睡眠博士たちと考える、睡眠改善のヒント

入山章栄氏(以下、入山):『浜松町Innovation Culture Cafe』、今週は常連さんの株式会社オンギガンツ代表取締役の松田雄馬さん。そしてお客さまに、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構機構長・教授で、株式会社S‘UIMIN(スイミン)代表取締役社長でもある柳沢正史さんをお迎えしました。松田さん、柳沢さん、どうぞよろしくお願いします。

松田雄馬氏(以下、松田)・柳沢正史氏(以下、柳沢):よろしくお願いします。

田ケ原恵美氏(以下、田ケ原):松田さんのプロフィールです。松田さんは大学院修了後、NEC中央研究所に入所。東北大学との脳型コンピュータプロジェクトの立ち上げ、博士号の取得を経て独立されました。

2017年にはオープンイノベーションを支援する合同会社アイキュベータを設立し、共同代表に就任。その後、株式会社オンギガンツに社名変更し、代表取締役に就任されました。

入山:というわけで松田さん、よろしくお願いします。

松田:よろしくお願いします。

入山:松田さんはこの『浜カフェ』の常連でいらっしゃって、前回のご来店が2022年9月の「学びをアップデートする」という回でした。

AIの活用で事業開発を支援するオンギガンツ

入山:オンギガンツとはどういう会社で、松田さんがどういうことをやられているのかを教えていただけますか?

松田:わかりました。ふだんはAIの研究者で研究開発をやってます。

入山:AIの専門家なんですよね。

松田:そうです。AIといっても、単純にプログラミングをするということではなくて、「アーティフィシャルインテリジェンス」、人工知能ですね。人間の知能を解明して、謎を解明して、それをコンピューターで実現することを生業にしています。

入山:普通のAIはいわゆるディープラーニングとかの仕組みで、脳みそそのものじゃないわけですよね。単純に、我々は計算の仕組みみたいなものをAIと呼んでるだけで、松田さんが目指してるのはそうじゃなくて、人間の脳そのものに近いものを作りたいと。

松田:おっしゃるとおりです。データの分析という意味では、今のAIは非常に進んではいるんですが、やはり人間に近い学びにはまだまだ違いがある。

そもそも人間とAI・デジタルは何が違っていて、人間がAIを使いながら人間の能力を高めていくにはどうすればいいのか。こういったところも含めて研究開発をしていて、デジタルを使うことでより人間の価値を高めていこうと、いわゆる人材育成を生業にさせていただいてます。

人間とは「神経で結ばれたネットワーク」

入山:前回いらっしゃった時も、松田さんはAIの専門家なのにやたら「体、体」「身体、身体」と。あれ、おもしろかったよね。

(一同笑)

田ケ原:確かにおもしろかったです(笑)。

入山:ずーっと体の話をされていて、逆に言うとそれが今のAIの最先端なんだっていうことが、前回よくわかりましたよね。

松田:そうなんですよ。ちょっとだけ言わせていただくと、今の脳科学の分野を見ると、脳はネットワークだとすごく言われてるんですよ。単純に脳というと、みなさんは「脳みそ」みたいなイメージをすると思うんですが、実は脳は脊髄とそのままつながっています。

「運動神経」とか言われますよね。あの「神経」というのが人間の脳なんですが、実はそれが体中に張り巡らされている。

入山:だから、実は人間って神経で結ばれたネットワークなんですよね。

松田:おっしゃるとおりなんです。体がちゃんと休んでいるか、ちゃんと自分の能力を発揮できているか、良い循環ができてるかとをしっかり意識すると、実は脳も動き出すと私は主張してます。

入山:なるほど。というわけで、今日もおもしろい話をぜひよろしくお願いいたします。

松田:よろしくお願いします。

睡眠研究で、国際的な学術賞を受賞

田ケ原:続いて柳沢さんのプロフィールです。31歳で渡米し、テキサス大学サウスウェスタン医学センター教授と、ハワード・ヒューズ医学研究所研究員を2014年まで24年にわたって併任。2010年に内閣府最先端研究開発支援プログラムに採択され、筑波大学に研究室を開設。

2012年より文部科学省世界トップレベル研究拠点プログラムの、国際統合睡眠医科学研究機構の機構長・教授に就任されました。活動は国内外で高く評価され、これまで紫綬褒章、文化功労者などに加え、今年はGoogleやFacebookの創業者らによって創設された「ブレイクスルー賞」の受賞も決まっています。

入山:というわけで柳沢さん、どうぞよろしくお願いします。

柳沢:よろしくお願いします。

入山:今、タガエミちゃんが読んでくださった経歴だけを見ても、すごい方に来ていただいたというのがなんとなく伝わっていると思うんですが、なぜ「睡眠」というテーマに研究として興味をお持ちになったんですか?

