会社訪問時、投資のプロたちはどこを見ている?
井戸田潤氏(以下、井戸田):続いてはこちらです。「会社訪問はどこを見る?」。
小沢一敬氏(以下、小沢):先ほど、受付やトイレの話があったけれど、実際に会社に行かれているお三方ですからね。
ナレーター:会社訪問は、投資先を自分の目で確かめることができる貴重な時間。企業の成長性を測る際に、プロはどこに注目するのでしょうか?
井戸田:まずは藤野さんからお願いします。「顔色」とは、どういうことでしょうか?
藤野英人氏(以下、藤野):今はAIで相当なことがわかるんですが、なぜ(直接)会いに行くのかというと、その人の顔色がすごく大事なんです。
覇気があるかどうか、ワクワクしているかどうか、目に輝きがあるかどうか、的確に質問に答えるかどうかがすごく大事なんです。それこそが、僕らがリアルに行く意味合いなんですよね。
井戸田:AIではわからない、人と人との触れ合いから感じ取れることですか?
藤野:そうなんですよ。だから逆に言うと、AIでできることは聞く必要がほぼなくなっているんですよね。事実ではなく、事実の背景を聞くとかね。
表情から相手の“本音”を察する
藤野:例えばインサイダー情報といって、決算が上とか下とかは聞けないわけですよ。でも、会社訪問して……(笑)。
小沢:顔色で判断する(笑)。
藤野:ずっと笑みが出ちゃうとかね。
小沢:AIには表情がないもんね。
藤野:AIにはないでしょう?
井戸田:その表情で、どっちかを自分で読み取るということですか?
藤野:そうです。「(上を向いて)ノーコメントです」と、「(うつむいて)ノーコメントです」だと、だいぶ違うじゃないですか。
小沢:調子のいい会社だと……「調子はどうですか?」。
藤野:(笑みを浮かべながら)「ノーコメントです」。
小沢:よさそう。
(一同笑)
井戸田:なるほどね。
小沢:調子の悪い会社だと……「調子はどうですか?」。
藤野:「(真顔で)ノーコメントです」。
小沢:あ、悪い。
井戸田:眉間にしわが寄っているな。
藤野:そうです。だからこそ、経営者もなるべくポーカーフェイスにしようとしますよね。
経営者の「服装や時計」に注目する理由
ナレーター:ポーカーフェイスの下にはどんな素顔が隠されているのでしょうか? 経営者と面談する際、藤野さんが注目するのが......。
井戸田:「時計や服装」というのは、どういったことでしょうか?
小沢:時計って、やっぱり意味があるんですか?
藤野:コロナで急速にカジュアル化が進みましたよね。だから、経営者の考え方の変化が、服装で幅広く出るようになりましたよね。
小沢:へぇ〜。
井戸田:ほうほう。
藤野:コロナ前はスーツにワイシャツにネクタイが標準で、たまにネクタイがない人がいるくらいだったんですが、今はもう「どカジュアル」。
小沢:確かに、全員「どカジュアル」ですね。
八尾:すみません(笑)。
藤野:(「どカジュアル」な服装の会社から)スーパーフォーマルのところまであるじゃないですか。これは何がダメということではなく、その人の考え方や生き方が明確に服装で現れるようになったんです。例えば時計についても、僕自身はApple Watchです。
井戸田:Apple Watchだったら問題ないんですね。
藤野:そういう面で見ると、Apple Watchは「ITに詳しい、関心がある」というメッセージですよね。
井戸田:確かに。
藤野:スマホが出てきたおかげで、昔ながらの超高級時計はしない人も出てきていますよね。
「この服装の社長はヤバい」というポイントは?
藤野:そういう面で見ると、その人がどういう考え方で、どういうスタイルをしていて、場合によってはITに詳しいのか・詳しくないのか、古いタイプなのか・新しいタイプなのかが、服装で出るようになったところはあるので、余計に(時計や服装が)判断材料になったと思います。
小沢:先生、1つ教えてほしいです。あくまでも偏見・独断ですが、「この服装の社長はヤバい」というのをください。
(一同笑)
藤野:超高級時計ですね。
小沢:あ~。(今の時代も)いる?
藤野:いますね。「夜遊びが好きなんだなぁ」みたいなね。
小沢:なるほど。アピール用に時計をしている人はヤバいということですね。
藤野:そうですね。
井戸田:ホステスさんの見方ですよね。
(一同笑)
藤野:超高級時計がビジネスマンに評価されるかどうかというと、どちらかというとネガティブかもしれない。
小沢:なるほど。
投資先企業の商品は「ほぼ必ず買う」
小沢:ちょっと待ってください、次の人が高級時計をしている気がするんですが、大丈夫ですかね?
