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長田敏希『ブレイクスルーブランディング』×近野 潤『うまいを上手く伝えて売れるを作る。驚きの商品開発術』出版記念イベント(全5記事)

“1日1個売れるかどうか”の駄菓子を売上トップにしたマーケ術 視点を変えると見つかる、今ある商品の新たな価値

ヒット商品を生み出すノウハウを解説した『ブレイクスルーブランディング』『うまいを上手く伝えて売れるを作る。 驚きの商品開発術』という2冊の書籍をテーマにセミナーが開催されました。著者の長田敏希氏と近野潤氏が、商品開発やブランディングにおいて大切な「想い」というキーワードを元にヒットの秘訣を解説します。本記事では、一見生産性が低いようにも思える駄菓子を、売れ筋トップにするまでの取り組みを紹介します。

前回の記事はこちら

駄菓子業界にある不安定なイメージを打破するために

長田敏希氏(以下、長田):こちらも少し触れます。みなさんもうお馴染みかなと思うんですが、3C分析。自分たちの特徴みたいなところで、「駄菓子の菓匠を目指していこうよ」とか、駄菓子の業界はちょっと不安点というイメージをお客さまは持たれているので、「安心・安全をより強化していこうよ」とか。

駄菓子業界をもっとイメージをリードしていくような企業になっていこうということで、業界のイノベーターになって改革していこう、というところを設定していきました。

あとは競合先でいうと、先ほどありましたチョコレートも市場的に大きな市場なので、「どういう価値を出していけば自分たちの商品を選んでいただけるんだろう?」ということ一緒に考えていったりしました。

先ほどアンケートにもありましたが、主婦の方とかにインタビューをした時に、「駄菓子って、着色料とかちょっと体に悪いイメージがある」という意見が多かったので、そこを解決するような商品がニーズにも合うんじゃないかというところも、いろいろとディスカッションして方向性を固めていきました。

「駄菓子のおいしさと文化を伝える駄菓子の匠」というところを1個(目標として)置きまして、その中で、カラダにいい素材を厳選し、駄菓子の文化に貢献していきたいという想いも、自分たちの言葉で整理しました。

こちらの図は(左が)駄菓子と駄菓子の匠。右上にはお菓子とかおやつとか、少しジャンクな商品が入ります。そして右下が、よく菓匠や上菓子と呼ばれるようなラインです。

駄菓子のカテゴリーの中で、もう少し商品のグレードやこだわりをしっかり訴求していくような駄菓子屋さんを目指していけると、他にない価値が生み出せるんじゃないかというところがありました。その中で、先ほどの「原料にこだわる」というところもうまく連動して、それをどういうふうに伝えていくのか、という流れになった経緯がございます。

キャッチコピーは「はじめてなのに、なつかしい」

長田:そうして進めていく中で、ブランドのメッセージというかたちで、200文字ぐらいの文章にまとめていく作業も重要視しております。

実は、このパッケージの裏面にこういったメッセージが入っているんですが、「はじめてなのに、なつかしい」。もちろん昔から知っている方もいらっしゃるんですけど、お子さまとか「食べたことない」という方もいらっしゃって、初めてなんだけど素朴で懐かしいというような、心の気持ちをキャッチコピーに入れてみました。

「小さな子どもでさえ『なんか、なつかしい味だね』なんて口にします。それはきっと、カラダにいい自然素材で作っているから。素朴な香りと、自然な甘さがそう想わせるのかもしれません」と、少し頭の中で想像させるような文章で構成しています。

その後、創業のルーツだったり、原料のこだわりを引き込んでいって、最後に「子どもたちと、その昔、子どもだったすべての人へ。昔ながらの、健やかなおいしさを」。先ほどあった、ちょっと固めのブランドの方針やコンセプトを、もう少しエモーショナルにメッセージを展開して、パッケージに表記する工程を踏んでいきました。

次は、言葉に変えた後に視覚化する。こちらの駄菓子屋さんのロゴマークがすごく小さくて、折りのところにロゴマークが入ってしまっていて、なかなか会社の名前を認知していただけないところがありました。

あとは、100円均一さんとかで自社の類似商品みたいなものが出てしまって、市場が奪われてしまっているところもあったので、しっかりお名前を表現していこう、伝えていこうということで、課題感を突破するためにやっていきました。

