組織において「ビジョン共感」が最重要な理由

藤岡清高氏(以下、藤岡):採用者の本音で本当にうまく言った言葉があって、この人を知ってますか? アーネスト・シャクルトン。初の南極横断を目指した探検隊の求人広告です。

アーネスト・シャクルトンは求人の中で、こんなコピーを出しました。「求む。危険な旅。わずかな報酬。極寒。暗黒の長い日々。不断の危険。安全な帰還の保証なし。成功の際には名誉と知名度を手にする」。

さっきの(採用の)3原則と一緒なんですよね。目標があって、簡単じゃないけどそれが成功した暁には報酬を得る。

では具体的に、なぜビジョン共感が必要なのかという話をしていきたいと思います。ビジョンがあるから組織は動きます。これは原理原則です。なのでビジョン共感が一番大事なんです。どこに自分たちは向かおうとしているのか、これを理解することがとても大事です。これなくしてはなにも動かないんです。

佐々木圭一氏(以下、佐々木):つまり今、転職しようとしてる人からすると、リーダーが持っているビジョンに共感できるか。その企業がやっていることに対して「私もそれをやりたいな」。どんな危険があったとしても、そういうことを私もやってみたいという共感があるか。

藤岡:そうですね。さっきのアーネスト・シャクルトン船長からすると、この目標である「南極探検」に思いのある人を採用したいわけです。

日本人の多くは採用の原理原則を見失っている

藤岡:「ビジョン共感が最重要と心得てください」とお伝えしたいんですが、残念ながら日本人の多くはこの原理原則を見失っていくんです。見失っている人が多いから、こういう私みたいな仕事があるんです。

なんでかお伝えしましょう。これが原理原則と言いましたけども、お金が儲かってくるとストックができてきて、組織がお金を持ってくると、ビジョンに共感してなくても配るし、優秀そうな人を採れるんですね。本来は1番から始まる話なんだけど、2番から始まっちゃうんです。

とりあえず優秀そうな人を採っておく。わかりやすく言うと「とりあえず東大生採っとけ」みたいな会社もありますけども、ビジョンに共感してないけど、とりあえず入る。

この入っちゃった人もなんで入ったかというと、高い給与が約束される、なにかしら福利厚生が良さそうだっていう、本来のビジョンと違うところを売りにされた会社に入ってしまうんです。

そしてたくさんお金をもらったり、福利厚生が良かったりしても、「なんで俺ここで働いてるんだろうな」と気づいて「あれ? おかしいな」ってなってる方が多い。

そういった方がどうなるかというと、「ビジョン・ミッションに共感して働きたいんですけど」って、当たり前のことが起こっているわけです。1番に基準を置くことは避けられなくて、4番(ストック)から入っちゃう人がいるでしょう、周りにいませんか?

転職後のミスマッチが起きてしまう理由

佐々木:これは質問になってしまうんですけど、現在大きな企業に入っていて、ビジョン・ミッションとかあまり考えずに「給料は良いし、親も喜ぶから」みたいなところで入ってしまうとダメだよと言ってるのか。

それとも転職をする時のポイントとして、まずはビジョン・ミッションということに共感するほうを選びましょうという話をしているのか。

藤岡:ビジョン・ミッションに共感できるところを選びましょうという話ですね。ここがないと、あとになって必ずこの問題は自分に返ってきます。

佐々木:お金は重要だけど、それよりもビジョン・ミッション。そこの共感がまずできてますか? 今もそうだし転職するに当たってもその共感が重要だよ、ということですね。

藤岡:事前の質問でもいただいてたんですが、ミスマッチになってしまう理由はだいたいここなんだろうなと思っていまして。

あとスタートアップに行くにしても、ミッションを理解せずにキラキラしたイメージだけを見てしまって、本来のスタートアップ企業の持ってるミッションを見ずに転職をしてしまったりすると、ミスマッチのサイクルに入ってしまうという話です。

佐々木:なるほど。

採用担当者が求めているのは「逃げない人」

藤岡:真っ当な採用担当者であれば、探しているのはビジョン実現に向けた思いの強い人。ビジョン実現に向けて逃げない人かどうかを見ています。

佐々木:「逃げない人」、これはどういうことですか?

