資産運用会社には、大きく分けて2つの仕事がある

井戸田潤氏(以下、井戸田):みなさん、本日もよろしくお願いいたします。

一同:よろしくお願いします。

井戸田:精鋭に集まっていただきました。

今回は「ひふみの運用チーム、藤野さん以外は何しているんだ~い?」ということで、中でもパフォーマンスを支えるキーマンをご紹介していただけるということです。

藤野英人氏(以下、藤野):私たちには、おおむね2通りの仕事があります。まず1つが「ファンドマネージャー」です。ファンドマネージャーというのは、ファンドを運用するチームですね。

それから「アナリスト」というチームです。ファンドマネージャーは、どういう会社に投資をしたらいいのかを選ぶんですが、その際に「藤野さん、調査したんだけど、この会社がすばらしいですよ」と、アドバイスしてくれるプロフェッショナルがアナリストなんです。

小沢一敬氏(以下、小沢):ブレーンみたいな?

藤野:ブレーンですね。

小沢:すごく重要ですね。

井戸田:本当に重要。

年間400社を調査する「企業調査のプロ」

藤野:今回は、そのブレーンの中でも特に優秀な2人を紹介したいと思います。

小沢:え、誰?

井戸田:「誰?」って、もう映っているはずですよ。

(一同笑)

小沢:だって「街ブラの達人」でしょ?

井戸田:前回、名古屋でお世話になりました。

ナレーター:ひふみのキーパーソン1人目は、シニアファンドマネージャーの八尾さん。アナリスト経験も15年以上あり、今も年間400社を調査する企業調査のプロフェッショナル。特に海外企業に強く、スピードワゴンとの名古屋ロケでも、いろいろと世の中の情報を教えていただきました。

藤野:(八尾さんは企業だけでなく)レストランや居酒屋も調べていますからね。

小沢:それは趣味のほうでしょ?

八尾:けっこう趣味のほうです。あとはワインも調べています(笑)。

(一同笑)

藤野:夜は居酒屋を調べて......。

小沢:ノってきましたね。

藤野:(両手を挙げる)

(一同笑)

井戸田:驚き方がこう(両手を挙げる)ですからね(笑)。

AIを活用し、膨大な企業のデータを分析

ナレーター:もう1人のキーパーソンは内藤さん。ひふみの運用メンバーの中でも異色だという、藤野さん期待の社員。その武器は?

藤野:AIも使っていて、クオンツ分析(高度な数学的手法を用いて株式などを分析・評価する手法)をしています。

内藤誠氏(以下、内藤):日本株でいうと2,000社以上あるわけですが、2,000社を一つひとつ取材していたら、絶対に1年では終わらないわけじゃないですか。

井戸田:確かに。

内藤:データはいろいろで、株価、企業の売上、営業利益とかを一緒くたにパソコンに投げて、AIに分析させて、出てきたものを人間が解釈する。

小沢:それが「クオンツ」。

内藤:そうですね。

小沢:じゃあ、データとパソコンを信じているんだ。

内藤:信じています。

井戸田:そうだろうね。

(一同笑)

小沢:我々はそこまでわからないから、やっぱり信用するに値するということですか?

内藤:そうですね。ただし、お客さまからお預かりしたお金を運用しているので、人間が解釈できるように分析しますし、解釈もするというのがクオンツの重要な分析です。

井戸田:すべてを信用するわけじゃなくて、「1つのデータとして」ということですか。

内藤:そうですね。

お金のプロたちは企業のどこを見ている?

ナレーター:そんな企業調査のプロに聞いてみました。「伸びる会社はココで見分ける! プロの企業チェックポイント」。

井戸田:まずはこちらです。「最初にチェックするのはどこ?」でございます。

小沢:漫画とかだと、「まずはトイレを見ます」とかあるじゃん。

井戸田:思いもよらぬところね。

小沢:ああいうのって(実際に)あるんですか?

藤野:あります。トイレとか受付の雰囲気ですよね。

小沢:受付は大事なんだ。

藤野:受付は大事ですね。

井戸田:そうか。プロのみなさんは、まずはどういうところをチェックするのか。フリップをご用意していますので、お書きいただきたいと思います。

小沢:楽しみだなぁ。「この会社はいい会社だわ」と思うの、潤はどこだと思う? 俺はねぇ……。

井戸田:私のは聞いてくれないんですか?

(一同笑)

小沢:まず、俺が思うことを言わせて。俺は無料のホットコーヒーが用意されているところ。

井戸田:うれしい。

(一同笑)

小沢:あるよね。(オフィスに)ホットコーヒーのマシンがある会社は伸びる。

井戸田:コーヒーとお茶と水と、中にはコーンスープがあるところがあるからね。

ホームページに「社長の写真」が載っているかどうか

井戸田:それでは、お三人の回答を見ていきたいと思います。まずは藤野さん、出してください。

小沢:お願いします。

藤野:はい。

井戸田:「ホームページの中身」。

藤野:まず、会社へ行く前に最初に何を見るかというと、たぶんホームページですよね。会社のホームページを見て中を細かくチェックするんですが、意外と誰でもわかりやすいチェックポイントは社長の写真なんです。

井戸田:社長の写真。

小沢:え、どういうこと?

