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“デザイナー3.0”こそ目指すべき姿?! 経営に関わるためのデザイナーのあり方とは(全6記事)

デザインは「問題解決」と言いながら「完成度」に評価がいきがち 企業が求める「成果」を出す、ビジネスデザインの視点

東京都中小企業振興公社主催で開催される、最前線で活躍している講師からの実践的な学びを通じて、「デザイン経営」を推進する「人財」を育成する「デザイン経営スクール」。今回はそのプレセミナーとして行われた、クリエイティブユニットTENTの青木亮作氏と、ビジネスデザイナーの今井裕平氏による対談の模様をお届けします。本記事では、今井氏の考える「ビジネスデザイン」について語られました。

クライアントワークが「デザイナー1.0」から「3.0」の関わり方になるまで

今井裕平氏(以下、今井)今の(青木さんの)自己紹介で、(デザイナー)2.0と3.0の時系列をずっとうかがっていましたが、どのへんで3.0をやられたのか。クライアントワークが2.0で、それ以外が3.0と思いきや、クライアントで3.0的な関わりもされているので、そのあたりの順番を整理させてください。

まず、インハウスデザイナーとして会社にお勤めされていたんですよね。

青木亮作氏(以下、青木):はい。

今井:TENTさんができた時は、まずは2.0ぐらいからやられていたんですか?

青木:デザインのご依頼をいただく時は、当然プロダクトデザインしか期待されていないので、基本的にはいわゆる1.0という関わりです。ただ気持ちの上で「企画をもうちょっと変えちゃいません?」とか、「製造も全部見させてくださいよ」みたいな、余計なお世話みたいなかたちで、2.0的な広げ方を意識してはいましたね。

今井:先ほど2013年って言われていましたが、TENTでは「BOOK on BOOK」が初で、結成は2011年でしたっけ?

青木:2011年が結成ですね。

今井:結成ですよね。そこから2年後には3.0的なことをやりつつ……。

青木:やり始めちゃったという。すごく大きな決断があったり、「俺は3.0で行く」とかじゃなくて、ストアーズというサービスができて、無料でできるというのをどこかで知ったんですよ。

だから「無料でできるなら」って触ってみたら、写真を入れて文字を入れるだけでできちゃった。できちゃったから放置しておいたというのが正直なところです。エントリーだけしておいたみたいな、気持ち的にはそんな感じでしたね。

今井:そうですか。そこから3.0的な自社プロダクトもやられて、どんどん2.0からできることも増えて、初めにクライアントワークで3.0ってなったのは先ほど紹介された「NuAns」ですね。

青木:そうですね。その「NuAns」というブランドで依頼をいただいて、「全体を見てくれないか」「ブランドを立ち上げたい」って言ってもらえたんです。その時が関わりとして、依頼のかたちではほぼ初めてですね。

今井:それは「クライアントワークでも3.0をやってみたいな」みたいな思いがあっての話なんですか? それともたまたまそういう話になって「じゃあやってみる」となったんですか?

青木:言語化できていなかったのもあるんですけど、自社で開発・販売していたいくつかの製品を見て声をかけてもらえていて、ブランドという大げさなことは考えていないんですけど、確かにグラフィックもパッケージもWebも「できるな」「じゃあ受けてみようかな」ぐらいの感覚でしたね。

今井:今までアウトプットされたものがあって、それをクライアントがご覧になられて……。

青木:そうですね、「製品を見て」というのが連鎖している感じです。あれを見て次の依頼、それを見て次の依頼という。

今井:なるほど、ありがとうございます。

以前は「副業=ダサい」の象徴だった

今井:では1回僕も自己紹介をさせていただき、その上でトークをスタートできたらなと思っています。僕の自己紹介といっても、この議論をするにあたって「こんなことを考えています」というのを前提にしながら、質問をしていったほうが話が早いかなと思い用意をしました。

青木さんが建築学科って知らなかったんですけど、僕も建築学科でして、一応2年だけ設計事務所にいました。そのあとコンサルティング会社に転職して、経営者と仕事したいなと思っていて、あわよくば経営者に対してクリエイティブなアウトプットができて、会社を伸ばせないかなということに興味がありました。できたこともできなかったこともたくさんあるんですけど、そんなキャリアでした。

今kenmaという会社をやっているんですが、もともと新卒の時に、大学時代の後輩たちとコンペ出すという活動をしていました。はじめはコンペに落ちまくって、次落ちたら解散ぐらいの気持ちでやったらちょっと引っかかって、「これでやってもいいのかな」と思い始めたのが2010年ぐらいです。