(一同笑)
井戸田:差し支えなければ、カメラに見せていただいてもいいですか?
八尾尚志氏(以下、八尾):はい。
小沢:うわ~、キラキラしている。
井戸田:それは、どちらの時計なんですか?
八尾:BAUME&MERCIER(ボーム&メルシエ)かな。
井戸田:あららら。
八尾:実は僕はすごく決めていることが1個あって、投資先企業の商品はほぼ必ず買うんです。
井戸田・小沢:なるほど!
八尾:その企業を海外株のファンドで見ていて、実はちょうどこのあたりのプライスが売れ筋というか、グローバルで一番売れているところというのもあって。
小沢:実際に売れているものを使ってみて、なんでその会社が売れているのかを知ってみたいと。
八尾:あとはやっぱり、ミーティングの時に見せるとすごく反応してもらえるんです。
井戸田:「いい時計してますね」と?
八尾:そうじゃなくて、「うちの(商品)ですね」という。
井戸田:そうか。なるほど。行く会社の何かしらを身につけていくということだ。
八尾:なるべくそういうものを身に着けたりしています。
藤野:ちょっと言い訳しているけど、たぶん金曜日の夜だからです。
(一同笑)
小沢:あれ?
井戸田:これから飲みに行くから?
小沢:飲み屋さんでアピールする時計ですね。
八尾:いやいや。違います(笑)。
小沢:じゃあ、ここまでのポイントをお願いします。
八尾:やめて(笑)。
井戸田:ここまでのポイント、いらないのよ。
日本と海外のオフィスの違い
ナレーター:企業調査歴15年、延べ4,000以上の企業を見てきた八尾さんの回答は?
井戸田:じゃあ、八尾さんお願いします。「入口」。
小沢:会社の?
八尾:入口です。どちらかというと海外の企業のケースなんですが、日本の企業ってどこの会社もそんなにオリジナリティはない。
小沢:海外ってそんなに違うんですか?
八尾:海外はすごく差があります。例えばサンフランシスコあたりの、いわゆるIT企業といわれる企業だと、彼らは本社じゃなくて「キャンパス」という言い方をするんですが、(オフィスの)規模がすごく大きいんですよね。
その中に本社棟があったり、カフェテリアがあったり、いろいろあるんですが、やっぱり入口に入った時の雰囲気で、みんな自社の独自性をすごくアピールしています。
なので本社のビルを訪問すると、海外では「自分でお茶を取っていいよ。お水を取って」というところがあるんですけど、「おーいお茶」が揃っているんですよ。
井戸田:へぇ~。
八尾:あとは、レセプションされている方が、いかにうまくお客さまとコミュニケーションしているかとか。業績がいいと、そういう人たちも明るい。
小沢:遊び心があるというか。
八尾:向こうの担当者の方はものすごく明るく・元気よく来るので、「やっぱりな」と思うことがあるんですね。
井戸田:ウェルカムな状態で来るということですか?
八尾:はい。
「卓球台が置いてある会社」はNG?
井戸田:さあ、藤野さん。今のお話はいかがだったでしょうか?
藤野:普通の人だったら3ポイントだと思うんですが、八尾ですから2ポイント。
八尾:またかいな。
井戸田:毎回、減点されますね。
(一同笑)
八尾:ちょいちょいディスカウントされます。
藤野:要求水準が高いからね。
小沢:前世で何したのよ。
井戸田:やっぱり、藤野さんも入口を大事にされますか?
藤野:大事にします。例えば、あまり論理的じゃないんですが、なぜかわからないけど卓球台が置いてある会社はダメなんですよ。
小沢:え~⁉ たまにありますよね。「みんな遊んでください」というフリースペースみたいなものが。
藤野:あります。卓球台とかがあるんだけど、卓球台が置いてある会社で成長した会社もあまり知らないんですよね。
小沢:本当?
井戸田:そうなんですか? 卓球と、あとは何ですか?
小沢:聞かせてください。
藤野:田舎の会社だと剝製が置いてあったり(笑)。
小沢:影響力がある人だからさ、今、いろんな会社の人をドキッとさせているよ。「うちにはある」って。
藤野:そこに意味や魂がこもっていればいいと思うんだけれども、昔のまま置いてあるとかだと、そこには意識がないと思うんですよね。
井戸田:なるほど、わかりました。
小沢:一応確認ですが、卓球(自体)は?
