周りがまだ遊んでいる中、早々に就活をスタート

岡田花枝氏(以下、岡田):もう1つだけ聞いていいですか?

小西亮氏(以下、小西):はい、もうなんでも。

岡田:「友だちはあまりいないけど知り合いは多い」という言葉だけかいつまんで理解をすると、1人の人と深く付き合うとか、腹を割って何かを話すことは、わりと苦手な学生時代やったんですか?

小西:そうですね。相談する人がいたら、こんなになっていないですもんね(笑)。

岡田:就活の時ってどんなふうにされていたんですか? というのは、学生団体にもかなり入ってらっしゃったり、サークルもいろんなところに顔を出していたりとか、本当に活動的な大学生ですよね。

小西:めっちゃ良い言い方をしてもらえれば、そうなるかもしれないですね。

岡田:エピソードだけを聞くととっても前向きだし、意欲的だし、先ほど「肥大化した自意識」という言葉を使われたんですけど、「こうなりたい」というイメージもかなりお持ちやったのかなと思うとですよ。

今回の題名にもなっている「150社落ちる」というのは、なかなかそことは一致しにくいし想像しにくいんですが、就活はどんな感じでされていたのか詳しく教えていただけますか。

小西:やはり就活も、僕の悪い癖が全面的に出ていまして。就活も3年生のかなり早い段階から始めていたので、たぶん始めるスピードもめちゃくちゃ早かったと思うんですね。それこそ周りが「テニスや」「合コンや」って言っている時から始めていました。

「就活の場を相席屋と思って行っていたかもしれないですね」

小西:面接を受けたところだけで150社落ちたので、たぶん説明会は300ぐらい行っているんです。それだけ聞いたら就活を前向きにやっている人みたいなんですが、結局それも中身がなくて。

「就活をやっている俺すげぇだろ」「いち早くやっているこの感度」みたいな感じだったかもしれないです。周りに見せびらかして……誰も見ていないんですけど(笑)。

岡田:「忙しい俺、かっこいい」時代ですか。

小西:そうです。まだ周りが茶髪とかなのに、1人だけ黒髪スーツで。別に(大学に)スーツで来る必要性もないんですが、リクルートスーツで大学に登校したりとか。

岡田:そうなんですね。じゃあ始めるのは早かったけど、中身を考えると、あまりその就活に中身はなかった感じがするということですか。

小西:そうですね。自意識的な側面もそうなんですが、就活をすごく履き違えていました。

岡田:履き違えていた?

小西:今の就活はちょっとわからないですが、それこそ当時はリクナビとかがわりと出始めて、就活がすごく多様化していたというか。経営者のセミナーみたいなのがあって、他大学の人と交流ができたり、「ここで集まった10人で今からこの議題について話してください」みたいなグループディスカッションがあったり。

そこでコミュニケーション能力を見られて面接に進んでいくと思うんですが、僕の場合は本当に出会い厨じゃないですけど、「他大学の女子大生としゃべれるから」みたいな。ほんまに言葉を選ばずに言うと、就活の場を相席屋と思って行っていたかもしれないですね。

岡田:確かに不純ですね(笑)。

小西:不純の極み。

岡田:就活のがんばりの動機が不純やったんですね。

小西:そうなんですよ。

人よりも早く就活を始めたことで芽生えた「自意識」

小西:ただでさえ志望動機も決まっていない上に相席屋感覚で行っているので、もちろん落ちるじゃないですか。しかももう1つ言うと、変に就活を早くやったり、「いろんなセミナーやグループディスカッションに参加しているんだぜ、俺」という、またここで自意識が邪魔するんですよね。

大学のキャリアセンターがやっている面接トレーニングとか、ああいうのは「しゃらくせぇ。この俺には必要ねぇ」みたいな感じで全部行っていなかったんですよ。

岡田:そうなんや。

小西:基本は全部すっ飛ばして、よくわからない怪しい経営者のセミナーやグループディスカッションに勤しんで、数だけはこなす。

最後とかはもう狂っていて。例えば大きいビルの何階とかで面接をやっていたら、「ついでにほかの面接も行くか」って、ほんまスナックビルみたいな感じでほかの就活も行ったり。そこでまたメアドやFacebookの数だけめっちゃ増える、みたいな。

岡田:でも、むっちゃバイタリティは感じるんですよ。活動はものすごくされているじゃないですか。その原動力は、先ほど言ってくださった「出会い厨」というところですか?

