ストレスには、あえて向き合わない

鈴木啓太氏(以下、鈴木):トークテーマ③「日々のプレッシャーとストレスに対する向き合い方」に移りましょう。ここは家本さんのお話を聞きたくて、時間をちょっと取ってありますので。

まさに時間ともすごく関係してくると思うんですけど、このプレッシャー、ストレスって、レフェリーの時も今もかもしれませんけれども、家本さんはいっぱいあったと思うんですよね。これはどう向き合っていましたか?

家本政明氏(以下、家本):向き合わない。

鈴木:おっと! 向き合わない。

家本:本当に。例えばJリーグYBCルヴァンカップの決勝戦、浦和レッズと鹿島アントラーズとしようか。(試合が)難しくなると想定できるよね。そこで向き合うといろんないいことよりも、難しいシーンしか出てこないんだ。

やはり両チームともすごく大変なチームだから(笑)。そこで俺にその試合をマネジメントできる能力がないのかというと、あるからアポイントが当たっていると思うんだよね。もちろん期待もあると思うんだけど。

だったら俺は逆に、そういうネガティブに意識を向けるよりかは、「いやぁ、めっちゃ楽しい試合がやってきてやべぇな」って、ポジティブに変換して「どうやってこの試合を楽しもう」「どうやって選手のいいところを引き出そう」と。

例えば「鈴木優磨は最近ちょっと、すぐヒートアップする」「関川(郁万)は最近すぐ怒るけど、どうやったら彼らがニコッとしてくれるかな」と考えるとか。

そうやって常におもしろいことを考えようとすると、ハラハラドキドキの不安が、ワクワクドキドキのよいほうに変わるとか。あるいはいろんなSNSとか会社の上司とか同僚から、ネガティブな発言やプレッシャー、圧を感じる言葉とかあるじゃん。あれを聞き入れない。聞くんだけど聞き入れずに流す。

僕は現役時代から大切にしているんだけど、言葉にはいろんな力があって、特に負の力がすごく大きいのね。だから反応しない。右耳から入ってきたら左耳から出して追わない。意識もしない。ここを向き合っちゃうとやられちゃう。(自分も今まで)たくさんやられてきたからあれなんだけど、聞き入れない。

ついつい反応したくなるけど、でもそれって経験上、何万何千万、あるいは何億人の中の一定数じゃん。もしかしたら1人かもしれないし、数十人、数百人かもしれないじゃん。この何千何億という人は、むしろどうでもいいと思っているかもしれないじゃん。

ネガティブな話や情報ってすごくエネルギーを持っているから、ついついそこが全部だって思いがちなんだけど、意外と一部だったりするんだよね。

鈴木:いや、そうですよね。

自分のご機嫌なポイントを見つける

家本:意外とね。だからその瞬間、狭い世界に入っちゃって「それがすべてだ。どうしよう」ってなっちゃうんだけど、意外と広く見たら(ごく一部だったりする)。俺はそれこそ2008年のゼロックス(スーパーカップ)とか、それ以外にもいくつか大変な問題があったけど、サッカーに関心のない知り合いも周りにたくさんいて、みんな「何かあったの?」ぐらいな感じだったもんね。

鈴木:(笑)。

家本:「なんかサッカー界が賑わっているらしいね」みたいな。だからサッカー界はもしかしたら数万人規模で大変かもしれないけど、その外にいる数十万数百万の人は何とも思ってないんだよね。

あるいは「なんかあったのかな」って一瞬気にするんだけど、もう3秒後には忘れているみたいな。意外とスルーしてもぜんぜん生きていけるし、向き合うほうが苦しいんじゃん? だから感覚的にはちょっと微妙に違うんだけど、さっきのメールと一緒かな。抱える必要も向き合う意味もないし。

鈴木:うーん!

家本:それをどうやったら楽しめるのかなと。

鈴木:そうですよね。だからこの「プレッシャーとストレスに対する向き合い方」という言葉だけを切り取ると、いろんな意味に捉えられると思うんですけど。自分に対して期待したりストレスをかけるのはちょっとあってもいいかなと思う部分と、プレッシャーとストレスを自分でかけるのか、外から受けるものなのか、たぶんこれってぜんぜん別ものだと、よく思うんですよ。

家本:そうね。

鈴木:なので、このあたりは家本さんがおっしゃるとおり、結局自分の機嫌を決めるのって自分じゃないですか。

家本:(笑)。そうそう。

鈴木:人から何を言われても「別に僕は楽しいんで」って言ってたら、それはその人が楽しいというだけの話なんで、どうやったらご機嫌なポイントを見つけられるのかがすごく大事ですね。