藤野:日本の上場している3,600社くらいの会社の中で、社長の写真がない会社はけっこうある。だいたい15パーセントから20パーセントくらいの会社は写真がないんですが、写真がある会社とない会社だと、ない会社の業績や株価はよくないんです。

井戸田:え~!?

小沢:ホリプロは載せているかな?

(一同笑)

井戸田:わかんない。

小沢:不安になる。(ホリプロは)ない気がするよ。本当?

藤野:本当です。

井戸田:なんで?

藤野:もちろん例外はありますよ。

写真の有無と業績の関係性

小沢:でも、たまに社長の写真があるホームページを見たことがあるような気がするけど、キテレツな写真を載せている人もいますよね。

藤野:いますね。

小沢:それは(伸びる会社・伸びない会社でいうと)どっちなの?

藤野:写真が何のためにあるかというと、お客さまや株主に感じよく思ってもらうためじゃないですか。かつ、どういう人が会社をやっているかはすごく大事なので、そのことから逃げているか・逃げていないか。

井戸田:自分がちゃんと責任を持って、前に出せるかということですか?

藤野:例えば、おもしろ話として具体的な話でいうと、日産という会社がありますよね。カルロス・ゴーンさんという有名な人がいて、逮捕されたじゃないですか。国外に逃げちゃったんですが、カルロス・ゴーンさんが社長だった時には(ホームページに)社長の写真がなかったんですよ。

小沢:ホリプロ、大至急チェック!

(一同笑)

藤野:もちろん(原因は)それだけじゃないけれども、「どんな会社かな?」という時に、社長の写真や役員の写真も含めて、ちゃんと自分たちのものを出して説明したいと思っているのか、隠そうとしているのか、そういう小さいところでわかる。

井戸田:なるほどね。

小沢:我々じゃ気づかないところだもんね。これはおもしろい。

井戸田:気づかないですね。

一番大切なのは「悪い情報をあげやすい雰囲気」

井戸田:続いて八尾さんは「ムード(コミュニケーション)」。

小沢:これは、実際に会社に行ってからということですか?

八尾:そうですね。例えばうちの会社に来ていただく場合だと、社長お一人で来られる時もありますが、部下の方と来られる時もあります。あるいは僕たちがお伺いする時も、社長以外に部下の方が出られると、その時のコミュニケーションはすごく見ますね。

小沢:自分のじゃなく、あっちの部下と上司の会話を見る。

八尾:はい。それが高圧的なのか・フレンドリーなのか、僕はすごく気にします。

井戸田:どちらがいいですか?

八尾:やっぱりフレンドリーなほうがいいです。企業も含めて一番大切なのは、いかに悪い情報をあげやすい雰囲気があるかだと思っているんです。「できました」「わかりました」とか、いい情報って自然にみんな言うんですね。

井戸田:確かに。みんな言いますものね。

八尾:でも、リスクになること、これからトラブルになることはなかなか言いにくい。それはやっぱり、日頃のコミュニケーションや心理的安全性が確保されているから言えるので、そこはすごく大切だなと思って僕は見ますね。

部下が出したゴミを率先して片付ける社長

八尾:過去にもこの方しか見たことがないんですが、一度当社に来ていただいた社長が、ミーティングが終わった後に、部下の方が飲まれたお茶のボトルを1ヶ所にまとめてすっと出ていかれたんですよ。これは一番びっくりしましたね。

小沢:本来なら、若者がやるような(作業)。

八尾:あるいは、ほっぽらかして帰る感じです。

小沢:それを一番上の人間が率先して片付ける。

八尾:(その方が)社長になられてけっこう間がない時期だったんですが、そのあとに企業の業績がすごく上がりましたね。

井戸田:そうですか。

小沢:そういう細かいところもあるんですね。

八尾:だから僕は、なるべくそういうところを見るようにしています。醸し出す雰囲気、という感じですかね。

小沢:ちなみに、我々とロケに行ったじゃないですか。我々とマネージャーのムードはどうでしたか?

八尾:最高じゃないですかね。

小沢:ありがとう、ホリプロ!

(一同笑)

ひふみメンバーの話を藤野氏が採点

井戸田:今回、藤野さんがみなさんのお話に感心した場合はポイントが与えられて、最大で3ポイントになります。

小沢:おもしろい。

井戸田:まず、八尾さんのお話は何ポイントだったでしょうか?

