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施策の全体設計図となるカスタマージャーニーの作り方セミナー~基軸はパーセプションチェンジ~(全3記事)

ポイントは何人が先に進み、何人が離脱したかを把握すること カスタマージャーニーを妄想から「計画」に格上げする方法

クロスメディアグループが主催した「カスタマージャーニーの作り方」セミナーに、『マーケティングオートメーションに落とせるカスタマージャーニーの書き方』の著者である小川共和氏が登壇。本記事では、小川氏が70以上のカスタマージャーニーを作って気づいたことや、マーケターの願望通りの行動を促す仕掛けについて語られました。

70以上のカスタマージャーニーを作って気づいたこと

小川共和氏:さっそく始めたいと思います。小川共和です、よろしくお願いします。カスタマージャーニーといってもいろいろあると思うんですけど、今日お話しするのは「施策の全体設計図となるカスタマージャーニー」です。一番覚えてほしいキーワードは「パーセプションチェンジ」です。

最初に趣旨をご説明します。

この本(『マーケティングオートメーションに落とせるカスタマージャーニーの書き方』)はちょうど5年前に書いたんですけど、それ以来なんだかんだで70以上のジャーニーを作ってきました。そこまで作ると、出版時に気づかなかった気づきや新しい発見が出てきたんですね。今日はそれをいろいろ紹介したいと思います。

あと「施策の全体設計図」という言葉は何か。実は私、デジタルマーケティングを実務として思いっきりやっているんですけど、コンテンツマーケティングやWeb広告、マーケティングオートメーションを使ったナーチャリングメールなどの施策を一生懸命やっていると、どうしても視野が狭くなるんです。部分最適に頭がいってしまう。

特にエンゲージメント、お客さんとの出会いから、長い期間ロイヤル顧客・ファンと関係を作るマーケティングの場合は、部分最適でやると致命的になってしまいますので、今日は全体を大きく俯瞰する施策の設計ができるカスタマージャーニーについてお話しさせていただきます。

私が小川事務所を立ち上げて6年半になります。マーケティング顧問11社とコンサル23社、全部のカスタマージャーニーを書いています。カスタマージャーニーを書かない仕事はほとんどないです。どんな場合でも書きます。

あと大学の講義の中でも、演習テーマとして必ずジャーニーを書きます。BtoB、BtoC問わず、ジャーニーに関してはいろいろやってきた自信があります。

カスタマージャーニーには2タイプある

ではさっそく「施策の全体設計図としてのジャーニーとはいったい何?」という話ですね。私はカスタマージャーニーには2つのタイプがあると思っています。1つが「課題抽出型」、もう1つが「施作立案型」のジャーニーです。けっこう似て非なるものです。

今世の中で行われている多くのカスタマージャーニーは、前者の課題抽出型です。実際自社のサービスやマーケティングを、企業側の視点ではなく客側の視点、客の心理や体験側からとらえて描いています。

実際にやってみると、どこがうまくいってどこがうまくいっていないか、どのへんがボトルネックなのか、成功への手がかりは何なのかが浮かび上がってきます。あくまで基本は現状把握がメインになるので、スタンスは企画立案というよりはリサーチです。

私は課題抽出型も有意義だと思います。企業が自分勝手な思い込みではなく、客の立場から考え直してみるとけっこう大きな発見があるからです。ただそれはあくまでも課題の抽出、成功への手がかりの発見ですよね。

実際ほとんどの場合は、そこからあらためて施策立案をしなければならなくなります。課題抽出型は非常に有意義だしやる意味はあると思うんですが、あくまで現状把握と課題抽出がメインだとご理解ください。

私が提唱しているのはぜんぜん違うんですね。あくまでもスタートから最終的にお客さんに至ってほしいゴールまでを、基本的に「パーセプション」で描き、「遷移指標」とセットで考えていく。

パーセプションは「心理」、遷移指標は「行動」です。つまり心理と行動のセット。この骨組みに施策としての「コンテンツ」と「手法」が入ってきます。こんな4つの要素でできています。

この施作立案型のジャーニーは、「客にこう動いてほしい」「客にこんな真理の変化を促して、こういう行動に至ってほしい」ということを書きます。現状把握ではないです。先ほど「企業の思い入れではなく」と書いたんですが、こっちは逆に企業の思い入れを書く。

「客にこう動いてほしい」「こういう行動に至ってほしい」とは、要するに「マーケターの願い・願望」なんです。決して現状を言っているわけではありません。

ある種、当たり前ですよね。お客さんはこっちの指示どおりに動くわけではなく、勝手に動きます。あくまでもこちら側が言えるのは「こう動いてほしい」ということまでです。

願望通りの行動を促す仕掛け

じゃあそのためにはどうするか。もちろん「お客さんの自発的な行動に委ねる」のもあると思いますが、ほとんどの場合委ねっぱなしだとみんな、どこかに行っちゃいます。

こっちの願いどおりにぜんぜん来てくれない。やはり願望を成就させるには、企業としての「行動」が必要です。それが「マーケティング施策」です。

「客にこう変化してほしい」、そのためには企業としてさまざまな仕掛けを準備して、さまざまな行動を行う。それによって客が1人でも多く願いどおりに進んでいくことを仕組む、それが施策です。

ちょっとここまでを整理します。

施策立案の全部を数珠つなぎにしていくと、全体設計図になります。まず最初にやることは「お客さんに最終的にこうなってほしい」というゴールを描いて、それに至るプロセス、心理と行動を願望として書く。

その願望を満たすために施策を打たなきゃいけない。あくまでも企業の意思や戦略としての施策によって、その願望を満たす。すなわちこれは、リサーチではなくプランニングです。

実際にやってみると、課題抽出型とはスタンスがかなり違います。施策立案型は本当にプランニングする感じで、課題抽出型はリサーチする感じです。どっちが良いかではなく目的が違います。