「期待しているぞ」という声かけは、けっこう罪

家本:世の中、周りがつまんない期待をかけるけど、期待ってけっこう罪だと思っているのね。

鈴木:はいはい。

家本:それって、ある意味押しつけだと思ってて。だからよく上司が「俺はお前には期待しているぞ」みたいなのがあったりするけどさ、すげぇ無責任で毒を撒いているみたいな感覚。それだったら「何かあったらサポートするから、困ったら言ってね」と言うほうが、ぜんぜん優しいし、そこに意味があると思っているんだけど、みんな自分にけっこう期待を持つんだよね。

期待とか自信というフワフワした言葉はあまり考えなくていいよね。できるかもしれないし、できないかもしれないけど、やるかやらないかだけ。やるんだったら楽しんでやる。楽しんでできないんだったら、「すいません。僕にはできません」って返すしかないよね。

鈴木:おもしろい! 一番最初の話に戻りますけど、「3秒ルール」も楽しんでやっているということですよね。

家本:ぜんぜん楽しいよ。時々お金を払っているけどね。

鈴木:(笑)。

家本:やはりついつい深酒して、3、2……くらいで寝ちゃうみたいなことが年に何回かあるわけさ。「ああ、やばい。俺は2回、3、2(で寝ちゃった)」と2,000円を妻に(渡す)。「何? このお金」「今日3秒ルールで負けたんだ」「ラッキー」って(笑)。

鈴木:わけわかんないけどありがたいお金ですね。やはり家本さんの今までの経験もそうですし。普通の人で考えればプレッシャーになることがたくさんあった中で、今こういう考え方に至って。「3秒ルール」はずっと前からやっているという話がありましたけど、だからなんだなとすごく思いました。

家本:あとは、不安とか恐れの深堀りね。「俺は何にこんなにおびえているんだろう」という原因をとにかく書き出すの。嫌われたくないとか失敗したくないとか。

「何で嫌われたら嫌なの?」「会社の中で浮いちゃうから」「その会社がなくなったら別の世界で生きることはできないの?」と問いかけたり。そうやって深掘りして広げると、見えないものが見えてくるから意外と落ち着いてくるんだよね。

鈴木:なるほど。

頭の中のモヤモヤを可視化する方法

家本:「ミスって本当はなくなるの?」「人間だからなくならないよね」と。じゃあミスをしないためにどうリカバーすればいいのか、誰に連絡してカバーしてもらえばいいのか。さっきの話だけど、そういうのって見えないものが可視化できて解決策が見えてきたら、意外と安心して落ち着く。

だから書き出す、可視化する、構造化させる、紐づけるのはけっこう効果的で昔はそれもやっていた。頭の中でゴチャゴチャすると、本当に頭と心がモヤモヤガチャガチャする。それも1回文字にして紙に書き出す。それを線とか図式化して構造化、可視化させるのが、すごく効果的かな。

鈴木:へえ! おもしろいな。それはちょっと僕もやってみようと思います。今チャットで「先ほどおっしゃっていた家本さんの書籍の発売日と、言える範囲でどんな内容の本なのか教えてください」というメッセージをいただきました。

家本:ありがとうございます。10月11日に平凡社から『逆境を味方につける 日本一嫌われたサッカー審判が大切にしていた15のこと』という本が出ます。内容は家本政明の信条みたいな感じで、僕は今年で50歳になったんですけど、その中でいろんな逆境というか苦境とか、大変なこと、うれしかったことがあるんですね。

それを15の信条としていろんな事例を交えながら綴っている感じです。稲盛(和夫)さんも『経営12カ条』みたいな信条があると思うんだけど。

そこにフックして、僕の中の大切なものを15カ条。いっぱい細かいのがあるからボリューミーではあるんですけど、その中にはさっき話したようなことや「3秒ルール」も入っているし。

鈴木:へえ! でもみんな絶対悩んでいる時があるから、「3秒ルール」はいいですね。

家本:だから悩んでいて決まらないんだったら、3分悩み、5分悩みと逆にしてもいいよね。「3、2、1、はい、もう悩み終わり。解散解散、飲みに行くぞ」でもいいと思うんだ。やめる時にも3、2、1でいいと思うの。

何かを起こす、断ち切る時に強制的にさせるのは、けっこう効果的だと本当に思うかな。そこにペナルティをつけるとなお効果的で、そのペナルティが誰かの喜びになるんだったら「ありがとう」って言われてうれしいじゃん。僕のミスが妻の喜びになっているから。

