2024.10.10
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亀山敬司氏(以下、亀山):じゃあ次のテーマへ行ってみましょうか。「クリエイティブの考え方」とは。
木下勝寿氏(以下、木下):我々はいわゆる通販なので、販売用の広告を作ったりします。基礎がちゃんとできていない人は、いきなり広告表現を考えたりするんですけど。その前段階で、広告を作る時にすごく大事なことがあります。
この商品のこのクリエイティブは、「どんな人に、どんなことを、どのように伝えていくか」という3段階で考える必要があるんです。
例えば自動車だったら、買う人もいろんな価値観の人がいて、車のビジュアルをすごく重視する人もいれば、燃費性を重視する人、車内の居住性を重視する人、値段を重視する人もいたりする。
その時に、「まずこの車って、どこが一番強いの?」というところがあって。「この車の一番の売りは、ビジュアルだよね」という話になると、車のビジュアルがメインになる。要はビジュアルを気にする人に対してビジュアルを伝えていく。
で、「どう表現するか」になるんですけど。ここの前設計ができていないと、いきなり「今ならお得。セールです」みたいな感じになったり。
亀山:確かに。例えばカウンタックみたいなかっこいい車があって、「今ならお得です」と言われても、ぜんぜん刺さらないみたいな。
木下:そうですね。
亀山:「とにかくかっこいい、走っている映像を見せてくれ」とか、そっちのほうになるということかな。
木下:そうです。
木下:そのへんを本人が「この商品の良さはここだ」と思い込んで作ってしまうとか。もしくはとにかく「安い、安い」ばっかり言っちゃう人とか。
あと、例えば自分自身があまり車に乗らない人だったら、居住性の重要性をぜんぜん知らず、家族で乗る場合は居住性が重要だったりするのに、「アクセルを踏んでスピードが速い」とか言ったり。
亀山:確かに車のCMでも、「時々家族がいっぱい乗って、たくさん積んでも大丈夫」みたいなのをよく見るね。
木下:ありますね。
亀山:あれはそういうところなんだね。
木下:そうです。最初の段階でまず、どんな人にどんなことを伝えるかというコンセプトを決めて、それを伝える表現方法としてどんなものがあるかとやっていくのが大事ですね。
亀山:なるほどね。マーケティングは、どうやって広告を打つか、効率的にやるかだけじゃなくて、そもそも何を訴えるかが一番大事だということ?
木下:そうですね。表現方法って最後はテクニックになってくるので、ネットの場合はすぐ廃れていくんですね。広告を作りました、すごいヒットクリエイティブを作りましたといっても、すぐ飽きられて反応率が落ちてくるので、作り変えていかないといけないんです。
その時に、最初の「どんな人に、どんなことを」というコンセプトがきちんと固まっていないと、まったくゼロから作り直さないといけないし、当たり外れが出てくるということになるので。
亀山:なるほどね。
木下:同じコンセプトの中で、いろんな種類のものを作っていくかたちにしていかないと、安定性がないということですね。
亀山:今特に扱っているものは、何だっけ?
木下:健康食品とか化粧品。
亀山:じゃあ健康食品の場合だったら何があるんだ? まずは1つは、何に効くかということとか。
木下:そうですね。
亀山:あとは月々いくら、値段がいくらだとか。
木下:いろんな部分がありますね。
亀山:いろいろ打ち出しはあると思うんだけど。体にもいいし、値段も安いとか両方あるとしようか。こうなった時に、どっちを強めに押すかってあると思うんだけど、それはどうなの? 自分の直感で決めるのか、それともABテストみたいな。
木下:けっこうABテストはやりますね。
亀山:じゃあさっきので言ったら、ABCとかいろんなものでテストして、どれを強く押したら刺さるかみたいな話になるわけ?
