今日はこれ、今日はこれと、ランダムに選んでいけばできるものなんです。

ただそこに対して、自分がどれだけ自社の商品を理解しているとか、解像度を上げるとか、それこそ「お客さんがどういう投稿をしているんだろう」みたいなのが真似る投稿になってくるので。このへんを考えるのが一番やりやすいとは思いますね。

10個のアカウントを使い分ける、飯髙氏のインプット術

司会者:非常に具体的なご回答ありがとうございます。石田さんも今まで、ニュートラルワークスでもさまざまなSNSアカウントの運用代行に携わられてきたと思うんですが、具体的な方法などありますか。

石田:先ほどちょうどうどんのお話があって、私もトレンドに乗る施策をやっていたなと思いながら聞いていました。やはりそういったタイミング、時流に乗るのはかなり大事だなと思います。一方で私がやっていた時は、実は1ヶ月前に90投稿を考えていたんです。

飯髙:すごい。

石田:1日3投稿で90投稿。これも結局案件によると思うのですが、IPモノだと監修が必要なんですよね。なのでけっこう前から用意しておかないと間に合わないというのもあって。90投稿を考えるのはかなり大変なので、ある程度これいける、反応がいいというパターンをいくつか見つけて。それを、バリエーションを設けて用意しておくことをしていました。

それに加えてユーザーさんの投稿の内容を拾いながらそこに対してリアクションをしていったり。時流に乗るような投稿をしていくので追加でやったりしました。

司会者:ちなみにちょっとおうかがいしたいんですけれども、トレンドとかモーメントに乗っていくところなんですが。具体的にどういうタイムラインというかメディアを、お二人はよくチェックされているのかおうかがいしたいんですけれども。飯髙さん、いかがですか。

飯髙:よく見るメディアですね。僕はもう、Xばっかりですよ。公開していないリストを複数持っていて、その中で情報をウォッチしたり。あとは1つのアカウントだけだと、トレンドって人によって変わるじゃないですか。なので僕はまあ言っちゃうと10個ぐらいアカウント持っているので。

全部クラスタを分けて作って運用しているので。それぞれに入っていって、その中で4つぐらいの場所にトピックでバーンと上がってきたら、これは跳ねるとわかるんですよね。ここまでやる必要性はないんですけど、僕はやっぱり専門家でやっていたのでそこまで細かく見ていましたね。

司会者:ぜひそのリストを拝見させていただきたいですね(笑)。

飯髙:(笑)。

「相変わらずいい仕掛けをする」スターバックス

司会者:それでは次の深堀りポイントに入っていきたいと思います。2023年、口コミとしてよく広がったなと感じたネタの具体例があればぜひ挙げていただければと思うんですが。飯髙さん、いかがですか。

飯髙:たぶん好みとかもあるし、どの観点で見るかがあると思いますが。タイムリーでは、スターバックスさん。

スタバが今、このハロウィンのタイミングで「Boooooフラペチーノ」というのを10月10日に投稿しているんですけど、これが16万リポストぐらいいっているんですよ。

やっぱりスタバさんはすごくうまいなと思って。ハロウィンにかけて真っ黒の飲み物なんですけど、すごくユーザーの文脈もつかんでいますよね。

10月末のハロウィンに向けて、このタイミングで仕掛けて季節限定を出してくる。これはUGCが出ることはわかっていますよね。やっぱり相変わらず良い仕掛け方をするなという企業の事例だと思います。

シーズン企画だけでは周りに埋もれてしまう

飯髙:あとは個人アカウントで言うと、「トラックめいめい」というアカウントがあるんですけど。トラック運転手の女の子が、毎日ビールやお酒を飲んでその写真を上げるんです。これまでありそうだったけどなかった「トラック×ビール(お酒)×女子」。

彼女自身もそれでTシャツを作って販売してたり。やっぱり広がりやすいネタの特徴で言うと、まずユーザーとどれだけ向き合って、その商品を作っているかなんですよね。

今、もしかしたら代理店の方もいるでしょうし、ブランドの方もいると思うんですけど。代理店さんであればお客さまを支援しているわけで。どうネタを作るかというと、これからクリスマスやホリデーがありますので。

