40代は、実は30代の延長ではない

大塚寿氏:続きまして40代ですね。私の40代の本は一番売れるのでガンガン書いてきました。取材も随分させていただいたんですけど、要は「40代の壁」って「いつまでも同じようには働けないだろう」という見えない壁、漠然とした不安。これはまさに今日参加していただいたみなさんの事前アンケートの質問にあった、まったく同じフレーズをお借りしています。

どうしてこういうことになるかというと、実は40代は人生最大の転換期なんですね。マラソンで言うと走る方向が変わるみたいな話で、往路と復路で、箱根駅伝の坂道が今度は下りになりますよね。

走る方向と上りも下りもまったく変わっちゃうみたいなことで、大きな転換点なんですね。なので「40代って実は30代の延長ではない」と知っていてほしいんです。というのが、40代はやっと裁量が増えて自由に仕事ができるようになる、ほんの短い期間なんですよね。

それまでは20代30代って、上司や組織本部の命令とか指示で仕事をしていて、自分のやりたいことや、下手をするとお客さま思考よりも上司思考というか。これは悪い意味で言っているんですが、お客さまより上司に支持されるほうが大事な組織でさえあったと。

それも含めて指示・命令が多くて、自分で好きにやれる期間って組織の中だと非常に短いんですよね。やっと40代になると組織を預かったりリーダー的な地位になって自分のやりたいようにチームを回せるようになるんだけど。

自分がプレイヤーや部下だった時に「自分だったら、私だったらこういうやり方でやるのに」と思っていたことも、今度は自分が管理職やリーダーになった途端に金縛りになったように前例を踏襲したり、今までのやり方で無難にやろうとして、みんな後で後悔するわけです。

「敗者復活のチャンス」を逃さないために

ということで、40代はぜひとも新しいことにチャレンジしてほしいんですね。40代ってちょっと別な見方で言うと、敗者っていうと恐縮ですけど、敗者復活のチャンスだったりするんですよね。走る方向が変わってゲームのルールが変わるから、今までは負けていたり頭角が現せなかった人間がグーッと伸びてくることもあるんです。

よく「十で神童、十五で才子、二十歳過ぎれば只の人」って大器晩成的な言い方があると思うんですけれども、まさに組織企業の中の大器晩成が、グッと頭角を現すのは40代だったりするんですね。

その理由は申し上げたように、組織で求められるものが変わるからです。ここで自分の業績だけではなくて、チームの業績とか新しい価値が生み出せるかどうかで評価が決まるから、30代までと評価軸や組織の序列が変わってくる。

今度は前例を踏襲したり守りに入ると、そこで停滞しちゃうんですね。抜擢もされないし、無難な人ということで。ましてや今みたいな経済環境だと、見向きもされない人になる可能性がある。

25年ほど前、私が40代になった瞬間にちょうど『チーズはどこへ消えた』というベストセラーがあって、「新しいことをやらないとどんどんダメになるよ」みたいな一節をオフィスの壁に貼っておいたんですけど。

それをちょっと今ここで読ませていただくと、4つフレーズがあります。まず、「自分のチーズが大事であればあるほど、それにしがみつきたくなる」「新しい方向に進めば、新しいチーズが見つかる」「古いチーズに早く見切りをつければ、それだけ早く新しいチーズが見つかる」「従来どおりの考え方をしていては、新しいチーズは見つからない」。

この4フレーズをずっとオフィスに貼っておきましたけども、そういう意味で新しいことにチャレンジしていくと。「いやいや、そんな高リスクなことできないよ」っていう方がもしいらっしゃったとしたら、さっきの集中体験と似てるんだけど、小さく「ここだけは」と限定して新しいことにチャレンジするのがコツです。

小さいことだから大したリスクにはならないって話ですね。そこで徐々に慣らしていく。さっきの20代のところで申し上げましたけれども、今の時代は正解がわからない。やってみなきゃわからないんで、小さく新しいことにチャレンジして試行錯誤していくのがコツです。

部下の「ちょっといいですか?」に振り回されないコツ

あと40代のみなさんに申し上げておきたいのは、よかれ悪しかれ周りに振り回される10年なんですね。仕事中に、部下後輩の「ちょっといいですか?」に対応して1日が終わっちゃった、という方もいらっしゃるかと思うんですが、あとは家庭でもいろいろ振りまわされる。

子どもや配偶者、パートナー、あるいは親の介護、自分じゃないところで「振り回される」という言葉も悪いかもしれないけども、そういう10年になってきます。あとは、本部とか上司とか報告資料とか(があって)、成果を上げるために時間を使えないわけですね。