一方で「こんなことやってます」って言いふらしていたら、誰かが「リノベする(から手伝って)」とか、「ショップ出すからショップカード作られへん?」とか、そんなことやっているうちにお金をもらえるようになってきて、2013年に会社を作りました。

当時は副業なんてダサい象徴でした(笑)。今はいいじゃないですか。

青木:へぇ、わりとみなさんやってますよね。

今井:昔は中途半端な奴みたいな、腹くくれていないやつみたいな、そんな印象しかなかったので、「時代は変わったな」と思って。僕は2016年に退社して、今に至るという背景です。

まとめると、デザインは学生の時から得意ではないけどやっていた。あとビジネスコンサルの経験が長いので、この両方を強みにしています。

「ビジネスデザイン」という言葉に込めた2つの意味

今井:特にビジネスからデザインを考えるというのが得意です。デザイン会社って名乗っているんですけど、ジャンルは「ビジネスデザイン」という言い方をしています。

2つ意味があって、1つはScopeですね。先ほどの3.0とほぼ近いかなと思っています。時系列で表現すると、0→1という生み出す部分があって、そのあと立ち上げて拡大していく。これを全部できるので、全部ご支援することを「ビジネスデザイン」という言い方をしています。

特に前職のコンサルタントの経験が活きていて、例えば価格を一緒に決めるとか、企画したものに対して収支計画も作った上で経営に報告するとか。PR・広報、メディアにどうすれば出られるか企みながらやるとか。

あとは大手企業とのコラボレーションですね。「ここの企業さんがコラボしたいって言っているから、話をつけたので進めてください」みたいなことも過去やりました。

「問題解決」のゴールは「完成度」ではなく「成果」

今井:あともう1つはデザインのゴールです。「完成度」ではなく「成果」をゴールにしたいというので「ビジネスデザイン」という言葉を使っています。

デザインって、狭義には「意匠」という意味があると思うのですが、昨今のデザイナーに聞くと「意匠をやっています」という人はほぼいなくて、「問題解決」という意味で「デザイン」が使われているのが、一般認識かなと。ひょっとしたら違うのかもしれないんですけど。

あまり議論されていないなと思うのが、デザインの良し悪しを決める評価基準。「意匠」は完成度が高いか低いか。「問題解決」は成果が出ているかどうかで基本判断すると思うんですね。

ちょっとおかしいかもなと思っているのは、ほとんどのデザイナーが「問題解決する」って言っているんですけど、でも完成度のほうに評価がいきがちなんじゃないかと思っていて、ここにチャンスがあるんじゃないかなと思っています。

今の話を2つの軸にまとめた時に、左下が1.0の話だと思っています。それに対して、領域的に広がっていくので「ディレクター」という立場がある。僕自身はやはり成果を出すためにデザインしたいなと当時から思っていて、数字で成果を語るデザイン会社はないんじゃないかと思い、ここ(「数字で成果を語るデザイン会社」)を目指してやっています。

企業の困りごとを解決する「フラッグシップを作る」

今井:あともう1つ、うちは「フラッグシップを作る」というコンセプトです。フラッグシップというのは「看板商品」という意味で使っています。わかりやすい例でいくと、とらやの羊羹みたいなもの。各企業いろいろお困りごとはあると思うんですけど、とりあえず羊羹みたいな看板商品を作るのが解決には手っ取り早いんじゃないかと思っています。

それは売上的なこともそうだし、会社の存在意義とか、従業員にとってのモチベーションとか、そういうのはもう看板商品を作るのが手っ取り早いんじゃないかと思っています。

世の中の事例でいくと、例えばMicrosoftのSurface。Windowsしかなかった時ってダサくて使いにくいイメージでした。AppleのiPhoneが出てきて、「Microsoftどうすんねん」となった時に、Surfaceが出てちょっとイメージが変わった気がするんです。「Microsoftもやるやん」みたいな。Microsoftがこれをフラッグシップって言ったかどうかは別として。

2つ目がZOZOですね。僕はこのZOZOスーツが本当に好きで、ZOZOがユニクロに対して下着とかTシャツとかでプライベートブランドを出す時に、いきなりあの巨大企業に戦えないので、自分たちのコアであるテクノロジーを使って(ZOZOスーツを出したことで)、「サイズ」の概念を変えたんです。商品に興味を持ってもらうのはフラッグシップ的なアプローチかなと思って見ていました。

