Z世代にリーチするマーケティング手法を探る

司会者:続きまして、トークセッションに入っていきたいと思います。「Z世代のファンマーケティングについて」ということで、4名のゲストの方にお越しいただいております。1名はNECメンバーですね。それではご入場ください。みなさま、拍手でお迎えください。

(会場拍手)

司会者:ここからは、モデレータをバトンタッチしたいと思います。樋口さん、よろしくお願いします。

樋口雄哉氏(以下、樋口):みなさま、お忙しい中お集まりいただきありがとうございます。今日はこの4人でトークセッションをさせていただければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

最初に自己紹介をさせていただければと思いますので、西川さんからお願いします。

西川直樹氏(以下、西川):TBSイノベーション・パートナーズの西川直樹と申します。本日はよろしくお願いいたします。私は新卒でヤフーに入りまして、その時に樋口さんとのつながりがあったので、今回はお呼ばれしたのかなと思っております。

その後TBSに転職しまして、TBSグループの中のCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の担当をずっとしてきております。1年間報道の現場にも携わりましたが、基本はCVCをやってきております。

TBSグループとして、これから新規で進出していきたい領域の探索や、既存事業の深化のための投資をふだんはやっております。

本日のテーマの「web3」もTBSとしては非常に注目している領域ですが、すごくいっぱい事例があるかというと、まだまだ研究中なところもあります。本日の私の立ち位置としては、Web2寄りの話をするポジションを演じられると良いかなと思っております。よろしくお願いいたします。

(会場拍手)

漫画を始め、日本に存在する多くの知財

樋口:ありがとうございます。では続きまして、三塚さんお願いします。

三塚英毅氏(以下、三塚):みなさま、はじめまして。Animoca BrandsでCOOを務めております、三塚と申します。よろしくお願い申し上げます。

私のキャリアはすべて投資銀行の業界です。今は社名が変更されておりますが、新卒でメリルリンチ日本証券というところでプライベートバンクの立ち上げを経験いたしました。

そのあとにBNPパリバに移籍したのですが、主にマーケット業務に従事しておりました。その後、縁あってAnimoca Brands Japanの立ち上げをさせていただきました。

私個人よりも会社のことをご説明したいなと思ってるんですが(笑)。今日現時点では「世界で一番大きい会社」とよく言われていますけど、Sandboxさんのような会社をグループとして司っている立ち位置にいるのがAnimoca Brandsです。

その中で、なぜ我々が日本エンティティを作ったのか。事業としては主に3つやらせていただいております。

日本には世界に誇る知財として、漫画ですとか、かなり多くの知財があり、かつ潜在的に生み出すことができる土壌と文化があります。生み出された知財を世界の中で、Web3のブロックチェーンのテクノロジーを使用して流動化を進めたいというのが、まず1つめの事業の核です。

スタートアップを立ち上げたZ世代の起業家

三塚:2点目が、Web3のブロックチェーンのテクノロジーを使用し、大手の法人企業さまと既存事業を補完する業務。

本日のタイトルにもなりますが、マーケティング施策の一環として、ブロックチェーンのテクノロジーは世界という大きい範囲の中で、どれだけ効率的に複数のユーザーとつながり、情報のやりとりを行っていくかというところで、ブロックチェーンのテクノロジーとは非常に適していると個人的にも考えています。

3つ目が、私もマーケットの出身ですが、トークンも他の伝統的資産と同様にアセットとしての価値を確立するために、設計と、マーケットの流動性を作る必要がございますので、そういったところでのトークンアドバイザリーも含めて3つの事業をやらせていただいております。今日はよろしくお願い申し上げます。

(会場拍手)

樋口:ありがとうございます。では最後に吉田さん、お願いします。

吉田勇也氏(以下、吉田):みなさん、はじめまして。HARTiの吉田と申します。本日はよろしくお願いいたします。今回は「Z世代マーケティング」ということで、私も28歳なので本当にギリギリの枠で呼んでいただいて(笑)。本日は、Z世代という観点からもお話しできたらと思います。

私は19歳で1社目を創業しました。当時は(今の事業とは)まったく違う、フランス語のオンラインスクールの小さい事業をやっていました。そこから23歳で学生起業というかたちでHARTiという会社を創業して、今は5期目のスタートアップになっています。