顧客との接点にもなるロゴマークの重要性

長田:その中で、先ほどの「駄菓子の匠」という、懐かしさと上質さをどういうふうに視覚的に展開するのかとか、創業のルーツやストーリーをどういうふうに表現していくのかを起点にしていきながら、企業のロゴマークなどから整理をしていきました。

街中でも、みなさんはロゴマークに触れていると思うんですが、やっぱり一番のお客さまの記憶の器になったり、接点として多いのが企業のロゴマークです。なので、そこの部分からしっかり整理していこうということでスタートしました。

先ほどの企業のルーツをしっかりと表現していきながら、匠感や上質さを、ロゴマークのフォントで表現していくということで、オリジナルで作っていった経緯がございます。

こちらがbefore・afterです。(beforeでは)ロゴマークがほとんど見えず、企業名がなかなか認知できませんでした。それをafterでは課題解決しています。

あとはこちらの駄菓子屋さんから「デザインをあまりチェンジしすぎないで、ブラッシュアップしたい」という方針がありましたので、大事にされていたデザイン要素はしっかりと配置しています。

それから国産の蜂蜜、無添加・無着色などの原材料のこだわりや、保存料不使用の部分をしっかりと表記し、お客さまのニーズに応えていくパッケージを作りました。

実現が難しい抹茶フレーバーの駄菓子を作った背景

長田:その中で抹茶フレーバーが出てきたんですけど、ぜひこれをご紹介いただけたらと思います。

近野潤氏(以下、近野):ありがとうございます。普通、抹茶と言ったらどこが有名ですか?

(会場の人の意見を聞いて)

京都ですよね。京都宇治抹茶が有名だと思います。でも今回は、あえて出雲の抹茶を使っています。出雲に行かれたことがある方はいらっしゃるかと思いますが、(出雲は)日本が生まれた大事なところでもあります。

その出雲の抹茶をどうにか使えないかと産地に行って、ほとんど世に出回らない貴重な抹茶を使って駄菓子を作るチャレンジをしたんです。しかも、誰でも手に取れる100円という価格で取り組ませていただきました。おかげさまで、今でも売れている商品になっています。

長田:これは、史上初フレーバー。

近野:そうですね、抹茶の駄菓子はけっこう難しいんですよね。なんで難しいと思いますか? 答えますか? どうぞ(笑)。

(参加者が答える)

近野:「練り込むのが難しい」、ありがとうございます。「香りが消えちゃう」、そうなんです。香りが消えちゃうのが(理由の)1個で、もう1個あるんですよ。はい、どうぞ。「色が変わる」、正解です。すばらしい。拍手をお願いします。

(会場拍手)

近野:ちょっと回答のレベルが高すぎて。

どこの企業もやっていない駄菓子の製造にチャレンジ

近野:普通の駄菓子屋さんの機械で、色を変えないで香りを残すのにはどうしたらいいんだいと。駄菓子屋さんには専用のラインがあるわけではないので、一度抹茶を作ってしまうとラインが緑色になっちゃうんですよね。

そうすると掃除するのがめちゃめちゃ大変なので、どこの企業もやっていない。その理由は、これを作ったら生産性がめちゃめちゃ下がるからなんです。でも、どうしても出雲の抹茶とつながってやっていこうと。

今までは(パッケージが)透明な袋だったんですが、色を変えないためにアルミ蒸着にして、アルミの袋にしてやっていこうとか。香りが消えずさらにおいしくするには、どういう配合でやったらいいんだろうとか。

本当にもう何百回も試作をし直して作ったのが、この抹茶フレーバーなんです。100円で売らなくてもいいんじゃないか? というほどの、こだわりの商品になったかなと思います。

長田:これは2つとも100円ですよね。

近野:100円ですね。

長田:先ほどの原料のこだわりだと、金額を抑えるのはなかなか大変……。

近野:そうですね。だからどうでもいい話ですが、抹茶のほうは8本になっていて、(プレーンのほうは)10本になっています。

100円(という値段)を変えてしまって、例えば抹茶が120円になると間違いなく売れないですね。なぜなら、世の中プレーンを超えるフレーバーはないんですよ。これはポテトチップスでも証明されているし、ほかの商品でも、もしかしたらフレーバーのほうが売れている商品はあるかもしれませんけど、あまり見たことがない。