木下:そうです。ABテストも2段階あって、コンセプトのABテストと表現のABテストに分けています。1つのわかりやすい例で言うと、洋服のフリースがあったとします。このフリースは「暖かい」が売りにもなるし、「軽い」も売りになるとなった時に、どっちをメインにすべきかを、ABテストするんですね。
要は「このフリースはすごく暖かいんだ」と「このフリースはすごく軽いんだ」。この時のクリエイティブは、レベル感を合わせないといけないんですよ。クリエイティブ力が高く、表現方法が良すぎて成果が出たら、どっちのコンセプトが当たっているかわからないので。
亀山:なるほど。
木下:ここで「暖かい」と「軽い」ということをABテストして、仮に「軽い」のほうが良かったとしたら、今度は「軽い」の表現方法もABテストする。例えば「このフリースはわずか百何十グラムだ」とか、「このフリースは携帯電話と同じくらいの重さだ」とかみたいなのでやっていって。
亀山:なるほどね。
木下:そこが混在してはいけなくて。表現方法のABテストをしているのか、それとも商品の訴求ポイントのABテストをしているのかのフェーズを分けてやる感じですね。
亀山:あと、テストなら出稿量とかも同じようにしないといけないだろうし。
木下:そうですね。
亀山:マーケティングって本当に難しいなと思うのは、いろんな要素があってうまくいった・いかないがあるんだけど、何がうまくいったかわからない時に、他の要因が雑音みたいになってくるじゃない。もちろん「こっちは予算100万円打った」「こっちは10万円」だとまったく違うから、同じ100万円にしないといけないと。
デザインも同じデザイン会社でやっておかないといけない。コピーだけ変えようと。コピーだけ変えて、あとは同じ条件の時にどっちのコピーが正しいかみたいな話になるんだよね。
俺たちもいろんなマーケをやる時に、そのへんで、どうしてもやたら雑音が入るわけよ。この雑音をいかに外すか。キャンペーンのおかげで人が来たのか、値段のおかげで来たのかがわからない時に、キャンペーンを打つのをやめないと、前月との比較ができなかったりするよね。
だから、今みたいに、一個一個分析をしてABテストを繰り返していくということかな。
木下:いかに、ここだけが違う条件を作るか。
亀山:確かに。それを繰り返しながら、「じゃあ軽くて、このデザインで、コピーはこれで」と決めて、クリエイティブができると。
木下:はい。
亀山:そのクリエイティブができた時に、今度はどういった広告媒体に出すのがいいかとかがあるじゃない。やはりWebが基本なの?
木下:基本、我々はほぼWebですね。一部テレビのインフォマーシャルをやっていますけども、Web媒体にほとんど出します。
亀山:俺がいつも悩むのは、クリエイティブが同じ時に、これをWebでどれだけ出したらいいのか。タクシー広告、テレビ、看板とかいろいろあるじゃない。あとSNSとか。
これって、計測の仕方がバラバラじゃない。街の看板とWebのどっちが効果的かってすごくわかりにくいと思うんだけど、こういったものって解決できる?
木下:いや、我々の今のステージではWebに特化していて、今はまだ計測できるものしかしないというかたちでやっているんですね。
亀山:なるほどね。街の看板みたいな、ああいうよくわからないものは計測不可と。
木下:ただ一部だけちょっとやっているのが、うちは子会社で「FM NORTH WAVE」というラジオ局を持っていて。北海道のラジオ局なんですけど、ここで集中的に我々の商品の広告を打っていて。
ラジオの場合は、ネットよりもけっこう家電量販店とか、Amazon、楽天とかにけっこうお客さんが流れるので、北海道エリアと他の地域のエリアでの伸び率の違いを見ているんですね。
例えば全体的にいろいろうまくいって伸びているんだけど、他のエリアはだいたい20パーセントぐらいなのに、北海道エリアだけ40パーセント伸びているとか。じゃあ40パーセント伸びたのは、分母がいくらで、このラジオ放送でたぶんこれぐらい売れたというのでいくと、CPO(Cost Per Order=1件受注するのにかかった費用)がある程度計測できると。
亀山:確かに地域別に分けられたら。
木下:地域で分けられると。ただ、それもおっしゃるように、北海道エリアだけやっているのでわかるということですね。
亀山:ああそうか。D2Cで通販だから、住所が記録として必ずあるから、それができるということだよね。
木下:そうです、そうです。
亀山:俺たちはデジタルのサービスだと、どこに住んでいるかわからないユーザーがいる場合に、ちょっとそれができない時もあってさ。
木下:そうですよね。
亀山:だから俺たちがやる時は、例えばテレビとかに出した時に、検索キーワードで「DMMオンラインクリニック」とかの直検索がどれくらい来るかとか。
あとそれによって、さっきのCPOがどれくらい下がるかの比較みたいな感じでやっているんだけど。でも普通のメディアとWebメディアとをかけ合わせると、すごく雑音があって難しい。
木下:難しいと思いますね。我々も自社サイトと楽天・Amazonの比較で、自社サイト用に広告を出すんですけど、どうしても楽天・Amazonに流れていくんですね。
実際に、広告出稿量と楽天・Amazonの伸び率の係数を計測していて、だいたい自社サイトに直接出すと、楽天・Amazonでこれぐらい伸びるから、CPOを自社サイト側に持っていって、もうちょっとCPOを高くしてもいけるとか。Webの中だけでなんとかやっている感じですね。
亀山:自分たちでD2Cをやるけど、Amazonとか楽天でも出しているんだね。
木下:一応は出しています。10パーセントぐらいが、Amazon・楽天で売れています。
亀山:それぐらいなんだ。9割方は自社サイトで。
木下:自社サイトですね。
亀山:なるほど。じゃあもともとECとして強いプラットフォームがあるわけ?
