クラウドERPでサステナビリティ経営は実現できるか

上硲優子氏:本日はご来場いただきましてありがとうございます。SAPジャパンの上硲と申します。25分という短い時間ですが、「クラウドERPを土台としたサステナビリティ経営の実現」というタイトルでお話しさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。

これからお話しさせていただくセッションは、一部計画中の機能のお話、コンセプトのお話も含めますので、ディスクレーマー(責任に関する注意事項)を挟ませていただきます。ご了承ください。

本日は、今出ています3つのトピックでお話しいたします。まず、ご来場いただいているみなさまの中には、もしかしたらすでにサステナビリティ関連の取り組みをしている方、関わっている方がいらっしゃるかもしれませんが、まずはみなさんと認識を合わせる意味も含めて、動向や状況をお話しさせてください。

昨今、当たり前のように「サステナビリティ」が経営テーマとして挙げられています。すでに多くの企業でCSR活動の一環として取り組みを行っています。

サステナビリティやESGといった取り組みを促進させるような動き……例えば国や投資家からのESG、サステナビリティ関連の情報開示の要求が出てきたりします。

消費者や投資先などから商取引の参入条件として、サプライヤーに対してESGの情報、例えばCO2の排出量や人権をしっかり尊重した活動を行っている情報を開示しないと、取引には参加できなかったり、小売業界では棚に乗せられないといった企業が出てきています。

当然ながら企業のブランディングや、製品力・競争力を上げていく観点で、サステナビリティを採り入れる企業もあります。そういった「なぜ企業としてサステナビリティに取り組まなくてはいけないのか」を見ていくフェーズは、もうほとんどの企業で終わっています。

今どういう状況にあるのかが、次のテーマの「How」です。ここにいくつか「脱炭素」や「サステナブル調達」といったトピックを出していますが、そういったものに対してどのように取り組んでいくかを具体的に検討していくステージに立っているのが理解できます。

サステナビリティのデータをどう活用するか?

では、そういった取り組みを始めていく第一歩として、関連するデータをどのように取っていくのかについて、もう少し見てみましょう。こちらは経済産業省が取ったアンケートから抜粋しています。

スライド左側の「サステナビリティ関連のデータをどのように活用していますか?」についてです。青字の87パーセントといった多くの企業で、企業の価値創造や投資家との対話、開示といった利用シーンでサステナビリティのデータを使っていることが分かります。

具体的にサステナビリティといってもいろいろありますが、どういったデータを使っているのかという問題に対しては、赤い部分がトップ3になっています。「気候変動や脱炭素に関して」「人事や労務」「人権」に対して、いろいろとデータを集めている企業が多いです。

一方、サステナビリティという観点では、例えば生物多様性などもあります。それについて、まだそんなに回答が伸びていない背景としては、具体的に何をKPIとすればいいのか、どういったデータを取ってくればいいのかが、CO2排出量などと比べるとはっきりと出てきていません。企業として優先度が少し下がっているのかなと思います。

そういったデータを活用している・活用しようと思っているステージにおいて、実際にデータを取る上で、どういったところを課題として感じているかという問いに対する回答が右側のグラフです。これに関して言うと、データ収集をするためのプロセス自体が未整備だったり、不十分なところもあります。

特にGHG(温室効果ガス)、CO2排出量などに関しては、自社だけではなく、今後Scope3という自社の外のサプライヤー等からデータを取ってくるところやサプライチェーンやバリューチェーンをまたいだところでどうやるかを課題として感じている企業が多いのがわかります。

正確なデータの収集がより大事になる

そういった現状や、企業が抱えていらっしゃる課題に対して、SAPとしてどう考えているか。またどういった製品をご提供しているのかについて、簡単にご紹介していきます。

冒頭で少し触れた開示規制への対応や、商取引への対応を考えると、サステナビリティデータの取り扱いも、いかに粒度を細かく持っていくか、もしくは裏付けがある正確なデータを集めてくるかが大事になってくるのではないかとSAPは考えております。

そのために、このスライドの上部に「RECORD」「REPORT」「ACT」という3つのアプローチがありますが、要はいかに実績に即したデータをちゃんと収集して分析を行い、その結果として見えてきた課題に対して、ビジネスプロセスに反映させるかたちで改善していく。そのためには、この3つが必要ではないかというのがSAPの考えです。

