2024.10.10
将来は卵1パックの価格が2倍に? 多くの日本人が知らない世界の新潮流、「動物福祉」とは
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井上和幸氏(以下、井上):みなさんこんばんは、経営者JPの井上です。ここから1時間半、ぜひ楽しんでいただければと思います。今日はゲストに小杉俊哉さんをお迎えしています。小杉さん、今日はよろしくお願いいたします。
小杉俊哉氏(以下、小杉):はい、よろしくお願いします。
井上:もうお読みになられている方もいらっしゃると思いますが、7月の下旬に小杉さんが『リーダーのように組織で働く』という新刊を出されました。この出版記念も兼ねて、今日はお話しをうかがってまいります。小杉さん、この本は続編になるんですかね。
小杉:そうですね。10年前に『リーダーシップ3.0』という本を書いて、言いたいことは変わらないのですが、いろんな新しい事例も入れたほうがいいかなと思って、10年ぶりに続編のつもりで書きました。
井上:これは本当にお世辞ではなく、押さえておきたいものを全部紹介くださっているなと僕も思って。確認とかにもすごくよくて、買わせていただいてから折々ページを開いています。
小杉:ありがとうございます。ただちょっと読みにくいんじゃないかという懸念があって。前の『リーダーシップ3.0』は新書ということもあって、どちらかというと読み物なんですよね。
今度の本は、どちらかというとハンドブック的な、教科書・参考書として、あるいは研修の課題図書みたいな位置づけで書いたので、おっしゃっていただいたように参照していただくという感じですね。
井上:そうですね。関連する理論などを小杉さんの目線でわかりやすく解説されていて、けっこうワークも入れてくださっているので、自分ごととして考えながら読めますよね。
小杉:研修を受けていただくイメージで読んでいただければと、そんなふうに思って書きました。
井上:ありがとうございます。今日はこの本で紹介されている話を軸にうかがってまいりますのでよろしくお願いします。
小杉:お願いします。
井上:まず「コロナ禍はリーダーのあり方を変えたのか?」というテーマを立てていますが、小杉さんは実際どう思われていますか?
小杉:本の中にも書いていますが、研修や授業で、コロナによって「社員とか部下にバレてしまったことって何でしょう」とみなさんにお聞きしています。
井上:ありましたね。あれは「なるほど、確かにな」と思いました。
小杉:上から「自分の言うことを聞け」という(リーダーシップ)1.0のスタイルとか、あるいは2.0のスタイルを取っている人にとっては、非常に都合の悪いことが起こったんじゃないかと思うんですよね。
結局、答えを持っていない、どうすればいいか正直なところわからない、ということがバレちゃったということですね。的確な指示命令で導くことができなかった。コロナ禍は、新入社員から経営トップに至るまで、みんなが初体験だから、当たり前なのですが、今までのスタイルを見直す必要が出てきたということではないかと思うんです。
井上:バレちゃったという(笑)。
小杉:都合の悪いことが、バレちゃったんですよ。役職が上、社歴が長いなど声がデカい人が、組織を仕切るということが未だに多く行われていると思うんですね。そのやり方に対して「えぇっ?」と社員が思うようになった。
コロナ禍の前からさんざんVUCAと言っていたわけですよね。先が読めないと、過去の延長上に未来はないという中で我々はビジネスをしているわけですよね。あるいはディスラプティブ(破壊的〜)と言われていて、過去の経験はむしろ邪魔になるという中で我々は働いている。
このようなことがいよいよ突きつけられて、リーダーが上から一方的にものを言うやり方は通じないし、逆に通じていると思ってはいけない。
井上:そういうことですよね。
小杉:それが一番大きいんじゃないですかね。
井上:コロナということは非常に大きな事象であって、本当に100年に一度なのですが、必ずしもそのコロナ云々ということだけではない。コロナ禍がなくても、世の中の状況みたいなものが、リーダーシップのあり方に与えている影響はもともと大きかったよねという……。
小杉:大きかったんですよ。
井上:それが、コロナによってかなり増幅されたわけですよね。
小杉:増幅されましたね。