木下:いや、広告ですね。
亀山:広告でそこに持ってくるんだ。
木下:そうですね。
亀山:じゃあ、Web広告から直接持ってくるのが基本的な考え方だね。
木下:そうですね。
亀山:俺は今TV CMとかいろいろ難しいことを言ったけど、多くのスタートアップの人たちは、メディアに打つよりも、まずはWebで成功しないといけないよね。
そこで効果を出して、取り切れなかった時にテレビなどのメディアに入ったりすると思うんだけども。今一番大事なのはWebの広告がいかに効率良く打てるか。そのあと余力があれば、マスとかにかけるのもいいけど。
木下:そうですね。
亀山:まずそこがちゃんとできるかを極めてきた感じなんだね。
木下:そうですね。
亀山:カニを売った時はパクられて苦労はしたんだろうけど(笑)、その後は化粧品と健康食品。今後、他のものも扱うの?
木下:一部はやっていますね。電子たばことかもやっていますし。あと、美容家電とかも。
亀山:今のマーケティングのノウハウは、商品が変わっても同じように役に立つよね。
木下:そうですね。結局は人間の心理に基づいて、いかにアプローチしていくかなので、ある程度共通はしているかなと思いますね。
亀山:今度うちのマーケの人間にアドバイスをしてくれる?
木下:いえいえ、そんなおこがましいことはなかなか。
亀山:うちも、けっこう社員が揉んでいるわけよ。リスティングがいいかとか、アドかアフィリエイトかとかね。いろんなパターンがあるじゃない。どれが効率的だとか、けっこう毎日すったもんだやっているんだけど(笑)。
木下:Web以外はなかなか難しいですけど、Webの場合は全部データが残るので、伸び率の傾向とかを見ていくと、どこかで関連性が見えてくるんですね。
最初にこっちの広告をクリックして、その時は買わなかったけど、別の広告をクリックして購入した場合、この購入にはけっこうここ(最初の広告)が影響しているとわかると、予算配分の仕方が、単純にここ(購入に直結したあとのクリック)だけではなくて、こっち(最初の広告)にやったほうが良かったりとか。細かく見ると、計算式が出てくるので。
亀山:でも、ここで読ませたクッキーを何日有効にするかとか悩んだりするよね。
木下:そうですね。だから我々は、クッキーの有効期限や何回出すかとかは、たぶん他社さんに比べるとかなり短いと思います。「これ以上出してもだいたい効果は出ない」と、かなり早めに見切っている感じですね。
亀山:1回目の購入も大きいんだけど、LTV(Life Time Value=顧客生涯価値)というか、結局「その人が生涯どれぐらいお金を落とすか」を計算することがあるじゃない。その時に、1回目の広告だと赤字だけど、その後に何パーセントかがリピートになると思うと、この広告費は合うなとか、そういう考え方もするよね。
木下:そうですね。我々は定期購入のビジネスモデルなので、完全にそれが中心です。
亀山:そうだ、健康食品とかは特にそうだね。
木下:そうですね。初回ではほぼ採算が合わないんですけど、基本的にはLTVを計測して、LTVから逆算した上限CPOを設定して、この上限CPO以内でいかに広告を運用していくかですけど、広告媒体ごとにLTVはけっこう違う傾向があるんですね。Yahoo!から来た人とGoogleから来た人では、LTVがちょっと違っていたりとかするので。
我々はだいたい1年で見るんですけど、例えば3,000円の商品だったとしても、1人のお客さまが平均4回ぐらい買ってくれるとすると、1年LTVは1万2,000円という言い方をしています。
1人のお客さまを獲得するのに、例えば1万円かかっていたとして、3,000円の段階では7,000円の赤字ですが、1年で見ると1万2,000円になっているので、2,000円の黒字になる。単純に3,000円の商品でCPOは1万円だったから採算が合わない、ではなくて、LTVで見ると採算が合うという、機会ロスを防ぐやり方ですね。
亀山:会社によってそれを1年で見るところもあれば。
木下:2年とか。
亀山:うちなんかは、例えばSaaSビジネスとかでは5年で見たりすることもあるんだよね。もちろんどんどん減っていくんだけど、それでもロングテールで足していくとLTVは上がっていくじゃない。2年目、3年目、4年目と少しは残る。それを積み重ねて、その価値をいくらの広告でできるか。
木下:そうですね。
亀山:「とりあえず今年は赤字だけど、来年儲かる予定です」みたいな感じになる。よくSaaSモデルとかで、赤字なのに株価が上がっている会社があるけど、あれなんかはまさに「生涯のLTVで見ると合いますから、今は赤字だけど、これだけ会員が増えているので、将来広告を止めたら利益は出ますよ」みたいなことだよね。
木下:そうですね。
亀山:時々、知り合いから「なんでこんな赤字の会社の株価が上がっているんだ?」と聞かれることがあるんだけど。「世の中のみんなは、そんな不確かな物差しで株価を決めているんだよ」って言うしかない(笑)。
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