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必要な人に広告を届け成果を生む思考法と、AI時代のマーケターに求められること(全3記事)

数字だけを見て善し悪しを判断するマーケターが直面する危機 生成AIを活用する時代のマーケターの仕事とスキルアップのコツ

ブランディング・マーケティングに携わる担当者や広告代理店の方々にとって、データ活用の先にある、マーケティングをより効果につなげるためのヒントやアイデアを提供する「DMM次世代マーケティング」。本記事では、DMM会長の亀山敬司氏と北の達人コーポレーション社長の木下勝寿氏による対談セッションの模様をお届けします。本記事では、ChatGPTの台頭で変わる人材採用や、マーケターとして生き残るために必要なことについて語られました。

前回の記事はこちら

数字だけを見て善し悪しを判断するマーケターが直面する危機

亀山敬司氏(以下、亀山):次のテーマは「これからのマーケターに求められること」ですね。どれぐらいマーケティングをやってきたの?

木下勝寿氏(以下、木下):20年ぐらいですね。

亀山:20年。Webの世界でずっとやってきたんだ?

木下:そうですね。創業が2000年なので、その時からインターネットマーケティングをずっとやっていますね。

亀山:20年間ずっと、マーケターの変化の歴史も見てきたと思うけど。

木下:そうですね。

亀山:いろいろ変化はあったと思うけどさ、今後どうなっていくかはみんな興味があると思う。今後マーケターは、何が求められるの?

木下:僕はあまり変わらないと思っています。年代的にWebが出てくるちょっと前からマーケティングをやっている人間ですが、Webが出てくる前のマーケティングはけっこうシンプルで、「この商品を、どういうお客さんに、どう伝えていくか」を考えてやっていたんですけど、当時は本当に仮説でしかなかったわけですね。

例えばある商品を、「この商品のターゲットはこんな人で、このターゲットに対して、この商品のこの良さを、テレビCMで打っていこう」みたいな感じでやっていたんですけど、そのテレビCMが当たっているかどうかがあまりわからなかったと思うんですね。

亀山:そうそう。なんとなくやっていた。

木下:なんとなく雰囲気で、当たっているか感じながら。

亀山:媒体から「効果ありますよ」と言われたら、「そうなのかな?」「どうなのかな?」みたいな(笑)。

木下:それが、Webマーケティングができるようになったことで、当たっているかどうかが全部数字で見えるようになった。このコンセプトだと当たっているとか当たっていないとか、もしくは「やってダメだったらこうチューニングしよう」みたいになってきたんです。

それによって、本来は「どんな人、どんなこと」というターゲット設定があってやっているんですけど、テクニカルのほうしか知らない人がすごく増えてきたんですね。要は、数字だけを見て「いい」「悪い」と言っている。

「このクリエイティブの内容は見た?」「内容は見てないですけど、数字を見たらわかります」みたいに。

亀山:なるほどね。先ほど言ったクリエイティブの大事な部分はちょっと置いておいて、とにかくデータだけを見る。

木下:そうですね、データだけ見ていくかたちになっている。例えば、「これぐらい広告をやっても成果が出ないから、この商品はダメですね」みたいに平気で言ったりするんです。でも、「いや、それってこの切り口をこう変えたらぜんぜん生き返るよ」みたいな感じがけっこうあったりします。

数字しか見ない人が増えて、機会ロスがすごく生まれていると思うんですけど、今度はChatGPTによって、その人たちの仕事が奪われていくと思っていて。

亀山:確かにね。そこの部分の数字だけ見るなんていうのは、もうお得意だから。

木下:お得意ですね。

亀山:AIの勝ちみたいな感じだからね。

生成AI時代のマーケターの仕事

木下:クリエイティブを作る部分も、例えば、広告を出して実際に運用して「CPOを超えました」となると普通は止めるんです。止めてチューニングする時に、画像や文章を作り変えたりするんですけど、これもけっこう自動でできてくるわけですよ。