柳沢:私、最初は睡眠とまったく関係ないことをやってたんですね。テキサス大学にいる時に、のちに「オレキシン」と名づける新しい脳内物質を発見したんですよ。だけどそれは純粋に、分子生物学や生化学的なやり方で発見したんです。

脳内にそういう物質があることはわかったんだけど、一体何の機能をしているのか、まったく見当がつかなかったわけですね。

マウスを使った実験で“あること”に気づく

柳沢:そこで、オレキシンを作れない遺伝子改変マウス、俗に業界では「ノックアウトマウス」と言ったりしますが、オレキシンという物質を作れない以外はまったく正常なマウスを作って、いろいろ実験を始めたんですよ。

入山:比較してみたわけですね。

柳沢:そうそう。正常なマウスと比較すれば、オレキシンの機能が何かわかるだろうと。そうしたらなんと、私にとっては非常にディサポインティングなことに、毛並みも良いし基本的にぜんぜん正常なんです。そんなはずはないと。これはもう発見者の心理学的なバイアスで、「絶対に何かやってるはずだ」と。

(一同笑)

柳沢:その時にパッと思いついたのが、単純なことなんですが、実験で使うハツカネズミは夜行性の動物なんです。夜の間、真っ暗な中でマウスの行動を観察をしたらすごいことが起こっていて。夜、ガソゴソと普通にものを食べたり活動してるマウスが、ある時一瞬でポンっと倒れて動かなくなっちゃうんです。

入山:それは、オレキシンがないほうのマウスが?

柳沢:(オレキシンが)ないマウスですね。ところが1分ぐらいするとパッと起き上がって、また何事もなかったかのように行動を再開する。そういう行動停止発作みたいなものが観察されました。もちろん、オレキシンが普通にあるマウスはそんなことは絶対に起きないので、「これだ」と思って。

柳沢氏が「世界的な睡眠の研究者」になるまで

柳沢:いったい何が起こってるかはわからなかったんだけど、いろいろ実験をやっていったんです。人には「ナルコレプシー」という病気があるんですが、これは覚醒障害です。例えば、1対1で話してる時にもいきなり眠ってしまう病気なんですね。

入山:突然眠ってしまう病気があるんですね。

柳沢:ええ、居眠り病ですね。だから逆に言うと、オレキシンは覚醒を正常に維持するため、持続的に起きるために必須の物質だということがわかったんですよ。それで「そうか、睡眠か」となって。その時点では睡眠のことをほとんどなにも知らなかったので、自分で勉強していったら睡眠の分野へいったんです。

入山:そういう経緯で睡眠の研究になったんですね。

柳沢:そう(笑)。だから狙って入っていったんじゃなくて、たまたま自分の見つけたものが睡眠に関係してた。

入山:今や超世界的な睡眠の研究者ですからね(笑)。人生、おもしろいですね。

柳沢:やはり、人のやってないことをやったほうがおもしろいですよ。

入山:なるほど、おもしろいですね。これからもっといろんなことをおうかがいしたいと思います。

安全な睡眠薬の開発で、睡眠学の新境地を開く

入山:いろんな賞を受賞されてるんですが、今回「シリコンバレーのノーベル賞」と呼ばれている、ブレイクスルー賞を受賞されることが決まっているということなんですが、こちらはどういうことが評価されたんでしょうか。

柳沢:今お話ししたことが受賞対象の研究で、それを応用したまったく新しいタイプの睡眠薬が処方医薬品として市販されてるんですね。オレキシンの働きを抑える薬を飲むと眠くなるので、非常に安全でクセにならない睡眠薬として市販されてるんです。だから、睡眠学に新しい道を開いたことが評価されました。

入山:単純に学問だけじゃなくて、我々の睡眠を助けるような貢献で、その基礎も作られたと。というわけで、ここからは「睡眠は、私たちに何をもたらすのか?」というテーマで、松田さんと柳沢さんからお話をうかがっていこうと思っております。

まず最初に柳沢さんにおうかがいしたいんですが、すごくシンプルな質問で、なんで我々には睡眠が必要なんですか?

