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起業のインスピレーション ~日本初・持ち運び可能なスマホ充電器シェアリングサービスとは?~(全3記事)

「ChargeSPOT」を上場に導いた“スピード感のある決断” 急成長企業の代表が振り返る、強いチームを作るまでの道のり

コンビニや駅など、さまざまな場所に設置されているモバイルバッテリーシェアリング「ChargeSPOT」。全国の設置数が40,000台を越えた今、「ChargeSPOT」の創業者である秋山広宣氏が開発秘話を語りました。本記事では、グローバル企業ならではの苦労した点や、「ChargeSPOT」を展開する中でぶつかった“最大のピンチ”など、秋山氏がこれまでの道のりを明かします。

前回の記事はこちら

ピンチをチャンスに変え、コロナ禍でも事業を成長

秋山広宣氏(以下、秋山):最後です。この後にご質問いただける場合はしっかり答えていきたいなと思いますが、いいアイスブレイクになればと思って、3つだけ用意させてもらいました。

1つは「ピンチをチャンスに」でございます。前半にご覧いただいた年表グラフには、いくつかポイントがあります。先ほど少し触れましたが、コロナでダメだった時までは1万5,000台までやってきた。ただ、データをゆっくり見れなかったよねとマインドシフトをして、データに取り組みました。

そして、その後にコロナが明けてきて、また最適設置につながっていく。この(グラフの)下の矢印に「②設置のプロトコル」の精査期とあります。そこまではもう「えいやー! 使われても使われなくてもいいから、置いとけー!」と「ChargeSPOT」を置いてきました。ブランディングです。

その時は、正直50パーセントの台しか使われてませんでした。今は9割の台(が使われている)。そしてまだ使われていない1割の台を使われる場所に転換をしていく作業は、我々の日々のルーティーンになっています。この頃に確立したのがそれです。それが「ピンチをチャンスに」です。

そして、2021年12月期にまたぐんと落ち込む。これは、確か第2波のタイミングで(マークを)つけたつもりですが、もう1つが上場準備で大変でした。

この時は人も足りない、上場なんか初めてやる、監査法人からいろいろ言われる。こういった中で、本当に一致団結して進んでこれたなということで、ポイントに触れさせていただきました。

グローバルなチームで成果を上げられた理由

秋山:一致団結してということで、まさに(2番目は)チーム力です。チーム力が大きかったなと思います。先ほど触れましたとおり、我々のチームは日本だけではなくて香港にもありますし、広州にもあります。一気に同じ目線で動くためには、代表の仕事が大事だと思っています。

現地の代表と同じ価値観・目線で、密にコミュニケーションをとる。ここを、日々のコミュニケーションの中で作っていく。そして、彼らに任せていく。

香港のチームには中国人もいますが、ほぼ全員香港人で、広州はみんな中国人です。僕が香港でコンサルをやっていた時に思ったのは、日系企業で重役だけが1人で香港にマネージャーで来てしまうと、だいたいうまくいかないパターンしか見ていないです。

その意味では、僕はローカルは「Keep It Local」。ローカルに任せきるという思いで、チーム作りをしてきています。

我々の台湾のフランチャイズも、完全に台湾のチームに任せている。シンガポールもシンガポールのチームに任せている。こういうチーム作りと、あとは目線・価値観を合わせることが非常に大事だったのではないか。ここまで大きくなる要因だったのではないかなと思っています。

競合他社に圧倒的なスピードで差をつける

秋山:そして最後です。スピードのある決断は、我々にとって一番重要なものでした。冒頭でも言いましたが、(サービスを)スタートして3ヶ月で後発が8社出てきました。今(スライドで)ご覧いただいている8社が国内の8社です。

「ChargeSPOT」は、その中でも一気に3万台でシェアを取っていけたのは圧倒的なスピードだと思っています。合計で108億円を調達して、一気に2年間で突っ込みました。VSその調達のスピード感、そして機械をリニューアルしていくスピードの決断力。そして、有象無象の中で「ここを確保していけ」とやった、このスピード感。

これは一番最初に申し上げませんでしたが、実は我々は香港の企業を買収してスタートしました。それによって、OEM(他社ブランドの製品を製造する)、最後の型は出すんですが、いわゆるハードウェアのR&D(研究開発)、ソフトウェアのR&Dは、全部ブループリント(青図)まで自分たちで書けるスピード感を持っていました。

ですので、広州のチームとのコミュニケーションでは、「日本はこういうものが必要だ」と。香港ではカードにはデポジットがあるかもしれないけど、日本はデポジットに不慣れ。だからもうUI・UXとして、全部デポジットの機能をなくしてくれと。ハードウェアは抗菌・抗ウイルスにしてくれ。でなければ、ディズニーランドやユニバーサルスタジオに置けない。