一般の人にはなかなか伝わりにくいweb3の世界

吉田:チームは、日本とインドネシアでだいたい45名ほどおります。私も海外を行ったり来たりすることもある中で、Z世代といってもグローバルではすごく広いんですよね。

国内だとまだまだ10パーセント、15パーセントぐらいしか人口がいないので、世界の最先端のZ世代のトレンドも個人で追いつつ、会社では2事業やらせていただいています。

1つが、実は先月ローンチさせていただいたんですが、いわゆるフォトブースです。セガさんの商標の「プリクラ」みたいなものを作らせていただきました。

我々はWeb3の事業に参入して2年半経つんですが、言葉もそうですし、エントリーとしてなかなかわかりづらい。みなさんがほぼ100パーセント経験したことがあるプロダクトからWeb3の世界に引っ張ってこれないかということで、フォトブースの機械の事業を始めました。

もう1つ、法人向けにHARTiというアプリを出させていただいています。こちらはNFTのインフラというかたちで、国内で初めてAppleとGoogleの審査を通過したNFTのアプリです。

具体的には、ウォレット、マーケットプレイス、流通の部分がすべて1つにまとまってるアプリで、今は5ヶ国でユーザーを抱えています。今日は、Z世代、NFT、最新のトレンドも踏まえてお話しできたらと思っていますので、よろしくお願いいたします。

(会場拍手)

技術の発達に伴い、個人がデータを管理できる時代に

樋口:ありがとうございます。年代が20代、30代、40代といい感じにバラけてるかもしれませんね。

「Z世代」をテーマにした背景を簡単に説明しながら、(Z世代には)どういう特徴があって、どう見えているのかを話しながら、Z世代の方たちに振り向いてもらうためにはどういう取り組みをしたらいいのかをお話しできればいいなと思っています。

たぶん私がこの話を一番知りたくて、こういうテーマ設定をさせていただきました。背景としては、私がインターネット事業屋さんになったのが2006年の11月でして、MIXIが株式公開かなにかをしたあとぐらいにヤフーにジョインしたんです。

ちょうどその時からWeb2.0で、「Yahoo! ID」というものがたくさんありまして、それを活用したマーケティング活動やサービスの提供をしておりました。

その時から1to1(マーケティング)みたいな話はありましたが、プラットフォームが個人データを持ってたところから、今は技術の発達もあり、個人がデータを管理できるようになりつつあるよという話かもしれません。そうなってきたのだとするならば、こういう考え方や技術がどういうふうに使われていくんだろう? と思いました。

多くの企業が悩んでいる、Z世代にリーチできないという課題

樋口:60社ほどいろんなお客さまにおうかがいしたところ、「web3を活用するとこういう課題が解決できるんじゃないか」という話がだいたい3つぐらい出てきました。

今の世の中で、属性や世代でカットしたものの見方もおもしろいなと思いまして、「Z世代」というところで取り組みができないかなと思いました。

課題としては、いろんな事業会社さまから「この世代の方にリーチしたくてもリーチができない」というお話があったものですから、いろいろやってきました。

これは釈迦に説法ですが、ProofXさんが作成された資料を引用させていただいています。Z世代は今、だいたい日本に1,800万人ぐらいいらっしゃいます。この方たちがエンタメ・メディアの消費や、今後5〜6年、もう少しすると消費の中央にくるんじゃないかと。

こういう人たちにうまくマーケティング活動したいけどできないところがあったものですから、メディアの消費、コンテンツの消費、エンターテイメント領域で取り組みができないかと思いまして、次のページでお示ししたようなことを検討しております。

「ファンマーケティング」ということで、例えばファンクラブで言うと真ん中にコアファンの方がいます。コアファンはほとんど変わりませんが、ライトからミドルのセグメンテーションが変わったり、ファンじゃない人がファンになる。

こういう取り組みができていくと、リテールやホルダーさんを抱えている企業さんにもうまく応用がいけるんじゃないか? という話をしていました。

SNSの普及で、人々の趣味嗜好は分散化

樋口:ただ、この世代に対してどういうふうにアプローチすればいいのかというところは、いろいろ課題だなと考えていた時にこのお三方に出会いました。吉田さんは先月のWebXの時にお話しさせていただいて、ぜひいろいろなお話をしたいなと思い今回はご参加いただきました。