藤野:わりと好きです(笑)。
井戸田:データとしてということですね。
小沢:それがどうしても聞きたかったです。
会社訪問では、その企業の「歴史」を見る
井戸田:では、続いて内藤さんお願いします。
内藤誠氏(以下、内藤):私は「歴史」です。
井戸田:「歴史」。
小沢:会社訪問で、歴史は見られるものですか?
内藤:なんで起業したのか、どういう経歴でこの会社に入ってきたのかとか、そういうところはよく聞きますね。
小沢:それで何がわかるんですか?
内藤:その企業の社長さんが一番最初に起業した時の思いと、20年、30年経った今の思いがどのくらい違っているのか。どういうストーリーを描いていて、今はどういうストーリーになっているのかがわかってくると、将来私たちも株を買わせていただく時に、今後の成長が見えてくるわけじゃないですか。
成功しようと思ってやったものと、偶然で起こったものとは違うと思います。私はどちらかというと、社長さんの思いが乗って成長した企業はこの後も成長しそうだと思うので、ちゃんと過去も聞くようにしています。
小沢:おもしろい。
藤野:(3ポイントの札を上げる)
井戸田:3ポイントです。
(一同拍手)
年上の経営者から本音を引き出すテクニック
ナレーター:そんな内藤さんはまだ30代、経営者のほうが年上のことも多いはず。いったいどのようにして年上の経営者から本音を引き出すのでしょうか?
内藤:私は、「社長さんが企業の中で若手にどういうコミュニケーションをしているかも重要視しています」と、一番最初に言っちゃいます。
井戸田:最初にカマすんですね。
小沢:「あなたが若手とどう接するか、見せてもらいます」と。
井戸田:あららら。挑戦的。
(一同笑)
八尾:これはすごい。
井戸田:言われたほうもドキっとしますね。
内藤:その時に重要なのが、出席されるのが社長さんだけじゃなく、隣に若い方がいる時は、だいたい私と同じ目線でちゃんと話してくれます。そうじゃなくて「社長さん・取締役VS私」みたいな時は......。
小沢:もう「VS」と思って行っているんだ。
(一同笑)
井戸田:「VS」だよ。戦いだよね。
内藤:なんで重要かというと、大企業になればなるほど、企業理念や会社の一番最初の目標・スローガンって伝わりにくいじゃないですか。
井戸田:あやふやになってきますよね。
内藤:ですので、そこがちゃんとできているのかという確認のためにも、私みたいな30代のアナリストが社長さんと会うのも重要なんだなと思いますね。
井戸田:お、(藤野さんが)迷っていらっしゃる。
藤野:う~ん……(2ポイントの札を上げる)。
井戸田:2ポイント。
藤野:スタンスはわかるんだけど、もう少し相手の懐に入る方法があるんじゃないかなと思った。
井戸田:(笑)。
小沢:(内藤氏は)基本いつもAIとしゃべっているから。
(一同笑)
藤野:あ~、そっか。
「Give&Take」ではなく「Give&Give」を意識
ナレーター:ちなみに、年長者のお二人がふだん使う経営者の本音を引き出すテクニックとは?
八尾:「対話」をすごく心がけていますね。僕の聞き出したいことだけじゃなくて、僕がしゃべることが社長の何かの気づきになればいいなという。
小沢:Win-Winというか、与えて、もらうと。
八尾:Win-Winです。Give&Takeじゃなくて、僕はいつもひたすらGive&Giveを意識しています。
藤野:あと、すごく大事なことは、過去の成功した話や過去のハッピーだった話をよく聞くと、未来のことも話すようになるんです。いきなり未来のことを聞いてもしゃべらない。
小沢:なるほど。歴史を聞く。
藤野:過去のつながりを話すと、「この人には未来のことも話すんだ」と(相手の)モードが変わっていくので、そうするといろんなことを話してくれます。
小沢:すごいね。
次回は、ひふみメンバーが“株式会社スピードワゴン”を評価
井戸田:例えばなんですが、我々スピードワゴンが「株式会社スピードワゴン」だとして、どのくらいの投資の価値があるか、面談しながら将来性などを聞きたいなと思います。
小沢:(ふだん)どう調査しているかを見せてください。
井戸田:よろしくお願いいたします。
小沢:ちょっとその前に、まずはどっちが社長になる?
(一同笑)
小沢:これ、大事ですもんね。
八尾:けっこう大事です。
井戸田:もう、小沢さんが社長でいいです。
小沢:いい、いい。(井戸田氏が)社長でいい。私は会長で。
井戸田:もっと上になった。
(一同笑)
ナレーター:というわけで、次回は運用メンバーが即興で調査。株式会社スピードワゴンに未来はあるのか?
※役職名は収録当時のものです。