新規事業の立ち上げにおける「ダメパターン」

司会者:今日の登壇者はケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ(以下、ケンブリッジ)の白川と小高です。よろしくお願いします。

白川克氏(以下、白川):よろしくお願いします。いつも2時間ぐらいかけて話す内容のダイジェスト版なので、自己紹介は手短にします。コンサルタントをしてます。先日『社員ファースト経営』という6冊目の本を出しました。

小高祥子氏(以下、小高):ケンブリッジの小高と申します。新卒で入りまして、今日のテーマでもある「新規事業」の担当をしてます。よろしくお願いします。

白川:私たちは、お客さまと一緒に変革プロジェクトを成功させるお仕事をしています。今日のテーマは新規事業の立ち上げですね。この(スライドの)「⊂」という数学マークは、「新規事業も変革プロジェクトの一種である」という意味です。

我々がふだんやっている変革プロジェクトの一種だから「(新規事業も)同じように進めれば上手くいくんじゃないか」と思っていた時期もありましたが、新規事業ならではの部分がけっこうあって、今は「勝手が違うな」と思っています。今日はそのへんを中心にお話ししたいと思います。

私は新規事業ならではのコツみたいなものがあると思っています。そのへんを考える上で、まず「ダメパターン」を紹介してみたいと思います。ダメパターンその1。事業を立ち上げる以上、事業の意義やミッション、コンセプトをしっかり考えて立ち上げないといけないのではないか。

一見正しそうですが、これをやると言葉遊びになります。「顧客エンゲージメントを高めてサステナブルな事業を」とか。適当に作った例で、意味がわかりませんが(笑)、こういう感じのPowerPointをモリモリ書いてしまう。

大事なのは「他社さんのサービスと違って、なぜこのサービスがうまくいくのか」「なぜ必要とされるのか」といった核となるアイデアなのですが、そこになかなかたどり着かないんですね。

絵で描くとこうなります。ピラミッド型のプロジェクト推進。例えば業務改革をやる時などはこういう感じで、上から落とし込むことをよくやります。私も『業務改革の教科書』という本を書いていますが、その本でも基本的には「まずゴールを明確にして、現状調査をして云々……」と、上から落としていく感じで書いています。

ただ新規事業の立ち上げをそういう感じでやると、この(スライドの)「施策・打ち手」のアイデアがつまらないものしか出ずにパタッと止まったり、もしくは立ち止まらずにつまらないアイデアのまま進んで、ぜんぜんブレイクしない新規事業になったりします。

ということで、上から落とし込んでいくやり方はそもそも間違っています。

「アイデアをどんどん試す」のもNG

白川:もう1つのダメパターンは、よく新規事業は「まず手を動かしてトライアルしないといけない」と言われます。さっき私が言ったような言葉遊びをしてもしょうがないだろうということで、PoC(プルーフオブコンセプト)をやる。要は「アイデアを出して実現化していく中で見えてくることがあるでしょ」と試していく。

考えたアイデアを具現化しようとアプリ作ったり、モック作るけど、なんかうまくいかない。何回かやっているうちに疲れてしまうというケースもよく見聞きします。

ビジョンから落とし込んでいく左の作戦も、アイデア勝負で試そうという右の作戦も、どっちもツラい。

なので、我々は考え方の転換が必要だと思っています。我々がたどり着いた作戦は、新規事業の検討は「円卓型」でやるというイメージです。

ピラミッド型は「上から落とし込む」という順番が決まっていますが、円卓型は検討しないといけないことや詰めないといけないことを並べます。これ自体は普通のプロジェクトと同じですが、どこから始めるかという順番が必ずしもあらかじめ見えているわけではありません。

ケースバイケースで「今回はここから詰め、次にこれを詰める」と順番を変えていくことがすごく大事です。一種のパラダイムシフトで、この考え方がしっかり身についてるかどうかで、プロジェクトをうまく進められるかどうかが相当変わります。

今日持ち帰っていただきたいことの1つは、新規事業ってやるべきことが上から下まで順番で決まっているのではなく、円卓型で順番はケースバイケースという考え方です。

新規事業を上から下に落とし込むピラミッド型でやってしまう理由

白川:ただ、理屈だけを言ってもぜんぜんピンとこないと思いますので例を挙げます。うちの会社はコンサルティング会社なのですが、学校立ち上げという新規事業もやっています。プロジェクトの中でお客さまの会社に変革をリードする人材が育ちますが、学校というかたちでノウハウをがっちり教えたら社会にとっても良いのではないかと考えて、学校を立ち上げという新規事業を始めました。

