適性検査にあらわれた経営層と中間管理層の「強み」の違い

井上:当社では「経営者力診断」というものを、2021年の秋にリリースして、おかげさまでいろんな方々に使っていただいています。いわゆるマネジメント力を測る適性検査ですが、実は今の話にかなり共通をするものがあります。

経営者力は5つの力で構成され、成り立っていることを僕らなりに解析しました。一番コアなところに構想力と決断力と遂行力があって、これをレバレッジさせるものとしてリーダーシップと学習力があるとくくって、妥当性が検証できたんですね。

言葉の使い方として、僕らは「経営人材」と「幹部人材」という言い方をしています。経営人材はもう完全にトップマネジメントですね。執行役員とかも含めますけども、事業執行者、経営全体を見る人。幹部人材は一般的にはミドル、中間管理職という言い方でいいですかね。課長・部長職。係長とかも入ると思うんですけど。

この2つに分けた時に、この5つの力の傾向値が出たんですよ。優秀なリーダーは、階層にかかわらず「学習力」を発揮します。これがすごく強い。ほかの4つを見た時、優秀な中間管理職のいわゆる幹部人材の方、優秀なミドルの方が発揮するのは「遂行力」と「リーダーシップ」です。

このリーダーシップは、先ほどのリーダーシップとちょっと定義が違い、ここでは組織を率いていく意味合いで使っています。

そして、経営人材の方が著しく発揮して、経営人材になれないミドルの方が発揮できていないことが多く、スコアが低くなるのが、「構想力」と「決断力」です。

これはけっこうおもしろくて、決められたことをしっかりやっていく、シンプルに言うと、適応していく方がミドルです。問いを解く人と、問いを立てる人という言い方を僕らはしていますが、問いを解く人が優秀なミドル。問いを立てられる人がトップマネジメント。

解析したところ、そういう結果が出ました。

経営人材の育成に必要なこと

小杉:とても良く納得できる話ですね。

井上:先ほどのリーダーシップとマネジメントという観点で言うと、ミドルはしっかりと管理をしていくのが当然強いし、実際それができる方がバリューを発揮するということですよね。

ただ、トップマネジメントがリーダーシップを一番発揮するとすれば、物事を構想したり、何に取り組むかというアジェンダセッティングができるとか。そういうところが経営人材、トップマネジメントの方に求められるのは、先ほどの件から見てもやはり事実だなと思います。

小杉:逆に言うと、先ほどのリクルートとかの話もそうですけど、構想することを課すというか、そこをやってもらう訓練をすることで、経営人材は育成しやすくなるわけですよね。

井上:おっしゃるとおりですね。

小杉:与えられた問題を解くことばかりやっていると、残念ながらそこからすごいジャンプが必要ですよね。経営人材になる時には構想をしないといけない。つまり自分で問題文を考えないといけない。

私はこういう言い方をするんですけれども、問題を解く側から、出題者側に回る必要があると。逆にその訓練がなくてトップになった人は悲劇ですよね。プロジェクトを率いたこともなく、決断もできない人がトップになってしまうと、部下は大変なことになるわけです。

時代の変化で変わったトップとミドルの役割

井上:かなり昔の笑い話ですけど、まだ都銀が13行とかあって、財務省ではなくて大蔵省だった時、90年代あたりにすごく言われていたことがあって。その当時の頭取がやるべきことは3つでいいんだと。3つのことを頭取は聞くと。1つは他行はどうしているか。もう1つは、大蔵省は何と言っているか。

もう1個は下の人たちに「お前らで考えろ」。この3つを言えたら頭取ができるという皮肉話です。当時は、例えばアメリカのやり方を持ってくるとかテンプレートがあって、その再現が成長を呼んだ高度成長期があって、それで良かった部分もあったと思うんですけど。

でも、平成に入った頃からそういう前提がなくなり、答えがない中でどう自分たちで答えを見つけていくのかが求められるようになってから、日本はすごく弱くなったんだろうなと……。

小杉:本当にそう思いますね。逆に最後の、「お前ら考えろ」で、ある種放置されていたところもあったと思うんですよ。それで下の人間が自分で考えて育っていったのがすごくあった気がしますね。