亀山:確かにね。ここも、「ちょっと軽いコピーをいろいろ考えて」と言ったら考えるし、デザインも変えてくれる。

木下:「ちょっと変えて」と言うと、できるんですね。

亀山:うん、「色合いを変えて」みたいなこともできるしね。

木下:いろいろやっていきながら、当たる傾向の色とかもつかんでくると、人間がやる部分は、最初のコンセプト決めになってくるんですね。

「この商品はどんなターゲットに向けて、商品のどんな部分を出していくか」だけが人間がやるところで、それ以外の部分はほぼAIでやっていくかたちになると、Webが登場する前のマーケターの原点の仕事が実は残って。Webマーケティングのテクニカルの部分は、ほぼ人間の仕事ではなくなってくる感じですね。

亀山:そこに特化して「俺はこれが得意だぞ」と言っていたやつは仕事がなくなると。

木下:そうです。

亀山:いやいや、これは、マーケターの人はみんな大変ですよ(笑)。

木下:だからそれは本来、僕は「マーケティング」とは言わずに「デジタルオペレーター」と言っていたんです。

亀山:なるほどね。

木下:それはほぼなくなってくる。結局ChatGPTとかAIは優秀な部下なので、部下はやはり上司の指示によってぜんぜん成果が変わってくる。いかに自分が上司の位置になって、「こっちの方向性でクリエイティブを作ってください」とか、「こっちの方向性にしてください」と、適切な指示を出せるか、になってくると思います。

亀山:結局のところ、「経験や想像力で、どうコンセプトを決めていくんだ」みたいな。AIは過去のデータをいっぱい集めてきて、分析して、それらしいものに仕上げてくれるわけじゃない。でも、新しいものを作り上げてくれるわけではないよね。

だから、人が創造的なものを作り上げて、部下のAIたちに指示を出せるかってことかな?

木下:そうですね。あと、機械学習の概念が、教師データをどんどん学んでやっていくので、どんな教師データを与えるかもすごく大事だったりとか。

亀山:答えを出すのではなくて、問題を出すのもポイント。

ChatGPTの台頭で変わる人材採用

亀山:でもどうなの? 例えば今、会社の中で、それが木下さんしかできないとかじゃ困るじゃない(笑)。

木下:いや、うちはけっこう社員が……。

亀山:社員もそういう考え方ができている?

木下:かなりできていますね。AIの使い方に関しては、僕よりも社員のほうがぜんぜん使いこなしていますね。

亀山:今すでに、けっこう使いこなしているんだね。

木下:そうですね、クリエイティブをしていたりとか。あと、採用基準を今変えようと言っていて。今までは例えばクリエイティブ職の人を採用する際に、キャッチコピーとかを実際書かせて、いいキャッチコピーが書けるかどうかで採用していたんです。

これからはキャッチコピーを書くのはChatGPTでいい。なので、ChatGPTに10種類のキャッチコピーを書かせて、どのキャッチコピーを使うかを選ぶテストをするんですね。なぜ選んだのか、とか。

前は語彙力が大事だったんですけど、語彙力はあまり重要ではなくなってきています。要はChatGPTが作ったものを選ぶセンスがけっこう重要になってきて、採用の選考テストを今そちらに変えているところですね。

亀山:なるほどね。例えばエンジニアのプログラミングも、ある程度AIがコードを書いてくれるわけじゃない。AIに書いてもらって、エンジニアはそれが間違ってないかの確認をするとか。または、「この中でどれが一番いいんだろう」という選択ができるか。そこがAIを超えた能力になると思う。

俺たちもいろいろビジネスをやっていて、今後どうなるのかと時々思うんだけど。人が仕事をするとき、まずはAIができることをできないとAIに指示を出せない。

木下:そうですね、良し悪しがわからないですものね。

亀山:マーケターだろうが、エンジニアだろうが、経営者だろうが、ある程度まではAIと競い合うような感じで仕事をしていく。で、どこかのタイミングでAIが出したどの答えがいいのかを選択できるようになるということかな。