小杉:もう1つ。これも本には書いてあると思いますが、分母がインプットで分子がアウトプットというのが生産性の公式ですけど、働き方改革をずっとやってきて、労働時間を短くして残業を削減することに成功したわけですよね。
これはコロナ前からずっとやってきたことじゃないですか。一定のアウトプットを生み出すための労働投入量を、150かかっていたのを100にしました、ということですよね。ほとんどの企業は、少なくとも大企業であればみんな残業を削減して達成した。
残業をしなくなったのですが、「じゃあ日本の生産性は上がったんですか?」というと、まったく上がっていないですよね。そこを考えないといけないですよね。
国内だけ向いて「残業を減らしました」と、労基署から(注意や指導を)言われることはなくなったかもしれないけども、グローバルの競争力はぜんぜん上がっていないし、国の生産性も上がっていない。そこは認識しないといけないところじゃないかと思います。
井上:なんか悲しい(笑)。
小杉:悲しいですよ。ですから30年間ずっと日本の相対的な地位は落ち続けているわけです。ずっと給与も増えず物価も上がらなかった中で、我々は慣れてしまった。それで急に給与を上げるという話になって、物価が上がって今すごく戸惑っているということですよね。
なのでやはり分子のアウトプットを極大化するということ、つまりイノベーションを生む競争がグローバルの競争で、誰も労働投入量の話なんてしていないわけです。インプット削減は国内だけの話であって、日本の休日はもう十分に多いですし、祝日は世界でも有数の多い国です。
井上:本当に笑っちゃうくらい日本の祝日は多いですよね。
小杉:多いです。特に工場があるメーカーとかだと工場を一斉に休ませるので、前後の土日を合わせると、9〜10日間休むというのが普通になったわけじゃないですか。ヨーロッパのように何ヶ月じゃないですけどね。でもだいぶ休むようになったているわけです。
だけど生産性は相変わらず上がっていないことを、認識する必要があると思うんですよね。
井上:ネタバレじゃないけど、下手さ加減みたいなものもいろんな意味で明らかになった時期でもあったのかもしれないですね。
小杉:言い方を変えると、あとのほうのテーマにも関わると思いますが、マネジメントばかりを真面目に一生懸命やっているということですよね。一方、リーダーシップは発揮していないとも言えますよね。
井上:確かに。そういう意味でお話を進めると、小杉さんはリーダーシップ3.0、4.0について10年前ほどから言ってきているわけですけれども、本当にこういうことですよね。
小杉:こういうことです。
井上:「こういうこと」ってごめんなさいね、みなさん、解説いたします(笑)。
小杉:なんのことかわからないですよね(笑)。
あらためて初めての方もいらっしゃると思うので、リーダーシップ1.0は王侯貴族、荘園領主、藩主のように権力を背景に下々の者を従えるというスタイルで、現代で言えばオーナー系の企業はそういうところが多いですよね。
創業経営者が君臨しているような会社。私もそういう会社で以前人事をやっていましたけど。産業界ではヘンリー・フォードという人が、大量生産を生むために職人さんたちを集めて、プロイセンの軍隊を参考に、人々を一挙手一投足指示どおり動かして、産業界に革命を起こしたわけですよね。
大量生産が可能になって、均質の製品ができるようになり、納期も短くなって値段も安くなった。それでみんなが真似をして一気に広がったのです。
そこから1.1という分権ですね。これは事業部制、機能別組織とか事業部制ですね。1人で全部仕切ることは難しいので、責任者をほかに立てるというやり方ですね。相変わらず権力を背景にしているので、1.1バージョンということですね。
その後1.5というバージョンが出てきて、これは日本的経営ですね。60年代後半から90年代初頭まで、家父長的、運命共同体的な調整型リーダーです。これがアメリカの企業にもお手本になった。自分たちに追いついた脅威である日本を研究した結果、そういった会社がエクセレントなんだという、『エクセレント・カンパニー』という本も売れました。アジアの国はもとより、アメリカの優良企業も真似をしたことは以外と知られていません。
それが90年代になって、「そんなことをしていたら会社が潰れちゃうぞ」と出てきたのが、2.0という変革のリーダーシップです。GEのジャック・ウェルチを代表とするような、チェンジ、チャレンジ、イノベーション、トランスフォーメーション、自転車をこぎ続けろと煽り立てる。
