予測不能な、突発的な変化に素早く対応できない理由

森中美弥氏:こんにちは、SAPジャパンの森中と申します。本日はご来場いただきありがとうございます。このセッションでは、継続的なプロセス変革を支える「SAP Signavio」の最新情報や活用例をご紹介します。

まず、最近のビジネスを取り巻く環境と業務プロセス管理について考えてみたいと思います。この2年半、みなさまも予測できなかった変化を多数経験されたと思いますが、データドリブンでの経営やBPM(ビジネスプロセスマネジメント)など、多くの企業さまがデータを分析して今後の予測をされていると思います。

突発的な変化や予測できなかったことに対して、どのように対応していくか。この対応力とスピードが、各企業さまの競争力に影響を与えます。その時に、私どもはビジネスの柔軟性を高めるために、「As-Is」(現状)の業務プロセスが適切に管理されていることが重要だと考えてます。

「As-Is」の業務プロセスがわかっていれば、何か突発的な変化があった時に、「これが現状だな」と確認した上で、すぐに変革の検討を進めることができます。この第一歩の差が、対応のスピードアップにつながると考えます。

この数年、私はお客さまに業務プロセスの管理をどのようにされているかをおうかがいしていますが、多くの企業さまは「As-Is」業務プロセスについて、部門ごとやシステムの導入プロジェクトごとに管理されています。結果、プロセスフロー図が陳腐化して、「実際にどうやっているかは、人に聞かないとわからない」とお聞きすることも多くあります。

この迅速な現状把握が困難な状況は、第一歩の遅れにつながります。具体的にはExcelやPowerPointなどのさまざまなファイルで、業務ごとにプロセスがバラバラな粒度で書かれていたり、人によってやり方が違ってプロセスフロー図どおりではないかもしれない。そういった状況が、共有ストレージやメールなどでのファイル共有で分散している状況があります。

現状の業務プロセスの可視化

これに対して私どもは、デジタルで継続的な業務プロセス管理が必要だと考えます。まずは「As-Is」の業務プロセスの可視化が必要です。これは必ずしも、プロセスがシステム上でどう動いているかをログで見ることではなく、「誰が何をするつもりなのかの共通認識を作る」ことを第一歩に置いています。

人のリソースが足りないことでボトルネックがあるかもしれない。もしくはいろいろな承認のフローが複雑なために、どこかで不用意な待ち合わせが発生しているのかもしれない。可視化ができたら、そうした「As-Is」の課題を机上で把握することができます。そして把握した課題に対して、課題を解消する「To-Be」(理想)のプロセスを検討するステップに入ります。

私の昔の同僚でコンサルティング経験がある者が、この「To-Be」プロセスの検討の際、「誰が何をするかをホワイトボードに書いて写真を撮って保存した時代もあった」と言っていましたが、システムで自動化できるところが増えている中で、プロセスの管理だけが手書きである必要性はありません。

プロセス自体もデジタルツールを使い、試行錯誤の手間を少なくできる時代です。その時にデジタルだからできる「シミュレーション」という手段もあります。やってみて初めてボトルネックがわかるのではなく、想定される時間やリソースに対して、例えば「1週間に20件の承認依頼が来た場合にさばけるのか」といったこともシミュレーションすることが可能です。

机上の段階である程度精度を上げて、定義したプロセスを具現化する。役割分担を決めて、その役割どおりに順番にこなしていくことも具現化の1つです。RPAを入れたり、システムを導入することも具現化ですが、効率化できるところを標準化していなければ、ワークフローやRPAで自動化する意義は出ません。

「定義」と「実態」を比較して、良い・悪いを判断

こうして定義したプロセスを関係者に周知して、理解を共通化することも重要なステップです。「どのファイルが最新なのか」「どれが正なのか」を調べることに手間をかけるのはとてもナンセンスなので、プロセスのリポジトリ(置き場所)として、情報の一元管理と公開管理が重要になります。

定義が決まったら実装です。実装されてこそ分析をする意義が出ます。それぞれの部門でやっていることをすべて細かく分析するのではなく、標準化できていればサンプリングをして分析するなどの効率的なやり方も考えられます。

定義をする時は、例えば「経営をヘルシーに保ちたいから、入金までの日数は20日以内に抑えたい」など、机上の段階で定義できる各プロセスの目標もあります。定義をしておくと実装後に予定どおりに動いているかの分析ができます。

