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プロティアン人生に活かすアドラー心理学(全3記事)

「自分は上なんだぞ」ではなく、若者と「ヨコの関係」を築く方法 アドラー心理学の第一人者が語る、「若者から学ぶ」ために必要なこと

一般社団法人プロティアン・キャリア協会が主催した「プロティアンフォーラム 2023」に、アドラー心理学を日本に広めた第一人者として知られる岩井俊憲氏が登壇。「プロティアン人生に活かすアドラー心理学」をテーマに、ヨコの関係を築く4つのポイントや、タテからヨコに関係をシフトする上で大事なことなどを解説しました。

アドラー心理学が推奨する「ヨコの関係」

岩井俊憲氏(以下、岩井):もう1つ、先ほどの共同体感覚に関連したことで申し上げたいのは、アドラー心理学はヨコの関係だということです。

タテの人間関係はもう昭和の遺物です。令和はヨコの人間関係、平等の関係を構築することが組織においても必要です。平等とは各人の違いは受け入れること。人は一人ひとりユニークであること。そして人格的に対等であること。

各人の自由を許容する立場で、従来型のタテの支配・服従、あるいは支配・依存に変わる人間関係から、ヨコの関係、相互尊敬・相互信頼というそれぞれの持ち味を活かし合って、パーパスに向けて協力し合う関係へ。それを提唱するのがアドラー心理学です。

これは家庭、職場などを円満にする、令和時代の心得ではないかと思うんです。ただ勘違いしないでほしいのが、ヨコの関係と言うと構造的にフラットで、フィフティフィフティの関係だと固定的に見てしまうことがありますが、そうではない。

ヨコの関係とは、機能的なリーダー・フォロワー関係です。ある時はAさんがリーダーでBさんはフォロワー。フォロワーというのは協力者と私はみなしています。部下とは見ない。リーダーはリーダーシップ、影響力と見ています。リーダー・フォロワー関係はフレキシブルに交代する関係です。

Aさんがリーダーの時もあればBさんがリーダーの時もある。リーダー・フォロワー関係はパーパスに応じて、目標設定するにあたってフレキシブルに交代する関係が、ヨコの関係だと言っています。

ヨコの関係を築く、4つのポイント

岩井:ヨコの関係に欠かせないものが、4つあります。これはよい人間関係を築くのに欠かせないものです。1つは「リスペクト」。私はあえて「リスペクト」という言葉を使いたいです。尊敬とすると尊ぶ、敬うこと。タテの関係を匂わせるんですね。

リスペクトと言うとタテの関係の響きはありません。人それぞれに持ち味がある。違いがある。そして人間の尊厳に関しては違いがないことを受け入れて、礼節を持って接する態度。これを「リスペクト」という1つの条件にしています。

2つ目は「信頼」。信用と違った「信頼」。相手の行動の中には、時々ちょっとしくじり行動もあるけど、その人格において背後には善意があることを見ようとし、根拠を求めずに無条件に信じること。これを「信頼」と言っています。信用とは違う。

そして「共感」。独善ではなく相手の関心、考え方、意図、感情や置かれている状況などに関心を持って、一緒に関係作りをしていく。それができると「尊敬(リスペクト)」「信頼」「共感」によって「協力」できる。

これは、栗山監督が成し遂げたWBCジャパンの優勝と同じことです。『経営者を育てるアドラーの教え』もこの4本の柱で書いているので、この本は(イベントを主催したプロティアンキャリア協会の代表理事の)有山さんに贈呈します。

今、恐怖に代わるものとして、相互尊敬・相互信頼を重要視していますが、相互尊敬・相互信頼を形成するためには、決意、覚悟、時に忍耐も必要です。こちらが先に相手を尊敬・信頼し、時間差を置いて相手から返ってくるかもしれない。あくまで相手が尊敬・信頼していることを確認して、こちらが尊敬・信頼を返すのではない。