あとうちは空間のプロジェクトもやるので、その代表格は蔦屋書店かなと思っています。僕らの時は、アルファベットのTSUTAYAで、青と黄色やったじゃないですか。

青木:そうですね。

今井:いつの間にか漢字4文字の蔦屋書店がいろんな商業施設に入っていて、これもまず代官山のドデカいところに作ったからこそできたんじゃないかって、僕は思っています。

あとこちらの中小ものづくり企業さんとよくお仕事をしたいなと思ってやらせてもらっているんですけど、その世の中の例でいくと、マスキングテープかなと思っています。マスキングテープって本当はマスクする(覆い隠す)テープで、おしゃれテープでもなんでもなかったんです。それをこんな風にカテゴリごと立ち上げたって、すごいなと思ってですね。

会社の名前は知らない方が多いけど、これは絶対知っているというのは看板商品かなと思い、そういうものをクライアントに作るのがうちのコンセプトだったりします。

今の話をまとめると、デザイン経営の話で「デザインに投資してリターンを得る」というのは先ほどお伝えした話ですね。ビジネスデザインでいくと、業務範囲が0から立ち上げて拡大するところ。

「看板商品」が持つ影響力

今井:最後にフラッグシップで企業の看板商品を作るという、その3つお伝えしたんですけど、これを眺めた時に、青木さんはそう思われないかもしれないですけど、僕は青木さんが先ほどご説明された「デザイナー3.0」と近しいところがあるんじゃないかと思って。

青木:そう思いますね。今回今井さんとお話しするにあたって過去記事とか読ませていただいて、「フラッグシップ」って言葉を使われていたのが、わりとスッと(腑に落ちる感覚がありました)。「あっ、僕もやっていたのはフラッグシップだったんだ」って、お借りして申し訳ないですけども(笑)。「こんなわかりやすい言葉があったら使いたいな」と。

今井:もうぜひ、ぜひ(笑)。

青木:本当に「看板商品を作る」ってすごくわかりやすいですよね。過去にやってきた事例でも実際に看板商品ができると、そこから求人とかで来る方もガラッと変わったりするんですよね。物の売上ももちろんなんですけど、それプラス入社する人が変わったとか、外から期待されることが変わったとか、そういう影響があったので、振り返ると僕たちがやってきたこともフラッグシップだったんだなと思いました。

今井:まさにです。例えばTENTさんのプロジェクトで、僕は「DRAW A LINE」とか本当すごいなと思っていて、「あの突っ張り棒を!?」という、まさにイメージも変えている。ジャンルは違えど、フラッグシップ的なのってたぶんこういうことなんじゃないかと。

新しいテーマ(の依頼)が来たときは、例えばフライパンだったら「フライパンってこういうもんやけど、新しい価値があるよね」「むちゃくちゃ大きく変えていないけど」とか、そんなことをよくメンバーと議論しています。

「既存の価値軸」を疑える、フラッグシップの考え方

青木:フラッグシップでいいなと思ったのが、「今までやっていたことを、いったん忘れませんか」って宣言にもなっていて。価格帯はこうであるという中で、デザインでなにかを変えてほしいという依頼とか、たとえば耐荷重とか、なんでもいいんですけど、要求されるいろんな既存の常識があって、その競争の中でデザインで勝ちたいってやると、もうわりと八方ふさがり状態になっちゃっていると思うんですね。

その時にやることは、既存のその価値軸自体を疑わなきゃいけない。やはり「今までの常識からいったん離れようよ」っていうのがすごく難しくて、でもそこで全員が「フラッグシップだからね」ってすると、なにかが割り切れる気がして。そういう意味ですごく良い言葉だなと思いました。

今井:ありがとうございます。もともとこれを考えたのは、自分がいいなと思うものとか、どうやったらクライアントに価値を生めるかみたいなのもあるんですけど、でも一番大事なのは「『フラッグシップを作る会社です』って言ったら、フラッグシップ以外の相談が来ないな」と思ったんですよね。

青木:確かに。

今井:となると、今みたいな「いや、価値を変えましょう」とか「土俵を変えましょう」みたいな、そういうのをやりたい人を支援する会社、という宣言にできないかと思いました。

青木:確かにそうですね、すごいわかりやすいなと思いました。

今井:ありがとうございます。

青木:やはり過去のプロジェクトでもそういう難しい局面ってあるんですよ。これだと既存のお店から怒られるとか、これだと価格が今までのより高くなっちゃうとかがあって、そこを乗り越えるところで経営者さんが踏み込まなきゃいけない部分がある。その少しでも後押しになる、安心できる言葉だなと思って、いいなと思いました。

今井:ありがとうございます。

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