今世紀に入ってからは3.0と言っている、支援する側に回ると。一人ひとりのポテンシャルを引き出すスタイル。3.0の良い点は強さ、カリスマ性がいらないということです。これが1.0から3.0までの簡単な説明です。
井上:その3.0が先ほどコロナの時にお話しされた、トップが答えを持っているわけじゃないというところに適用されるスタイルでもあると。
小杉:そうですね。一人ひとりが自分でWhy、Whatを、何をやったらいいかから考える。それが変化とか新しいことを始めることにつながるんですね。背後から支援するというリーダーシップのスタイルです。これがとても必要になっているんじゃないかということですね。
井上:そして新たに4.0というものを体系化してくださったわけですが、今回の『リーダーのように組織で働く』がまさしく4.0ですよね。
小杉:そうです。リーダーじゃなくていいから、一人ひとりがみんなリーダーのようにリーダーシップを発揮するということをおすすめしている本です。そうすると、自分が好きなように組織の中で動けるし、自分が組織を利用してなりたい自分になったり、やりたいことができますということですね。
井上:小杉さんは、独立された最初の頃から「自律型リーダー」を提唱されていて、そこと4.0はすごくつながっていると思ったのですが。
小杉:そのとおりですね。
井上:20年前ぐらいから小杉さんは明確にメッセージを出されていましたし、実際に大手企業各社でも研修をされていた。あえて振り返っていただくと、先見の明があったということでよろしいんでしょうか?
小杉:先見の明があるというとおこがましいんですけど、今の人的資本経営も1999年の『人材マネジメント戦略』という本に書いています。そういう意味では動きをキャッチするのは早いかもしれないですね。
本質というか、「本当のところはどうなの」とか「どう考えてもこうなるはずだよね」という視点をもつことは重要だと思います。
井上:本質的に考えればそうだよねということですよね。
小杉:一人ひとりがリーダーシップを発揮する、つまり自律的に働くということですよね。人的資本経営をリードした『人材版伊藤レポート』でも、会社と個人は選び選ばれる関係であって、決して上下関係ではないと明示しているわけです。双方が努力を怠るとその関係は長く続かないという、夫婦関係と一緒ですよという話ですね。
井上:今日ご参加の経営者や幹部の方は、もともと働き方が自律型という方がたぶんほとんどでしょうし、自分だけでなく会社・組織全体が自律型であることが望ましいと思っていると思うんですけど。
日本全体でいうと必ずしもそうとも言えないのかなと。比率が増えてきたから「そういうスタイルが望ましいよね」となってきたと思うんですけど。ある人にとっては自律するって大変なことだったりするわけじゃないですか。
小杉:いや、多くの人にとって、でしょうね。
井上:そういうところを少しお話しいただいてもいいでしょうか?
小杉:『2%のエース思考』という本に書いていますが、大企業では自然発生的に自律している人って2パーセントぐらいしかいないんです。つまり自分の意思で働くことを選択し、自分で責任を持って働いている社員は2パーセントぐらい。50人に1人、100人に2人ぐらいしかいない。
役職関係なく、そういう人たちがリーダーなわけです。役職についていない人でもリーダーとして周りを動かして、会社に多くの貢献をもたらす人たちがいるわけです。ただ全体の2パーセントぐらいだと、組織は極めて不活性ですよね。
小杉:前に、井上さんともお話ししましたが、80年代のリクルートではどのぐらいでしたっけ。会社からの指示・役割でやっているのではなく、自分で不満とか不足とかの不を解決するために社会課題を解決しようといろんな事業提案をして、動かしていた人たちが、独立して起業した。
井上さんもその1人ですけど、元リクの人というんですかね。もともと会社にいる時からそうやっていたはずなんですよね。
井上:ちゃんとした統計データがあるわけじゃないので、あくまでも感覚値ですけど、そこまでやる人って30パーセント台ぐらいという感じがするんですよね。
小杉:めちゃくちゃ多いですよね。
井上:多いと思いますけど、意識としてそういうスタンスで働いているという意味だったら僕は8割ぐらいだと思いますね。もしかしたら9割ぐらい。