簡単に言うと、ずっと板前修業をやっていた人が板長になったらいきなり給料がどーんと上がる。その前は安い賃金で働くんだけど、板長になったらいきなり10倍、100倍になるよ、みたいなイメージになるかなと思ったんだよね。

でも、基本を勉強しておかないと、板長にはなれないわけよ。ここが難しいところだね。どこで指示を出す側になれるかは、やはり焼き方とか、握り方とか、米の炊き方を覚えないと、何が正しいかわからないのもね。

AIに指示をする人と、AIから指示をされる人

亀山:で、結局どうなのかな? 今からマーケターを目指す若者もいるかもしれないんだけれども。

木下:私は「ファンダメンタルズマーケティング」と「テクニカルマーケティング」という言い方をするんですけど、ファンダメンタルズの、要は商品やユーザーのことを見ていくのはずっと変わらず重要で、表現方法のテクニカルの部分が、昔はテレビCMを作ったり、Web広告を作っていた部分が変わるだけなので。

ファンダメンタルズをきっちりやっていくところと、あとはAIの部分は、AIのアルゴリズム、機械学習のアルゴリズムを理解していかないとうまく使えないので。

亀山:じゃあテクニカルだけしかない人はダメだと。

木下:テクニカルだけの人は、正直もうダメだと思います。

亀山:もう使えない。もう採用しない。

木下:そうですね。デジタルオペレーターはほぼなくなってくるので、それこそ僕は、先ほどおっしゃっていた感じでAIに指示をする人と、AIから指示をされる人に分かれると思っていて。AIから指示される人は、AIができない入稿作業とか。でもこのへんもできるようになるかもしれないですけども、本当にボタンを押すだけになっていくと思いますね。

亀山:確かに今、製造の現場でも起きているものね。AIに言われた通り部品を並べるとか。

木下:そうですね。

亀山:ものづくりとかブルーカラーの世界は、ロボットは高いし、まだまだ人間のほうが優秀かなと思うんだよね。だからまずは、ホワイトカラーの場所が一番やばいんじゃないかと思う。

木下:そうですね。

亀山:荷物をこっちに持っていったり上へ積むのは、けっこう難しい作業で、そこの分野でロボットのほうが勝つのは、もう10年、20年先な気はするんだけど。デスクワークに関しては、ここ数年でけっこうやられてしまうかな。

木下:そうですね。

亀山:ネクタイを締めて、冷房の効いたオフィスでPCをかちゃかちゃとやっていた人が、今「ちょっとやばいぞ」という雰囲気になってきているんじゃないかなと。

木下:そうですね。

大事なのは、人間心理をどこまで理解するか

亀山:でも、「やばい」だけ言っていてもしょうがない。何だっけ、ファンダメンタル?

木下:ファンダメンタルズマーケティングですね。

亀山:これはどうすればいい? 「やばい」だけ言ってたんじゃ、みんなから「どうするか教えろよ」「俺たちもファンダメンタルをやりたいよ」と言われる。何か手がかりが欲しいよね。「ここから手をつけたらいいんじゃない?」とかね。

木下:手がかりとしては、結局人間心理をどこまで理解するかがすごく大事です。

例えば、広告を出している。クリック率は昼も夜も変わらないけど、コンバージョン率が昼は低くて夜は高い。要は、昼のほうがCPOが高くて、夜のほうが低くなるみたいなのがけっこうあります。

テクニカルマーケティングをやっている人は、「じゃあ昼は効率が悪いからやめて、夜やろう」みたいになってしまうんですけど、これはAIで簡単に(判断)できてしまうことで、存在価値はないんです。大事なのは、「なんで昼はコンバージョン率が低くて夜高くなるか」を考えることです。

これはいろんな要素があるんですけど、例えば日中はスマホを見ていても、何かしながら見ていることが多いんですね。例えば電車に乗っている最中、暇だからちょっと見ていて、興味を持ってクリックして、ページに飛びました。

ページに飛んで、飛んだ先のページを見ている間に電車が着いてしまって、一回閉じるみたいな感じだとすると、一個一個に対する集中力は、日中のほうが低いので、コンバージョン率が低くなるんです。