コンサルティングという中核事業に追加して学校事業を立ち上げるケースなので、多くの会社の新規事業に近い構図だと思います。この学校事業を例に「円卓型」を説明します。ここからは小高さんにお願いします。

小高:「ダメパターン、わかります」とか「やっていました」というコメントがチャットにいくつか来ていますね。

白川:(笑)。

小高:上から下に落とし込むやり方は一直線なので「しっくりこないし、うまくいく気がしないけど、そのまま進めちゃう」ということはけっこうあるのではないでしょうか。

白川:偉い人に説明する時は、あっち(ピラミッド型)のほうがわかりやすいから。

小高:そうそう。

白川:しかも偉い人自身がああいう感じで仕事してきたのが染みついているから、「こうじゃないのか」と言われたりして。

小高:まさにそういうコメントが来ています。「出世した方々には(ピラミッド型以外は)なかなか伝わらない」みたいな(笑)。

白川:まさにそう(笑)。

小高:では、学校事業を例にして円卓型を説明したいと思います。

一応前提情報をお伝えすると、ケンブリッジの学校事業は今年の7月にローンチした新規事業になります。教育事業ですが、我々コンサルが貯めてきたノウハウをオープンにしてレクチャーし、受講生にプロジェクトを推進するリーダーになってもらうお手伝いをするという内容です。

なぜケンブリッジが学校かというと、もともと我々には「誰かに教えたい」とか「社会貢献したい」という土壌があり、経営層ではなくいちコンサルの「ノウハウを教えたら学校になるのでは」の一言がきっかけで始まりました。ケンブリッジには「これをやりたいです」と経営層に言って「いいよ」と承認が出ると、一定の工数を割いて検討できる制度があります。

「円卓型」プロジェクトの進め方

小高:本業のコンサルティングとはまったく異なる新規事業である、ケンブリッジの学校事業を例にご説明します。まず「意義目的」。

先ほども言ったように、最初は「社会貢献ができるんじゃない?」という誰かの一言から始まりました。

そして、どう社会貢献するか(サービス提供価値)というところで、ケンブリッジの得意な「プロジェクトを推進するノウハウを広めて役立ててもらう」と。我々は毎週金曜に社内でトレーニングをやっているので、トレーニングの資産がいっぱいあります。「ノウハウを伝えるには、社内のトレーニングが使えるんじゃない?」(自社の強み資産)と検討していきました。

その次に「顧客ニーズ」にいきます。

一般的には顧客ニーズは最初のほうに考えると思うんですけど、我々はこの順番で考えました。トレーニングを使ってこういう価値を伝えるとすると、(顧客の)対象は誰になるか。「さすがに学生じゃなくて社会人だよね」「プロジェクトに困っているけどコンサルを直接雇えない人とかいいんじゃない」みたいな感じで顧客を設定しました。

「対象が社会人なら、ビジネススクールや研修があるよね。これとどう違うんだろう」と、ここで初めて「競合」について検討します。競合について検討する時に、もう一度「サービス提供価値」に戻りました。一般的にPMBOK(プロジェクトマネジメントの知識体系)みたいなプロジェクト管理スキルって、研修やビジネススクールで教えるけど、我々は「それだけではプロジェクトは推進できないよな」と思ったからです。

そこで我々は、「プロジェクトを推進するスキルを、プロジェクトが成功しやすいカルチャーとセットで伝えたら価値になるんじゃない」と、「サービス提供価値」をより具体化させました。

そして「意義目的」にももう1回戻ります。

我々がやりたいことって「変革をリードする人材をコンサルティングサービス以外からも輩出することじゃない?」と。さっきは「社会貢献したい」というふわっとしたものでしたが、より良い目的が具体化されました。

そして、再び「顧客ニーズ」に戻って、「じゃあBtoBなの、Cなの?」と。この時はBtoCだと考えました。その後さらに何周かしてBtoBになったんですけど、この時はBtoCだと考えました。さらに「学びに対する姿勢はけっこうしっかりしているけど、ペースは人それぞれだよね」と、お客さまをより具体化する感じです。

議論する順番を探りながら徐々に深めていく

小高:ここまできて、初めて「業務・システム」や「テクノロジー」を考えました。

「授業ってどうやるの?」みたいな。「オンデマンドとリアルのライブ授業を組み合わせたらいいんじゃない?」「オンデマンドをやるツールって何だろう」というので、「SaaSが使えそうだよね」とテクノロジーを考えました。

