SNSマーケティングのプロ・飯髙悠太氏が登壇

司会者:飯髙さん、よろしくお願いいたします。

飯髙悠太氏(以下、飯髙):よろしくお願いします。

司会者:あらためまして、この度は書籍の発売おめでとうございます。

飯髙:ありがとうございます。

司会者:さまざまなメディアで、すでに経緯など語られていらっしゃるかとは思うのですが、まずあらためて、書籍の概要についてお聞かせいただけますか?

飯髙:はい。私は処女作の『僕らはSNSでモノを買う』という書籍を2019年に出版しています。SNSマーケティング7つの鉄則は、本当にかなり多くの方に読まれていたという実態があるんですけれども。

処女作はどちらかというと、その概念とか「SNSは重要だよね」みたいなところを伝えていきました。UGC(User Generated Content:消費するユーザー側が制作・発信するコンテンツ)の重要性を伝えていて、世の中もだんだんそっちに変わってきたんです。とはいえ、誰(Who)・何(What)ではなくて、Howの部分でやっている企業さんがめちゃめちゃ多いなとは、ずっと課題に感じていました。

私自身、昨年ホットリンクを退職して起業しています。それ以前から、この書籍(『SNSマーケティング7つの鉄則』)をホットリンクと共著で進めていました。今回のポイントでも話す、7つの鉄則とか世の中の背景をしっかり伝えたいという思いで、この書籍を出版したのが経緯になります。

司会者:ありがとうございます。実際にXにも「#SNS黒本」の投稿が多数見かけられて、マーケターの間でもすごく話題になっていた印象です。そのあとフィードバックや反響はありましたか?

飯髙:ありがたいことにかなり多くの方に読まれていて、韓国で出版されるのも決まっていたりして。国内だけではなく海外でも認知が取れているのはうれしいですね。

司会者:なるほど、もう世界に広がっているんですね。そうしましたら、この後本編1のパートに入らせていただきたいと思います。それではよろしくお願いいたします。

SNSが、自社商品の宣伝になっている会社が多い

飯髙:はい、よろしくお願いいたします。先ほどご紹介にあずかりました。今私はGiftXという会社で、受け取り手が選び直せるソーシャルギフト、「GIFTFUL」というサービスをやっています。たぶんSNSを見ていただいている方は、知ってる方もいるのではないでしょうか。

一方で、ニュートラルワークスさんもそうですが、いろんな企業にマーケティングアドバイザーみたいな立場で関わらせていただいています。「SNS全体」が今回のテーマではあるんですけど、わりと広義にマーケティングに関わっています。

ここから7つのポイントをお話ししていくんですけど、時間が20分と限られているので、本当にポイントポイントで恐縮ですが。もし興味がある方は書籍や、このタイトル名でググっていただくといろんなメディアさんに内容を公開していますので、そのへんも見ていただけるとより理解が深まるかなと思います。

この鉄則1の「トリプルメディアで分解するとSNSの打ち手が見える」というのは、1冊目の書籍にも書いてあるんですけれども。デジタルマーケティングでは、よくトリプルメディアと言われている「ペイドメディア」「オウンドメディア」「アーンドメディア」があります。

多くの企業は、オウンドメディア、要は公式アカウントとかWebサイトに集客するために、Googleなり、Yahoo! JAPANなり、ペイドの広告を配信したりする。それと同義に、「SNSでもフォロワーを増やして自社サイトに誘導させたいよね」みたいな考えでやってしまっている企業は増えている。

こうなってしまうとKPIがどうしてもフォロワー数とか、エンゲージメント数になってしまうんです。けれどもやはりUGCで考えると、SNSにおいてはアーンドメディアがすごく肝になります。

要は、「自分たちの商品が良いんだよ」ではなくて。それを手に取ったユーザーさんや体験したユーザーさんが、「このサービスめっちゃ良いよね」とか「この商品いつも気に入ってるから買ってるよ」とか「おいしい」みたいなところが肝になってくる。まず1個目として、ここをしっかり分類する必要があります。

そこをポイントでまとめています。KPI設定はとても重要なので。フォロワー数ではないのが前提になってきている中で、どうUGCを作っていくかはとても重要なところです。