小西:出会い厨をやったわりには恋愛的にも別に何も成就しなかったんですが、それはほんまどうでもいい話ですよね。たぶん、なんかマウントを取りたかったんでしょうね。

周りにキラキラした大学生っているじゃないですか。そういう人たちに真っ向から勝負しても絶対にかなわないので、今振り返れば自分なりに勝負を仕掛けていたのかもしれないですね。

「俺はそういうレイヤーで勝負してねぇから」「お前らは彼女を作って冬はスノボー、夏はサーフィンの馬鹿大学生やっているけど、俺は違うんだから」「学生団体をやっていて、就活もめちゃくちゃ行っていて、これだけ人脈もあってやべぇやつなんだから」を、やりたかっただけなのかもしれないですね。

だから、もうちょっと良い方向にベクトルがいっていたら、もっと違う道もあったんでしょうけど。

“周りとは違う自分”という考えが空回った数年間

岡田:高校生ぐらいの時に、どこにも属さないとか、どこのクラスタにも入れてもらえなかったという経験を言ってはったじゃないですか。

小西:「6群」ですかね。

岡田:(笑)。あれは自分のステータスじゃないですが、「自分はほかの人と違う」というところで自分を保っていたところがあったんですかね?

小西:この話はバーで盛り上がったんですけど、僕らの世代はEXILEとかがめっちゃ流行った時期ですが、「俺はEXILEとかBUMP OF CHICKENは聞かねぇよ。THEE MICHELLE GUN ELEPHANT、ナンバーガールとかそういうのが好きだから」みたいな。30歳オーバーの人だったら、このニュアンスが伝わるかもしれないんですが。

岡田:私らですね(笑)。

小西:わかりますか? 「ナンバーガールとか聞いちゃってるから」みたいな。要は「人とは違うことやっているんだぜ、俺サブカル男子」みたいなことですよね。それが空回りしている数年間やったのかもしれないですね。

当時は自分のことをすごく個性的だと思っていましたけど、それもわりかしあるあるじゃないですか。

岡田:「そのほかのみんながやっていることと、俺は違うことやっているぜ」を、言ってしまえば就活でもやってしまったという感じですか。

小西:そうですね。

今思えば、素直にキャリアセンターに行けばよかった

岡田:キャリアセンターでイベントをやっているとか、キャリアセンターとがどんなところなのかは、わかってはおられたのかなとは思うんですよ。

小西:そうですね。もし今、自分が就活の時に戻れるなら、変な経営者のセミナーとかグループディスカッションに相席感覚で行くんじゃなくて、本当に素直にキャリアセンターに行っときゃよかったんですよ。

岡田:そうなんですね。応募をされているということは、例えば新卒の場合であれば、簡単に言えば「長所と短所と書いてください」「学業でがんばった出来事は何ですか?」というのをエントリーシートに書かないといけないじゃないですか。

キャリアセンターに行くと「自己分析が大事ですよ」って促されるじゃないですか。小西さんはどのように自己分析をされていたんですか?

小西:これも罠で、経験された方もいらっしゃると思うんですけど、自分と似たような「自意識のやり場に困っている何者かになりたい系の学生」って、当時はわりといまして。僕ほどこじらせていないとはいえ、同類の人たちとスタバに集まって、言ったら自己分析という名の傷の舐め合いをするわけですよね。

岡田:同士でされていた。

小西:そうです。

同じ境遇の学生同士で“傷の舐め合い”をしていた

小西:ただでさえ学生同士の自己分析なんて意味ないのに、こじらせているやつ同士の自己分析。でも、気持ちいいじゃないですか。

岡田:なるほど。

小西:「小西くんは場を回すのが上手で傾聴力があるよね」みたいな、適当なことを言ってくるんですよ。今思ったら、そんなことはまったくないんですが。

例えば先ほど言ったみたいに、グループディスカッションで仲良くなった女子大生の女の子を自己分析と称してデートに誘うとか。そこで行われる自己分析なんてまったく意味がないわけですよ。

岡田:(笑)。そうですね。その時にどんな話をしたか、覚えています?

小西:もう、ほんまに思い出すのも嫌ですね。

岡田:(笑)。

小西:ほんでまぁ、結局そういうことをしていて。何かやっているふうな気持ちではあったんですが、何も自己分析できていない状態でよくわからない自己PRを言うわけですよ。

ほんまにひどかったのが、私服自由の面接があるじゃないですか。けっこう大企業だったんですが、100人ぐらい参加していて僕だけ私服で。企業さんにもよると思うんですけど、「私服で来てください」とか言っても、あれって結局スーツで行くのが普通。

そんなの、キャリアセンターの普通のセミナーへ行っとったらわかることなので、そういうのをすっ飛ばしているからわからずに、世間知らずなことをしちゃったりして。もちろん落ちたんですけど。

岡田:そうやったんですね。

小西:そうですね。だから本当にベタに「自己分析はちゃんとやっておいたほうがいいねんな」って思いました。

岡田:ベタにね。

学生時代、一度もキャリア相談に行かなかった理由

岡田:実際に就職活動をされている新卒の学生さんの中で、キャリアセンターに行くのを渋ってらっしゃる方ってぜんぜんおられると思うんです。私自身もお会いしたことがありますし。

みなさんいろんなご理由がありながら、二の足踏んでらっしゃるところがあると思うのですが、小西さんは率直になんで行かへんかった理由はありますか?