亀山:確かに。昼はあれこれやっているからね。

木下:そうです。でも、夜はけっこうゆったりした状態で、時間がある中で見ていたりとか。土日もそうですね。だから土日とか夜は、比較的CVRは高くなる傾向にあります。

そう考えた時に、単純に昼間の広告を出すのをやめるのではなくて、昼間の場合は飛んだ先のLPを短くするとか、もしくは昼間はコンバージョンを取るのは諦めて、リタゲのマークを集めることに徹して、とにかくターゲットを広げていくとか。もしくはいかにブックマークをさせるようにするかとか、打ち手はけっこうたくさんあるんですね。

亀山:なるほどね。確かに、昼に出すものと夜出すものを変えてもいいわけね。「土日はこういうものでいこう」とか。

木下:そうです。ファンダメンタルズマーケティングをやる際は、「なんでこういう現象が起きたのか」と、一個一個の人間の心理を考える。これはAIではわからない部分なので。

専門分野だけの知識ではAIに勝てない

亀山:昔、手塚治虫だったかな。漫画の神さまが、「漫画家になりたかったら、マンガばっかり読んでちゃダメだよ」と言っていたと思うんだけど、マーケターになりたかったら、マーケティングばっかりやっていたらダメだと。

木下:そうですね。

亀山:つまり、マーケティングの勉強だけではなく、人はどう考えるのか、精神医学的なもの、生物学的、経済的なものとか。あと、社会情勢とか、文学。いろんなものを含めて、広く自分に採り入れていかないと、一流のマーケターになれないという話になるのかな。

木下:はい。

亀山:でも確かに、これはマーケターだけではないね。経営者とかにも言えるね。

木下:そうですね。何か起きた時に、「何かが起きたんだ」で終わるのではなくて、「なんで起きたのか」を考えていくのは、すごく大事かなと思いますね。

亀山:でもそれで言うと、インターネットの世界では、自分の好きなものばかり見てしまうじゃない。

木下:それはありますね。

亀山:同じ属性のものばかり見るようになり、その専門性はすごく身につくんだけど、それ以外の世界をまったく知らない人が増えている。

木下:そうですね。

亀山:例えば同じアイドルでも、YouTubeのアイドルは知っているけどテレビは知らないとか、逆にテレビのことを知っている人はYouTuberを知らないみたいな。そんなふうに、けっこう分断がされている。

そういう人って、狭い分野での知識はすごく詳しいけど、政治も経済も知らない、興味がないとか。でも、その各分野だけだとAIには勝てない。

木下:そうですね。

亀山:ということは、同じものばっかり見ていないで、もっと言えばネットばっかり見てないで。

木下:はいはい(笑)。そうですね。

亀山:街に出かけて、人を見たり、たまにテレビを見たりとか、新聞も読んだりして、いろんな人たちの行動や草花を見て、いろいろなことを考えないといけないのかな(笑)?

俺も経営をやっていると、なんだかんだ言って政治とかにも無関心でいられなくなったりする。NHKスペシャルとかで恐竜や考古学、宇宙の話なんかを見て、そういったものにも興味を持ったほうが、仕事の幅とか業界の幅も広がるよね。

最近だと、Web3とかAIとかばかりに興味を持っちゃうんだけど。とにかくみなさんも、こんな記事ばっかり見ていてはダメですよ(笑)。

木下:そうですね。せめて屋外で見るとか。

亀山:そう、アプリや動画ばっかり見ていないで、外へ出て友だちを作ったり、ナンパしたりして、恋もしていくことが、結果的にマーケターであれ起業家であれ、AIに勝てるかも、という話かもね。

木下:そうですね。

亀山:なるほど。最後はマーケティングからちょっと話がズレてしまったけど、とりあえずはこういうところで終わります(笑)。

今回はマーケターの木下さんでした。いろいろ参考になったかと思いますので、みなさん、AIに負けないでこれからも生きていきましょう。

木下:生きていきます(笑)。

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