交渉の目的は「相手の説得」ではない

今日は「交渉力を鍛えるコツ」についてお話します。交渉力はビジネスにかかわらず、さまざまな場面で必要となるスキルです。利害関係の違いなど、異なる立場や役割の人たちと、互いに納得できるゴールを目指して話し合う力のことを指します。

前提として大事なのは、交渉は決して勝ち負けではないということです。自分の意見を一方的に押し付けて、相手を説得することが目的ではありません。異なる立場や利害関係を超えて、互いが納得できる結論を持っていくことが目的です。この前提を押さえた上で、今日は「交渉力を鍛えるコツ」をご紹介できればと思います。

まず交渉が上手い人の特徴について。交渉がうまい人は相手のことをよく理解している人と言えます。具体的には相手の「立場」「関心ごと」「特徴」の3点をよく捉えています。

「立場」とは、相手のポジションや保有する権限、さらには組織の中ではどういったミッションを背負っている人なのか。こういった部分が相手の立場になります。

2つ目の「関心ごと」は、相手が必要としていることです。ビジネスの交渉であれば、相手は自分の業務目標達成において、有利に働くかどうかに関心があります。例えば、相手が購買部門の人ならコスト削減かもしれませんし、システム部門の人なら効率化かもしれません。自分の提案と相手のニーズ、つまり「関心ごと」が重なる部分があれば、交渉はうまくいく可能性が高まります。

3つ目の「特徴」は、相手のパーソナリティやコミュニケーションスタイルのことです。例えば、性格や会話のテンポ、思考のスピードなどがこの「特徴」に該当します。せっかちな人にゆっくりと話しを進めてしまうと、相手はイライラしてしまうかもしれません。交渉以前に、うまくコミュニケーションが取れないでしょう。

この「立場」「関心ごと」「特徴」の3つは、一人ひとり異なります。交渉がうまい人は、事前の情報収集をとても大切にしています。相手が社内の人であれば、その人をよく知る人たその人と同じ部署の人などに聞いて情報を集めます。

「事前準備」「交渉中」「交渉後」の3つのプロセス

では、これらを踏まえた上で、交渉におけるコツを「事前準備」「交渉中」「交渉後」の3つのプロセスごとに紹介します。

まず、「事前準備」におけるコツです。ここが最も重要なステップで、ここでその交渉がうまくいくかどうかは、だいたい決まると言っても過言ではありません。「事前準備」のポイントは3つです。

1つ目は相手に関する情報収集。先ほどお伝えした相手の「立場」「関心ごと」「特徴」の3つを徹底的に理解するのが大事です。

2つ目は、絶対に押さえておきたいポイントと、許容ラインを明確にすることです。交渉は対立ではなく、お互いが納得できるゴールを目指して話し合うものです。最初に自分の中で描いていたとおりのゴールを切るとは限りません。「ここは確実に押さえておきたい」「ここはまあ最悪捨ててもいいかな」という許容ラインを明確にすることをおすすめします。

3つ目は交渉のシナリオの準備です。「このような返しが来たらこう返そう」とか、「こういった質問に対しては、ちゃんと答えられるようにしておこう」といった返答シナリオを想定して、対策や代替案を準備してみてください。

自分がどのステップでつまずいているかを確認する

続いて、「交渉中」におけるポイントです。交渉中は何よりも落ち着くことが大事です。想定外の反応に動揺し、自分のペースを乱さしてしまって、思うように相手に言いたいことが伝えられないまま、交渉が決裂。そんな経験を、お持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか?

自分を落ち着かせるために有効なのは、まず先ほどお伝えした事前準備をしっかりすることです。自分の伝えたいことや、許容ラインを見返すためのメモを用意すること。相手に自分の意見を伝える時は、わかりやすく簡潔に論理立てて説明する。こういったところを意識してみてください。

もう1つ、相手の意見にきちんと耳を傾けるということが有効です。実際に話をする中で、事前準備では把握できなかったことも出てくるので、それに応じて話す内容は微調整するのが理想的です。

最後、「交渉後」におけるポイントです。うまくいった場合もそうでなかった場合も、きちんと議事録に残すことが大事になります。合意した際は、相手にもその内容をしっかりと、文章として物理的に残る体裁にして共有しておくことがポイントです。

あとになってから「そんなこと言ったっけ?」と言われないようにするためです。双方に認識のズレがないかの確認までしっかりすることで、初めてその交渉をうまく完結させることができるので、「交渉しっぱなし」にしないよう意識してください。

今日は「交渉力を鍛えるコツ」について、プロセスごとにお話ししました。いつも何だかうまく交渉できないなと思う人は、まずは自分がどのステップでつまずいているかを確認してみてください。今日の話がお互いに納得のいくかたちで交渉が進むヒントになればうれしいです。今日はここまでとします。