小西:それは本当に、斜にかまえてスカしていたからでしょうね(笑)。「キャリアセンターに行ったら負け」みたいになって、これだけ就活をやっているのに、キャリアセンターにはほんまに1回も行っていないと思いますね。

岡田:1回もですか。

小西:うん。なので、本当に斜にかまえていたと思います。「大学職員みたいな、ぬくぬくしている人たちになんか相談することなんてねぇ」「てやんでぇ、しゃらくせぇ」状態やったんですけど、今考えたらプロの方じゃないですか。

それを専業でされているわけで、常駐しているキャリアコンサルタントの人とかもいるわけじゃないですか。普通にそこで自己分析や面接セミナーに参加していたら(と思うと)、もう今悔やんでも悔やみきれないですね。

岡田:確かに、違う人生やったでしょうね。

小西:うん。なので、僕みたいなよくわからん馬の骨が見てくださっている方に言うことなんて基本的にないんですが、ほんまにベタに行ったほうがいいですよ(笑)。

岡田:ベタにね。

小西:これを聞いてくださっている方はめっちゃありがたいんですけど、こんなの聞いている暇があったら、本当にキャリアカウンセリングに行ったほうがいいですよ。

岡田:ちょっと待って(笑)。

小西:それは冗談なんですが、それぐらい重要ということですね。

就活で150社落ちて気づいた「自己分析」の重要性

岡田:それぐらい重要というのは、小西さん1人で自分のことを考えている時だったり、いわゆる同志と言われる方同士で自己分析らしいことをしていた時に見えていたものは、今の自分から見るとぜんぜん見えていなかった感じがしますか?

小西:10年お店をやっていて、否応なく自己分析をやられるわけじゃないですか。お客さんとのやり取りが自己分析というか。本当に10年経って気づきましたね。自信を持って言いますけど、あの時の自己分析はまったく意味がなかったです(笑)。

自分が考える像というか願望でしかないので、僕がいろんな学生団体とかに行っているのも、ある意味「こうなりたい」という願望じゃないですか。そもそもそれが就活でまったく通用していないのは、すごく実証ですよね。

岡田:確かにね(笑)。

小西:150社落ちていますから。

岡田:でも、150社受けはったのもすごいですが、落ちても落ちてもそのまんまスタイルは変わらなかったということですよね。変えなかった、というか。

小西:変えなかったというよりかは、もう後戻りできないという感じですね。損切りできない状態なので「もうこれで行くっきゃねぇ」みたいな。

僕の場合は本当にラッキーパンチでしかないんですが、こじらせこじらせでたまたまお店を10年間やってこれたんですけど、言ったら再現性もないので、基本は抑えるのは大事かなというのがあって。あとでお話ししようと思うんですが、こんな感じで実は一瞬就職しているんですよ。

岡田:そうそう、そうですよ。「150社落ちた」で終わっていなくて、1社受かってそこに行ってらっしゃいますよね。

小西:そうなんですよね。

「就活がダメなら起業しよう」というマインドに

小西:これはちょっと脱線するかもしれないんですけど……。

岡田:いえいえ、話を聞かせてほしいです。

小西:いいですか。どれだけ意識が高くてドーピングしていても、150社落ちたらやっぱり人の心は折れるんです。当時は就活氷河期やったので、就活浪人留年制度みたいな制度があったんです。前提なんですが、就活氷河期でも150社落ちるのは異常な数値なんです。

岡田:あまり聞かない。あまりどころじゃないな、初めて聞きました。

小西:僕は神戸の大学に通っていたんですが、うちの大学の救済措置として、単位を取り終えていて就職が決まっていない人に対して、逆に留年できるというシステムがあったんですよ。

僕はそれを使って大学5年生になったんですけど、5年生になってもぜんぜん決まらなくて、そこから現実逃避が始まるわけですね。これが今の店にもつながることなんですが「就活がダメなら起業しよう」になったんです。まぁ、よくあるやつですよね。

岡田:それは「雇われるのがダメなんやったら自分でしよう」ということですか?

小西:そうですね。そう言い聞かせないともうメンタルも持たないですし、なにせ決まらないから。