さらに、もう一度「強み資産」に戻って、「オンデマンドをやるなら、リアルのトレーニングはあるけど動画のトレーニングはないから作らないとね」と具体化されたり。

「具体的にカリキュラムどうする?」とか、「学びを深める仕掛けがいるよね」と、具体的な業務や提供する価値をどんどん深めていく。

具体的にやりたいことや提供することが決まったら「社内の工数はどのくらい?」と、運用体制が決まる。

そうすると「どれくらいの費用になりそうで、儲かるためにはどのくらい人数が必要か」と、ここで「投資と回収の計画」を初めて立てる。さらに、「このサービスで刺さるかどうか、ヒアリングをしてみよう」みたいな感じで検討しました。

見ていただいたとおり、円卓型はいろいろな検討事項を行ったり来たりして深めていくかたちになります。

白川:「どこからでも検討していいというよりは、ピンボールみたいに議論する順番を探りながら徐々に深めていく感じですかね」という意見が何人かの方から出ていますが、そういう感じですよね。

小高:そうですね、そんな感じだと思います。

白川:何かを検討すると、次にこれを検討すべきというものが見えてくる。

小高:円卓型プロジェクトには難しさがあります。1つ目は、「各要素が相互に影響」するので検討が一直線に進まず、要素を行ったり来たりします。

2つ目は、だからこそ「検討の順番と深さが悩ましい」。チャットにも書かれた方がいますが「ここに来たら次にこっちに行き、次はこっち」と影響し合うので、これをどこで切り上げて次に進むかはけっこう悩ましいと思います。

3つ目は、「コンセンサスが作りにくい」。一直線ではなく行ったり来たりするので、考えていることがバラバラだったり、自分は「今ここを考えたい」のに、メンバーは違う要素を考えたいと思って意見がかみ合わないとか。

円卓型はプロジェクトとしての難易度がけっこう高いと思います。

方法論やツールだけで新規事業はつくれない

小高:ここまで聞いた方で「新規事業って世の中にけっこう方法論があるから、それを使えばいいんじゃない?」と思われる方もいると思います。例えばビジネスモデルキャンパスとか、ペルソナとかカスタマージャーニーマップなどが有名ですよね。これらはとても有効ですが、ツールだけでうまく検討するのは難しいと思います。

白川:私たちのもとに相談に来られるお客さまから「こういうツールでこんなことを書いてみたんですけど」と、見せていただくことがけっこうあります。一生懸命考えて検討されていて、やらないよりやったほうが議論は深まると思うんですけども……。

我々からすると「これを書くより、もっと大事なことがありますよね」ということが多いんですよね。小高が「いつ、どれを使うかが難しい」と言ったのはそういうことで、そこの見極めは我々プロでも難しい。

小高:個々のツールはすごく良いのですが、プロジェクトの中でいつ、どれを使うか(の判断)はけっこう難しいと思います。「かなり密に会話を共有しないと迷子になる人がいそう」というコメントがきています。そうなんですよね。

ツールを使う難しさを具体的にお話しすると、例えばペルソナや顧客ターゲットを設定する方法論があると思いますが、顧客ターゲットと言ってもけっこうレベル感があります。

1番(「年齢、職業など属性レベル」)や2番(「状況、学びの姿勢、目的意識など4象限分類レベル」)は本当にざっくりの属性レベル。

3番(「性格、個性など個人の特性レベル」)、4番(「名前、顔写真などのレベル」)は具体的に「この人はこういう人」と特定できるレベルで、どの段階でどこまで決めるか(の判断)はけっこう難しいと思います。

社外にヒアリングに行くタイミング

小高:学校の例で話すと、顧客やニーズには4回ぐらい戻りました。(スライドの)③は、最初は「まずは社会人かな」「プロジェクトに困ってるけどコンサル雇えない人だよね」と、ざっくりした属性レベルを考えました。

そのうち、⑨では「学びに対する姿勢はけっこうしっかりしているけど、こういう仕事をしている人だからペースは人それぞれかもね」と、属性よりももう1段階深掘って具体化しました。最後の⑯では、「この会社の、こういう役職のこの人」とヒアリングの対象を特定しました。最初のネタ出しはざっくりで、そこからどんどん深堀っていきました。

なので、最初に3番や4番まで考えるのは無理というか、他の要素が決まっていない中で考えてもしょうがないところがあります。このへんが難しいところだと思っています。

白川:「ヒアリングって社外に聞きに行くの? 社内なの?」といったコメントをいただいていますが、1周目の顧客ニーズを考える時は、社外まで聞きに行かなかったよね?