柳沢:ショートアンサーは「よくわかっていない」。なぜすべての動物が眠らなきゃいけないかって、実はまだきちんとした答えが出てないんですよ。睡眠学の最先端の学者の間でも、これは睡眠学のビッグクエスチョンの1つなんです。

入山:ビッグクエスチョンなんですね。

“レム睡眠は浅い・ノンレム睡眠は深い”は誤解

入山:我々超ド素人からしてみると、単純に(睡眠は)「体や脳を休めるため」みたいに思っちゃうんですが、そうではないんですか?

柳沢:睡眠中も脳は大脳皮質の活動を測ることができるんですけど、ほとんど下がらない。

入山:脳は動いてる?

柳沢:脳は動き続けている。ノンレム睡眠といって深さがあるんですけど、深い状態でも大脳皮質の活動性はほとんど覚醒状態から下がらない。

入山:確かノンレム睡眠は、どっちかというと深い眠りですよね?

柳沢:あ、それも実は……(笑)。

入山:それもそうじゃないんですか!? 素人的には「レム睡眠が浅い眠りで、ノンレムが深い」って言うじゃないですか。

柳沢:よくそう言われるんですが、実はそれは間違っていて。レム睡眠はレム睡眠でけっこう深いんですよ。ただ、モードがぜんぜん違うというか、違う種類の睡眠です。

ご存知のようにレム睡眠というのは夢見の睡眠、非常にビビッドな夢を見る睡眠ですよね。だから脳の働き方がすごく違うんだけど、実は両方とも深くて、両方とも大事な睡眠なんですよ。

今までは、例えば睡眠中には記憶の整理が起こるとかいろんなことが言われていて、それはだいたいノンレム睡眠中の話をしてたんです。ただ、ここ最近5~10年ぐらいは、レム睡眠がすごく大事だということがだんだんわかってきて。

レム睡眠の割合が少ない人ほど寿命が短い

柳沢:ちょっと脅かすようですけど、全睡眠時間のうちレム睡眠の割合は平均20パーセントぐらいなんですが、実はそのパーセントが少ない人ほど寿命が短い。

それから確か、レム睡眠のパーセントが1パーセント減るごとに、今後10年ぐらいの間に認知症になるリスクが9パーセント増えるという論文が出ていて。

入山:レム睡眠しよう……しようっていうか、どうやってやればできるかわからないけど(笑)。

(一同笑)

柳沢:これも聞いたことあるかもしれないですが、一晩の睡眠のうち、夜の前半はノンレム睡眠の中でも深いノンレム睡眠が多くて、夜の後半はレム睡眠が主体になってくるんですよ。だから睡眠不足になると、どうしてもレム睡眠が先に削られちゃうんです。なので、睡眠不足っていうのは本当にヤバいんですよね。

入山:なるほど。

柳沢:話を戻すと、とにかくすべての動物は眠るんです。もうちょっと正確に言うと、ある程度以上複雑な神経系を持つすべての動物。動物は神経系があるから動くんですが、神経系がある動物はみんな眠るんです。実は5年ぐらい前に衝撃的な論文が出て、「クラゲも眠る」っていう論文なんですけど。

入山:クラゲ、眠るんですか?

柳沢:ええ。Caltech(カリフォルニア工科大学)の大学院生たちが勝手に出した論文です。「クラゲが眠る」がどうして衝撃的かというと、もちろんクラゲも神経系を持っていて、傘を動かして泳いだりしますよね。だけどクラゲは脳を持ってないんですよ。

中枢神経、人間だったらいわゆるでっかい脳があるじゃないですか。その中枢神経と呼べるものをクラゲは持ってないんです。だから分散神経系というか、なんとなく神経細胞のネットワークはあるんだけど、それで終わりなんですね。それでも眠るので、いかに睡眠が根源的かという話です。

入山:おもしろい。

そもそも「眠る」の定義とは?

入山:すみません、逆にすごくシンプルな質問をおうかがいしますが、「眠る」ってどう定義されてるんですか?

柳沢:ありがとうございます。睡眠の定義って実はけっこう面倒くさくて、4つあるんですね。

入山:睡眠って4つあるんですね。

柳沢:まず1つは、状態の切り替えが素早い。覚醒してるか・睡眠してるかというのは、ダラダラしてるものじゃなくてパッパッと切り替わるんですよ。目を閉じて「今、眠りに落ちました」って、だいたい1秒ぐらいの時間分解能で言えるので、だから状態の切り替えが素早くて、かつ可逆的なんです。

だから少なくとも、眠っている動物に十分強い刺激を与えれば叩き起こすことができる。可逆的で素早い、それが定義なんですね。

それから当たり前ですが、眠ってる間もまったく動かないわけじゃないですけど、あんまり動かない。(3つ目は)さっき言いましたが、眠ってる間は外界刺激に対する感覚がすごく鈍くなるんですね。