小沢:ちなみに、こちらのポイントは夏のボーナスに影響いたします。

井戸田:そうなんですか? それは知らなかった。

八尾:ヤバい。

(一同笑)

井戸田:札をお願いします。どうぞ。

藤野:(1ポイントの札を上げる)

小沢:え~⁉

藤野:(笑)。

井戸田:最低(点)。

小沢:なぜなぜ? 俺らが聞いている分には「そうか、なるほど~」と、おもしかったんですが。

井戸田:おもしろかったよね。

藤野:八尾氏は特別だから。他の人だったらこれ(3ポイント)だと思うんですけどね。

小沢:我々素人向けに、やさしいのを見せてくれたんですよね。

八尾:そうですね。

小沢:「そうですね」ってムカついた。1ポイントだよ。

(一同笑)

社長にアピールするためにメモをとる部下

ナレーター:ちなみに社長と部下の関係について、藤野さんはこんなところもチェックするそうです。

藤野:向こうが社長と部下で、こちらがお話ししている時に、社長が話しているとメモを取り出す人と、こちらの話のメモを取る人がいます。それがおもしろくて。

彼にとっては、こちらの話を聞くことよりも社長に対してアピールするほうが大事だから、社長が話をすると社長の話をメモして、「僕は社長に忠誠を誓っていますよ」とアピールする会社はけっこう多いんですよね。

一方で、僕の話を聞きに来ているから、「藤野さんの話を聞いたらちゃんとメモを取ろう」という人と2通りあって、ここはよく見ています。社長が話したらカチャカチャって(メモをとる)会社は、やっぱり暗い会社が多いんですよ。

小沢:すごいところに気がつきますね。

会社訪問の際は「人」を見る

井戸田:(続いて)内藤さんは「人」。これはいろいろ聞きたくなりますね。

内藤:藤野さんと八尾さんと同じなんですが、私はどちらかというと、会社に訪問した時に、どういう人たちが働いているのかをすごくチェックしています。

小沢:それは、服装や見た目とかもですか?

内藤:あとはコミュニケーションとか。最近上場してきた会社でいうと、会議室が職場の中にある会社がけっこうあります。例えばガラス張りの会社だと、元気があるのか、ハキハキしているのか、どんな働きぶりなのか、そこに行けばわかるじゃないですか。

社長さんにお話を聞くと、「『私たちはいい会社です』というのをアピールするため、外部の人が見てもわかるように、全部ガラス張りにしているんです」とおっしゃっていました。

小沢:自信を持って仕事しているということでしょうね。人に見られて恥ずかしいことが1個もないという。

内藤:そうですね。(会社を訪問して)エレベーターに乗った時には、同じエレベーターに乗るわけじゃないですか。その時にどういうコミュニケーションを取っているのかとかも見ます。

小沢:ちなみにエレベーターの正解は何ですか? 「上へまいります!」って言われたら、株価も上へ行くんだろうな、みたいな?

(一同笑)

井戸田:エレベーターガール的な人、なかなか会社にいないから。

内藤:同僚と話していても普通に笑顔があったりとか、そのあたりはやっぱり重要だと思うんですよね。

井戸田:はつらつとしていると。

ある企業で、社員が泣きながら仕事をしていた理由

井戸田:過去に会社へ行って、「これは強烈によかったな」という具体例はありますか?

内藤:ワンちゃんや猫ちゃんといったペットの保険会社だったんですが、コールセンターも正社員です。

井戸田:なかなかめずらしいですね。

内藤:その人たちが受話器を取って泣いてるんですね。なぜかと言うと、やっぱり悲しい知らせがコールセンターに来るんですが、そこのコールセンターの人たちはもともとペットが好きなので、共感して泣いていたんです。

井戸田:すごいお話ですね。

内藤:でも、(お客さんの話に)共感してくれるので、また新しいペットを飼った時にはその保険を使いにくる。そういう循環があるのはすばらしかったです。

井戸田:これはなかなか聞けないお話ですね。

小沢:「人」だね。

井戸田:「人」ですね。藤野さん、今のお話はいかがですか?

藤野:(3ポイントの札を上げる)

八尾:なんかおかしいぞ。甘い。

(一同笑)

次回は「会社四季報」の読み解き方を解説

井戸田:さあ、それでは次のテーマにまいりましょう。次は「会社四季報はどこを見る?」です。会社四季報というもの自体、我々はちょっとよくわからないですが、これは何ですか?

小沢:私は『エンゼルバンク』で知りました。

井戸田:何?

小沢:『エンゼルバンク』です。

藤野:『インベスターZ』?

小沢:『インベスターZ』だ。間違えちゃった。あれも株の投資の漫画ですものね。四季報がポイントだというのは漫画にも出てきたんだけど、やっぱりみなさんチェックされているんですね。

ナレーター:会社四季報は1年に4回発行され、企業の業績や歴史など、さまざまな情報を誰でも見ることができる書籍。でも、あまりに情報が多くて、どこを見たらいいのかよくわかりませんよね。そこで次回、プロのチェックポイントをお教えします。

※役職名は収録当時のものです。