必ず「こちらが先に、より多く」です。こちらからより良い関係を構築しようと思うならば、やはり決意・覚悟、時に忍耐を持って接する、こちら側の態度決定が必要だと申し上げておきたいんです。

タテからヨコに関係をシフトする上で大事なこと

岩井:私が一方的にしゃべっていますが、ナビゲーターの沖さんも忘れてはならない。ここで何かツッコミはありませんか? いきなりですが。

沖みちる氏(以下、沖):ありがとうございます(笑)。まずちょっと運営的なお話ですが、ご質問はいつでも承っております。もし今ご質問などがあればみなさんから承りたいんですが、何かございます? 

ご感想でもけっこうです。本当にまさにプロティアンの生き方を熱心にされているハーレーさん、良かったらご感想はいかがですか?

参加者1:岩井先生、ありがとうございました。沖さん、お声掛けいただき恐縮です。いやいや、かねてからいろいろなお話を承っていましたけど、生で聞くのは気持ちがいいですよね。

:生俊憲、いいですよね。

参加者1:沖さんが10年間も師事されたとお聞きして、とてもうらやましく思いました。8掛けの話をされていましたが、多くの方が「8掛けの発想はいいですね」とおっしゃっていたように、本当にそうだと思うんですよね。

プロティアンで参加しているみなさんも、「いくつになっても」と思っていらっしゃると思いますし、さらにその気持ちを強くできたなと思いました。ありがとうございました。

:ありがとうございます。

岩井:ありがとうございました。

:先生、私から1つおうかがいしてもよろしいですか?

岩井:どうぞ。

:タテの関係からヨコの関係でというのが、今の時代ですが、一方でタテの関係でずっとやってきた人たちには、そこに安心感というか、生きやすさを感じている方もいらっしゃるかもしれないなと。そこからヨコの関係にシフトしていく上で大事なこと、まずやってみることにはどんなことがありますか?

岩井:一言で言うと「若者から学べ」です。私には33歳の息子がいて、今は結婚して別に住んでいますけど。彼が来るとノートを持ってきて「おもしろい話はない?」と聞きます。やはり年を取ると時代の流れに疎くなると思うんですよ。

今はメンターという言葉があって、リバースメンター制度というのもありますよね。つまり若者から学ぶ。これは「自分は上なんだぞ」という意識でいるとできないと思うんです。ヨコの関係を築くためには若者から、時には部下から学ぶ。この姿勢でフラットな関係が築けると思うんですよ。

:ありがとうございます。ご参考までに、私と岩井先生はまさにフレキシブルな関係を体現していると思っています。今回のフォーラムについては、完全に私にリーダーとしての動きを一任してくださって、岩井先生には「勇気づけ」をしながら、伴走していただいたなと思っています。では先生にお返しします。よろしくお願いします。

「人間関係のもつれ」をほぐす方法

岩井:アドラー心理学と言うと、どうしても『嫌われる勇気』以来「課題の分離」という言葉が使われています。

実は「課題の分離」という言葉は、ヒューマン・ギルドの「SMILE 愛と勇気づけの親子関係セミナー」が初出でした。(『嫌われる勇気』共著者の)岸見一郎さんもSMILEリーダーをやっていたんですが、この言葉はアドラーオリジナルでもない。岸見さんオリジナルでもない。ヒューマン・ギルドの愛と勇気づけの親子関係セミナーで使われた言葉だったんです。

その前提で「課題の分離」に触れますと、これは非常にいい考え方です。人間関係のもつれは、相手の課題であるにも関わらず、そこに口出しをしてゴチャゴチャになっている。自分の課題に相手が踏み込んできて占領されている。これが大きな問題なんですね。

「課題の分離」とは、自分の課題と相手の課題をいったん切り分けてみる。最終的にその行動の結末は誰にどのように及ぶのかと責任を問う。1人に属するようにすると「これは相手の課題なんだな」「自分の課題だ」というのがわかります。

