商品開発の達人×ブランディングのプロが教えるヒットの秘訣

長田敏希氏(以下、長田):今日は『ブレイクスルーブランディング』という私の本と、近野さんと一緒に書かせていただいた『うまいを上手く伝えて売れるを作る 驚きの商品開発術』という本の、2冊の出版記念イベントとさせていただいております。みなさん、本日はよろしくお願いします。

(会場拍手)

長田:じゃあ、私たちのことを知らない方もいらっしゃるので、自己紹介からさせていただきたいと思っております。

最初に私から、簡単にご説明をさせていただきたいなと思っております。株式会社ビスポークの代表取締役の長田敏希と申します。

ビスポークという会社を初めて聞いたという方も多くいらっしゃると思うのですが、企業のブランド構築のコンサルティングと、デザインをワンストップで行なっていますいい商品を作っているのに、なかなか売れない。商品の魅力をどう伝えていけばわからない。というような課題感をお持ちの方に、寄り添ってサポートさせていただいています。

最終的なコミュニケーションのデザインを、クライアントと並走していきながら、細かくサポートしていくことを生業にしております。

近野潤氏(以下、近野):近野と申します。Enjin Plusの代表をしています。長田さんのビスポークの執行役員もやらせていただいています。

セブン-イレブン・ジャパンと、スーパーのヤオコーというところを卒業しまして、今は商品開発を中心に、いろいろなクライアントさんの商品開発の不の解決をしながら、アウトプットをする仕事をしています。

また商品開発の他にも、人材育成、コミュニティ運営という事業を通じて、微力ながら、日本がワクワクできる社会を作っていきたいと考えております。よろしくお願いします。

(会場拍手)

共通するキーワードは「想い」

長田:本の中身は読んでいただくとわかるかなと思うので、今日は裏話だったり、少し体験型のクイズも出しながら、考えていただくお時間も取らせていただきたいなと思っていますので、よろしくお願いします。

今回はこの2冊がテーマというところはあるんですが、今、執行役員として近野にも入ってもらっていて、この(「想い」という)部分でフィーリングが僕は個人的に合うなということで、一緒に(本を執筆)させていただいたところがあります。

想いの部分を、しっかりと掘り出して伝えていくという部分が共通点としてあったかなと思っていまして、この2冊もそこが共通でテーマとなっております。

ブランディングというところで、想いを伝えていく部分も大事かなと思いますし、商品開発もやっぱりこの部分が共通点かなと思いますので、今回はここらへんの部分をご説明したいと思っております。

ちょっとこれは企業向けっぽくなってしまうんですが、例えばデザインだったり、何かサービスを伝えていきたいと企業が思った時に、今までは企業が「こういうことをやりたい」というところを自社で整理して、デザイナーや広告会社など、外部の方にお願いするスタイルが多かったかと思います。

今回、本でも触れているんですが、例えば企業と外部のパートナーの方が一緒に対話して、課題から見つけていって、そこをどう解決していくのかを共創しながら見つけていくことが、今の時代として重要かなとも思っております。

「ブランディングでは、ブランドのコンセプトを立てることが重要ですよ」というところを2つの本でもご紹介しています。

この共通した軸を作れることによって、チームで「こういうふうにブランドを作る」という共通言語ができたり、「こういうふうに一緒に作っていけばいいんだ」と共有ができることによって、パワーが増してくるのかなと思っています。

プロジェクトを進めるための「巻き込み力」も大切

長田:例えば「ブランド」という言葉でも、チームで認識が違うと循環がうまく回らなかったり、ビジネスとしてお客さまにしっかりと届かなかったりするケースが多くあるかと思いますが、しっかりとチームで共通言語を作って進めていくことが重要かなと思っています。

なので、チームの作り方、想いの共有の仕方、あとは巻き込み力みたいなところも、2つの本で共通のところかなと思っております。今、近野ともいろんな企業さんでサポートさせていていただく中で、いろんな部署の方を巻き込んで進めていくケースが多かったりします。これは、稲庭うどんの企業さんの例です。