各業界のみなさまの観点から、メディアの視点であったり、三塚さんは事業者の方とかなりいろいろなお話をされてると思いますので、事業者がどういうふうに考えてらっしゃるかを教えていただければと思います。

吉田さんはサービスを提供かつZ世代だということで、どういうふうに見えているのかをディスカッションできたらなと思っています。じゃあまず、西川さんからお話しいただければと思います。

西川:それでは「テレビ局から見たZ世代」をお話しできればなと思っております。1年ぐらい前の資料なんですが、社内の総合マーケティングラボ・ビジネス戦略部でZ世代研究をやって、全社的にもレポートを出して共有しています。

昔から、その時代ごとに若者世代にどう届けるのかはずっとテーマではあったんですが、スマホが出てきて、ソーシャルメディア・SNSが出てきて、人々の趣味嗜好が分散化している今だからこそ、本当にわからないなと思っています。

クライアントさんとお話ししていても、「(Z世代と)どうつながったらいいかわからない」というお話もすごく出てきているので、今こそちゃんと理解しなきゃなということで調査が始まりました。

Z世代にアプローチするカギは「推し」

西川:資料自体は20ページぐらいあるので全部を細かく説明はしないんですが、ポイントをご紹介できればなと思っております。SHIBUYA109 lab.さんや博報堂メディア環境研究所さんと一緒に定性調査(インタビュー)と定量調査(Webアンケート)をやってきました。

最終的な結論を一言で言ってしまうと、昔の概念でのマスコミュニケーションは成立しづらくなってきています。基本的に(趣味嗜好が)分散している中で、いかにTBSらしさを伝えるかをがんばらなきゃいけないなという話です。

いろいろと定性調査をして、キーワードとしてかなり出てきたものが「推し」というワードです。昔だと、みんなが見ている・みんなが好きなものがある程度あって、それをいかに見せるかというかたちで(コンテンツを)作ってきたんですが、今はそうもいかなくなっています。

一方で、SNSのフォロワー数みたいなわかりやすい客観的な数字を見た時に、そこまでの規模感じゃない人でも、ものすごい影響力を持っている時代です。

「推しが出ているから見る」「推しが紹介していたから買う」というのが、本当に当たり前になってきているかなと思います。「推しが出るから見る」みたいに、明確な目的を持って番組・TBSを選んでいただくことをどう設計できるのか、今はすごく重要になってきている時代だと考えております。

“推しを作りやすいコンテンツ”に人気が集まるように

西川:みなさんもテレビを見ていただいて、最近の傾向としてたぶん感じてる部分があるんじゃないかな? と思うところで言うと、まず1つはバラエティ番組の中での人気のフォーマットがちょっと変わってきています。

昔だと、例えば「クイズ番組をやってれば見てくれる」などが傾向としてあったんですが、最近の定番としては、オーディション系の番組と恋愛リアリティショーが人気のフォーマットの1つになってきています。番組の構造上、推せる人たちがいっぱい出てくるんですよね。

みなさんの趣味嗜好は分散しているので、一人ひとり「誰が好きか」というのは本当にバラけるんですが、トータルで見たら30人ぐらい出てる中の1人は推しが出てくるので、結果的にみなさんに見てもらえる。そういう構造が作りやすいフォーマットであると分析することもできると思ってます。

かつては「番組のコンセプト自体をみんなが好きで、同じものを見ていた」という感じだと思うんですけど、今は「みんな違うものを見に来ているんだけど、結果として同じ番組を見ている」という感じでしょうか。そうした構造をいかに作れるかが1つのポイントになっていると思います

“推される人物”を登場させることも1つのポイント

西川:フィクション作品であるドラマにおいても、出演者の人格というより登場キャラクターの人格を推してもらうという考え方もあると思っていて、最近多くの方に見ていただいている『VIVANT』というドラマには、「ドラム」というすごくかわいい、推せるキャラクターが出てくるんですね。

推しキャラクターがいると、みなさんはそこに対する反応をSNSで言いたくなるので、それがムーブメントっぽくなっていって、また新しい視聴者の方々を連れてきてくれるという感じですね。X(旧Twitter)をうまく活用してコンテンツのブームを作っていくことが、今は本当に定番になってきてると思います。

