企業の業績・歴史などを知れる「会社四季報」
井戸田潤氏(以下、井戸田):さあ、それでは次のテーマにまいりましょう。次は「『会社四季報』はどこを見る?」です。会社四季報というもの自体、我々はちょっとよくわからないですが、これは何ですか?
小沢一敬氏(以下、小沢):私は『エンゼルバンク』で知りました。
藤野英人氏(以下、藤野):『インベスターZ』?
小沢:『インベスターZ』だ! 間違えちゃった。あれも株の投資のマンガですものね。「四季報というのがまずポイントだ」というのはマンガでも出てきたんだけど、みなさんもやはりチェックされているんですね。
八尾尚志氏(以下、八尾):会社用と自宅用に2冊あります。毎回重いのを運ぶのは大変なので。
ナレーター:「会社四季報」は1年に4回発行され、企業の業績や歴史など、さまざまな情報を誰でも見ることができる書籍。でも、あまりにも情報が多く、どこを見たらいいのかよくわかりませんよね。そこで、プロはここを見るというチェックポイントをお教えします。
藤野氏が四季報で最初に見る欄とは?
井戸田:さあ、それじゃあまずは藤野さんからお願いします。
藤野:「株主」。会社四季報っていろんな情報があるんですが、真ん中に株主の欄があるんですね。私は、誰がこの会社の株主なのかを一番最初に見るようにしています。
サラリーマンの会社なのか、もしくはオーナー系なのか、身内の会社なのか。どういう人が株を持っていて、どういう比率なのか、役員の数が多いのか・少ないのかとか、株主と役員欄を中心に見ています。
小沢:株主まで載っているんですか?
藤野:株主が載っています。とても大事な情報なんです。
小沢:すごいことですね。
限られた企業だけに付けられる「絶好調」という言葉
ナレーター:さらに、会社の状況が誰でもひと目でわかる、こんな情報も載っているそうです。
藤野:おもしろいのは、見出しが2つ付くんです。その中にはポイントになる会社の情報など記載があり、「減益」「増益」「失敗」とか、印象的な言葉があるんですけど、「絶好調」という言葉があるんです。
井戸田:「絶好調」。
藤野:「絶好調」という言葉は四季報の中でルールがあって、10社、15社以上付けてはいけないんです。
小沢:ええ!?
藤野:だから、「『絶好調』という言葉をどの会社に付けるのか」という会議も行われています。
小沢:アピールしたり、自分で勝手に「俺、今は絶好調です」と言っても、「いやいや、絶好調ではないから」と。
藤野:そうです。
井戸田:「絶好調じゃないから」と言われたほうはショックだよね。「俺、絶好調だと思ってました」って。
小沢:そうだよ。だって、使っていいのは選ばれた10社だけですものね。
藤野:そうです。
小沢:(井戸田氏を指さしながら)絶好調じゃないものね。
井戸田:お前、指差すな。
(一同笑)
小沢:どちらかと言うと不調ですよね。
藤野:いやいや、わからないけど(笑)。
井戸田:じゃあ、不調は15年続いているわ。
(一同笑)
四季報はオンラインでも見ることが可能
藤野:過去の統計データだと、実際に絶好調な会社の株を買うと儲かることが多いです。
井戸田:やはりそうなんだ。
藤野:なので、四季報を買う人は一日でも早く(購入するほうがいいです)。場所によっては深夜発売もあったりします。
井戸田:本屋の仕入れや休みにも絡んできますよね。
藤野:だから、「◯◯書店は24時間営業」というのを知っている人がいて。夜12時でもやっているからそれを買いに来て、絶好調を探して(会社の株を)買う人もいるぐらいなんです。
小沢:わかります。『週刊ベースボール』って毎週水曜日発売なんですが、羽田空港は火曜日に買えます。
(一同笑)
井戸田:昔のジャンプとかもそうだったけどさ、あれ何なの?
小沢:「ここだけなんか(発売が)早いんですけど」みたいなことでしょ?
藤野:そうそう、そういうこと。会社四季報というのは、いろいろなおもしろいネタや、さまざまなドラマがあるんですよね。
井戸田:おもしろいね~。
小沢:見方を知らなかった。(会社四季報は)字の洪水、みたいなね。
藤野:字の洪水みたいなんだけど、これはデータでも見ることができます。
井戸田:そうか。じゃあ、本屋に行かずに済みますね。
藤野:「絶好調」とデータで打ち込むと……。
井戸田:「絶好調」って打ち込めば、ばーんと出てくるんですか?
藤野:ぱっと出てくる。
小沢:へえ! もう答えは出たんじゃないの? ちなみに藤野さん、今のは自分的に何ポイント?
藤野:自分的に? うーん……「2」(笑)。
小沢:「3」でいいじゃん! 絶好調ですよ!
藤野:わかりました(3ポイントの札を上げる)。
小沢:絶好調!
井戸田:自分自身に点は要らないから。
八尾氏が注目するポイントは「給料」と「社史」
ナレーター:続いて、アナリスト歴15年のシニア・ファンドマネージャー、八尾さんの回答は?
井戸田:じゃあ八尾さん、お願いします。
八尾:僕はこちらです。
井戸田:「給料と社史」。
小沢:給料って具体的に載っているんですか?
八尾:各企業の従業員の方の給料も載っています。
小沢:平均給料ですか?