この考え方は、私自身も思うことではあるんですが、ERPにおいて業務プロセス……会計であれば販売や調達や生産といったプロセスから連携するデータを使って、実績データに基づいたものをタイムリーにしっかり分析して、業務プロセスに反映させて改善につなげていこうと。

そういった、ERPで我々がずっとお伝えしてきたようなコンセプトが、ESGやサステナビリティといった領域でも求められるようになってきているのではないかと思います。

「サステナビリティ」の範疇はどこまで及ぶか

そのサステナビリティはどういったところまで含めるのかというと、かなりいろいろあると思っています。一番イメージしやすいのは、カーボンニュートラルや脱炭素です。それ以外もスライド下半分の部分にあげています。下に3つ「ゼロ」から始まる箱と、その上に被せるかたちで1つ青いものが入っています。

まず左下の「Zero Emissions」は気候変動対応・脱炭素に関わるところです。いかにCO2排出量をゼロにしていくかに関連するトピックスです。

その右の「Zero Waste」が、いかに廃棄物をなくしていくか。よく「循環型経済」「サーキュラーエコノミー」といったキーワードが出てくるところがありますが、そういったものに関するテーマです。

3点目の「Zero Inequality」は、不平等をいかになくしていくか。例えば、従業員に対してであれば、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンなどが代表的です。社外に目を向けると、サプライチェーン上の人権尊重や人権デューデリジェンスといった、サプライヤーに対してどう対応していくかがここに含まれます。

最後に「包括的な意思決定・レポーティング」です。これ自体は従来、売上や利益などの財務指標をいかにしっかり見ていくかが重要でした。

最近それに追加して、こういったところで収集される、例えばCO2の排出量や女性管理職比率などの非財務指標も、併せて統合的に見ていくところを支えるテーマになります。

我々SAP社自身も、こういったカテゴリーの下で自社として活動を行っていますが、また一方でこの分野で課題をお持ちのお客さまを支援するための製品を開発して、ご提供している状態です。

カーボンデータは「リソース」として取り扱われるべき

本日、個々の製品の詳細のご説明をしていくと、25分では絶対足りないので割愛しますけれども。特に脱炭素のトピックに関しては、5月に行われた「SAP Sapphire」というグローバルイベントで大きな戦略の発表がありましたので、ご紹介させてください。

その方針は、このスライドのタイトルにある「Carbon Accounting」になります。SAPのビジネスの中核に置かれているERPは「Enterprise Resources Planning」の略です。「R」はリソースなので、従来「ヒト・モノ・カネ」みたいなものが代表的なリソースでした。

先ほどから紹介している状況を見ていくと、カーボンデータも企業にとってリソースとして取り扱われるようになるべきではないのかという視点から生み出されたコンセプトになります。

なので、実績データに基づいてしっかり算出されるようになるべきだし、今請求や支払いといったデータが全銀協のフォーマットを通じて会社間でやりとりされているのと同じように、カーボンデータのやりとりが実現されるようになるべきです。

さらに、カーボンデータをしっかり管理していくかたちで、会計の総勘定元帳と同じようにカーボンデータも元帳的に見て、それを経営や業務に活かしていくために、「Green Ledger」「グリーン元帳」を今後SAPとして開発して、お客さまにご提供していきますよといった考えを発表させていただいたのが5月になります。

コンセプトの「Carbon Accounting」を実現するために

「Carbon Accounting」というコンセプトを実現するための製品として位置づけているのがこの3点です。申しました通り、個々の製品を話していると長くなるので、これぐらいにとどめます。

真ん中にあるのが「SAP Sustainability Footprint Management」、通称「SAP SFM」と呼んでおります。ERPのデータなどを活用して、製品別のカーボンフットプリント、その製品当たりのCO2排出量がどういったものなのかを計算したり、それを積み上げて組織別にどれぐらいのCO2排出量が出ているのかを算出する製品、ソリューションが真ん中に置かれています。

そういった計算するためのデータや、あるいは計算結果を社外と連携するためのネットワーク基盤として発表されたのが、左側にある「SAP Sustainability Data Exchange」というものです。