小高:最初は社内の人にヒアリングしましたね。

白川:社外の方にお時間をいただいて聞くほど、こっちも深まっていないのであまり良いヒアリングができない。たださっき小高が説明したように、4週目ぐらいに顧客ニーズについて考えた時には、聞きたいことが明確になった。

なので「こういう想定顧客に、具体的にこういうものを見せながらヒアリングしたら、我々の知りたい情報を得られるね」となって、外に聞きに行く感じでしたよね。

小高:今お話ししたとおり、新規事業は円卓型で、しかもその要素をスパイラルアップで検討するのがポイントです。

今この瞬間に、どの要素をどのレベルまで深掘りして検討するかを考えるのが、円卓型プロジェクトのキモになると思います。

円卓型プロジェクトのスタートライン

小高:では、どうすればいいのかについて。白川さんからお願いします。

白川:今日持ち帰ってほしい考え方の2つ目がこれです。「脆弱な急所」から掘るということです。

さっき小高が、「円卓型はどこから検討すればいいのかが難しい」という話をしましたが、すごく雑に言うと、センスのある人は「今これを検討すべき」がわかるんですよね。

でも説明をそれで終わると身も蓋もないので、我々が「なんで今これを検討しているのか」「なんでこれが大事だと思ったんだろう」というのを自己観察した結果、見出したのがこの「脆弱な急所」という概念です。

「脆弱」とは、「実現性が怪しい」とか「具体化が甘い・ふわふわしている」みたいなことです。「急所」は、「成り立たないと事業が崩壊してしまうけど、暗黙のうちに前提にしているようなこと」とか。

新規事業は「こういうビジネスをしよう」「こういうお客さんに売ろう」といった前提を置いて考えます。でも、この前提が変わると他も全部変わってしまう。

この2つを合わせた概念が「脆弱な急所」です。つまり「今考えているプランの一番ヤバいところ」ですね。これをちゃんと特定して、そこから詰めていくのがすごく大事です。さっき小高が、ピンボールみたいに「次はこれを考えて」とやっていましたが、あれはよく考えると、脆弱な急所を順番に考えているんですね。

脆弱な急所をイメージしてもらうために例を出します。(スライドの例1の)新規事業を考える時、「こんなサイトを用意して」や「あの会社と提携して」と考えると思うんですよ。

先ほど「システムについて考えるのは、けっこう後のほうなんですね」というコメントもありました。今時の新規事業だと、「こんなサイトがいいんじゃないか」「あんなサイトがいいんじゃないか」「デザインはこんな風にして」と、真っ先にサイトを考えるケースもあると思うんですけど。

でも、サイトの話やパートナーシップの話をいろいろ考えても、そもそも「お客さんがいない」が脆弱な急所だったら、サイトのデザイン案を一生懸命考えてもムダですよね。

新規事業のノウハウ本とかを読むと、「顧客がいるのかいないのかを真っ先に考える」みたいに書いてあるんですけど、それは一般的にお客さんがいる・いないが脆弱な急所になりやすいからです。

「絶対みんなが欲しがる」とわかっても新規事業は成立しない

次、例2。「これは絶対みんなが欲しがるよ」「こんなものができたら絶対売れる」「こういうのが欲しかったんだよね」と言っても、そもそも技術的に無茶だったら、顧客ニーズや市場規模をどれだけ議論してもダメですよね。この場合は「技術的に成り立つか」が脆弱な急所で、それをスルーしていたという例です。

「いや、そこまでダメなケースはないでしょ」と思われるかもしれないので、実際に我々が見聞きした例をご紹介したいと思います。例3はある新規事業で、サイトをどうするかだけではなく、意外と地に足のついたプロジェクトだったんですけど。

検討する方々が考えたことは、キモとなるオペレーションをAIで最適化するとか、AIで最適化する時の業務フローはこうなるとか。PowerPointで業務フローを30枚ぐらい書いて、ああでもないこうでもないと検討していたんですよ。

相談を受けて、我々は「AIでオペレーションの最適化ができたら確かに素敵ですけど、そのためにはこういうデータが必要で、御社はそのデータを持っていますか?」とお聞きしました。その会社は持っていないし、どこからも入手することができない幻のデータだったんですね。

だとしたら、AIによるオペレーションの最適化は絵に描いた餅だし、30枚ぐらいの業務フローのPowerPointも全部ムダですよね。これは別に馬鹿にしてるわけではなく、気をつけないと本当にこういうことに陥るんです。一生懸命業務フローを書いていると仕事が前進している気になるんですけど、全部がムダになってしまったという例です。

小高:PowerPointにまとめた業務フローはすごく立派で、一見すると「そうだな」という感じだったんですけど、一番のポイントとなるデータが……みたいなことが起きていた。