ただこれは、人間関係のもつれをほぐすための手段であって、課題を分けて終わりではないんです。この先にどういうものがあるかというと、共同の課題があるんですね。相手と自分が重なる、協力し合える領域があるんじゃないか。

これは相互尊敬・相互信頼によって成り立つものなんだけど、課題の分離で終わりではなく、課題の分離をした上で相手から依頼されたり、こちらからオファーすることもある。さらには迷惑がかかっている場合には、お互い合意した上で、一緒にやっていこうじゃないかという協力案件として課題の分離が進んでいき、共同の課題になる。

「良い・悪い」「好き・嫌い」ではない、アドラー心理学の判断軸

岩井:もう1つ、アドラー心理学では世の中や物事を「良い・悪い」「正義・悪」などで見たり、「好き」嫌い」で判断する考え方はあまりくみしません。

どういう判断軸かというと、アドラーは「ユースフル」「ユースレス」という言葉を使います。私は「建設的」「非建設的」とあえて言葉を変えています。アドラーの弟子の一部も「ユースフル」「ユースレス」だと役に立つ・役に立たないと捉えられるので、「建設的」「非建設的」でいいんじゃないかと、修正を図っている人もいます。

自分と他者を含む共同体にとって、いったいどうあると望ましいのかを考える。建設的対応、非建設対応と考えると、好き・嫌いや良い・悪いを超えて、協力し合えると思うんですよ。だけど好き・嫌いだと「あの人とやっていけません」「あの人は悪い人だ」となってしまう。そうすると、裁かなきゃいけないという心理も出てくる。

この建設的対応を成し遂げたのがWBCジャパンであったし、ラグビーもそうです。そういう点において、アドラー心理学は何が建設的なのか、何が非建設的なのか。ヨコの関係の中から探るものであるといえます。

「若者から学ぶ」ために必要なこと

:先生、1つご質問をいただいておりまして、このタイミングでよろしいですか? 

岩井:どうぞ。

:先ほど「若者から学ぶ」というキーワードがあって、そこに対してみなさん非常に共感をしていらっしゃったんですね。その中で若者から学べるようになるために、年配者に働きかけたいけれども、どういった働きかけだと理解を得られるのか。

たぶん若者と年配者の間に入っている方なんでしょうね。先生、何かしらのご示唆をお願いします。

岩井:2つあると思うんですよ。まず本人が若者から学び始める。若者から学ぶことで効用があることを身をもって体験することが、第1ステップだと思うんです。

第2ステップは、「私の話を聞いてくれる上司の◯◯さん。本当に尊敬しています」と、上司との間の相互尊敬・相互信頼の関係を築くこと。そうすると、その人の話を上司も聞いてくれると思うんです。

「私の話を聞いてくれることは、本当にうれしいと思う。ついては、私の部下のAくんの話も聞いていただけますか?」と。本人が少しでもできていることに注目し、そこからチャンスを設けることが必要じゃないかと思うんですけど、いかがでしょうか。

:ありがとうございます。今、ご質問いただいた方からは詳細な情報もいただいておりまして。やはり間の立場でいらっしゃって、ご質問くださったようです。一方で若者が目上の方をばかにするような姿勢が見られるところもあって、その兼ね合いが難しいと。

若手の方に対する働きかけについても、少し思っていらっしゃることがあるのかなと思うのですが。

岩井:これもまた若者との間の相互尊敬・相互信頼ですよね。

:おっしゃるとおりですね。

岩井:私はアドラー心理学の叱らない・褒めないには賛成なんだけれども、叱らないかわりに「あなたがこうしていることを、私はちょっと残念に思うんだよ」というメッセージは伝えてもいいと思うですけど、どうでしょうかね?

:そうですね。本当に大事ですよね。それがないと、ちゃんと本心のつながりにはならないと思うんですよね。ありがとうございました。ご質問くださった方もありがとうございます。ではお願いします。

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