藤岡:ビジョン実現に対して、やりきる理由があるかどうかを採用担当者は見ていますよね。つまりマンモスを狩りに行くのに、途中で逃げ出さないかどうか。「違う所に行きたいんですけど」って言ったら……。

佐々木:そんなのわかるんですか? 採用するタイミングで「こいつはマンモス狩りの途中で逃げ出すぞ」って(笑)。

藤岡:(笑)。それこそ真っ当な採用担当者は見てるんです。「なんでこの人はこの事業に共感しているのか、逃げなそうなのか」って。

ビジョン共感で転職がうまくいった事例

藤岡:ちょっとスライドを出して話したいなと思っているんですが、ランサーズってみなさんご存知ですかね。プロフェッショナルなスキルを持ってるフリーランスと企業をマッチングをしている、上場企業です。

そこで、今紹介している根岸(泰之)さんが大活躍されてるんですね。ランサーズって今でこそみんな知ってると思うんですよ。なぜこの人が採用されて、CEvOとして活躍しているのかという話をしたいと思います。

もともと某人材会社でマーケティングの仕事をしていたんですが、残念ながらお子さんの病気で出社ができなくなったんですよ。人材会社さんなのでだいたい出社しなきゃいけないんですけども、出社できない。

そんな時にランサーズは「時間と場所にとらわれない働き方を実現する」というビジョンを持っていました。

場所もどこでもいいし、週何回とか、柔軟な働き方を実現する。正社員以外の働き方ですね。フリーランスと企業を結びつける、そういう働き方を実現しようというビジョンを持った会社がありまして、その初期メンバーとして参画します。

参画した理由は、「自分自身がこういう働き方を社会に取り入れたい、という問題意識を持っていたから」と言っておられます。いろいろこの会社を大きくした方なんですけども、ランサーズの成長・上場に貢献して、今でも幹部として活躍されています。

会社の目的と個人のビジョンが完全に一致してるパターンですよね。会社からしたら「逃げないだろう」という確信があったので、本当に4番目とか5番目の社員として参画されたと。

いろんな苦労もあったと思うんですが、乗り越えられた原動力は、そのビジョンを実現したいと本当に思ってたから。もちろんスキルもあったと思うんですけど。これが、ビジョンを介して転職して活躍してる人の例です。

ビジョン共感のない転職は「がんばる理由」を見失う

藤岡:ここで、今度は失敗した例をお話しします。失敗した例なので名前は「Tさん」で。

Tさんは大学の同級生が「建設×AI」のスタートアップを起業されたので、「AIスタートアップ、いけそうだから乗っかっちゃおうかな」と。某T大学の頭が良い方。AIベンチャー、数年前すごくはやったじゃないですか。

今もはやってますけれども、走りになってこのテーマに乗っかったら、もしかしたら上場とか一攫千金できるなと思って「入れてくれない?」って入ったんですよね。

ですが、どんどんビジョン共感して入ってくる仲間がいて。この会社はAIのベンチャーです。AIって「手段」でしかないわけですよ。この会社はもともと、建設業界の労働生産性を上げたいという社長の原体験があって、ビジョンが「建設業界をより良く変えていきたい」なんです。

建設業界ってけっこう事故も多かったりして、AIを使って事故を減らしてケガする人を減らしたいっていう、そういう本来のビジョンがあったんです。そこに共感した仲間がどんどん入ってきて働いてる。

(一方でTさんは)がんばる理由が見出せなくなってきて、他社員との熱量に圧倒されていく。距離が……「彼は社長と大学の友だちらしいけどなんでこの会社にいるの?」みたいな扱いをされて居場所がなくなっていき、メンタル的にも厳しくなり短期退職しました。