井上:「ミドルが優秀だ」「ミドルこそが起点だ」みたいなことは、高度成長期以降、よく言われてきましたよね。

小杉:逆にそういうことを絶やしていることも私は心配しています。例えばコーポレートガバナンスコード(企業統治のガイドラインとして参照すべき原則など)とかで締め付けてしまう。私も社外取とか、監査役をやっているんですけど。ゆめゆめそれを縛ってはいけないと思うんですね。

もちろん法令違反をしてはいけないんですけど、経営者や役員たちは、可能な限りミドルを自由にさせてあげないと、会社はどんどん先細りになっていくだけではないかと思うんですよね。

井上:そうですよね。そういうところから次の経営陣の人たちが出てくると思うので、実際そういう機能のさせ方をしているところもあると思います。でもおっしゃるとおりで、潰しているところはすごく多い気がしますね。

ただ、それはすごくいいんだけど、「じゃああんじょう考えといてくれよ」というトップではもはや適用できない時代になってしまっているかな。

小杉:そうですね。

井上:方向づけをしっかり考えて、衆知を集めればいいと思うんですけど、ちゃんと当人のトップが考えて、描いて決めていくことは欠かせないでしょうね。

小杉:そうですね。少なくとも、「あんじょうよくやってくれよ」だったら「最後は俺が責任を取るから」まで言えないといけないですよね。

井上:そうですね。

小杉:そうすると逆に部下はがんばりますよね。

井上:はい。そういう意味での魅力的なトップが、逆に昭和の頃は多かったのかもしれないですね。

小杉:そう思いますね。もちろん今もいるんですけど、仕組み的にだんだん難しくなっていると思いますね。みなさんプレイングマネージャーですし。昔は管理職は管理職でしたからね。

ツールも増えて便利になったのに、昔より忙しい理由

井上:先ほどの話で、昔はいわゆる管理、マネジメントする管理職だったけど、今はプレイングマネジャーのみならずプレイング部長、プレイング役員じゃないですか。

例えば電話からポケベル、携帯からスマホと見ても、僕らはすごく情報ツールに恵まれてきているし、昔だったらすごく手間がかかるものが速やかにデータとして扱えたりします。便利になっているのに昔よりどんどん忙しくなっている気がするんですけど、なんでですかね(笑)?

小杉:瞬時に情報がやり取りされるからですかね。

井上:昔なら、例えば手紙とかなら数日後でのやり取りでよかったけど、今だったら即レスでないとストレスになるんですかね。

小杉:そうですね、それがあるでしょうね。

井上:でも、そうしたら生産性が上がっていないと変ですけどね。

小杉:そうです。ということは、ただ忙しくなったけど価値を生んでいないと言えますよね。つまり雑用をすごくやっていることになってしまいます。

井上:仕事のための仕事みたいなのが増えているのはあるんですかね。仕事も自分事も、そういうのを考えたほうがいいよなって折々思うんですよね。そんなに無駄なことをやっているわけではないとは思うんですけど、でも昔に比べて確かにバタバタしている感じはありますよね。

小杉:そうですね。ネットでいろんなことも、すぐに調べられますし。

井上:本当にそうですよね。

小杉:すぐでないと駄目ということが、標準になったからじゃないですかね。

井上:そういうことですかね。レスポンスの負荷みたいなものが大きいのか。

小杉:あと会議も、昔は「出張に行って顔を合わせて」が標準で、テレビ会議システムは時差があったり音が途切れたり、極めてストレスが溜まるので「やっぱり会わないと駄目だよね」だったのが、瞬時に、しかもこんなに明瞭にいつでも設定できるようになってしまって、逆に負荷になっていますよね。

便利になったので逆にたくさんやってしまうというか、詰め込めるというか。

井上:たくさんやれているんだからその分生産性が上がっていないとやはりおかしいよなと思うんですよね。

小杉:申し訳ないですけど、結果やらなくていいことをたくさんやっているんですよね。

井上:そういうことでしょうね。

小杉:でもこれはみんながそうだと思いますね。

井上:ツールですごく便利になった感がありながら、おっしゃるようなことは、おおよそあらゆる部分で起きている気がするんですよね。

小杉:それは自分もまったく例外ではないですね。常にすごく追われていますね。

井上:それこそ嘘か真か、(スティーブ・)ジョブズとかビル・ゲイツさんとか、あとイーロン・マスクもかな、子どもたちにスマホとかは触らせないと言いますよね。

小杉:言っていますね。

なぜ「変革」は不調な時より好調な時にしたほうがいいのか?