例えば、みなさんが大好きな「チョコモナカジャンボ」。モナカのアイスクリームがあると思いまが、あれよりもバニラのほうが売れることはなくて、本質の「チョコモナカジャンボ」のほうが売れている。

ポテトチップスやせんべいもそうだと思いますけど、フレーバーが基本のものを上回ることはたぶんないかなと思います。だから(抹茶きなこ棒も)同じ100円で取り組ませてもらいました。

長田:定番が重要ということですね。

近野:定番が重要ですよね。

一見生産性の低い商品が売れ筋トップに

近野:こちらの写真はマンゴーの時と同じで、売り場に立って取り組ませてもらった時のものです。社長がかっこよかったということもありまして、若い主婦がすごく集まってくるんですよね。お菓子でも集まるんだなと、新たな発見でした。

それから一番売れたお店では、1日で1,500袋も売れたんですよね。私も小売業でいろいろな商品を売ってきましたけど、たぶんこれを抜くことはできないだろうなと思うんです。どう考えても、お菓子で1,500袋はもうないかなと思うぐらい売れましたね。

長田:駄菓子って、スーパーではなかなか売れない。

近野:スーパーでは駄菓子売り場をやっているお店もありますし、みなさんが行くコンビニでもあると思いますが、どうでしょう? 多くて1本の棚で駄菓子をやっていると思うんです。

幸せだったのは、ヤオコーという会社が駄菓子にしっかり取り組んでいる会社だったこと。ヤオコーに行ってもらうと、だいたい6本ぐらいの駄菓子売り場があります。

みなさんもわかると思うんですけど、(駄菓子は)非常に単価が低いですね。「うまい棒」は少し値上げして12円ぐらいなりましたが、12円のものから、高くて100何円のものをあれだけ陳列するのは、生産性は非常に低いです。けれど、それによって「あのお店に行かなきゃいろいろな駄菓子がない」となれば来店優位になる。

ヤオコーはそこを大切にして、一見生産性が低い商品でもしっかり売り場を取ってやっていた。そんな中で、この駄菓子商品をやらせてもらったんです。

驚くのは、ヤオコーではもともとこの駄菓子は売っていなかったんです。売っていなかったものが、今ではたぶんトップで売れ筋商品になっている。今までの取引先さまでは出てこないものでも、広い視点でマーケットを見ることによって、まだまだあるもので売れるものが世の中にたくさんあるんじゃないかなと思います。

誰も見向きもしなかった商品が、月に最も売れる商品に

長田:当時テレビやメディアの方がすごくたくさん集まられたんですが、ここでご注目いただきたいのが「カラダに良い駄菓子」というキーワードを、メディアの方がしっかりキャッチアップしてくれたこと。今は、なかなか無添加という言葉を使いづらくなっていますが。

メディアの方がちょっと誤解して発信してしまうとズレが出てしまうので、伝えたい部分をしっかりと固めてコミュニケーションをしていくと、ちゃんとキャッチアップしてもらえるので、そこから広げていくところが重要かなと思っています。

あとは、新しい抹茶のフレーバーというところでも、ニュース映えする要素があったのでうまく複合して、テレビで告知いただけました。初速はかなりの売りで……。

近野:そうですね。詳細の数字は言えないんですが、みなさんがイメージされる有名なお菓子などは広告に特売で入ると売上が高くなります。その中において、この駄菓子を発売した6月は、すべてのお菓子の中でもかなり上位に入る事が出来ました。

先ほどの冷凍食品(の例)と一緒なんですが、誰も見向きもしなければ1フェイスしか並ばない、1日1個売れるか売れないかという商品です。でも、ちゃんとストーリーと思いを乗せてメディアまで広がっていくと、1ヶ月で一番売れるお菓子になった。おかげさまで、そのあともずっと売れる商品になっています。

今ある商品でも、伝え方やブランディングを見直すだけでやれることはたくさんあるんじゃないかなと実感しました。その時は、どのヤオコーに行ってもエンド展開がこの駄菓子だったんですよね。

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