X(旧Twitter)は外部のプラットフォームなので、コントロールしきれない部分もあります。少しでも自分たちがコントロールできるようなコミュニティの場をいかに作れるかということも、最近では意識されています。

一例として、ドラマの世界観を再現したようなメタバース空間を作りました。そこではみなさんがアバターの姿になって、ドラマの感想をコメントし合えるので、そこでユーザーの反応がどう広がるかが見える……というようなことを、ずっと実験的にやっている感じですね。

最後のまとめとして、(「Z世代研究から見たTBSの課題」を)5つ出していますが、この中だとやはり4番目の「生活者の“推し”のエネルギーをいかに受け止めるか」が、TBSがZ世代を研究した中で一番重要なんじゃないかなと思っています。

樋口:ありがとうございます。誰かに刺さるものをすべて棚で準備しておかなきゃいけないって、けっこう大変ですよね。

Z世代は、同年代の中でも趣味嗜好がバラバラ

樋口:三塚さんはいろんな事業会社さんとお話をされていますが、このお題はいかがですか?

三塚:いろいろな大手法人さまや世界のイベントで、グループ全体としてマーケティングをやらせていただいて、私自身も現場で実際に携わっております。

先ほど(日本の人口の中で)Z世代は1,800万人とありましたが、その1,800万人だけに大手企業さまはマーケティングを行うわけではありません。まず前提条件として、今、行われているマーケティング手法に対して、なんとなく修正が必要だと思われている企業さまは多い印象です。

では、何が背景や原因としてあるんだろうと考えた時に、今はWeb3の中で「分散」という言葉が注目されていますが、Z世代のみでなく、そもそもいろんな環境の変化によって分散が始まってると思うんですよね。

私は40代ですが、40代であれば絶対に見ている雑誌・テレビという共通項がありますが、今はコンテンツもチャネルも複数あります。ですので、全員が持っている共通項の数や感じ方は徐々に変化してきています。

また、たとえ同世代の中でも、昔の共通項はありますが、生活環境や人間の行動環境に変容が起きることによって趣味嗜好が変わっていく。

そうなるとどうしても、趣味嗜好を持つ「個」を押さえなければいけない。かつ全体としてのトレンドもどんどん早く変わっているので、素早く、「個」を押さえなきゃいけないとなる。

じゃあどうしましょうかという時に、ちょっと言葉が稚拙かもしれないですが、絨毯爆撃のようなマーケティング以外の方法についても模索されているというのは現場で見ていても感じます。

NFTを活用したマーケティング施策の有用性

三塚:世界の中でより広範囲で、不特定多数に対して、素早く、個人とできるだけつながりたいという時に、技術的にブロックチェーン・NFTが最も効率的な方法なのではないかなということでやっております。

いくつか事例を紹介させていただくと、Animoca Brandsは主にゲームが有名だったりするんですが、チケット分野など、既存のオンサイトのイベントをなるべくリッチ化させることで、ブロックチェーンを使うという施策もやっております。

チケット購入者は、その機会に対して時間と経済的価値を支払い、必ず行きたい人が来られるという時点で、すでに対象に対しての熱量と深度が非常に高い人たちです。

ですので、その人たちをなるべくブロックチェーン上で行動する意義を創成し、個人単位で、運営側やその周りにいるサポート企業とより密接に繋がれる機会の創出は、非常に重要な点だと思ってます。

ですので、イベントという機会を入り口に、お客さまにストレスなくブロックチェーン、Web3の世界の入り口に立っていただくためには、チケットから入っていくのは非常に効率的だと個人的に思っています。

先週末、オランダのF1施策も当社のパートナーグループで対応させていただいたんですが、まずはチケットのところでNFTを持っていただいて、NFT自体も特別であることから従来とのちょっとした違いをまずは体験いただく。

その中でマーケティング施策を行い、「この人はこのコンテンツやイベントの中ではどういったことが好きなんだろう? また、外ではどういったことに興味があるんだろう?」ということを追いかけていく。

