部下を4パターンに分ける、状況対応型リーダーシップ

井上和幸氏(以下、井上)『リーダーのように組織で働く』の中で小杉さんはリーダーシップの2つの変化を紹介されていて、その紹介の仕方がすごく興味深かったんですよ。

1つは足元の、チーム単位みたいなところで、いろんなキャラクターがいいよね、という話。あと、会社のステージが変わる時にリーダーシップスタイルが変わるよね、という2つを紹介されていましたが、それはみなさんにすごく参考になるのかなと思って。

小杉俊哉氏(以下、小杉):ありがとうございます。全社で、あるいはチーム内で、メンバーによって自分のスタイルを使い分ける。これは研修でも長年いろんなところで使われているもので、ポール・ハーシーとケン・ブランチャードの提唱した状況対応型=シチュエーショナルリーダーシップ(SL)といいます。

自分の部下を4パターンに分けて、スキルとやる気のマトリックスで見るわけです。スキルが低くてやる気が高いのは、新人ですよね。彼らには指示をしていくスタイル。2番目は、スキルも低いしやる気も低い。そういう人たちに対しては「あなたがコーチになりなさい」と、その人に寄り添って力を引き出していく。

3番目はスキルは高いけどやる気は低い。これはベテラン社員ですね。特に年上の部下を持つと(年下の上司は)おもしろくないわけです。これは「支援型」でやりなさいということですね。最後はスキルも高いしやる気も高い。こういうエース級の人間には委任していく。どんどん仕事を振っていけと。

こういう見極めとコミュニケーションの仕方を練習する研修もあるわけです。

ただそのやり方は、上にいくほど使えないと書いているんですよね。プロジェクトリーダーやマネジャー、課長ぐらいだったらいいんですけど、部長・本部長クラスになって自分の部下がいわゆる管理職になると、ましてや役員・社長・CEOがそれをやると「あの人、えこ贔屓するよね」とか「あの人ぶれるよね」と言われる。みんな部下はそれなりの人たちですから。

なので上にいくほど使えなくなるという注意が必要なのが状況対応型リーダーシップです。これが前段の話ですね。

時代や状況でリーダーシップのスタイルを変えて成功した人たち

小杉:後段の話は、まさにチームの状況によって、自分自身のリーダーシップのスタイルを変える必要がある。

これは2つ視点があって、1つは1972年に発表されたハーバードの教授グライナー(グレイナー)の提唱した成長5段階説です。組織のレベルが上がっていくほど、リーダーシップのスタイルを変えていかないと機能しなくなるという話ですね。

もう1つはスティーブ・ジョブズとか、青山学院大学の陸上部の原晋監督とかを例に出していますけど、組織の状況や所属している社員たちの状態を見極めた上で、自分がどのようなリーダーシップを発揮するかを変える必要があるという話です。

スティーブ・ジョブズはAppleを作って王様だったわけです。それで追い出されてしまい、外で11年、NeXT ComputerとかPixarが大成功して、戻った時は変革者として戻ったんですよね。ですから彼がもし「俺が作った会社だ」といって、我が物顔に振舞っていたとしたら、とっくにAppleはどこかに買収されていたでしょうね。

彼が外で学んだことは、自分がすべて仕切るのではなく、すばらしい才能のある人間を見出して、彼らにやらせる、ちゃんとコミュニケーションをすることだったんだと思います。彼が病気になったとか、禅を学んだことも関係すると思いますが。

井上:そもそも痛い目にあったことでの気づきもあったんですかね。

小杉:あったと思いますね。

井上:追い出された時にね。

小杉:NeXT Computerとかをやっていた時は、見返してやろうと思っていたと思うんですよね。

井上:NeXTを作ったのはそうですよね。

小杉:新しい標準を作ろうとしたと思うんですけど、自分で仕切るよりも才能ある人を活かすほうが、結局自分がやりたいことが実現できると学んだんでしょうね。あとは癌のこともあると思いますね。

あの有名なスタンフォードのスピーチもそうですけど、「今」を非常に重視して意味あるものにするという意識を強く持った。

青山学院大学・原晋氏のスタイル変更

井上:原さんの話も何度かしていただきましたけど、そういう局面はちゃんと対応されているんだろうなと思います。

小杉:ご一緒したときに,拙著『リーダーシップ3.0』を教科書と言ってくれていますが、青学の監督として、最初は自分のやり方を植え付けようと1.0で入って、徐々に家族的な関係性を醸成して1.5になって、ついには3.0が成功して4連覇したわけですよね。

ちょうど連覇をしたぐらいの時期に監督とテレビでご一緒したんです。4連覇のあと他校に優勝を譲るんですが、その時に4年生が寮でやってはいけない飲酒をしてしまう事件が起きます。

主力選手も最高学年にもかかわらずだらしなくて、彼は業を煮やして、「こんな4年にみんなついていきたくないだろう」「1年だけ、俺は君臨型でやるぞ」と宣言して、1年だけまた仕切ったんですよね。

それで4年生も奮起して優勝して、そこからまたもともと彼が指向していた3.0に戻ったんですよね。去年、6度目の優勝をした時はインタビューで、「これでついに一人ひとりが、指示がなくても自分で考えて動ける自律型の組織が完成しました」と感慨深げに語っていたのが非常に印象的でしたね。

井上:そうですね。

自社に合うリーダーシップスタイルの見極め

井上:時代の変遷の中でそうやって変わってきている。1より1.1、1.1より1.5、1.5より2.0、2.0より3.0みたいに、数字的に上のバージョンのほうがいいんじゃないかと思われるかもしれません。時代対応という意味ではそうですけど。

今、原さんの件をお話しくださったみたいに、組織局面とか企業局面の中では3.0をやっていては駄目な時もあるということですよね。

小杉:そうですね。今でもすべてのタイプは混在していて、最初にお話ししたように、オーナー系は未だに1.0だし、それでうまくいっているところは別に文句もないわけですよね。

ファーストリテイリングの柳井(正)さんや日本電産の永守(重信)さんなど、オーナー系は得てして後継者問題でいろいろ揉めます。そういう弊害はあるんですけど、うまく事業がいっている分にはいいと思うんです。そういうスタイルもあるわけですからね。「みんなが今3.0になったほうがいいですよ」などと言うつもりは毛頭ないです。

その見極めが重要だし、先ほどのグレイナーモデルもそうですけど、そういったことを知らないでやるのと、知っていて選ぶのはぜんぜん違いますからね。

井上:そうですね。

小杉:あるいは自分のスタイルを好きにやればいいという話でもないわけです。組織との兼ね合いですから。

井上:おっしゃってくださったように、組織は1つのあり方だけではないですから、X.0という世界の中にそれぞれのはまり方が確かにあるなと思いますね。あとは働いている身からすると、自分がどういうスタイルのところがいいなみたいなのはありますよね?

小杉:与えている側からするとそうですよね。先頃ファンドが入り上場廃止してしまいましたけど、ユニデンという会社は、暴君と言ってもいいですけど、藤本(秀朗)さんというオーナー社長が7回引退して7回復帰しましたからね。

井上:すごいですね。

小杉:私も、彼のもとに敢えて学びに入ったのです。もともと体育会でもないので、軍隊のような組織を経験したかった。上意下達の組織で働いてみたいと思ったんです。それで選ぶこともありますからね。