SNSは「決して魔法の杖ではない」

飯髙:あとはKPIでよくある間違いで言うと、ここも先ほど話したことと被ってくるんですけれども、そのSNS経由のWebサイト流入数を追ってしまっているとか。これだと結局、KPIはKGI(経営目標達成指標)と連動していないので。SNSも他のマーケティングもすべてそうですが、マーケティングは「どう売上を向上させるか」が一番重要なのに、手法論に入ってしまっている企業さんがすごく多いです。

あとはマネジメントバイオブジェクト。要は一人ひとりの目標設定もそこ(SNS運営の手法)にすごくこだわっていて、管理をしてしまう企業さんが多くなっています。

また、戦略は資源配分です。今回はSNSがテーマですけど、そもそも企業さんによってはSNSをやる必要性がない企業さんもあったりするので。

先ほどのトリプルメディアで分解した時に、どこにリソースを投下するかは……もちろんSNSはめちゃめちゃユーザー数もいるので、やったほうがいいところはあるんですけど。ここでは「決して魔法の杖ではない」というのがポイントなのかなと思っています。

2つ目の「『言及在庫メソッド』がUGCを爆増させる」はけっこう厚く書いています。1冊目だと、ULSSAS(ウルサス:株式会社ホットリンクが提唱する、SNS時代の購買行動プロセス)でUGCが起点になってるところを、今回の書籍ではもう少し深掘りして発信しています。

一番最初はどういうトピックがあるかです。「この商品がおいしいよね」とか「ここのカフェにまた行きたいよね」みたいなトピックの量があるか。もう1つは、コミュニケーション文脈のトピックがあります。「このCMって、やっぱり感動するよね」みたいに、その商品が認知される必要性がある。質にも左右されますよ。質とは、単純に良いものがあるのか、悪いものがあるのか。

企業はこのトピックをどれだけ作れるかで、SKU(Stock Keeping Unit:受発注・在庫管理時の最小の管理単位)数。例えば、扱っている商品が少なければUGCが発生する確率は物理的に少なくなってしまうので、このトピックを考えた上で入庫していきましょうと。

UGCが発生するまでのハードルと拡散ネットワークの重要性

飯髙:この入庫したものを投稿していくんですけれども。その次に、UGCが出る前のハードルが2つあります。1つ目がフィジカルハードルですね。人によっては、そもそもSNSに投稿するのが面倒くさいとか。

あとは、ハッシュタグでキャンペーンとか企画をやった時に、そのタグが長すぎて打つのが面倒くさいみたいなところがこのフィジカルハードルに入ってきます。

2つ目のメンタルハードルは、コンプレックス系商材とかにはなってきますが、そもそもそれを使っていることを公に言いたくないものは、やはりUGCが出づらくなります。

そこからUGCが発生した場合、次に拡散のネットワークが存在します。それがソーシャルネットワーク上とか、今だったらSNSで検索をするのもそうだし。あとはプラットフォームによってはレコメンデーションに力を入れているので、そのネットワークもここに分類されてきます。

ここを広げるためには、フォロー・フォロワー関係のソーシャルネットワークを通じて広げるものもあるんですけども。俗に言うバズりやすいコンテンツだけではなくて、「広がっていくためのネットワーク構築はどうする必要性があるのか?」を考えることがポイントかなと思っています。

例えばSNSは、基本的にクラスターによって分類されているんですね。映画好きの人はやはり映画好きの人をフォローするし、サッカー好きの人はサッカー好きの人をフォローする。このクラスターごとにコミュニケーションの取り方も変わってくるので、そこをどう考えていくかが重要になります。

そこから広がったものがまたUGCとして生まれて、ここはかなりULSSASに近いんですけれども。新たなUGCによって、またそのトピックが入庫されてサイクルが回っていく。これが言及在庫メソッドの考え方です。

なので、UGC戦略とか施策実行は、言及在庫メソッドからひもとけるし、担当する商品のトピックとハードルがどんなものかを、まず前提として考えたほうがいいところがあります。

ユーザーとのつながりで、拡散のサイクルが回り出す

飯髙:次に、消費者にどんどんUGCを伝えられそうな拡散ネットワークは、どのようなコミュニティとかクラスターがあるかも考える必要があります。

あとはできればソーシャルリスニングの手法を使ったほうがいいと思うので、今自社の商品がどう言われているのかとか。今のユーザーの興味関心を拾っていく必要性があります。