従来は、ある1つのイベントだけをくくろうとすると、アプリケーションなどのプラットフォームを作ろうとすると思います。当然その中で、複数の企業さまやいろいろなステイクホルダーたちとなんらかのデータ連携を行おうとすると、「連携の度にアプリケーションのAPI連携を行いますか?」となり、ある一定のテクノロジーコストはかかります。

NFTを介した施策は、API連携を行わずとも複数の関係者間で連携ができる点が非常に良い長所なのかなと思ってます。

ユーザー側も個人情報の提供には抵抗を感じている

三塚:簡単に1件だけご説明します。こちらも我々のパートナー会社がアメリカのプロスポーツイベントにて行わせていただきました。イベントはいろいろなブースが出ていることが多く、「何かをしてくれたらリワードを渡しますよ」というものがいっぱいあります。

「アンケートに答えてくれたらタオルを渡しますよ」「SNSをフォローしてくれたらボールペンを渡しますよ」と、いわゆる個人情報をできるだけ取得しようとする。ある程度、一般化されてはいますが、時代の潮流として「なんで個人情報を渡さなきゃいけないんだろう?」という反応は大きくなってきていると思います。

そういった時に、各企業しか提供することのできない「特別な体験」を、NFTを介して発行する。もしくはNFT保有者のみが、本当に企業が伝えたいメッセージが伝わる仕組みや一緒に参画できる枠組みを作る。

そして、実際に行われた体験の紹介や、実例の周知を必要とする機会に既存のメディアと連携をさせていきながら、NFTホルダーさまと共にストーリーを作っていくことを、Web3のマーケティングでは行わせていただいております。

現場の反応を見ながら、少しずつテクノロジーを導入

三塚:お客さまに対して、チケット自体がQRコードのみのデータなのか、加えてNFTになってるのかという点に違和感を持たせないかたちで、チケット自体をNFTにする。

例えばVIPチケットを買ってくださったお客さまには、チケットをNFTにすることにより、実際に観戦した場所での試合のモーメント90秒のダイジェスト動画が見れるようにするなど、そういったかたちで、今の体験をどれだけリッチ化できるかもやらせていただいております。

樋口:ありがとうございます。先ほどのWeb2×web3みたいな掛け合わせのマーケティングは、やりながら見つけていったのか、もともとデフォルトでそういうフォーマットがあった上で取り組んだのかでいうと、いかがですか?

三塚:まず前提条件として、当然日本でやる場合と世界の中で違いがあります。私はグローバルのプロジェクトも実行させていただいておりますが、グローバルにおいても、東南アジア、欧米と一括りにはできませんので、環境がまったく異なります。

その上で、ある特定のコンテンツやイベント施策となると、まずはどういったお客さまがいらっしゃるのか。そこで突飛なことをするのは既存のお客さまにとってあまりよろしくないと思いますので、まずは現場の中で向き合いながら、ちょっとずつ今のテクノロジーを入れていくことを意識してやらせていただいております。

樋口:ありがとうございます。

「『いいね』に毒された人たち」の増加

樋口:じゃあ吉田さん、お待たせしました。

吉田:当事者の声みたいなものもあったほうがいいのかなと思っています。そもそも、世代として切り取れない難しさはすごくあるなと感じています。周りに聞いても、みんなが見ているものも好きなものも本当に違います。

そもそもこの世代って、「ゆとり世代」とか「多様性・個性を大切に」と言われてきた世代です。

本当に覚えていますが、14歳ぐらいの時にYouTubeが出てきて、そこからiTunesが出てきて……という体験をずっと経ながら今まできたんですが、TikTokは僕たちよりも下(の世代で主流)なんですよね。

何かきっかけがないとTikTokはやってないですし、そういった意味ではZ世代の中でもかなり(趣味嗜好が)広いということが、まず1つあるかなと思うところです。

あと、価値観の変容がすごく大きいと思ってます。有名な話で、今って「歴史を代表する偉大な作家が生まれない」という言説がよくあるなと思うんですが、「いいね」に毒された人たちがすごく多いなと感じていて。何を行動するにも事前にリサーチするんですよね。

「地球上初めてのデジタルネイティブ世代」にどうリーチするか

吉田:私も妹が5歳下にいるんですが、企業に就職するにしても、どこの企業に関してもレビューをめちゃくちゃ見るんです。ちょっとでもブラックなことが書いてあると「もう行かない」みたいな(笑)。

