コロナ禍で大きく変化した「働き方」

F太氏(以下、F太):(コロナ禍で)チームがすべて休眠もしくは解散になりました。

山本沙弥氏(以下、山本):そうだったんですね。

F太:そうなんですよ。(コロナ禍で)働き方がガラッと変わったという実感は、おそらくすべての方が感じていることなんじゃないかなと。少なからず、「働く」ということに対する意識が変わってしまった感覚はないですか?

山本:あります。

F太:そうですよね。しごとフィールドさんにもたくさんの求職中の方が来ると思うんですが、質問の内容やニーズがちょっと変わってきた感じがすると思うんです。

山本:そうですね。「他の方がこういう働き方をしているから、自分もリモートの働き方がいいと思っていたけど、いざリモートで働いてみたら誰とも話せない環境で逆にしんどかった」という方もいらっしゃいますよね。

F太:逆にそれが楽だったことに気づいたりとか、いろいろあったと思うんです。

山本:そうですね。

F太:そういった環境の変化もあって、実際に僕の中でも今までの働き方というか、「同じことを続けよう」という気分にはどうしてもなれなくて。

「お金を稼ぐ人が一番偉い」という価値観の存在

F太:じゃあ今は何をしているかというと、パートナーがクッキー缶を作っているんですが、僕はひたすら毎日クッキーを抜いているんですよね。

山本:毎日、それをされているんですね。

F太:日々やりつつ。あと今、パートナーがすごく忙しくなっているので、気づいたら家事や料理を僕がすべて担うようになっていて。僕自身が直接お金を稼ぐというよりは、お金を稼げる人のケアをするようなかたちです。

そういう働き方……「働き方」と言っていいのかわからないんですが、気づいたらそういうことを1年ぐらい続けてみて、「お金を稼ぐ人が一番偉い」という価値観があるなというのをすごく感じるようになったというか。

ありませんか? 「お金を稼ぐ人が一番偉い」という言い方が正しいかどうかわからないけれども、言葉を選ぶと時間が足りなくなっちゃうので。なんだかんだ言って、たぶんそういう感覚ってあると思うんです。

山本:そうですね。それは働いている側の感覚に起こり得ることかもしれないです。逆に働いていない側が「自分はどうだろうか?」と思うこともあり得ますよね。決して働いている側が一方的に「自分は偉い」と思っているんじゃなくて、働いていない側がそう思っている可能性はあるなと思いました。

F太:そうなんですよ。自分が直接的に「収入を生む」という仕事をしていないことに対する焦りがすごくあるわけですよね。でも、この焦りって正しいものなんだろうかな? という疑問がけっこうあって。おそらく多かれ少なかれ、周りの働いている人たち全員が感じ始めているんじゃないかなと思います。

価値観の変化によって“言い訳ができない”状況に

F太:コロナがあって、2年間の間ですっごい感染者が増えた時とか、お医者さんや看護師さんの方は本当に危険というか、自分自身もものすごく不安だったと思うんですよ。「自分が感染して大切な人にうつしてしまうかもしれない」というリスクを承知の上で仕事をこなしてくれて、乗り越えられた経緯があるわけじゃないですか。

そういう姿を、僕らはたぶん全員が目にしていて。そういった人がいることを無視できない、そういう人に助けられているということを突きつけられた状態で、「じゃあ自分の働き方は?」と、絶対に考えたと思うんです。考えないようにしても、絶対に考えたと思うんですよね。

価値観が思いっきり変わる時期を経たから、みんな言い訳ができなくなってきている気がするんですよね。はっきりと言葉にすることは、たぶんまだ多くの方ができていないんだけれども。

例えば、すごくお金を稼いで「お金を稼ぐってこういうこと」「好きなことをやるってこういうこと」という話に対して、素直に「そうなりたい」と思えるかというと、引っかかりを感じちゃう人が増えてきたなというのは、TwitterやSNSを見ていても感じるんですよね。

山本:確かに。

自分のポリシーを人に任せてはいけない

山本:職場も環境も場所さえもここまで選べる環境で、自分がこの会社を選んでいることに対する動機・意義付けは自分でやればいいんだけども、なんとなくコントロールしきれず滞留してしまっているとか、モヤモヤを抱えている方は本当にすごく多いですよね。

F太:そうですね。今回は「(無理なく)自分を生きる」というタイトルを付けてもらって、これもまたちょっとややこしい話なんですが、本当に自分らしく生きようと思った時に自分のことばっかり考えているとうまくいかないんですよね。

「自分を生きる」「自分らしく生きる」「自分の好きなことをやる」だけではたどり着かない何かがあるよねということを、みんななんとなく感じているんだけれども、「それって何?」ということが、まだ詳しくは言葉にできていない感覚があるんです。

でも、そこをないがしろにしたまま自分のために仕事を選ぶことは、たぶんもうできないと思うんですよね。コロナを通じて、そこにちゃんと向き合って考え続けていかない時代になっちゃった感じがあるんです。