佐々木:なるほど。初めに「共感」はなく、まさに「お金」で行ったんですね。

藤岡:はい。能力的にはとても優秀な方ではあるんですけど、やはりビジョン共感とかないと、がんばれなくなるっていう1つの例ですね。

人間は「存在理由」がないとがんばれない生き物

藤岡:さっきのトライアングルで言うと、目的・ミッションにまったく共感をしてない。入ったものの、地頭は良いものの、がんばりきれなくなった。これは1つの例ですが、そういった話があります。

僕もいろんな方を見てますけど、人間は「存在理由」を自問する動物だなと思っていて。自分のいる組織、コミュニティかもしれません。「なんで自分はここにいるんだろう」「なんでここで働くんだろう」って自問していくわけですよ。

そこで存在理由を見出せないと、どんなに優秀な人でも、がんばれなくなってくる動物なのかなと。社会的な動物なんでしょうね。

なので、存在理由が見出せないともたない。当然っちゃ当然なことを言ってるんですけども、ビジョン・ミッション共有というのは本当に大事だなということをお伝えしたいと思います。

そして2番目、「成果が出せるスキルがあるか」。これは、実はワークショップをしていただこうかなと思ってるんですけども(笑)。その上でお話しをしていこうと思ってます。

「成果が出せるスキル」。いきなり無茶ぶりかもしれませんけど、みなさんの「成果が出せるスキル」は何ですか? 書いていただいて、そのあとにお話ししたいと思いますけども。

「成果が出せるスキル」の実例

藤岡:じゃあ実例を。例えば営業チームを作ります。葉山勝正さんはエン・ジャパンさんで営業部長をやってたんですけど、営業チームの組織化のコツをつかみ、すららネットという教育ベンチャーに転職してCOOとして上場。

そこで営業チームをゼロから作って、組織化することに再現性があると。現在は、有名なアンドパッドという建設ベンチャーの執行役員として、これまた営業チームを作って組織化しました。

佐々木:めっちゃキラキラしてて、なかなかこんな人はいないんじゃないですか。もうちょっと、例えば27歳とかでもできるようなレベルでいくとどうですか?

藤岡:例えばWebマーケティングのところで、個人の集客をゼロから任せてもできますよと。

佐々木:なるほどね。1つのアプリを立ち上げ、デザインもしたことがありますよとか。

藤岡:「結果にコミットできる」という言葉がありますけども(笑)。

佐々木:やり切ったものがある。そのほかでは営業チーム統括とか、そんなところまでいけばもちろんキラキラの実績としてはありますね。

なかったとしても成果を出せるもの、例えばホームページのワイヤーフレームを1人で作って完成させたことがあるよとか、あとは新規のクライアントを前の会社で3つ獲得して、新しいクライアントの支援を始めたことがあるとか。そういう部分もありますよね。

藤岡:そうですね、「再現性があるかたちで成果が出せる」と言い切れるようなスキルであれば。

「ヒト軸採用」と「イシュー軸採用」の違い

藤岡:では、話していきたいと思います。成果が出せるスキルとは、「丸投げされても成果を出せること」。みなさんの成果が出せるスキルは何でしょうか、ということで話していきたいと思いますけども。

チェックポイントその1。「ヒト軸VSイシュー軸」というのがあります。この軸のどちらがあれば良いでしょうかというと、イシュー軸で書かれてるかを面接官は見ているはずです。

ヒト軸とは何なのか、イシュー軸とは何なのか、私の本にも書いてるんですけども。ヒト軸採用はこういうことです。

「向こう5年で1,000人ぐらい退職するから、1,000人ぐらい補充したいんだよね。なのでまあ20代のMARCHクラス以上、体育会歓迎、5年後に戦力化する人をまとめて採りましょう」。こんな採用ってよくありますよね。新卒採用とかで「こんな人を採りましょう」と。

一方でイシュー軸採用。イシューは「課題」なんですけども、「こういう課題を会社は持ってるから、この課題を解決できる人を採ります」という採用です。

営業を組織化したい、カスタマーサクセスチームを立ち上げたい、IPO管理チームを作りたいという課題に対して、それが解決できるような人を採ります、というのがイシュー軸採用です。プロ人材ですね。