例えば「GHGプロトコル」をお聞きになった方はいらっしゃるかもしれませんが、その中のScope3……要は調達品などに乗っかってくる排出量を見るに当たって、正確なデータを計算しようとする場合、今は統計値の1つであるLCAデータを使って計算するみたいな話になっています。

より正確なデータを計算していく場合、実際にはサプライヤーの排出量を直接もらって、それベースで計算します。そこに自社で排出した結果を乗せて、もう一度お客さまにそれを渡すことで、今度はお客さま側のScope3計算につなげていくといった、カーボンのバケツリレーみたいなものが行われます。そういったものを支援するのが、このSAP Sustainability Data Exchangeです。

「SAP S/4HANA Cloud」が持つ役割

スライド右側の「SAP S/4HANA Cloud」が持つ役割としては大きく2つあります。1つがSAP SFM、真ん中の部分でCO2排出量を計算するための実績データ、マスタデータ、取引データのデータ元になります。もう1つが、ここに「Green Ledger」と先ほどお伝えしたものがありますが、SAP SFMで計算された排出量を受け取って経営や業務に活用していく基盤です。

Green Ledger自体は先ほどお伝えした通り、今後将来的にクラウドERPを推進していく「RISE with SAP」等に通じて段階的に提供していくものですので、将来のお話になりますが、こういったかたちでCarbon Accountingの発表をしましたし、そういうメッセージをお客さまに伝えています。

真ん中にあったSAP SFMは、この下段にバックエンドシステムとありますが、ERP、SAPであればSAP S/4HANAからマスタや取引のデータを収集して、それ以外の要素……例えば、排出の係数や電気やガスの使用状況を直接入れ込んでいくことで、製品別のCO2計算を行います。

その結果の一例ですが、品目ごとのCO2の排出量があって、それを計算するに当たってどういったものから積み上がってきたのか。原材料から派生したCO2なのか、設備の電力から派生したものなのか。この品目のCO2排出量が他の品目にどのように使われているのか。

こういった積み上げや関係性を表したり、Scope別の排出状況などが見えます。そういったところを支援するものになっています。

ですので、こういったCO2排出量の計算を考えた時に、ざっくり言うと活動量が重要になります。どれだけ工場のボイラーを燃やしたか、どれぐらい物の調達をしたかに対して、排出係数を掛けることでざっくりとした計算になるのですが、その活動量という意味でのERPのデータを活用していく中で、より正確なデータを使う意味にもなります。

現場業務の負荷を上げない仕組み

現場の方の業務も、すでに調達などの業務をERPでやっているのであれば、それをそのまま活用いただくことで、あまり現場の方の負荷を上げずに、こういったところまでの対応を支援させていただいています。

排出係数についても、サプライヤーから直接データを取ることもありますが、いきなり全サプライヤーに話を聞くのは当然大変だと思います。

そういった観点で言うと、LCAデータやその他二次データなども使いながらやっていき、そこで特に排出が多いところ、影響が大きいところを見た上で、そこについてはより細かくやれる仕組みを提案、提供させていただいています。

排出量のところ、気候変動のところをご紹介していますが、当然それ以外の部分。例えば製品やパッケージングの素材構成を管理して、使い捨てプラスチック使用の抑制や、トレーサビリティなどに関しての循環型経済に関連する製品もあります。

先ほどお伝えした通り、従業員に対するダイバーシティ&インクルージョン、サプライヤーに対しての対応に関する製品や、従来の財務指標だけではなく、GHG排出量と非財務データに関するデータをERPやその他アプリケーションから収集してきて見せるようにすることも併せて、今お客さまにご紹介をさせていただいています。

サステナビリティ領域におけるSAPの強み

こういったサステナビリティの領域においては、SAPも参入してきた会社の1つではありますが、スタートアップ企業も含め、今いろいろな企業が参入してきている状況です。その中で、SAPはどういった点に強みを持っているかをここに挙げています。

1点目が「見せる」ところ。それはもちろん可視化という観点でとても大事なんですけれども、SAPとしてもう一つ大事だと思っているのが、見せるためのところにどこからデータを取ってくるか、どういったプロセスを経てデータを取ってくるか。そういったところも、従来のERPの知見を活かすかたちでカバーしていくことを挙げています。