報告資料とか(部下の)「ちょっといいですか?」に対応していると、自分にとって重要なところに手がつかなかったり成果が出なかったりするので、ぜひ時間をマネジメントすることを心がけていただきたい。

時間に追われず、時間を追いかけるために、時間割マネジメントじゃないんですけど。小学校、中学、高校と、ホームルームや、国語、算数、理科、社会、英語、体育みたいな時間割があったじゃないですか。あのイメージでスケジューラーに落とし込んでいく。つまり、やることの時間をあらかじめ見積もって、時間割にはめていく感じでやり繰りをしていくといいんじゃないかと思います。

50代の壁は「漠然とした焦り」

ちょっと40代を肉厚にお話ししておきました。そしたら50代に行っちゃいましょう。「50代の壁」は「漠然とした焦り」ですね。漠然とした不安が今度は「漠然とした焦り」に変わるんですけど。それが壁です。

この焦りの正体って実は、「人生の最終盤なのに何にも成し遂げてないぞ」とか「もっとやるべきことがあったんじゃないか」という感情なんですね。上がりが近づいて考える時間ができちゃったり、仕事に打ち込むことでその悩みが消えなかったり、やはりこの焦りの正体って実は「迷い」なんですね。

どういう「迷い」かというと、選択肢が多すぎるんですよ。学生時代の就活以来の、選択肢が多すぎて決められない状況。みなさんの事前アンケートにありましたけれども、そもそも55歳で役職定年になって、会社に残るか残らないか、再就職は自分の力で他に見つけるのか。あるいは会社に残る選択をした後に、60歳の定年をどうするか。

60歳の定年の後に、会社に残って再雇用に手を挙げるのか。あるいは新天地を目指すのか。そこでちょっと起業しちゃおうか。あるいは友人の会社や取引先から声が掛かってるんだけどどうしようかって、いろんな選択肢があるんですよね。

そうすると年収がどうなるだとか、会社の年金のことを考えるとちょっと辞めるのは損だとか、いろんなパラメーターというか要素があるわけですね。考えなきゃいけないことがたくさんあってクルクル考えていくと空転しちゃったりして迷うわけです。

50代からの5年くらいは自分勝手になっていい

そういう時こそ「これしかやらない」というふうに、やはり決めたほうがいい。そのためには自分勝手にならないと決まらないんですよ。これまで30何年間、ずっと会社組織のために生きてきたんだから、50代のあと5年ぐらいは自分勝手になったっていいじゃないですか。

なので、子会社転籍を「嫌だ」って自分で勝手に部署を作ったり、本当だったら他の部署に行かなきゃいけないんだけど、「いや、ここでこういうことをやるから」って交渉して1人りの品質管理部を作ってしまって、後輩に重宝がられたりとか。会社の言うままじゃなくて「いろいろ会社と交渉してもいいんじゃないですか」ということです。

自分勝手の中身なんだけど、まずはご自身がやりたいことと、やりたくないことのバランスを考えましょう。何がやりたくて何がやりたくないのか。いいですか? やりたくないことはなるべくやらないように交渉しましょう。

あともう1つは、自分のモチベーションを保たなきゃいけないということです。みなさん役職定年でモチベーションがクラッシュしちゃうことがありまして。かつての部下が自分の上司になったら誰だってモチベーションが落ちますよね。そういう中でも(モチベーションを)保つために、「この会社に何を遺したいのか」を真剣に考えてみる。

社外の居場所を5つ持つ

もう1つは、それとはまったく対極にある考え方。自分の居場所を5つ以上持ちましょうということです。定年後の選択を考える際に重要なのは、社外の人間関係なんですね。社内の他部署の人間関係も大事なんだけど、とにかく同じ業界の社外の人間関係。

できれば年下で、同僚や同じぐらいの年代でもいいんだけど、そういうところのツテって、実は年賀状のやり取りレベルで声がかかったりすることも実は多いんですね。しかもそれが社外取締役だったり顧問だったりと、けっこう言葉は悪いけどおいしいところで。自分でエージェントに登録してやるよりもよっぽどいいお話があったりして、50代、60代の定年以降の仕事探しって、ツテが最強です。

自分の居場所を作るのは自社以外の趣味でもいいですね。趣味の居場所を一応5つ持ちましょう。それと同時に「人生100年」で人生設計をしていくということ。年金がもらえたとしても心許ないんで、年金プラス10万円と言わず、20万円とか25万円とかあったほうが楽しく遊べるじゃないですか。

