就活中、次第に起業への興味が湧いてきた

小西亮氏(以下、小西):就活もやりつつ、例えばうちの店もそうなんですがコミュニティスペースと言うんですかね。コワーキングスペースやゲストハウスもそうやと思うんですが、人が交流する場所にすごく興味を持ち始めて。

というのも、いろんな団体やいろんな人と会っていく中で、就活に対する疑問みたいなのもあったんですね。「これだけいろんな働き方、いろんなことをやっている人がいるのに、就活をやっていてもいいのか?」みたいな。半分現実逃避なんですけど。

いろんな人が集まる、今の言葉で言う「場作り」なんですが、大学5年生の時にいろいろ見て回って、「自分もいずれそういう場所をやろう。なんなら卒業と同時にやろう」みたいになってきたんですよ。

ちょうど先週ぐらいに閉店しちゃったんですけど、大阪で最初にやり出した、中崎町の日替わりで店長が代わる店があって。

そこに行った時に「このシステムめちゃくちゃおもしろいな」って思って、自己分析をし合っていた意識高い系のやつと「一緒に起業しようぜ」みたいなノリになったんですね。

岡田花枝氏(以下、岡田):そうなんですね。

小西:そうなんですよ。

150社に落ちる中、ようやく1社内定

小西:ほんで、その人と大学5年生の時に不動産屋を回って、なんなら学生の時に始めちゃおうという感じになったんですよ。

本当に世間知らずで、もちろん経営経験もなければ飲食店でろくにバイトもしたことがないので、「30万円ぐらいやったら店できるやろ」みたいな感じで2人で持ち寄って不動産屋に行ったら「そんなのでは店はできません」って。当たり前なんですが、突き返されるわけですよ。

それもあって、とりあえずいったん就職しようってなったんです。それで1社決まったんですが、リクナビとかマイナビとかいわゆる大手さんがやっている就活サイトではインフレを起こしているので、なかなか決まらないんですよね。採用者というか、選考を受ける人はめちゃくちゃいるし。

言い方はちょっと悪いんですが、就職もいったんしようと思ったんですけど、「いずれ起業するから、自意識とか全部捨てて割り切って就活しよう」みたいな。

岡田:割り切ってというのは、就職することを目的にしたという感じですか?

小西:そうですね。今まで就活は、良くも悪くも150社落ちた中で自己実現しようみたいな。

岡田:その先でね。

小西:そうですね。でもそんな甘っちょろいと言ったらあれですけど、会社は別に自己実現をサポートしてくれる場所でもないから、それは150社落ちるやろなと。

就活のやり方を変えたら、なんと半日で内定が決まった

小西:面接も「僕の自己実現のために入ります」みたいなニュアンスで行っていたので、すごく効率の悪いことをしていたなと思うんですが、起業するのが目的になったので、「自己実現は追いやってとりあえず就職しよう」という頭になったんですね。

それこそハローワークに行って、面接セミナーも行って、キャリアカウンセリングも受けて。

岡田:(今までは)むっちゃ逃げていたことをしだしたんですね。

小西:そうなんですよ。それで胡散臭い経営者のセミナーも行かなくなって、グループディスカッションのオリエンタルラウンジもやめたら、なんとほんま半日で決まったんです(笑)。

岡田:いわゆる就活ハックと言われるような、お決まりのスタイルがあるわけじゃないですか。そこに自分をはめたらすぐに決まったということですか?

小西:そうですね。就活は150社受けているので、「同じ就活仲間でも、こう言っているやつは受かっているな」みたいな、小手先のテクニックみたいなものは薄々感じてはいたんですよ。

それの真似をして就活ハックをしたら、ハローワークさんみたいな施設やったのもあると思うんですけど、ほんまに一瞬で決まって。「いや、こんな就活ちょろいんや。今までのあれなんやったん?」と思って。

岡田:だって、がむしゃらに2年してはったわけですもんね。

小西:そうですね。

目指す業種はそのまま「就活の方法」だけを変えた

小西:僕は広告代理店に行きたかったんですけど、広告代理店に決まって。けっこう中小のところやったんですが。

岡田:志望の職種で、業界を変えたわけではないということですよね。

小西:そうですね。もともと広告代理店はけっこう行きたいジャンルでした。特に行きたい業界とかはなかったんですけど、強いて言うなら「キラキラしていておもしろそう」ぐらいなんです。

岡田:でも、それこそ自己実現につながりそうな業界だと思ったのが広告代理店やったということですよね。

小西:そうですね。キャリアカウンセラーの人に聞いても、僕は良くも悪くも物事を盛る癖があって。自分を大きく見せようとするじゃないですか。「俺、いろいろやっているぜ」というところを良い具合に言ったら受かるんじゃね? ということを言われて。

岡田:それはハローワークさんでですか?