「経験しろよ」という感じで思うんですが、ある種それだけ情報が民主化された中で、すごく透明性を持っていろんな意思決定がされていきます。

今回はweb3というテーマですが、逆に言うと、今まで見えなかったコミュニティみたいなものが見えてきている。

AnimocaさんのPOAPもそうだと思うんですが、みんなが持ってるウォレットの中に入ってるものを追いにいって、「君、もしかしてそれに興味あるの?」とか、そういう「積極的に言わないけどわかっていくコミュニティ」みたいなものも、ちょっとZ世代っぽいなと思うんですよね。

地球上初めてのデジタルネイティブ世代がこの世代だと思うので、デジタルをどう活用していくか。そこにNFTが入ってくるのはすごくおもしろいなと思ってるところですよね。

樋口:ありがとうございます。世代がだいぶ違う人たちがいるので(笑)、今の話を聞いて「うんうん」ってうなずいてる人と、「おっ?」という人も中にはいるんだろうなと思いました。

「推し活」が、これほどまでに市民権を得た理由

樋口:3番目のテーマに移りますが、吉田さんにお話しいただいたほうがいいかなと思いました。たぶん今は(各企業でも)実践されてるんだとは思いますが、どんな取り組みをするとこの世代の人は振り向いてくれるのか。

私はこのあいだWebXで、実際に47歳のおじさん1人でプリクラボックスに入ってプリクラを撮るという活動をしてみたんですが、視点も含めてやはりおもしろいなと思ったんですね。そのへんも含めて、今の取り組みや、どういうことをしていくといいんだろうという仮説等があればぜひお願いしたいと思います。

吉田:ありがとうございます。先ほども1つキーワードで出たとおり、「推し活」というキーワードは本当に避けて通れないと思ってます。

Z世代のだいたい60パーセントぐらいは推し活に関心があって、実際に4人に1人は(推し活に)月1万円以上使っているというデータもあるぐらい、かなり衝撃的なところなんですけど。

(その理由の)1つは、自分が好きなものを表現することがけっこう許されるようになった社会環境があるかなと思っています。

Z世代のキーワードは「全人類クリエイター化」

吉田:先ほどTikTokの話をしましたが、今まではマーケティング1つとっても、多額の広告予算をいろんなメディアに割いて、特にリーチを追っていこうという発想だったかなと思います。今は「リーチよりもアテンションがすごく大事です」と言われることもあります。

アテンションとは、例えばTikTokで流れてくる「いいね」みたいなものがあるんですが、今の若い子たちを見ていると、自分が好きなコンテンツが出てくるように、あえて「いいね」でアルゴリズムをカスタマイズしていくんですよね。

例えば不動産を探してる時に、渋谷の1LDKの不動産が出てきたらやたらと「いいね」を押して、そればっかり出てくるようにするみたいな。(目的に合わせて)アカウントをいろいろ持ってる子もいたりします。

そういった意味では発信も大事なんですが、予算を積めばいいってものでもなくて。どちらかというと、ユーザーさんが拡散してくれるようなフレームワークを提供するのがすごく大事なんじゃないかなと思ってます。

例えばマクドナルドも、ポテトの揚がる時の「ティロリ」という音で(楽曲をリミックスする)「#ティロリチューン」というハッシュタグがあって。そのハッシュタグチャレンジがめちゃくちゃ回って、マクドナルドに来店される方も超増えたというのが事例としてあります。

「全人類クリエイター化」みたいなところが、Z世代には傾向としてあるかなと思っています。上から押しつけるというよりかは、ユーザーが発信しやすくなるような土台を作ることが1つのキーなのかなと思ってます。

あえて今の時代に「フォトブース」を展開した理由

樋口:今の吉田さんの取り組み、web3の技術を使ったところで言うと、どんなことをしてるんですか?