お孫さんや友だちに大盤振る舞いもできちゃったりするし、あるいは子どもさんに支援ができたりもするし、60代とか70代以降は豪遊する。明るく元気に、楽しく遊んで過ごしましょうと、ずっとアリさん生活みたいなことですね。

そのためにはやはり収入があったほうがいいということで、週3日働いて週4日遊ぶみたいな、そんな楽しい「人生100年」で人生設計をしていただくことを前提にするのがよろしいんじゃないかなと。

その人間関係を50代のうちから作っておこうじゃないかということで、地域のコミュニティでもいいし、ボランティアでもいいし、趣味のゴルフとか野球とかサッカーとか、あるいは音楽、あるいは車の改造とか。バイクでももちろんいいと思うんですけど、そういう居場所を5つ以上は持ちましょう。

ジュネレーションギャップをあえて楽しむ

事前にいただいたアンケートの中で、今の居場所(の話)とちょっと近いんですけど、ジェネレーションギャップみたいなご質問がありました。

これは有名な話なのでみなさんご存知かもしれないんですけど、4,000万年前のエジプトから発掘されたパピルスを解読してみたら、「今の若い者は」と愚痴が書いてあったと。いつの世代になっても「若い者は」になっちゃうんで、もう無限にベクトル合わせをするしかないですよね。

あとはもっと健全なのは、斜めの人間関係ということで、例えば趣味。釣りとかゴルフとか鉄道、合唱、バイクとか(何年も)続けた趣味の人間関係を考えると、年齢、関係ないじゃないですか。

友だちの息子さんや娘さんと一緒にゴルフでラウンドするとかテニスしたりとかもあるし、釣りの趣味なんかも斜めで切っていくと、ぜんぜんジェネレーションギャップって感じないじゃないですか。むしろ(ギャップが)おもしろいみたいな。

ということで、あとはダークサイドじゃなくてブライトサイドのいい部分を見てあげて、そういう中でジェネレーションギャップのベクトル合わせをしていったほうが、幸せに生きられるのかなと。無限のベクトル合わせが大事だと思います。

組織の生産性を上げるのは、努力よりも仕組み

あと60代の経営者の方で「生産性を上げる努力をして残業を減らしてほしい」というお話がありました。これは努力という気持ちのエモーショナルな話じゃなくて、仕組みで回していかれた方がいいのかなと。

とにかく今はDX時代。営業で言うと、例えば今インサイドセールスでお客さまのところに訪問せずに2,000万円くらいの案件を電話とメールとオンライン相談だけで、クロージングまで持っていくケースも出てきてますので。そういう生産性の高い新しいやり方がたくさん登場しているんで、その仕組みを一番に考えていただくといいのかなと。

あと31歳の方から「再現性を持たせる営業プロセスの構築や、全員で予算達成をする難しさに壁を感じています」と。これは見本と手本をベースに明文化してほしいんですね。「こうです」と工程を明らかにして、メンバー同士が学び合って高めて、能動的に予算達成できる仕組みがいいですね。

そもそも全員で予算の達成ができたとしたら、予算の立て方が間違っています。いいですか? (予算が)低すぎます。だから、だいたい7割の方が目標達成をするぐらいが適切な目標設定だと、まあまあ多くの業界では言われています。

ですから仕組みとかマネジメントの中でベースを作って、「ちょっと(目標に)いかなそうだな」という場面でフォローしていくと。クロージングに立ち会うとか同行営業したりとか、個別教育したりとか。あるいは担当を変えるとか、いろんな工夫をしてみるのが良さそうです。

適正な目標設定って、各個人に割り振るとすれば、例えば本人の能力掛ける1.07倍。人間は7パーセントぐらいは「がんばればできる」って思えるので、ちょっと四捨五入しても持ってる能力プラス10パーセントぐらいで、目標設定のマックス。というのは、25パーセントアップとか50パーセントアップとすると、最初から諦めて(目標を)追わなくなっちゃうので。

さらに言えば自己決定(が大事です)。どこかで「この数字をやります」っていう自己決定の場面を作るといいですね。嘘臭い指示命令に対して人はやはり本気にならないんで、「どうやって本気にさせるか」を考えられるといいのかなと。

最後のご質問です。ちょっと最初に言っちゃいますと、55歳の方から「役職定年の中でも、特に早期退職すべきか、定年まで留まるかで迷っている」という話なんですが。御社の企業さんの割り増し退職金と企業年金といった条件だけじゃなくて、みなさんのスキルとキャリア、人間関係、夢、やりたいこと、望む収入といったことで決断されるといいと思います。

司会者:大塚さん、ありがとうございました。

大塚:ありがとうございました。