小西:そう。セルフプロデュースみたいな。今まであまりそれを言っていなかったんですけど、それを言ったら本当に受かるようになりました。しかもわりと良い会社で、いろんな仕事を任せてくれるところやったんです。

岡田:そうですか。目指す業種・職種は変わっていないけれども、就活の方法を変えたという感じですよね。

小西:そうですね。

やっと決まった会社を2ヶ月で退職

岡田:避けていたところに行こうと思ったターニングポイントは、がむしゃらに我流で就活をして150社落ちたのが絶対的なきっかけですかね?

小西:そうですね。それと(起業という)別の目標ができたので、その2つかもしれないですね。割り切ってちゃんと基本を抑えてやれば受かるようになる。今ではもう「就活150社」みたいなネタになりつつ。

岡田:確かに。1社受かっていますしね。

小西:僕が言えるテーマの1つでもあると思うんですが……これもありきたりな話なんですけど、就活で150社落ちたのも、学生団体や高校生の時に名簿を回って歩いたのも、当時は一見まったく意味がなかったけど、今につながることはめちゃくちゃあって。

だからほんまに、失敗もやり抜いたら良い側面もあんねんなということも、ちょっと言えればなと思います。

岡田:本当にそうだと思います。ハローワークに行ったらすぐに1社決まったというその1社を、2ヶ月で辞めておられますよね。

小西:そうなんですよ。(ここまでの話は)めっちゃ良い雰囲気やったんですが、実は2ヶ月で辞めました。別に2ヶ月で辞めるつもりとかはなかったんですけど、お金がないし、社会経験もないから、何年か社会に出ることは重要じゃないですか。

周りも「あいつ大丈夫なのか?」ってめっちゃ心配しているし、社会での体裁を守るためにいったん就職はしておこうとなって働いて。

“誰かと働くこと”が無理だった

小西:わりと良い会社で、いろいろ仕事も任せてもらえたんですが、なんで2ヶ月で辞めたかというと、社会人がほんまに向いていなかったなという。

岡田:社会人が?

小西:そう。

岡田:1つの会社にずっといないといけないわけじゃないですか。そこの人たちとしか関わらないというか、お客さんとしか関わらない感じがしんどかったんですか? 何が合わなかったんです?

小西:大前提として、会社は中小やったんですけどめっちゃ良いところやったんです。「ほんまに自分、こじらせているな」と思ったのは、人と働くのが無理やねんなと。

岡田:常に一緒に、というイメージ?

小西:一緒にというか、普通のことなんですけど、みんなでチームワークでやるのが苦手で。というのも、これは就職するまでもないんですが、僕は今までアルバイトもまともにできたことがなくて。

岡田:そうなんですね。続かなかった?

小西:アルバイト先でもめっちゃ浮くんですよね。

岡田:ごめんなさいやけど、浮いている小西さんをちょっと想像できてしまう(笑)。

小西:居酒屋でもバイトしていたんですけど、ほんまよく浮いて。

同族が集まるコミュニティに入ることが苦手

小西:仕事ができないというのもあるんですが、なんか輪に入れないというか。単純に僕のコミュ力の問題もあるんですけど、コミュニティというか出来上がっているところに入ると「ヒヤッ」ってなっちゃうんですよね。「うわ、なんかみんな馴れ合ってんな」みたいになってしまって、めっちゃ引いてしまうんです。

大学のサークルに入れなかった理由もそうですし、高校生の時も普通にプライドを捨ててオタクのグループとかに入れてもらったらよかったのに、同族が集まっているのに引いてしまう自分がすごくあって。

特に中小企業やったので、会社ってある意味その最たる例じゃないですか。だから、会社になんの罪がなくてもほんまにドン引きみたいな感じになっちゃって。

でも仕事を任せてくれるし、いる人はみんな良い人なんです。そこで僕は「会社勤めや仕事は無理や」と確信したんですよね。ある意味、自己分析でもないですけど。

岡田:確かに。1回働いてみて、そこもターニングポイントですよね。

小西:手っ取り早かったですよね。

公園に上司を呼び出し、土下座して退職……

小西:僕も含めて、働いてもいないうちにああやこうや言う人がけっこういると思うんですよ。でも、一発働いたら自己分析とかを全部すっ飛ばしてわかるようになる。

岡田:(実際に体験したら)わかるしかないですもんね。

小西:薄々無理やと思ってたけど、みんなで働いたりとか、僕は上司と部下みたいなのも嫌で。上からどうこう言われるのも嫌やし、部下に指示するのも昔からほんまに無理で。

しかも、その広告代理店には僕1人だけ雇ってもらえたんですね。「このまま何年も続けて、育ててもらってから辞めるのはめちゃくちゃ失礼やな」と思って。

岡田:どうせ辞めるって決まっているから、ということですか?