井上:「企業業績が好調な時と不調な時によっても使い分けはありますか」というご質問いただきました。変わりますよね。

小杉:当然ありますね。不調の時は止血しないといけない。そういう時にはトップが仕切る局面はあるでしょうね。それは青学の原さんではないですけど、「この状態を切り抜けるまでは君臨型でいくぞ」という場面はあるでしょうね。

ただ、これは以前から言っているんですが、逆に言うと好調な時こそ変革をしやすいんですよね。余裕がないと、大胆な変革ができないので。今と違うやり方にするとか、大きな変革はやはり業績が好調な時でしょうね。

また、それはそれで旗振りが必要だと思います。むしろそれはトップが仕切るのではなく、みんなのアイデアを出させて行うとか。今のやり方を見直したり、人事制度をいじったりする時も、業績が好調な時のほうが絶対やりやすいですからね。

そうでないと、社員の意識が下方に向いてしまうので。「業績が悪いから給料を減らすのではないか」みたいな。なのでそのタイミングはすごく重要だと思いますし、その手法も何を選ぶかはすごく重要です。

有事に強いリーダーと平時に強いリーダー

井上:リーダーシップ理論にはいろいろなスタイルのものがありますが、わりと「リーダーのタイプと状況によって適応されるものが違う」という、GEとかが使っている理論の源流になっている、けっこう古いリーダーシップ理論があります。リーダーのタイプを、大きく課題動機型と関係動機型の2つに分けているんですね。

課題動機型はタスクドリブンな人で、関係動機型は人間関係的なところにすごく意識が向く人です。日本人は関係動機型のタイプが多いんですけど、起業家はやはり課題動機型です。

比較的問題は一定存在しながら、会社が成長したり動いているところは、関係動機型の人のほうが向いているんですね。ただ、何かをすごく変革しないといけないみたい時は、やはり課題動機型のリーダー。だからターンアラウンドマネジャー(中小企業の事業再生や事業継承を請け負う人)みたいな人は、課題動機型のタイプの人が多かったりもしますね。

おもしろいのは、逆に言うとターンアラウンドマネジャーの方は、そういう混沌としたり問題が大きいところに対して非常に強いんです。けど、その方が活躍して会社がターンアラウンドできて良い状態になると、そのターンアラウンドマネジャーの方自体のマネジメントの適応力は下がるんですよ。

小杉:そうだと思いますね。

井上:実際に、ある程度の局面で移っていく方は、僕らがお付き合いしている方でもいますけど、「ここから先は苦手なんだよね」みたいな感じで、ご本人もよくわかっていたりしますね。

小杉:有事と平時という言い方もできるかもしれないですね。有事のほうがどちらかというと短期的な成果が求められる。平時は中長期的なかたちで結び付けていくので、こちらはやはり人間関係を重視するほうが中長期的に成果を生みやすいですよね。

リーダーに向かない人

井上:もう1つ、「経営に向かないリーダーはいますか」というご質問があります。

小杉:これはどういう意図で聞かれているかわからないんですけど、本の最後に「リーダーになる」という章があります。リーダーに向かない人、なったら不幸な人、周りも不幸になるのは、リーダーになる気のない人です。これは間違いないです。

誰でも、素質的、スキル的には、リーダーになろうとすればなれるんですよね。ただ絶対になれないし、なってはいけないのはリーダーになる気がない人です。

井上:それじゃあ困りますよね。

小杉:だから経営に向かないという点で言うと、先ほどの決断しないとか、責任を取らないとか、よく言うThe Last Manの覚悟がない。後ろ盾がない状態で、自分が決めたことによって、従業員を、その家族も含めて路頭に迷わせてしまうかもしれない。そういったことを自分が全部背負う覚悟がない人がやってはいけないのが、経営者だと思いますね。

井上:ありがとうございます。あっという間でしたが小杉さん、今日も本当にありがとうございました。

小杉:ありがとうございました。

井上:今日のお話の中でいろいろヒントにしていただけるものがあったのではないかと思います。なるほどな、はもちろんですが、ぜひみなさん自体のリーダーシップに使っていただければと思います。

すでに買っていただいている方が多いと思いますが、この本は手元に置いておくと良い確認になると思います。ぜひおすすめいたします。

小杉:ありがとうございます。

井上:では小杉さん、本当にありがとうございました。

小杉:はい、ありがとうございました。

井上:また次回もぜひよろしくお願いいたします。

小杉:よろしくお願いします。