4つ目が大事なんですが、眠らせないでおいて、そのあとに眠る機会を与えると、より深く長く寝る。「リバウンド」と言うんですけど、フィードバックがかかってるんですね。

睡眠の量をある時間単位で見ると、一定にするようなフィードバックがかかってる。徹夜明けに寝たら、すごく深く長く寝るじゃないですか。それです。その4つを満たしていると、その行動は睡眠と言います。

入山:なるほど。

イルカなどは、左右の脳でバラバラに眠ることができる

入山:松田さん、ここまでの話はどうですか?

松田:「寝ない動物」とよく言われてるんですが、イルカの睡眠ってけっこうおもしろくて、脳を半分だけ寝かせるんですよ。

柳沢:そうそう。

松田:だから、覚醒状態だけど寝ているっていう(笑)。

入山:マジですか。そんなことできるんですか?

柳沢:イルカ・クジラの類と、一部の鳥はそれができるんですね。半球睡眠と言うんですが、左右の脳がバラバラに寝るんですよ。

入山:その間は、反対側の脳を使えば普通に活動ができる?

柳沢:彼らは(半球睡眠でも活動が)できるようにできているんです。

入山:ほぉー……(笑)。

柳沢:すごい世界ですよ。私もそれができたらうれしいだろうなと思うけど。

年齢とともに眠れなくなるのはなぜ?

入山:もっともっとおうかがいしたいことはあるんですが、あまりにもおもしろいので、もう少し踏み込んだ質問です。

例えば僕は年をとってきたせいもあるのか、正直最近は寝つきが悪くなってきていて、お酒の力を借りないと寝られない時がある。そうじゃない日もあるんですが、お酒を飲むと今度は逆にすぐ起きちゃう。

お酒を飲まなくても気持ちよく寝れる時もあるんだけどけっこう稀で、3時か4時に目が覚めちゃって、そこからまた寝るのに苦労する。加齢によってなのかもしれないけど、今は睡眠にけっこう課題が出てきていて。まずシンプルな質問で、なんでこういうふうに睡眠に個人差が出てくるものなんですか?

柳沢:これもショートアンサーは、「よくわかっていない」としか言いようがないんですよね(笑)。

(一同笑)

柳沢:現象面はいろいろわかっていて、加齢とともに睡眠にはいくつか変化が出るんですね。1つはさっき言いましたが、深睡眠というノンレムの中でも一番深いやつ。あれが(加齢とともに)減っちゃいますし、残念ながらレム睡眠も減っちゃいます。

良質な睡眠をとるためには「気にしない」が一番

柳沢:それから、睡眠の持続性が悪くなって途中で起きちゃったり、自覚的には起きてなくても短い覚醒のようなものが入ってきたり、メリハリがなくなる。

それから「睡眠相」と言うんですが、おじいちゃんおばあちゃんになるとだいたい早寝早起きになるんですね。体内時計との関連で、睡眠相が前にずれていく。そういう、いくつかのことが同時に起こるんですよ。

これはある意味、開き直るのも手で、健常な老化・加齢現象だから仕方ないと。

入山:じゃあ、僕はもう健全に老いていってるわけですね。

(一同笑)

柳沢:「自分は大丈夫」と思って、そうやって開き直ってる人はわりと大丈夫ですね。それを気にしすぎると、本当に不眠の状態になっちゃうんですよ。

入山:良質な睡眠というものがあるんだとすると、僕みたいな人間がそれをとるには、何かするよりも気にしないのが一番という。

柳沢:気にしないのが一番なのと、それから私がよく言うんですが、睡眠って減点法なんですよね。万人に共通する「これをすれば質の良い睡眠がとれます」という方法はなかなかないんですよ。

睡眠の質を下げてしまう行動

柳沢:逆に「これをやると確実に睡眠が悪くなります」というのはけっこうたくさんあって、それを一つひとつ潰す。

入山:その話はよくされていると思うんですが、主要なもの3つ、4つだけでもいいので……(笑)。

(一同笑)

柳沢:まず、口から入れるもので有名なのはカフェインとアルコールです。

入山:やっぱりアルコール、ダメなんだ。

柳沢:カフェイン自体は健康に良いと言われていますが、寝る時間から5時間か6時間以内ぐらい、夕方からディナータイム以降はカフェインはとらないほうがいい。

アルコールについては、さっきおっしゃったようにアルコール自体には催眠作用があるので、ある程度以上の量を飲めば寝つけるは寝つけるんですよ。でも、そのあとたいてい起きちゃうとおっしゃいましたよね。まさにそのとおりで、アルコールはやがてアセトアルデヒドというものに分解されます。