小西:そうです。もともと自分でコミュニティスペースをやりたいというのもあったので、隣にあった扇町公園に上司を呼び出して、土下座して辞めましたね。

岡田:(笑)。「2ヶ月やけどすみません」言うて?

小西:そう。なんなら「起業したい」という、浮ついた気持ちもありつつ。

岡田:けっこう正直にお話しされたんですか?

小西:そうなんですよ。それで納得してもらって。もちろん2ヶ月しか働いていないので、社会人経験もなければ貯金もぜんぜんないので、親にも言えなくて、そこから1週間ぐらい会社へ行くふりをしていたんですよ。

岡田:そうやったんや。それはそれで、思うことがたくさんおありやったんやろなとは思うんですけどね。

退職した翌年に「週間マガリ」をオープン

小西:「2ヶ月で辞めるって」みたいなのがあったんですが、リストラにあったサラリーマンじゃないですけど、いつまでも会社へ行くふりをやってはいられないので。

服部緑地公園というけっこうでかい公園があるんですが、そこでいつも時間を潰していたんです。たまたまそこの屋外プールがバイトを募集していたので、そこでバイトをすることになって。

岡田:辞めてからも、アルバイトでは食いつないでいたんですね。

小西:そうですね。ただ、やりたいことも決まっていたので、相方みたいなやつと、(会社を)辞めた年の年末ぐらいに今の「週間マガリ」という店を始めました。

岡田:そうやったんですね。「週間マガリ」の入れ替わり立ち替わり店長が変わるというコンセプトは、前に中崎町にあったお店からインスピレーションを受けてだと思うのですが、この間ゆっくりお邪魔させていただいたら、もう(コンセプト)作られていたじゃないですか。なんちゅうんやろ、あの空間。

「週間マガリ」の空間は、働くのが向いていなかったとか、クラスタに所属できなかったとか、小西さんのパーソナルな部分を消去法で反映したというよりかは、コンセプトや運営をむちゃくちゃ練って作られたような印象を受けたんですが、わりと考えられたんですか?

小西:そうですね。今も一貫しているんですが、学生の時から就活の時から、いろいろ頭を打ったわけじゃないですか。ある意味、その全部の失敗が自己分析的になって、自分に最適化した店を作ろうと思ったんですね。

協調も命令もいらない、自分に合った仕事のかたち

小西:飲食店もいろんなスタイルがあると思うんですが、うちの店は基本的に料理は出していないんです。主催される方が作ったりはするんですけど、まず絶対に第1条件はワンオペですね。「従業員とか絶対に雇わんとこ」と思って。

もちろんたまに手伝ってくれる人はいるんですが、日替わりの店長さんは従業員ではなくて主催者の方なので、「週間マガリ」の店のスタッフは僕しかいないですね。それで「オーナー兼アルバイト」と言っているんですが、オーナーでありながらドリンクを作ったり。

岡田:店に出てはりますもんね。

小西:そう。トイレ掃除まで全部やるんですが、このスタイルが一番自分に向いている。誰とも協調しなくていいし、命令したり指図されることもないし、気軽な店。

日替わり店長さんと関わっている時点で「人とやっているやん」という指摘も受けると思うんですが、日替わり店長さんは1日単位なわけですよ。いろんな職業の人が老若男女いろいろいらっしゃって、その距離感もすごく良い。みんなで作り上げている感があるようでない、みたいな。

岡田:固定メンバーじゃないんですもんね。

小西:そうです。だから、それもすごく自分に向いています。

「出会い厨」だった過去が、起業してから役に立った

小西:それこそ今までは、Facebookの友だちでもインスタのフォロワーでもなんでもいいんですが、数なんてほとんど意味がない。Facebookの友だちが何千人いようが、普通はつながってそれで終わりじゃないですか。

なんですが、何も経験がない状態で店を初めてたらほぼ失敗するじゃないですか。やはり、人もどう呼んでいいかわからないし。ここで、今までまったく意味のなかった学生名簿の経験だったり、学生団体やサークルに50個入っていたり、就活で就活ナンパしまくっていたのがすごく役に立った。

知り合いだけはめちゃくちゃいたので、みんな物珍しくて店に来るんですよ。「あいつ、就活せずに店始めよった」みたいな。それでわりといろんな人が来てくれたり、その中の方が1日店長をやってくれたりして、ここでやっと花咲く感じがあって。

岡田:本当にすばらしい。

小西:だからそういう意味でも、すごく向いていたなと。出合い厨じゃないですけど、数友だけ多い、人と協調して仕事できない奴にすごく向いている業態を構築できたのは、すごいラッキーパンチでしたね。

岡田:なるほど。