通常だと、こういう外部のパートナーさんと広報の方が一緒に話し合って進めていくケースが多いかなと思うんですが、僕らは麺を製造している現場の方にブランドの重要性をお話ししたりします。こういう方の想いもしっかり吸い上げて、企業として伝えていくことが重要かなと思っています。

こちらはだいたい100人ぐらいいらっしゃる企業さんなんですが、全てのスタッフに同じようなことを伝えながら、丁寧に対話して進めていった経緯がございます。

そうすることで「自分たちがこういうブランドを作っていくんだ」という、関与のところがすごく出てきます。自分の意識にしっかりと、自分たちのブランドが根付いていく。自分の企業のファンになってもらうことができるかなとも思っております。

この時は外部の会計士の方とかにも入っていただいて、ディスカッションしたり、試食の体験を通して自分たちの強みを理解してもらいました。

商品開発のポイントは「現地・現物・現実」

長田:今のは、ブランディングという部分の一部の想いの切り取り方なんですが、商品開発というテーマでも、この「想い」が重要かなと思いまして、ここらへんは近野から説明していただきたいなと思います。

近野:はい。想いの部分で、みなさんから「どうやったら想いが持てる商品開発ができるのか」という質問をよく受けるんですが、これは一次情報をしっかり取りにいくことがとても大事です。

「現地・現物・現実」ということを、先日亡くなられたヤオコーの元副社長の小林(正雄)さんから、私は今後も受け継いでいこうと思っています。「現地・現物・現実を知らずして、経営はできないぞ」というお話を、サラリーマン時代に何度も教えていただいて、独立してからもそれを常に意識して取り組んでいます。

これは冷凍マンゴーのお話なんですが、外部の人、もしくは中間業者の人に頼めば商品は来るわけですよね。けれども、自分で産地に行って、土や木や葉っぱの状況をしっかり見ずして、お客さまに本当においしいものは届けられないなと思っていて。これは、セブン-イレブン時代からヤオコーの時代も、常に意識してやってきたことです。

もう1つは、いろんなバイヤーさんとお話しして、自分が唯一違うところ……と言ったらあれなんですが、例えばこのマンゴーの冷凍食品が通常の売り場で普通に並んでいたら、1店舗あたり1日何個ぐらい売れると思いますか?

(参加者を指して)

「50個」。ありがとうございます。(答えは)0.5個です。1個に満たないんですよ。冷凍食品というのは、あれだけの冷凍食品がある中で、1アイテム並んでいても1個売れないんですよね。

ですが(資料の)右側の人を見ていただくと、日本人じゃないなと気づきますか? これは、タイの工場で働いてる方を連れてきて、一緒にタイ語で説明してもらって売り場で売ったんですが、そうすると500個近く売れたんです。

なので「想いを持つ」というのは、自分で自分の商品を作って、売り場に立って、お客さんの声を自分で拾いにいく「現地・現物・現実」がとても大事なんじゃないかなと、教えてもらった取り組みでもありました。

結果的には、決して言葉は通じてないんですが、タイのメンバーの周りに多くのお客さんに来ていただいて、夕方前に500個すべてが完売したという案内を出しました。通常の1,000倍売れたんです。

顧客の不満に気づくための「仮説力」

近野:今、いろんな商品開発の講座をやらせていただいていて、みなさまから「この視点がすごくわかりやすい」と言っていただいているのが、この森と林と木の視点です。本を読んでいただいた方は、もうわかるかもしれないんですけれども。

みなさんが鷹になった気分で、どこに次のマーケットがあるのか、次の茂っている森はどこにあるのかという商品開発の視点になると、自分の会社の強みや、自分の部署の中でできることをどうしても考えてしまう。

森・林・木の視点で言ったら、どうしても木の視点から商品を作ろうと(してしまう)。例えば「自分は果物の担当だから」「自分はナッツの担当だから」とか、その視点の中でできることをどうしても考えてしまうんです。