「僕はこういうふうに思います」という話をするのは簡単なんですが、ここを簡単な言葉で埋めちゃいけないというのがまた難しいところというか。

僕は「自分の宗教を作ろう」みたいな話をしたりとかするんですが、「宗教」という言葉が強すぎれば、自分自身のポリシー、哲学、考え方、倫理観。「それぞれの人が自分なりの哲学を作っていこう」みたいな話になっていくんですが、ここを人に任せてはいけないんだろうなという感じがしますね。

山本:確かに。自分自身の哲学、自分自身のポリシー。

F太:そうなんです、難しいんですよ。ここでオリジナリティのある刺さる言葉を作れる人っていると思うんですけど。

山本:(笑)。聞きながら「ああわかる」という気持ちが強いんですが、まとめたいんですけど難しい。

「ヘルシーに悩む」スキルを身につける

F太:でも、これだけたくさんの人が自分の意見を情報発信できる環境が整っている中で、自分自身の考えていることや思っていることをかたちにすることは、ライフワークとして何かしらのかたちでやったほうがいい気がするんです。

もちろん、それが文章じゃなくて音楽の人もいれば、イラストだったり、いろんな表現の仕方があると思うんですよ。それこそパートナーみたいにクッキーを作ったり、料理をすることが表現のかたちだったりもすると思うんです。

もちろん、それをすでに仕事にしている人もいると思うし、事務の仕事が自分自身の表現手段だという人もぜんぜんいると思います。それぞれの人がそれぞれのやり方で、自分自身の価値観をかたちにしていくことが、今はすごく必要な感じがします。

なので、僕が今ここにいることを安易に言葉にすることが難しくて。ここに至る話はポンポンってできるんですが、今ここの話をするのはすごく言葉を選ぶんですよね。でも「今、ここ」を鮮やかに話せる人は、人生をショートカットしている感じがしちゃいますね。

山本:確かに。それこそ、打ち合わせの時にネガティブ・ケイパビリティの話をしたじゃないですか。悩みをめちゃくちゃ解像度高く言語化することもすごく大事なんだけど、これと一緒に共存するのって大事なんじゃないかなというのは、今の話を聞いていてあらためてピンと来ましたね。

F太:そうですね。やはりそれが、僕の言葉で言うと「ヘルシーに悩む」になると思うんです。たぶん、悩み自体はなくならないと思うんですよ。だから、どういうふうに悩むかを試行錯誤しながら、自分の中で「悩むスキル」を上達させていく必要があるのかなと思います。

山本:ありがとうございます。

サボっているわけじゃないのに、同時進行で作業できない……

山本:じゃあ、事前にいただいた質問に触れていきたいと思います。

F太:ありがとうございます。

山本:3つぐらいありますね。では、1つ目の質問です。「その仕事単体だったらできるのに、いろいろな仕事と並行するとパニックというか、何からやったらいいかわからなくなります。そして3時間くらい経って振り返ったら、何も進んでない時があります」。

かっこ書きで「決してサボっているわけではないです!」とありますね。「どうやったらブレずに仕事ができるんでしょうか?」という質問をいただきました。

F太:もう、めちゃくちゃわかります。

山本:わかります。

F太:これを言っちゃったら「じゃあ、お前に質問に答える資格はあるのか?」って思われちゃうかもしれないですが、「この3時間何してたん?」みたいなことは、僕も正直しょっちゅうありますね(笑)。単体だったらできるのに、いろんなことが同時並行になるとできなくなる。やってはいるんですよ。

僕もすごく悩んだ時期があって、自分が24時間何をやっているのか、それこそ分単位で事細かに記録するのを5年間続けてきたんですよ。自分が何をやっているか、細かい結果がずらっと並んでいるのでわかるんです。

自分は仕事をしているつもりがメールチェックに飛んで、メールチェックからリンクをクリックしたらYouTubeで、「この動画を閲覧ください」と書いてあったから動画を見始めた。その動画を見始めたら、隣に関連動画で表示されているやつがちょっとおもしろそうだったから見始めちゃった……みたいなことって、意識に上らない。

「自分、結果として何してたん?」ってなるんですが、記録に残しておけばどこで脱線したかがわかるんですね。だから、1時間仕事をしたつもりが実は10分しかやってなかったことがそこから見えてきたり、記録を取るとわかってくるんです。

作業効率を把握したところで満足感は上がらない

F太:ただ、そこには先の話があって。結論として、記録を取って自分が何をやっているかを事細かく把握したからといって、残念ながら満足度は上がらなかったんですね。

山本:そうだったんですね。

F太:そうなんですよ。いろんな仕事を並行してやって、何をしていたかをしっかり把握したからといって、自分の中での人生の満足度は上がらなかった。もちろん記録をすることによって脱線は防げるから、そういう意味ではやる意味はあるんだけれども、記録することによって解決する問題ではないなと思ったんですよ。

じゃあどういう解決策があるかということなんですが、これは僕自身が今日一番伝えたいことです。

最初に「うまく悩みをペンディングするのがいい」という話をしたと思うんですが、僕もそれを「なるほどな」と思って、自分でもいろんな時に当てはめて実践していこうって思ったんです。

ただ、おそらくいろんな方がこれに同意してもらえると思うんですが、いざ働き始めると、そうやすやすと1年間の期限を決めて1つのことに集中できなくないですか?