みんなホリデーだホリデーだと言ってホリデー企画ばっかり作るんですけど、「これって埋もれちゃわないの」と。だったら自社としてはどうなんだろうというモーメントで考えると、「2023年ってやっとコロナが明けたよね」とか。

「それに対してどういう伝え方、コミュニケーションができるんだろう」「どうしたらエモーショナルになるんだろう」みたいな今のユーザーの態度と状態と、企業がそこにどうマッチングできるか。

要は自分ごと化という意味合いですごく広がる座組になっているのかなと。私も今までもそういうふうに企画を作っていましたが、そこがコアになるとは思いますね。

司会者:ありがとうございます。石田さんも何か注目した投稿とかございますか。

石田:そうですね。私は今はどちらかと言うと会社としての個人アカウントを盛り上げることをやっているので。どういう投稿がBtoBで上がるのかという研究をしています。toCのところは、やはりある程度バズりやすいところを私自身なんとなく理解はしているつもりなんですけど、toBはけっこう難しいなと思っていて。

なのでやはりtoBは図解を使うなど、わかりやすさをかなり重視しています。バズる投稿もいろいろあると思うんですけれども。やはりそういったわかりやすさを重視して、toBだったとしても小難しいものよりもわりと万人に受けるネタのほうが反応がいいなという気はしていますね。

自分が「一生喋れる」ネタで勝負する

司会者:ありがとうございます。それでは深堀りの4に入っていきたいと思います。

先ほど石田さんからもちょっとお話がありましたけれど、最近よく見かける個人アカウントですね。具体的にマッチする商材やサービスがあれば、ぜひうかがえればと思います。飯髙さん、いかがでしょうか。

飯髙:個人アカウントでも公式と一緒なんですけど、何を目的にすべきかだと思います。石田さんのアカウントであれば、めっちゃ投稿をがんばって工夫してやって、「あぁ伸ばしているな」みたいな。

ニュートラルさんって三木社長もそうだし、役員勢でがんばって、うまくやっているなと。これってやっぱりコンテンツがないと正直むずかしいじゃないですか。やっぱりネタを作ってとか、お客さんとの会話の中で「めちゃめちゃいいこと言っているぞ。これ投稿しよう」みたいなところがあると思っていて。

今出ているのは公式なんですけど、個人だったらそれこそ食事をしている時に、「この会話だったら俺は一生しゃべれる」ってネタがあると思うんですよね。自分のブランディングとかではなくて、まずはそのSNSとどれだけ向き合えるかが重要だと思うので。例えば私だったらサッカーネタであれば延々と話していられるんですよ。そういうもので、まず趣味アカウントとしてやってもらうのが実は良くて。

「好き」を深掘りして発信することのメリット

飯髙:となると、そのサッカーの中でも、例えば、日本代表より川崎フロンターレが好きとか家長(昭博)さんが好きとか、特定(ジャンル)にいけばいくほど、SNSの中でコアな友だちとつながれるんですよ。

例えば家長さんのことを100回投稿したら、たぶん家長好きがフォローしてくると思うんですよね。ここでどうやったらリポストがくるんだろうみたいな経験を、公式アカウント、要は自分の本アカに生かしてもらう考え方が僕は絶対おすすめです。

ホットリンクの場合だと、公式アカウントのコンサルティングをしながら、希望があればそのブランドさんのみなさん個人のアカウントも一緒に作っていくんですよ。

なのでラーメンが好きだったら、ラーメンのアカウントをめっちゃ伸ばしましょうみたいな。気づくとみなさんがそういうふうに伸びていたりして。それこそBtoBだったらわかりやすいところで言うと、ベイジの枌谷(力)さんがいらっしゃるじゃないですか。

枌谷さんに2019年ホットリンクのWebサイトをリニューアルしてもらいました。ホットリンクのサービスメニューや思想を伝えていたら、今ではフォロワー数もエンゲージメントもすごいですよね。もちろん枌谷さんの場合は良質なコンテンツを作ることができますが。

司会者:本当に好きこそものの上手なれといったところですかね。まずはしっかり自分で語れることから向き合って投稿してみるということですね。