こういったことでスピードを持って連携できたことも、非常にここまで展開ができた理由で、そしてこれからも大事にしている精神であります。

この3つに触れて、「ChargeSPOT」の軌跡と、簡単ではありましたがその途上のいくつかの思いと、振り返りながらの思い出を共有させていただけたらと思います。いったんここで終わりにしたいと思います。ありがとうございます。

“現在の3倍の台数”を設置することが目下の目標

川崎晋平氏(以下、川崎):秋山さん、どうもありがとうございます。

秋山:ありがとうございました。

川崎:貴重なワードがたくさん散りばめられていましたね。私が個人的にすごいなと思ったのは、最後におっしゃられていたスピード感のある決断。香港の企業を買収されて、その4ヶ月後には渋谷の109、TSUTAYAでイベントをされていた。本当にスピード感ですよね。

秋山:そうです。実は僕、この企業に会った時に初回のミーティングで「買わせてくれ」と言ったんですよ。上場しようと思って。2回目(のミーティング)では合意していました。

川崎:もう2回目で合意されてたんですか。

秋山:正確には、合意して2週間後に日本の109の発表でした。買収前提でイベントを仕込んでいたぐらいのタイミングですね。

川崎:それ前提で。すごいですね。経歴を拝聴させていただいて、コンサルティング時代の人脈作りであったり、INFORICHで最初にされたプリクラ事業で失敗された、そのPR活動とかを、スピード感を持ってすごく生かされている。わずか4年で、もう今では4万台ですよね。

秋山:そうですね。個人的にはまだまだ少ないと思っています。

川崎:最終的にどれぐらい(の台数)を目標にされてるんですか?

秋山:ここらへんは僕たちも中国から勉強しているんです。マーケットで言うと、今は500万台ぐらいあります。人口比率で言うと、だいたい300~400人に1台ぐらい置いてある状況ですね。

それに対して、日本はだいたい3,000人に1台ぐらいの粒度ですので、この粒度を高めていく意味では、1,000人に1台を目指してまずは12万台。あと3倍ぐらいはまだまだ置いていけると考えています。

川崎:ありがとうございます。

すべてのモバイルバッテリーは、SIMカードによって遠隔で管理

川崎:質問もたくさんいただいています。秋山さん、もしよろしければ、ご回答していただける質問を選んでいただければ私が読み上げます。

秋山:順番にいってしまいましょうかね。じゃあ、この一番最初の質問。

川崎:一番最初、読み上げさせていただきますね。「どこでも返却できるとのことですが、一部のスポットだけ在庫がなくなったり、溜まったり、偏りはどのように解決しているのでしょうか?」ということです。

秋山:ご質問ありがとうございます。また、サービスにご興味をお持ちいただいて、ありがとうございます。

実はすべての台の中にSIMカードが入っています。つまりすべてリモートで、どこに何個(端末が)刺さっていて、何個ないか、そしてどれぐらいの時間空いていて、どれぐらいの時間溜まっているのかを遠隔ですべて管理しております。

以前番組でも少し取り上げていただいた時に、「Uberさんや出前館さんのアイドルタイムを使って、実はギグワーク的にやってもらっているんです」なんていう説明もさせてもらったんですが、まさにUberEatsさんで配送されている方々などのギグワーカーさんに通知をさせてもらって、その偏在を解消しています。

基本的には12時間以上溜まらない。これをマックスの状態にしている。渋谷なんかはもっと粒度が高いんですが、偏在がないようにオペレーションをさせてもらっています。

川崎:ありがとうございます。

海外展開は「誰とやるか」が重要なポイント

川崎:続きまして、どれにいきましょうか。

秋山:BtoBで。

川崎:「BtoBでの起業を考えております。ビジネス的には海外に製品を販売展開したほうが収益は上がると存じますが、創業始めはつてもないので、どのように事業展開すべきか想像もつきません。そのようなわけですので、国内で投資並びに販売のめどがついてから、海外への営業を進める計画です。海外展開のタイミングとベネフィットとリスクについて、ご見識をいただきたいと存じます」ということです。

秋山:あくまでも私の意見としてお聞きいただけたらなと思います。僕は、海外であればあるほど、対企業というよりも「誰とやるか」が非常に大事だと思っています。

これはたぶん、日本国内においてもご想像がつくかと思います。どこかの企業さんと言っても、結局は担当者さんがどれだけ熱意を持ってやってくれているか。次元と言うんでしょうか。海外は本当に人によると思います。