ただ、鷹になった気持ちで、次の森はどこにあるのかという視点から、市場規模、お客さんがどこに困っているのか、今の人口動態を含めて全体のマーケットがどう変化しているのかを森の視点で見れるようになると、次の仮説が立つようになってくるかなと思います。

じゃあここで、みなさんに質問です。1970年代から、この50年で約10倍になった食品のカテゴリーを考えてみてください。わかった方は手を挙げていただければと思います。はい、どうぞ。

参加者1:冷凍食品。

近野:冷凍食品。ありがとうございます。じゃあ、拍手をお願いいたします。

(会場拍手)

冷凍食品はどれぐらいになったんですかね。

長田:多そうですよね。

近野:多そうですね。

ここ50年で10倍に拡大した食品カテゴリーとは?

近野:まだ手を挙げている方がいたので、そちらの白いワイシャツの方、お願いします。

参加者2:カップラーメン。

近野:カップラーメン! おお、1970年から10倍。わかりませんが、たぶんもう10倍どころじゃないかなと思いますね。カップヌードルは1970年代にはほぼないですから、今の日清さんの売上だけを考えてもたぶん10倍以上だと思いますよね。

はい。どうぞ。一番前の眼鏡の方。

参加者3:お惣菜。

近野:お惣菜。デリカテッセンのカテゴリー。いいですね。これをやっていると時間がなくなっちゃうので、答えです。こちらはヨーグルトの市場規模だったんですね。1970年代に生まれた方もいると思うんですが、1970年代には約500億円のマーケットだったのが、直近では5,000億円近くになってきてます。

長田:このデータ、古いです。

近野:これ(スライドのグラフ)はその先があったんですけど、切れちゃいましたね。この10年後に約1,500億円伸びて、今は5,000億円のマーケットになっています。

みなさんも思い出してみていただくと、小さい頃はほとんど「ブルガリアヨーグルト」とか「牧場の○○」しかなかったマーケットが、今はどうでしょうか。

健康ニーズで、タンパク質をヨーグルトから摂るとか、コロナの時はこれで免疫力を上げるとか、そういうふうに分断化してどんどん細かくなって、マーケットが広がっていったかなと思います。

コンビニ大手の参入でコーヒー市場が急拡大

近野:じゃあ他の質問をしていくと、いろんな企業がどうしてコーヒーに参入しているのか。これを考えると、市場規模からわかることがたぶんあると思うんですね。さっき「冷凍食品」と答えていただいた方、コーヒーのマーケット規模、売上、市場規模はどれぐらいになると思いますか。

参加者1:1兆円ぐらい。

近野:1兆円ぐらい。ありがとうございます。これ、3兆円なんです。3兆円のマーケットなので、ものすごく参入する企業が多いんですよね。2013年からものすごく伸びているんですが、10年前です。何がありましたか? どうぞ。

参加者4:セブン-イレブンでカフェが始まる。

近野:正解です! 打ち合わせしていたかのように、ありがとうございます(笑)。

長田:(笑)。

近野:そうなんです。セブンカフェが出たのがちょうど今から10年前の2013年。ここから(コーヒーの)マーケットは、家庭で約1.5倍ぐらいになってるんですね。

じゃあ次はチョコレートの市場規模。これはどうでしょうか。コーヒーが3兆円で、チョコレートはどれぐらいでしょうか。はい、また(笑)。どうぞ。

参加者1:1兆円。

近野:1兆円。ありがとうございます。これは5,000億円なんですよ。チョコレートの6倍がコーヒーです。

こう覚えておいていただくと、「ここは3兆円の森があるのか。ここは5,000億円のマーケット、森があるのか」と、まずはその基準がどれぐらいのマーケットなのかを森の視点で考えて、じゃあ自分の会社に置き換えたらどこから取り組んでいくのがいいのか? という視点でいけるといいのかなと思います。今、なんでこの質問をしているかというと、こういうふうに考える機会はなかなかないと思うので。