鈴木:めっちゃおもしろい! そうか。それが誰かの喜びに変わるんだ。

家本:だから、ちょっとうれしいよね。悔しいけど、でもそこが喜びになるんだったらいいかって割り切れる。

日常と非日常をミックスさせる、ストレスのかわし方

鈴木:おもしろいな。他の質問なんですけれども、「楽しんで取り組むことができないなら断る、とありましたが、仕事上では断ることができないストレスのかかる状況があると思います。その時はどのように対応すればいいですか」。

家本:たくさんありますよね。得意先の話とか上司のゴリ押しとか。なので、そういう時はその中でもゲーム化させる。今ちょっと案件がわからないのでどういう楽しみ方ができるかイメージできないんですけど、嫌なモードでも楽しもうとする努力をしたほうがいいし、何かあるはずなんですよ。

例えばコピーを「100枚刷ってこい」と言われた時に、できるだけ速くきれいにホチキスで留めるとか、楽しみ方を考える。あるいは時間を決めるんだけど、1回おいしいものを飲もうとか、終わった時においしいものを食べようとか、そういう付加的な要素でもいいと思うんですよね。

人に愚痴を吐くのもけっこう大事だと思っていて。カラオケで大きな声を出すのもすごく僕はいいと思うし、サウナもいいかもしれない。HIITトレーニングってみなさんわかりますかね。High Intensity Interval Trainingと言って、20秒間くらい全力でバーピージャンプしたり、腕立てしたり、スクワットしたりするんですよ。僕は2日に1回やっています。

10秒間レストして、それを僕は何セットか、トータルでたぶん21分くらい筋トレ系をやっているんですね。そうすると何も考えられずにヘロヘロになるんですよ。そういう無の状態を作って日常と非日常をうまくミックスさせるとか。

あるいは、1日のどこかで瞑想をするとか。もしかしたらしっかり落ち着いた環境で、匂いとか照明もちゃんとやりながら、しっかり瞑想に向き合う。心と頭を1回無にするのもけっこう(おすすめです)。

そこは大変かもしれないんだけど、その前後でリラックスとか楽しむのでサンドイッチする。負(の感情)だけに没頭しない工夫はできると思うんですよね。

鈴木:そうですね。

家本:負の楽しみ方、工夫の仕方は大事なんじゃないかなと。僕だったらそういう遊び方をするかな。

負の感情に押し流されないために

鈴木:うーん。僕の場合、すごいフィジカルトレーニングとか、キツいやつがあるじゃないですか。それもプラスになるからいいことではあるんですけど、あとは監督からの理不尽な要求があったりするじゃないですか。

家本:あるね。

鈴木:それってやはり自分のできないことだったり、自分が嫌だなと思うってことは、そこが得意じゃないところだと思うので、「これを乗り越えたら、俺、成長できちゃうかも。あはは」って思ったり、あとは体で表現するっていうんですかね。つまんなくなったり、キツくなったりするとこうなる(前に傾く姿勢)じゃないですか。

家本:ああ、なるなる。

鈴木:それを逆に体をこう伸ばしたりすると、なんかいい。だから楽しいことを先に行動で示しちゃうというか、そういうボディランゲージとかを脳科学で僕はちょっと勉強したんですけど。

家本:僕も同じことを勉強した。本当にそうですよね。だから反対の動きをするとか、大きく勝利のポーズじゃないけど、こういうのを強制的にする。鏡に向かって強制的に全力で笑ってみるとか。

「お前は大丈夫。何も問題ない」とかの言葉を自分に投げかけたり。そういうのを気持ち悪いと思う人が多いんですけど、意外と効果的なんですよね。それはちゃんと科学が証明している。

鈴木:そうですよね。なのでそういうのを取り入れるのもいいと思いました。

家本:合う・合わないがあるかもしれないけど、まずいろいろとやってみて、もし効果があるんだったらやってみる。みんなの前でやるのは恥ずかしいから、1人でどこかでやるとか、工夫次第で何とでもなると思いますけどね。

鈴木:ありがとうございます。家本さんと話していると、3時間くらい話しちゃうんじゃないかなと思うんですけど。

家本:このまま飲みに行くぞって、居酒屋のノリだよね。

鈴木:(笑)。あっという間に1時間が終わっちゃったんですけれども、今日は元サッカー国際審判、プロフェッショナルレフェリーでご活躍されていました家本さんにお越しいただきました。10月11日に家本さんの書籍が発売されるということなので、本日の参加者のみなさんは、もう1冊と言わずに3冊、4冊、5冊買っていただいて。

家本:立ち読みでいいすよ。つまんないこと言ってるんで。

鈴木:だめです。Amazonで購入していただくのもいいんじゃないかなと思います。家本さん、今日は夜のご家族と一緒にいる時間帯にやっていただいて、本当にありがとうございました。

家本:いえいえ、楽しかったです。ありがとうございました。