小杉:いや、すごいですよね。
井上:ただ、2000年前後から、良い意味でいうとリクルートはすごく仕組み化されていますし、テクノロジー・ドリブンな会社になっていますから、2000年ぐらいまでで言えば、リクルートはそうじゃない(自律的ではない)タイプの人はたぶんいにくい会社だったと思うんです。
「教えてくれ」とか「なんで会社が決めてくれないんだ」という人は、すごくいづらい会社という感じはしましたね。周りがそういうことをほとんど思っていないので。
小杉:昔のリクルートはいつもお祭りをやっているみたいな感じだったと思うんです。新しいものを生み出そうという機運があって、死ぬほど働いていたわけですよね。
それが、先ほど話したように2パーセントぐらいだと「まぁなんか変な奴が勝手にやっているよね」みたいな感じですよ。多くの人は冷めた目で見て「自分には関係ないよね」という組織。極めて不活性なんですよ。
かつてのリクルートみたいにするのは、もう入口から違うので難しいと思うんですけど、せめて20パーセントぐらいに上げることを本の中でおすすめしているんですよね。2パーセントのいわゆるイノベーターにアーリーアダプターをくっつけて、2割弱ぐらいにするということはできるんじゃないかと。
先ほどの支援型リーダーや、あるいは人事的にもそういった人をちゃんと評価できる仕組みを作ることで背中を押してあげれば、意識はあるけどちょっとそこまでやれないという人も、ちゃんと評価してもらえれば動きやすいので。2割いたら、かなり会社は活性化しますよね。
井上:影響度合いは大きいでしょうね。その2割の人たちに、6割ぐらいの人たちが前向きに捉えていれば、もうそれは完全にマジョリティ。
小杉:2割になると、今度はアーリーマジョリティがくっついてきて、アーリーマジョリティがくっつけばレイトマジョリティがくっつくので、まさにマーケティング理論と同じだと思いますね。
井上:小杉さんの今回の本のメッセージは、いわゆるマジョリティの方々も自律した人になろうよという話だと思うんですけど。
今お話しくださったように全員がなれるわけではなくて、引き上げて2割だとしたら、残りは全体の8割と捉えてもいいし、2:6:2の言い方で言えば、下位2はいったん置いておくとして、6割ぐらいの方がどういう頃合までいくといいんですかね?
小杉:例えば自分で100パーセント自律的に、思いのままに会社で働いている人は、先ほどもお話ししたように、稀有なわけですよね。多くの人はそれがいいなと思っても動かせない。
だとすると、じゃあそういった場を用意してあげるのが1つあるわけです。本の中で引用していますけど、例えばソニーをV字回復させたCOOとして名を刻んでいる平井さんは、子会社のミュージックエンタテインメントから入ってきて、メーカー経験はなかったけど、本社のトップになった。
テレビ事業も含めて、見事に復活させたわけですけど。その時に彼は、やりたい思いがある、マグマがたぎっている人たちに、それを放出させる場を用意したわけです。
経営トップ自らが、自分でWhatを持っている人の「これをやりたい」という思いを、ごく限られた「これはやってはいけない」という禁止条件以外は全部OKにして、自由にやらせたわけです。それを社長が自ら後ろ支えした。そこから新しいものが次々と生まれてきた。こういうことを述懐されています。
肝となる点が2つあって、1つが新規事業開発部門に移したわけではないということですね。ふだんのあなたのやる仕事をやりながら、プラスしてそちらのものもやる。副業的な意味合いであると。これはGoogleの20パーセントルールとか、3Mの15パーセントカルチャーとか、一定の比率はそちらに使うということですよね。これが1つ。
2つ目が、みんなにやってもらう必要はない。やりたいと手を挙げた人にやってもらうんですね。みんなにやらせると、また時間の管理がどうだとかいう話になるので、決して義務にしない。
そういうマグマがたぎっている人は、時間の切り売りというか、20パーセントをそちらに使うよりも、エネルギーのレベルはすごくあるわけですから、そちらの部分に一定の比率を振り分けるかたちで運用できる、という見方ができると思うんですよ。
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