3つ目は「単体のSNSアカウント運用は失敗する」。これは、みなさんかなりご認識があるところだと思います。決してアカウント運用をすることが目的ではないです。

なのでアカウントのベースの考え方は、UGCが生まれるためにどうするかが重要です。とはいえ、そのアカウントの作り方みたいなところはあるので、魅力的なアカウントを作ることがステップ1。この時に「どういう投稿をすればいいんだろう?」というのは、もちろん手法論も入るんですけれども。「どうしたら広げていけるんだろう?」がポイントになっています。

次に、UGCを投稿してくれる良質なユーザーとつながっていく。すでに自社の商品を投稿してくれている方であればつながる必要性があるし、他社の商品を投稿している方であれば、つながって自社の商品を買ってくれたら、SNSにあげてくれる可能性がある。これが次のポイントです。

自社として発信するのは、ブランドさんとか企業さんだと、めちゃめちゃクリエイティブで良いものを投稿しようとしてしまうんですね。例えばCHANELのようなブランドでは、世界観はすごく重要です。けれども、多くの企業がそんなに凝ったクリエイティブをあげると、ユーザーは真似できなくなるので。

このへんの考え方はよりSNSライクに、ユーザーがどういう投稿だったらできるのか、見本となる投稿をしていくところがポイントになります。なので、単体のアカウント運用になっていないかは重要だし、そのULSSASが回るようなアカウント運用も重要なところ。

あとは、どこまで作るかもあるんですけれども、公式アカウントとしてのコミュニケーションガイドラインはまとめたほうがいいと思っています。「どういうUGCだったら引用リポストするんだろうね」「どういう人だったらフォロー返しするんだろうね」みたいなところは、最低限考えておく必要がありますよね。

SNS時代の購買行動の軸

飯髙:これはたぶん知らない方もいると思うので、一応ULSSASのところで補足として入れています。そもそものSNS時代の購買行動について簡単に説明すると、これまでだったらAIDMA(アイドマ)とか、AISAS(アイサス)とかいろいろあるんですけれども。

ことSNSにおいては、すべての軸はUGCから始めたほうがいいよねという考え方です。これは自社の投稿も広告もそうだし、理想としては、ユーザーの投稿です。

仮にユーザーの投稿で考えると、「このシャンプーを使ったら髪の毛がめっちゃサラサラになった」みたいなことを言っている友達がいました。友達であれば、「それ良いんだ」みたいにライトに入る。「ちょうど自分も髪染めたばっかりで、パサつきが気になっているんだよね」みたいなユーザーがいたとすれば、まずソーシャルメディア内でその商品を検索しにいきます。

検索したら、いろんな人がこのヘアケアのことを(話題に)あげているから、すごく良さそうだなと思う。次に、GoogleとかYahoo! JAPANで検索して、そこでも口コミを見たりとか、金額を見たりとかで、これいいな、と購買につながる。

購買すると、そもそもの出会いが友達の投稿なので、「自分もこれを使ったらめっちゃサラサラになった」「何々ちゃんが言っていたのを買ったらすごく良かったよ」みたいなことが、次にまたスプレッドとして走っていく。1つの投稿がきっかけでULSSASが回るという考え方になっています。

プラットフォームの特性を押さえた使い分け

飯髙:4つ目が、「プラットフォーム特性の理解が動画を伸ばす」です。TikTokをはじめ、Instagramのリールもそうですし、長尺動画からショート動画に時間が奪われています。

それぞれメリット・デメリットがあります。やはり、長尺のほうがコンテンツの情報量は多く出せるし、資産性も高く取れる。使い分けも、どうやればブランド認知を高められるんだろうというところはあります。

逆に、ショートにも良さもあります。接点は取りやすくなるけど、コンテンツの情報量が少ないです。認知拡大としては、今ショート動画はかなりいろんな場所で優先的に出るので、そのへんは強くなっていたりします。あとは、ライブ配信もそうですよね。これがポイントとしてあげられます。

ここに関しては、ショート動画はもうだいぶ流行ってますが、良いのか悪いのかというのもあると思うんですけど。これは別に公式ではなくても、じゃあ自分のアカウントでリールを上げてみたらどうなるんだろうね? と、まずは使うことがすべてのスタートになってきます。

あの会社がどうだと言う前に、まず作ってみたりライブ配信をしてみて、ユーザーがどう反応してくるんだろう、と短いスパンでPDCAを回していったほうがいいという考え方です。