その際、SAPの標準機能を活用したプロセスであれば、SAPからご提供する業界ベンチマークとの比較や推奨される改善事項などを活用いただけます。

分析の際の良い・悪いの判断は、定義したプロセスとログから取得した実態を比較して、想定どおりに動いているかを確認することで効率的に実現します。

リソースをかければできることは多くなりますが、かけられるコストには上限があります。突発的な変化への対応に要する工数を最小限に抑えるためには、日頃からデジタルに監視・改善する仕組みを構築し、継続的に運用をして、継続的なプロセス改革を行うことが重要です。

ワンショットで終わらせるのはとても非効率です。ノウハウをしっかり蓄積して、螺旋階段を登るイメージで改革を進めていただく必要があります。

業務プロセス管理を始めるタイミング

では、このデジタルで継続的な業務プロセス管理を、いつ・どこから始めるのか。お客さまごとの状況や目的によってどこからでも始められると考えますが、例えば、「クラウドERP」の導入や更新のタイミングは大きなきっかけの1つになると考えます。

クラウドERPの導入の目的とは何でしょうか。弊社は「SAP S/4HANA Cloud」というクラウドERPを提供していますが、お客さまにおうかがいすると「ビジネスパフォーマンスの向上」や「ビジネスプロセスの最適化」「新規事業の創出」といった声が多く聞かれました。つまり、トランスフォーメーションの実現が目的ということでした。

クラウドERPを導入してトランスフォーメーションを目指す場合、ほとんどのケースで最終的に業務プロセスの変革・組み換えを必要とします。つまり、業務プロセスはそのあるべき姿を作るための手段ということです。この業務プロセスをどう管理するかは、その後の発展に大きく影響します。

クラウドERPへの移行は、大きく3つのフェーズに分かれます。(スライドの)「構想・計画」のフェーズでは現状の業務プロセスを把握したり、変革すべき領域を見極めて、それに向けて設計・実装して運用・保守をしていく。

ERP導入は一大プロジェクトのため、各フェーズが体制作りから大掛かりな取り組みになることもあると思います。業務プロセスを適切に管理し今後に生かすためには、この3つのフェーズを個別のタスクとして断絶させず、移行の過程においてプロセスの変化自体もコントロール下に置くことが重要です。

そうすることで、移行プロジェクトの中で計画された業務プロセスの変革への道筋がしっかり実装されるだけでなく、単なるシステムの入れ替えだけではない業務効率化という価値の発揮が実現します。

移行の過程で得られた知見は、移行プロジェクトやシステム運用にとどまらず、移行後も生きていきます。クラウドERPへの移行によって業務プロセスの変革が実現するだけでなく、そのプロセスで得られた知見が、その後のトランスフォーメーションの土台となります。

プロセス情報の一元的管理とコラボに役立つソリューション

SAPではこのプロセス管理に、「SAP Signavio」という手段をご提案しています。SAP Signavioは継続的なプロセス改善を実現するために、先ほどご紹介したぐるぐる回る絵をカバーできる「ポートフォリオ」をご用意しています。

具体的には監視・分析、そしてさまざまなプロセスの設計、またそれに対するガバナンスと自動化。こういった企業の重要なビジネス資産にもなるプロセス情報を一元的に管理して、コラボレーションに役立てる機能があります。

プロセスのモデリングやマイニングなどの手段にはさまざまなソリューションが存在しますが、SAP Signavioはその両方を備えて一元管理し、トランスフォーメーションの土台として蓄積・活用するものになります。

目的や対象によって使い分けられる2種類のプロセス分析

(スライドの)「SAP Signavio Process Insights」は分析ツールの1つで、SAPならではのソリューションです。

開発元であるSAPは、ERPやAribaといった業務アプリケーションについて、どこにどのようなデータがあり、何をどう分析すれば経営に関わるプロセスのパフォーマンス状況が見えるかといった情報を熟知しています。

ですので、この「SAP Signavio Process Insights」というソリューションに接続すれば、翌日には一覧化されたWeb画面で今プロセスがどのような状況になっているのか。どこにどれぐらいの時間がかかり、どこにどのようなボトルネックがありそうかといった情報を見ていただけます。

さらに状況を把握するだけでなく、SAPが50年かけて蓄積した業務アプリケーションのノウハウやそれに基づく推奨事項なども多数表示します。移行前に現状を分析して、移行後にどのような改善に役立てるかという確認にもお使いいただけますし、どのような効果が得られているかという移行後の定点観測にもお使いいただけるソリューションです。