吉田:ありがとうございます。その部分を簡単にご紹介させていただくと、我々はちょうど先月(2022年7月)から「HARTi Photo」というフォトブース事業をやらせていただいてるんですが、「なんでフォトブース?」という話を一番いただきます(笑)。

ここにたどり着くまでには、我々も本当にいろんな苦労があって。NFTを施策としてやってもなかなか次につながらなかったり、企業の中で意思決定する時に「結局、効果は何なの?」「新しいことをやっただけなんじゃないか?」という話があって。

その中でもフォトブースのすごく良いところとして、みなさんが経験したことあるコンテンツだというのが、まず1つあります。プラス、写真って(SNSで)拡散されるんですよね。

スライドの中にもあるんですが、一番右のスポンサー企業、いわゆるLINEさんがやられてるLINEスタンプみたいなかたちで、スポンサー企業さんにフレームを提供いただいています。実際に前回のWebXではAstarさんにスポンサーをしていただいて、Astar Networkのフレームもやらせていただいたんです。

フォトブースに入ってそのフレームで写真を撮ると、まずはデータが全部ここ(HARTiのアプリ)に届くんですね。なので、データが欲しかったらアプリを入れるという動線になってるんです。

例えば韓国アイドルのコンテンツがあった時に、コンテンツを加工してSNSに投稿する。そういうUGC(ユーザー生成コンテンツ)を生んでいくという観点で、こういうフォトブースをエントリーとして作らせていただいています。

やはりタダでは拡散してくれないので、彼らの心情を汲み取って、シェアしたくなるものをどう出していくかというところで、弊社の場合はこういったものをやらせていただいてます。

樋口:ありがとうございます。

Z世代は企業の戦略を見抜いている

樋口:ここからは、誰が仕切るとかはぜんぜんないんですが、もし聞きたいことがあればと思いまして(笑)。ありますか? 大丈夫ですか。

西川:「拡散をいかにしてもらうか」は、やはりすごく重要だと思うんです。ただ、みなさん若い世代だからこそ、「これも企業の戦略としてやってるんだよな」って、たぶんもう全部わかってるじゃないですか。

「これはビジネスだ」というのは全部わかった上で「別にいいよ」とか、わかった上で気持ち悪くなければ乗っかるみたいな感じだと思うんですよね。

昔だと、Webメディアを見ていて広告が出てくると、基本的に「イヤだ」みたいなものだったと思うんですが、YouTuberさんの案件とかって、別に文脈が間違ってなければ気持ち悪くない。

「どうせバレるけど別にイヤがられない」みたいな、そのあたりをどううまく設計したらいいんだろう? というのがすごく気になってます。

本当に好きな企業に対しては、情報提供も抵抗が少ない

西川:吉田さんに、意識されていることがあったら聞いてみたいなと思いました。

吉田:ありがとうございます。そういった意味では、案件はすべて「案件ハンター」みたいな方がどこにでもいらっしゃるので(笑)、すごくアンテナは高いかなと思います。

ただ、Z世代の中でもリテラシーの高い方々はそういう発想かなと思うんですが、正直TikTokを受動的に見てる層はあまりそうでもないのかな、というところもあって。なので、TikTok広告があれだけ回るのもそういう理由かなと思います。

ただ、1つのキーとして「買い物=投票」という考え方はすごく一般的かなと思っていて。与えられた情報で、それが好きで本当に応援したいと思えたら普通に情報提供をする。

先ほどデータの話もありましたが、「ゼロパーティデータ」みたいな、自分で同意してデータを渡すところはコミュニケーションが足りていれば問題ないのかなと思いますが、透明であることは間違いないところかなと思います。

データ活用のカギは、Z世代と企業の信頼関係の構築

樋口:ゼロパーティデータじゃないですが、利用者が自分で「自分の情報を全部出してもいいよ」と思わせるきっかけや、トリガーになるようなものって何なんですか?

吉田:自分にとって有益な情報を与えてくれるとか、有益なレコメンドをしてくれる保証・信頼があるというのは、1つあるかなと思います。

例えば今、iPhoneでアプリを入れても「トラッキングを許可しますか?」って通知が出てくると思うんですよ。あれもアプリによっては「ここは信頼したくないから、ちょっと無理」みたいなところもありますが。

樋口:確かにありますね(笑)。

吉田:アプリだったら、変な広告を出されるよりも、自分に合った広告を出してくれるほうが便利じゃないですか。そういうところの信頼もあるのかなという気がします。

司会者:お時間がきましたので、本トークセッションは終了とさせていただきます。みなさま、本当に貴重なお話をありがとうございました。