白川:それが罠なんですよね。ちゃんとしたものを作っている感じなのにゴミになるという、切ないですね。

小高:切ない。

白川:「犬の道」というコメントがありますけど、安宅(和人)さんがおっしゃっている「犬の道」ってそういうことですよね。

これを円卓の話に置き換えると、「AIでオペレーションを最適化することでビジネスに勝つ」と言っているので、本当にAIで最適なオペレーションを提案できるのかが脆弱な急所ですよね。一番実現性が怪しいという意味で脆弱だし、これが成り立たないと業務・システムなどを考えてもしょうがないという意味で急所だった。

なので(スライドの)この濃いオレンジから考えないといけなかったのに、そこに目をつむって、業務・システムを一生懸命検討していた。こういうことは気をつけないとよく起こります。

変革プロジェクトに慣れたコンサルがはまった「罠」

白川:(スライドの)これは、我々が立ち上げた学校のケースです。

コンサルタントなのでこういった絵にするのは得意ですが、(絵を使いながら)学校がどういう構造になっているかを考えました。この絵については細かく説明しませんし、ここは理解していただかなくていいんですけど。

「学校だから質の高いコンテンツを用意しないとね」「課題解決のためで、勉強のための勉強じゃないよね」といったことを議論したんですけど、ここで注目してほしいのが、ピンクの付箋が入っているところ。ここが具体性に乏しいんです。

「これはどういうこと?」とちゃんと考えられていなかったり、メンバーによって考えていることがバラバラだったりするところ。そこをメンバーですり合わせて「これでいけそう」となると、「じゃあ次これだね」「このへんが脆弱だね」と検討を進めていきます。

でも、我々も罠にはまりました。「授業の動画を作成しないとね」ってなった時に、「これって具体的にどういうこと?」と検討したんですよ。実際にサンプルをPoC的に作ったり、その工数を測定したり。

「漫然と動画作ってもダメだから、こういう一貫性のある動画にするためにガイドラインを作って」とか、けっこう議論したんですよ。

小高:はい……(笑)。

白川:小高さんの声色が怪しいのは(笑)、結局ムダだったってことなんですよね。今から考えるとこれは脆弱な急所ではなかったし、実際にもう学校を立ち上げていますが、自分たちの手作り動画コンテンツって大事じゃなかったんですよ。

小高:使っていない(笑)。そうなんですよね。

白川:実際には(スライドの)右(の「深める仕掛け」)がずっと大事なポイントです。

急所は別のところに移っているのに、それに気づかずにここ(「質の高いコンテンツ」)に時間をかけて、深堀りをしていたという。

今から思えば「だいたいこのぐらいの工数で、これぐらいの動画を作れるな」というのが最低限見えたところで、「ここは急所じゃないので、次のこっちを考えないとね」と別のことを考え始めれば良かったけど、当時はそれに気づかず、ここにいっぱい工数を使ってしまいました。

検討や議論する際に、週1で確認すべきポイント

白川:なぜ我々がこの罠にはまったかと言うと、我々にとって「動画コンテンツを作る」ことはあまりなじみのない世界だったんですよね。コンサルティングワークと遠いじゃないですか。

逆に他の要素はふだんお客さまと一緒にプロジェクトでやっていることなので、なんとなくわかっていて。一番馴染みがないここが不安だったので、急所を誤ってずっと掘ってしまったんですよね。

お客さまが新規事業の立ち上げで苦労されているのを観察しても、このようにそんなに大事ではないところにずっと時間を使って、疲れたり。時間も工数も有限なので、筋の悪いところをずっと掘っていると、偉い人から「お前ら、いつになったら新規事業は見えてくるんだ」と言われて、お蔵入りになったり。

我々は途中で気づいてシフトできたので、傷は浅かったんですけど。変革プロジェクトに慣れていても、いざ新規事業となると急所ではないところに時間を使いまくるみたいな失敗が起きてしまう。

なので「脆弱な急所を掘らないとダメだよね。しかもそれは移り変わるよね」ということに気づいてからは、(スライドの)こんな感じです。

これはオンライン掲示板の「Miro」ですが、左が急所度高め、右が急所度低めで、プロジェクトの進展とともに変わっていきます。

「今はここが大事だから、ここを集中して検討しないとね」とか「これについてわかったことはこうだよね」「だとすると次にこっちの急所度が高くなってくるよね」みたいなのを、週1ぐらいで確認してたんですよね。

小高:そうですね。

白川:なので「今はここが大事なので、Aさんと私でここを集中的に調べる」みたいに、チームでやることに集中しやすいのが大きいと思います。

小高:「不慣れとか不安な部分に時間を費やしやすいということですか?」というコメントをいただきましたが、それはありますね。我々はまさにその例でした。あと「急所は移り変わる」という意識が薄かったのもあると思います。