具体的な例を挙げますと、僕は同時並行でいいと思います。いい人が見つかったらスタートするのでいいのではないでしょうか。我々はそうしてきました。例えば台湾は、我々はフランチャイズでスタートしております。

フランチャイズの展開は、今は8,300台です。日本に続いてナンバー2の「ChargeSPOT」の台数を置いてますが、スタートしたのは2人です。ただ、この2人に資金力があったかというと、ギリギリの資金力で「フランチャイズをやりたい」と言ってきたんです。

ただ、本当に熱意があったんです。彼らの話を聞いていると、しっかり勝ち筋があったり、いい置き先があったり、何よりもそれを立証してこれたところでフランチャイズを延長して、今の非常にいいパートナーシップがある。さらには、フランチャイズのモデルケースになっているぐらいですね。

そういった意味では、人数や大きさとかではない。何よりも信頼できるか、同じ目線と価値観で進んでいけるかが大事なのではないかなと、我々はそこを大事にして進めてきました。

川崎:ありがとうございます。

「ChargeSPOT」企画からローンチまでの道のり

川崎:じゃあ続きまして、「私のスマホはすぐ充電が切れるので、外出の際は『ChargeSPOT』を利用させていただいてます。『ChargeSPOT』は、企画段階からローンチまでどのくらいかかりましたか? プロダクトで大変だったことや失敗したことはありますか?」ということですね。

秋山:ありがとうございます。(大変だったこと・失敗したことは)あります。結論、我々が買収をしたのも、今いただいたご質問の内容と非常に関連性が高いです。実は、香港で買収した企業は、スタートアップして約3~4ヶ月の会社でした。

けれども彼らは、どの工場を使って、どういった青図を書いて、実験段階のモック(試作品)を作って、何ヶ月間か試してみてと、立ち上げまでのソーシングに2年かけてるんです。

まさに、この時間を買う意味で我々はこの会社を買ってスタートしましたが、もし買わなかったとしたら、やはり1年、2年かかってソーシングが必要だったのではないかなと考えます。

川崎:ありがとうございます。

文化の違いによる“摩擦”にどう対応するか

川崎:続きまして「現職で、ローカル間(国間)のいさかいを日常的に経験していますが、どのようにマネジメントしていらっしゃるのでしょうか。所属先の会社では、スピード感を持って開発を進めれば進めるほど、お互い摩擦が深まっているように感じます」ということです。

秋山:摩擦が起きる場合に僕が非常に大事にしているのは、文化の差異に敬意を持つことですね。例えばチャイニーズのエンジニアと日本人のプロダクト側が喧嘩……侃侃諤諤(かんかんがくがく)、いい意味でフレッシュで健康的な、熱量のある話をする時。

僕は香港人として、また日本人として、どっちの立場でも両方わかる。理解をしようとする前提で物事を進めていく。尊重、尊敬、敬意があることによって、妥協的にではなく、物事が建設的に進んでいくのではないかと思います。

川崎:個人的に、秋山さんのルーツによって、そのようなバランス感覚がすごく優れていらっしゃるのかなという気がしました。

“どこでも返却できる安心感”を確立するために

川崎:次にいかせていただきますね。「現在競合は7社あるとおっしゃっていましたが、この『ChargeSPOT』のようなサービスは、設置していただく店の陣取り合戦状態なのでしょうか」ということです。

秋山:ありがとうございます。シンプルにお答えしますと、陣取り合戦ゲームです。ただし、もうすでにその陣取り合戦にはない状況ではあります。我々が中国から反面教師としてもう1つ学んだことは、まさにエクスクルーシビティ(排他性)です。

中国は、1個のレストラン、1個の娯楽施設に、5~6台別のブランドが置いてあります。日本で展開する時にはこれはやめようと。もちろん大手コンビニさんにもコンペをしていただいて「じゃあここで決めるとなったら(ChargeSPOT)」と、非常にフェアです。

あとは、こういった大手さんのエクスクルーシビティを取り付けるまでに、我々は1万5,000台の台を投資してきたんですね。つまり、1つのコンビニだけに置いてあってもしょうがないし、鉄道だけに置いてあってもしょうがない。

家の周りでも返せる安心感を感じていただいて、初めて借りるサービス。これを確立するのに投資をしてきたわけですが、それがその後の我々のサービスには効果的でした。

逆に、これから我々がエクスクルーシビティの契約をまいている状況の中で、また新たにコンビニさんに置かない、鉄道さんに置かない中で、経済圏またはネットワークを作っていくのは相当難しいと思っていますね。これが今、結果的に自分たちの参入障壁になっていると考えています。