SAP Signavio Process Insights は、全体を俯瞰してハイレベルなものをクイックに把握するためのソリューションですが、2段階の分析ツールをご用意しており、汎用的なプロセスマイニングもございます。システムログを取得して、いつどのケースがどのステップを通過したのかという流れを分析することで、不容易な手戻りや例外処理がどれぐらい発生しているかなどを確認することも可能です。

Signavioのプロセスマイニングは、最新版では「分析して見る」だけでなく「アクションにつなげる」こともできるようになりました。1週間でバックログが2,000件を超えたら関係者にメール通知したり、アーカイブするためのワークフローを動かすなど、さまざまなことを行えるようになりました。

1件1件を監視して例外通知をするのではなく、ある程度の期間の分析結果を基に通知を飛ばすことができるようになっています。

共通認識を作る土台になる、効率的なプロセスの可視化・設計のソリューション

こういった、ハイレベルな分析と詳細な分析の2つの組み合わせがSignavioの大きな強みですが、もう1つ大きな軸として「Process Manager」という設計のソリューションがあります。

SAPではベストプラクティスというかたちで、「S/4をお使いいただくと、こういったプロセスが考えられます」といったたたき台を多数ご用意しています。それをインポートしてプロジェクトのベースにしたり、あるいはユーザーの方にヒアリングしながら、誰が何をしているのかというステップをプロセス図に起こすことも可能です。

そういったものをわかりやすく書くことが、共通認識を作る重要な土台になりますし、シミュレーションでその精度を上げていくこともできます。

移行プロジェクトで非常に手間のかかるところとして「変更履歴の管理」があります。1つのタスク名を変えたらどのファイルが変わるといった情報を追うことで、どんどんプロセス情報の品質が落ちるリスクもあります。

Process Managerは、変更履歴を自動で管理してAs-IsとTo-Beを比較したり、「3日前にどこを変えたかを確認したい」という細かい箇所の確認もできます。これまでの情報とこれからの情報をわかりやすく蓄積することで、ワンショットのプロジェクトで終わらせず、継続的な改善が可能です。

設計と分析の連携による効果的なプロセス改善サイクル

こういった2段構えの分析ツールと、効率的なプロセスモデリングのツールを合わせ持つSignavioだからできるアプローチを今年のSAP Sapphireで発表しました。Process Insightsで取得したハイレベルな情報を、SAPのサービスメンバーが「Process Intelligence」という詳細な分析に移行し、分析結果を基にTo-Be像のご提案にまでつなげるアプローチです。

これはSAPが長年蓄積したプロセスのノウハウをベストプラクティスと合わせて、最新のマイニングや、今後は生成AIも活用して、どの業務領域にどんなプロセスフローがお使いいただけ、どのようなKPIが重要かといったことをご提案するソリューションも計画しております。

そしてSignavioで肝になるのが、ワンショットで終わらせてファイルが溜まっていくだけにならないように、参照できるユーザーに公開する「ポータル」の機能です。

プロセスフロー図に対して「この業務は何日ぐらいで終わったのか」「バックログがどれぐらい溜まっているのか」といった分析結果も併せて公開することで、経営層の方々や実際の業務ユーザーに今どこをケアするべきかなどを意識いただけるようになっています。

活用例をご紹介します。AJS株式会社さまは、販売管理業務が部門ごとにバラバラで、さまざまなシステムを使って個別最適されていましたが、プロセスフロー図を書いて現状を可視化して、現在は新規標準システムに統一して稼働し、期待した効果を上げているかをプロセスマイニングで分析されています。

AJS株式会社さまの事例は、今年5月に共同発表したプレスリリースにも掲載されていますので、ぜひご覧ください。

SAP Signavioについては、今回のような汎用的な例だけでなく、内部統制の観点でどのように監査対応に役立つかといった情報を詰め込んだセミナーを10月に予定していますので、ぜひご参加ください。

また、SAPでは毎月ハンズオンのワークショップも実施しています。

2時間でどのようにプロセスが書けるのか、どのようにプロセスが分析できるのかを見ていただけるワークショップです。 さらに、こちらは定期開催ではありませんが、ユースケースをベースに変換への対応力について考える、デザインシンキングの手法を活用したワークショップなどもご用意しています。

この資料にある連絡先にご連絡いただければ個別のご対応や、今後の開催予定のご連絡をさせていただきます。

駆け足でご紹介いたしましたが、ご清聴いただきありがとうございました。