なので、先ほどの例ですと、ERPの中に入っている調達や生産などのデータを活用していくことで、その部分までカバーしていきます。SAPだけが独りよがりで作っているわけではなくて、関連団体やパートナーと作ることで、そういったところで話が上がっているものを標準機能として採り入れる体制です。

これ自体はERPでも必要なものをいろいろと標準機能として組み込んできて、似たようなものがあります。それをこのサステナビリティの領域でもやっていることが挙げられます。

気候変動や脱炭素に関する部分を中心として、SAPがどういったことを考えて、それに対してどういった製品を今ご提供しているかという部分を簡単にお話しさせていただきました。

クラウドERP活用の価値

最後にあらためてクラウドERPと組み合わせる、ないしは土台として活用する価値について、まとめを兼ねてお話しさせてください。

クラウドERPなどに付随するソリューションやサービスをパッケージした「RISE with SAP」「GROW with SAP」もありますが、そういったものを経てクラウド化していく、クラウドERPを活用していくことを考えた際に、クラウドERPではいわゆる「Fit to standard」という考え方で、業務の標準化を図って効率化を促進していく考えが根底にあります。

具体的に申しますと、マスタやトランザクションのデータをいかにしっかり標準的に整備していくか。あと、属人化や組織に依存したプロセスではなく、そういった標準のモデルのプロセスを使うことで標準化を促進していくところです。

そういったものを使うことで、ここに「Top Line(売上)」や「Bottom Line(利益)」という従来の経営指標を効率的に管理していきましょうと、メッセージを出しています。

こうしたものにCO2排出量を算出するような仕組みなどを組み合わせることで、SAP S/4HANA、クラウドERPと連携しながら、あまり現場の方に負荷をかけずにサステナビリティに関連する処理を実現していく。

SAPとしてTop Line、Bottom Line以外に「Green Line」を提示をしていますけれども、そういったものを実現していき、そこでクラウドERPの中で整備されたデータの活用を挙げています。

サステナビリティ経営実現は、まずクラウドERPから

少し将来の話になってしまいますが、「Green Ledger」はどんな感じのものを作ろうとしているか、クラウドERPでの経営価値といった一例として挙げさせてください。

もともとSAP S/4HANAの中では、先ほどのSAP SFMで計算された結果を、今現在、例えば在庫の一覧と組み合わせることで……その在庫ごとのCO2排出量を見せるものはあるんですが、それをさらに発展させて、先ほどのGreen Ledgerのような、会計データと並ぶかたちでサステナビリティ要素を入れようとしています。

ビジョンとしては、例えばP/Lの横にそれに関わったCO2排出量がどういうものがあるのか等を見せていくところです。そういうものを使うことで、金額情報だけではなく、そういったCO2排出量も分析や計画に利用していく。言うなれば、管理会計的にCO2を使っていくことを考えています。

今まで紹介してきた動向やSAPが考えていることを、将来の部分も含めて見ていきます。サステナビリティを広く見ていくと、まだこれから制度的に固めていく部分もあるかと思いますが、どうやってデータを取ったらいいのかについては、十分ITで支援できる部分です。

それをより効率的にやっていく上では、きちんとどれだけ元データを使いやすいかたちで保持するか、今後いろんな変化が出てくるところがあります。なので、そういったものにいかに対応できるようにしておくかという観点で、クラウドERPを土台として、併せてERPのクラウド化を考える。

その一歩先にサステナビリティの取り組みをやっていく上では、まず第一歩としてすごく有益なものになるかと思います。

今後みなさまの中でクラウドERPを推進していくという上では、そういった観点も検討していただけると我々としてはすごくありがたいですし、今後の上で心強いところになります。

最後にものすごくお時間が限られていたので、かいつまんでご紹介してしまいましたが、「もう少し詳細を聞きたかった」ですとか、具体的にどういったものがあるのかをお知りになりたい方がいらっしゃいましたら、お声がけ、お問い合わせいただければと思います。本日はご清聴いただきありがとうございました。

(会場拍手)