川崎:ありがとうございます。

「ChargeSPOT」展開中に起きた最大のピンチ

川崎:では続きまして「ピンチをチャンスにということでしたが、秋山社長の最大のピンチを教えてください」ということです。

秋山:最大のピンチは、まあまあありますね。

川崎:まあまあ、ありますか(笑)。

秋山:「ここまで来たらない」というものではないと思っていました。振り返るとこれまでにも、挑戦する姿勢、真正面から立ち向かっていく姿勢の中で、都度都度そのステージに合った、目の前で起きてくる大きい波はありました。

あえてこの「ChargeSPOT」のビジネスにフォーカスして言いますと、やっぱりきつかったのが、シリーズAといって調達をした後に、誰とは言いませんがシリーズBで機関投資家さんがいっぱい入ってくるんですね。

僕たちはさっき買収と言いましたが、51パーセントを先に買収したんですよ。その残り49パーセントの買収がまだあった。なんだかんだで、残りが39パーセント残っていたんですね。

その時に、残りの39パーセントをとある金額で買う時に、100パーセントこの会社を買収できないと船分かれするなと、機関投資家は反対したんです。

これは金融の世界からすると、なかなか想像がつかない。数字を見ている人たちですから、現場の温度感がない。「いやいや」と、ここを合わせるのに相当な時間をかけましたし、本当に喧嘩しながらミーティングもしました。

最終的に「じゃあ、そんなに価値があるんだと思うんだったら、秋山さん個人で買えばいいじゃないですか」と言われました。自分で2桁億近い金額を出して個人のお金で買ったと同時に、さらに資金調達もそこから60億円ぐらいした。このフェーズはマジできつかったです。

ただ、それがやれたことによって、香港と広州のメンバーの信頼も生まれたんです。書面には落ちてないですが、「君、口頭で言ったことをやってくれたね」という信頼をつかめた。

コロナ禍で渡航もできなかったわけです。全部Zoomでしか会話できなかった中で、固い信頼を作って、そしてここまで進めてこれたんだなとも考えるので。僕の一番大きい、ピンチのチャンスの1つを紹介させていただきました。

川崎:ありがとうございます。

失敗したぶんだけ、自分の“嗅覚”が鋭くなる

川崎:お時間が迫ってまいりましたので、最後の質問とさせていただきたいと思います。秋山さん、どれでもよろしいですか。

秋山:川崎さん、選んでください。

川崎:かまいませんか。じゃあ最後はこちらでいかせていただきます。「スピードのある意思決定を行うために大事にしていることはありますか。しっかりヒットさせるコツなどあるのでしょうか」。

秋山:ここは、ないです(笑)。やはり失敗した分だけ嗅覚が高まると思いますので、ともかく自分に素直に結論を出す。

ただ、それに執着するのではなく、その結論をテーブルに出して、そして一緒に展開をしているチームと相談をして、最終的に何が一番正しいのかの判断を早める。そして実行に移すのを繰り返すことかなと思っています。

僕は本当に『一勝九敗』という柳井(正)社長の本がすごく好きです。負けた分だけ、肌感覚は体験でつかんでくると思いますので、(失敗を)重ねながら身に付けていくものかなと。

私もこれからも失敗するでしょうし、むしろ失敗しにいく思いで、ただ躊躇なく展開をしていくことが、何よりもスピードアップになると思っています。

川崎:ありがとうございます。

「ChargeSPOT」は、時を味方にできたビジネス

川崎:お時間となりましたので、最後に簡単にメッセージをいただけるとうれしいです。

秋山:ありがとうございます。本当に今日は、ご参加いただいたみなさん、また貴重な機会をありがとうございました。僕も今日は、創業当時の原点を振り返るいい機会になりました。

先ほどの『一勝九敗』ではないですが、拡大したこの事業でいろいろ挑戦をしてきた中で、なぜか時流に乗って、気流に乗って、また人も集まってチームもできて、時を味方にできたビジネスだと感じています。自分にとっては、これを進めていくのは1つの天命だと思って、この事業を拡大していく思いです。

思いついたものは、まず形に落としていく。そこで見えてくるものはさまざまあると思うので、まずは形に落として、そして判断をしていく。これの繰り返しで、みなさんそれぞれにあったベストな商材とサービスと、ビジネスに出会っていくのではないかなと思います。

私もそのようにして、この「ChargeSPOT」に出会ってこれたと思っています。僕もしっかりがんばっていきたいと思います。よろしくお願いします。ありがとうございます。

川崎:秋山さん、本日はお忙しい中、貴重なお時間をいただきまして、どうもありがとうございました。

秋山:とんでもないです。ありがとうございました。

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