カスタマージャーニーを「絵に描いた餅」にしない

次に願望についてです。時々「カスタマージャーニーなんて妄想だ」と思われる方もいらっしゃいます。けっこうそういうことを言う方がいらっしゃるんですけど、ある意味正しいんですね。願望ですから、絵に描いた餅かもしれない。でもそれじゃまずいんです。妄想じゃなくて計画にするには、何をしたらいいか。

カスタマージャーニーと似て非なるものに、工場の製造「工程」があります。字が違います、「工」の字です。これは一つひとつちゃんと計画的に、ピシッとできなきゃダメです。全部計画どおりにピシッとやって完成させる「工程」ですね。システム開発も一緒です。

一方カスタマージャーニーは、あくまでも願望としての客の行動や心理を描いているんですね。願望どおりいく人よりも、願望どおりにいかなかったり滞留したりどこかに行っちゃったりする人のほうが多いことも、十分あり得るわけです。

じゃあ何が大事か。いったい何人が動いているのか、そして何人が停滞して、何人が離脱しているのか。これをちゃんと把握しないと、妄想になっちゃうんですね。本当に絵に描いた餅です。

それぞれ今どこに何人いて、何人が移っているのかをちゃんとデータで把握できれば、妄想ではなく計画になります。

ちょっと試しにやってみましょうか。よくあるパターンのBtoB商材です。

最初にWebサイトに訪問し、新規リード(新規の見込み客)になる。実名IDで、MA(質の高い営業案件を創出するためのシステム)やSFA(営業活動を効率化するためのシステム)などのデータベースに入った。

それがホットリード(関心度が高い見込み客)、MQL(Marketing Qualified Lead=マーケティング施策を通じて創出された案件確度の高い見込み客)になった。あとはうまく商談になり最終的に受注したと。よくあるBtoBの流れですね。

例えば最初は1万ユニークユーザーと出会いました。リード化されたのは100人です。ホットリードになったのは20人です。商談は10件、受注は5件と、よくありがちな数字です。

つまり1万人と出会っても、5人しか計画どおりにいかなかったということですね。9,995人は計画どおりいかなかったんですよ。「なんだ、これは絵に描いた餅じゃん。妄想じゃん。計画とは言えないね」ですか? そんなことはないですよ、これは立派な数字です。

BtoCもやってみましょう。Webサイト訪問、無料サンプルを請求、初回購入、リピートからロイヤル顧客・熱烈なファンという流れだとしましょう。同じように入り口は1万人ユーザー。そこから100人、30人、10人、ロイヤル顧客は2人。1万人と出会って最後にたどり着いたのは2人だけです。9,998人はどこかに行っちゃったんですね。

どうですか。この数字は普通です。ただこれがさっきの工場の製造工程だったらダメですよ。ちゃんと1万個作ったら全部が次の工程にいかないと。でも、BtoCの場合は1万のうち2でいいんです。それで十分成立すると思います。

ポイントは何人が先に進み、何人が離脱したかを把握すること

要するに、マーケターの願望どおりにゴールまでたどり着くのは100人に1人、1,000人に1人より少ない。これが普通なんです。大事なのはどれだけの人数が願望どおりにどこまで進んでいるか、どこで離脱したのか、どこで止まっているのかを、ちゃんとデータで把握していることです。

私はこれを「遷移指標」という名前にしました。計測可能な行動データとしてちゃんと把握できる。それが実現できていれば、ジャーニーは妄想ではなく計画に格上げされます。

「そのデータにはどんなものがあるの?」というと、これはデジタルマーケティングをやっている方はお馴染みですね。最初はGoogle Analytics(GA)などのWeb解析ツールのデータです。ここからデータベースに入ります。MAやSFA、なんでも大丈夫ですけど、新規リード数です。

あとちょっとずれますけど、Google Analyticsのコンバージョン数と新規リード数は、ぜんぜん同じではないんです。実際多くのケースでGoogle Analyticsのコンバージョンの半分以上は、すでにリードになっている人のコンバージョンです。だから「GAのコンバージョンが100あったのに、データベースで見たら新規リードは30でした」ということが普通にあります。

BtoCも同じですよ。おそらくたいていは購買データが絡んでくるので、CRM(顧客管理システム)系ツールを使うことになる。あとロイヤリティや熱烈なファンの度合いを計測する意味では、SNSの公式アカウントのエンゲージデータですね。どれだけフォローしているか、どれだけ投稿してくれているか、どれだけシェアしてくれているか。そのデータが1つの指標になります。

あらためて、遷移指標を設定する最大のメリットは、カスタマージャーニーを妄想から計画に変えることです。でもそれ以外にもありますね。遷移指標は数字なので、どこがうまくいってどこがうまくいっていないかが、すごく明解に見える化されます。

「上期はここがスムーズにいったんだけど、下期になってこの行程で一気に離脱が進んだ」と課題が明確化します。そして、ある程度それぞれの遷移率が見えてくると、目標の計画値から逆算してそれぞれの行程の遷移指標の数字を計画値として設定することができますよね。

もう1つ、けっこう大事なことがあって。最初の『マーケティングオートメーションに落とせるカスタマージャーニーの書き方』という本は、どちらかというとMAで自動実行できるカスタマージャーニーという意味で書いたんですね。

MAだけじゃなく、接客ツールやプライベートDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)、CDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)、カスタマー・エンゲージメント・プラットフォームなど……どんどんツールは進化していますが、それらを自動実行する。

もちろんすべての行程で自動実行できる保証はないですが、少なくとも遷移指標がないと、自動実行は絶対にできない。客がある行動をしたら、自動的に打ち手を変えるためには、必ず遷移指標が必要です。

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