山本:無理なんですよね(笑)。

F太:そんなことをやっている暇はないし、なんなら会社が勝手にそれをやってくる。勝手に目標を決めて、厳しい数値目標を定めてくる。じゃあ、その通りに集中力やモチベーションが高まるかというと、高まらないじゃないですか。

「1年間」とか期間を定めて、具体的な目標を立てて思考をペンディングするって、今の時代はすげえ難しいんですよね。

山本:そうですね。

集中するコツは「1日を2つに分ける」こと

F太:資格を取るとか、やるべきことと目標が明確だったらやりやすいんです。かといって「資格は何を取る?」となった時に、そこには必然性がないから、「この資格を取るためにがんばろう」という気持ちにはなかなかならないと思うんですよ。

僕自身も含めてなんですが、目標を結局決められない、期間を決められないんだったら悩みのペンディングができないんですよ。

頭に思い浮かぶ問題を一個一個先送りしようにも、先送りする先がないから、目の前のことに集中できない感じになってしまう。いろいろな仕事が並行して、どれも最重要で今すぐやらなくちゃいけないことだから、パニックになってしまう状況になっちゃうと思うんですよね。

それでも思考や悩みをいったんペンディングして、今やるべきことに集中することが大事だと思っていて。じゃあどうしたらいいかというと、「1日を2つに分ける」ことをおすすめしたいなと思っています。

山本:1日を2つに分ける……?

F太:これはどういうことかと言うと、ゲームをやる方だったらすぐにイメージはつくと思います。RPGとかソシャゲとか何でもいいんですけど、『パズドラ』だとわかりやすいかな。

『パズドラ』って、パズルを解くゲームの画面と、自分自身のスキルをアップさせたり、稼いだ経験値を割り振って自分のスキルを上げたり、ガチャを引いたり、パーティーを編成したりするフェーズがあるじゃないですか。「準備フェーズ」と「ゲームフェーズ」に分かれている、あのイメージなんですよね。

他にもRPGゲームだったら、冒険をガンガン進める時と、「敵が強くなりすぎてストーリーを進めづらいから、いったんレベル上げをして、お金を稼いで装備を整えよう」「ちょっとサブクエストを進めてみようかな」みたいな。

メインクエストやメインストーリーがあって、そのための準備を整える時間という感じで、大きく2つに分けられると思うんですよ。このイメージで、自分自身の24時間を分けてみてほしいんですね。

目の前の仕事に集中するための時間の使い方

F太:分けるといっても、準備の時間を3時間も4時間も取るのは難しいと思います。言うて、僕は2時間とか取っちゃうんですが、そういう時間を1日のどこかに設ける。これからのゲームプレイ時間の前に、自分自身を整えるための時間として、ものすごく神聖な時間として確保してほしいんです。

例えば、仕事をがんばる時間にはいろんな悩みや雑念が生じるんだけれども、「いったん今は考えないで仕事に集中しよう」と思って、その時に出てきたいろんな雑念を準備のフェーズに考えようというふうに、いい感じにペンディングすることができるんですよ。

あんまりゲームに例えすぎるのも良くないかなとは思いつつ、わかりやすくする意味でゲームで言っちゃいますね。ゲームをしている時間に集中することができるのは、準備の時間があるからなんですよね。

そういうふうに時間を分けることによって、1日単位で、自分自身のいろんな雑念や悩みを「後で考える」というふうに、うまいこと自分の中で取捨選択できるようになるんですよね。実際、これは僕自身がようやく見つけた方法というか。

そうやって消化していくことによって、目の前の仕事に集中できるようになる感覚があるんですよね。だから、ぜひこれを試してみてほしいなと思います。

山本:なるほど、ありがとうございます。

勤務開始前に“作戦会議”の時間を設ける

山本:例えば仕事が始まる前、もしくは始業の時間に“作戦会議”じゃないですが、いろいろと段取りや準備時間を設けて、後の仕事の時間は完全に実践でやるというパターン。

もしくは5つぐらい仕事があったとしたら、1時間の中で20分を準備時間、40分は実践時間という感じで、準備時間と戦闘の時間で分けるという感じですか?

F太:僕の中では1日を2つに分ける感じなので、細かく用意しようとしてもたぶん難しいと思うんですよ。なので、いざ就業時間が始まってしまったら、なかなか自分のための時間を自分で確保するって難しいと思うんですよね。

具体的に「じゃあどうやったらその時間を確保できるの?」という話になると、できるだけ起きてからすぐがいいと思っていますね。例えば出勤して、会社の始業時間になる前の数十分をカフェで過ごすとか。そうやって、自分自身のために使える時間を確保するのがお勧めですね。

山本:なるほど、ありがとうございます。「確かに、毎朝タスク整理する時間を設けてから変わりました」というコメントもいただいていますね。

F太:すごい。そういう具体的な話をもらえるとうれしいですね。この時間にタスク整理をすることによってなんとなく見通しが立って、自信を持って進めることができるようになるんですよね。