八尾:そうですね。その会社の給料が高いかどうかというよりも、どっちかというと業界で見てどうかとか、変化を見たりします。「業界内ではこうなっていて、(きちんと給料を)払えているということは、つまりちゃんと業績が出ているよね」とか。
「社史」というのは、社歴というんですかね。創業年とか、あるいは創業からどのぐらいで上場してきたかも見ますね。
井戸田:社史と見比べて、「今はこれぐらいの給料になっているということは、今後も見込みがあるぞ」みたいな見方ですか?
八尾:そういう見方もあります。
投資の世界における「美人投票」という考え方
八尾:投資の世界では、今でも「美人投票」という言い方をするんですが、自分が思う美人じゃなくて、みんなが美人だと思うものに票を入れなきゃいけないんですよ。
要するに自分だけの価値観ではダメで、(客観的に見て)どう見えるかも考える。お給料がすべてではないですが、1つの重要なファクターでもあるので、やはりそこは見たほうがいいだろうと思います。
井戸田:なるほど。藤野さん、今のお話はいかがですか?
藤野:「3」なんですが、ちょっと事情があって「1」です。
井戸田:どういうこと?
(会場笑)
藤野:実は、レオス・キャピタルワークス社は4月25日に上場したんですよ。
井戸田:すばらしい。おめでとうございます。
藤野:なので次の四季報に載るんですが、「給料を見ろ」って言っているから、給料がバレちゃうじゃないですか(笑)。
小沢:良くないね!
藤野:だから、社内事情で「1」です。
AIを活用して効率よく情報を収集
ナレーター:そして、AIを駆使した企業分析の専門家、内藤さんの回答は?
井戸田:さあ。続いて内藤さん、お願いします。
内藤誠氏(以下、内藤):私はこれですね。
井戸田:「AI」。
内藤:これは(四季報の)どこを見るかという話じゃなくて、四季報を見るのがAIという話ですね。
小沢:どういうこと?
内藤:(人間の力だけで)3,000社も見てられないじゃないですか。すぐにそのデータを使って企業に取材に行って、ファンドマネージャーに推奨したいので、AIにコメントを1分で読ませます。
いいことが書いてある銘柄・企業だけをリストに上げて、その企業を取材しに行くという方法を使っています。
小沢:じゃあ、いいことをキーワードで探していると。
内藤:Webや新聞にはいろいろな文章があるじゃないですか。あのような文章を先にAIに読ませておいて、「こういう文章はいい文章だ」というのを学習させているので、そういうモデルを自分の中に持っています。
小沢:すごーい。
内藤:四季報が出た瞬間に(AIに)1分で読ませてもう終わり、という感じですね。
AIは“一番信用できる最愛の部下”?
井戸田:(AIを使えば)「絶好調」を探すのも早いですね。
小沢:絶好調は我々でも探せるけど、絶好調以外のいい会社を探しているんでしょう?
内藤:「絶好調は少しの企業しか出せません」とおっしゃっていましたが。
小沢:(絶好調をつけられるのは)10社ぐらい。
内藤:記者のコメントを見ると、自分は「絶好調」と言いたいけど、できないから文章で(暗に書いている場合があります)。
井戸田:文章の中に、「絶好調風」な言葉が隠れているんですか?
内藤:はい。「『絶好調』みたいな言葉」を探しにいくというイメージですね。
小沢:「ノリにノッている」とか、そういうこと?(笑)。
内藤:そうですね(笑)。
井戸田:「ノリにノッている」は、もはや絶好調だよね。
(会場笑)
小沢:でも、そういう言葉が書いてあるんでしょ? 「絶対に飛躍間違いなし」とか。
内藤:そうですね。ただ、記者によって言葉の使い方がぜんぜん違います。
小沢:その傾向は、全部AIに入れてあると。
内藤:そうですね。
井戸田:すげえな。
小沢:じゃあ、AIが一番信用できる最愛の部下、みたいなかたちで使っているってこと?
内藤:彼がいなかったら、私は仕事ができないです。
小沢:もう「彼」って呼んでいるの?
(会場笑)
井戸田:もう時代が来ているわ。
AIは、すでにさまざまなシーンで活用されている
井戸田:内藤さんはAIにどんな相談をするんですか?
内藤:相談というよりも、「このデータを取ってきてほしい」「このデータを知りたい」という時に教えてもらったりしますね。例えば、「こういうデータって世の中にあるのか?」というのをURL込みでChatGPTとかに聞くと、URLも返してくれるので、それで見に行くこともありますね。
井戸田:すごいね。
小沢:人生相談もAIにしたりする?
内藤:たまに。
(会場笑)
井戸田:そんなの答えてくれるんですか?
内藤:ChatGPTだと、けっこう詳細に答えてくれますよね。
井戸田:へえ。
小沢:「あの会社の特徴を教えてくれ」「あの社長にはいったい何をしゃべればいいんだ? 教えてくれ」とか、会社の社長と会う前日とかにAIに相談したりするんですか?
内藤:会社の特徴とか、会社の今までのニュースを拾うために使っています。
藤野:実は私もしています。
井戸田:みなさんやられているんですか?
八尾:僕もしています。
藤野:特に、この3ヶ月間ぐらいのAIの進歩は激しいんですよ。
井戸田:そうなんですか。
小沢:今後はどんどん仕事でも活かされていくんでしょうね。
藤野:間違いないです。「3」でしょうね。
井戸田:3ポイント獲得で~す!
(会場拍手)
井戸田:さあ、続いてまいりましょう。続いては「会社訪問はどこを見る?」です。
ナレーター:百戦錬磨の企業経営者から、それも初対面で、どうやって本音を引き出すのでしょうか。次回、「目上の人の心をつかむテクニック」をお教えします。
※役職名は収録当時のものです。