肩書よりも“自分には何ができるのか”が大事

藤岡:一般的に考えたらどういうことかというと、中途採用です。採用する側だったらどっちを採りますかっていったら、イシュー軸採用ですね。プロ採用です。なのでこれに伴うような書き方を、ちゃんとされてますかってことですね。

「僕はこんな人です」じゃなくて「こんな課題を解決できる」「こんな経験をしてきた人間です」というアピールができてますか、というのが1つのポイントです。

スキルチェックポイントその2、「名札VS値札」。名札と値札というポイントも面接官が見ているところですけども、どういうことかというと……名札軸というのは会社名とか部門名のアピールが多い人ですね。「部門で〇〇達成しました」「あれを達成しました」。

前に私のところにもいたんですけど「国家公務員ですが、ベンチャー企業いけますかね?」と言われるんです。でも国家公務員かどうかはどうでもよくて、「何ができるんですか?」って聞かれちゃうんですよね。

自分独自のスキルによる成果の出し方をアピールするのが値札軸です。自分でいかに課題設定し、解決し、どんな成果を出し、チーム内での役割はどうだったのか。

マネジメント人数だとか、どのくらいいたのかを自分でアピールすることによって、自分はいかほどの値札がある人間なのか。年収イメージが湧くような伝え方をできるかどうかですね。

新卒採用のやり方で中途採用をしている人は多い

藤岡:残念ながら日本の多くの方を見ていると、新卒の採用のことを引っ張ったまま中途採用してる人が多くて。「僕は〇〇会社にいました」「〇〇大学を出ました」に終始してしまってる人たちも、残念ながら少なくありません。

ですが中途採用はプロフェッショナル採用ですから、「自分はこんな課題が解決できます」、会社じゃなくて「自分がこんなことができます」という書き方ができているかどうか。

みなさん、自分の書いたメモにこれが書かれてますか? 値札軸、イシュー軸、書かれてますでしょうか。まずこれがあるかどうかがとても大事です。特に大企業の人が多いと思うんですけども、ここを見られてるので注意してください。

「会社の看板でできただけじゃないのかな?」「会社の仕組みが優れていただけなんじゃないのかな?」「この人じゃなくてメンバー側が優れていただけなんじゃないのかな?」というのをまず疑問に思われてるので、伝える前にそれを払拭できてないと、この段階で損をしていることがとても多いです。

個人の力の「凄さ」を伝えているというのは非常に大事です。

転職市場における「自分の値札」を判断する方法

藤岡:では「自分の値札はどうしたらわかるのか」って思ってる方、けっこう多いんじゃないでしょうか。言える人はなかなかいないですよね。「自分の値札はナンボやねん」って言える人はなかなかいないんですけど、ここから現実的な話をします。

みなさまの値札を決めるのは、企業でありマーケットなんですね。よく「自分はこのぐらいの価値がある」と思い込みで言う人とか、「大企業で今もらってるから自分の値札はこうだ」と言う人いますけども、労働市場に出て他流試合をするしか、自分の値札ってわからないんですよ、現実的には。

「今〇〇会社で800万円もらってるから、僕は800万円」って言うと、必ずしもそうじゃないかもしれない。会社の人事評価制度に乗ってるだけであって、マーケットで800万円という値札が付いたら、その人は800万円です。

どうすればいいのか。これは厳しい現実を言うと、やはり転職活動をしてみるしかないんですよ。もう1つは副業をしてみる。

佐々木:厳しいというよりも、ある意味誰でもできますね。1回転職活動してみよう、副業はできる会社・できない会社あるかもしれないですけど、やってみようということですね。常に一歩を踏み出してみる。

藤岡:そうなんです。一歩踏み出さないと、自分がどのくらいかわからないのが現実です。友だちに「君はできる」って言われても、それは値札じゃないんですよ。

本当にお金を出すってオファーをされて、初めて値札が付けられるので、転職活動をしてみる。転職するつもりがなかったらあまり意味ないんだけど、しようと思っているなら、まず動いてみる。自分に値札が付くのか見てみるのは大事なことなんです。でもハードルが低くてしやすいのは2番(副業)なので、こっちが個人的におすすめなんですよね。