アセトアルデヒドはむしろ覚醒作用があって、交感神経を活性化してしまう作用があるので絶対に睡眠の質は悪くなるんです。だから睡眠学者として言わせてもらえば、理想的には(飲酒は)ディナータイムぐらいまでにして、むしろ寝る時間までには醒めかけてるぐらいが理想的です。

あとはもう、言われてみれば本当に常識的なことばっかりなんですが、寝室は暗くて静かで、朝まで適温。質を悪くする要因はたくさんあるので、それを1個1個潰していく。

入山:だから「減点法」なんですね。

柳沢:そう。

万人に共通する解決法はない

柳沢:ただ難しいのは、睡眠の姿は一人ひとり違って非常に個人差があるんですね。個人差がどうしてあるのかと言われると、最先端の睡眠学の研究でも答えられないんです。

だから結局は、自分の睡眠の容態を知ることと、それに合わせて自分の生活スタイルとコンパチブルな(兼ね備える)かたちで最適化していくのがすごく大事なんです。万人に共通する「こうすれば良い」というのはないんですよ。

入山:実は、一番寝れる時って「部屋でスマホ」とかじゃなくて、どう見てもつまらなそうな本を読んでる時なんですよ。

柳沢:私もまったく一緒です。私の眠れない時のルーティンは「つまらない論文を読む」。

(一同笑)

柳沢:つまらなくて読みたくないんだけど、読まなきゃいけないものってあるじゃないですか。それを読むと、もう3分で眠れます(笑)。

入山:一緒です(笑)。すごい、柳沢先生と同じことやってる。

(一同笑)

日本の住宅は照明が明るすぎる

柳沢:さっき「暗いことが大事」と言ったんですが、実は寝室だけじゃなくてリビング・ダイニングも同じです。日本の住宅って明るすぎるんですよ。光はものすごく大事で、我々の脳の中に24時間を刻む体内時計があるんですが、その体内時計は目に入る光の量でリセットされてるんです。

簡単に言っちゃうと、朝早い時間帯には目に強い光。特に短波長の、いわゆるブルーライトってやつですね。簡単に言えばお空の青空の色です。あの強い光が朝早い時間帯に(体内に)入ると、体内時計に対して「もう朝ですよ」というシグナルになるんです。だから、体内時計の針がちょっと進むんですよね。

逆に、夜の時間帯に強い光を浴び続けていると「まだ昼ですよ」というシグナルになって、体内時計がどんどん遅れていっちゃうんです。

入山:だからよく、「スマホのブルーライトはカットしろ」という話になるんですね。

柳沢:そうそう。よくスマホのことが言われるんですけど、スマホってちっこいから光量はそんなに大したことないんですよ。もっとずっと害があるのは、リビング・ダイニングの、寝室も含めて照明の光です。本当にろくなことがないんですよ。

入山:家、暗くしよう……。

(一同笑)

田ケ原:間接照明だけとかね(笑)。

徹夜明けの脳は“酔っ払っている状態”と同じ

入山:タガエミちゃん、お二人に何か質問はありますか?

田ケ原:実際に睡眠って、人生の中の3分の1ぐらいの時間を占めるじゃないですか。何をもたらすのかわからないなりに、もちろん一定はメリットあるわけですよね。それは学術的にどういうふうに定義されているんですか?

柳沢:メリットというか、寝ないと大変なことがいろいろと起こるので、「寝ないとどうなる」という研究はすごくされています。まず、当然眠いですよね。寝なかったら眠くてテンションが下がるし、脳のパフォーマンスやいろいろな性能がどんどん落ちてきます。

有名な論文が20年以上前に出ていて。脳のパフォーマンスは反射神経の速さとかいろんなもので測れるんですけど、それで測っていくと、徹夜明けの脳はアルコール血中濃度0.1パーセントの脳と同じぐらい。

0.1パーセントって完全に酔っ払っていて、ほろ酔いじゃ済まないですよね。だから、徹夜明けだけでもそのぐらい悪影響があります。貫徹でなくても、1日4時間とか6時間しか寝させない実験をすると、1週間後ぐらいには(徹夜した時と)同じぐらいまで(脳のパフォーマンスが)落ちちゃうんです。

しかもその時に、必ずしも自覚的な眠気は同じように上がっていかないんですよ。だからそこが怖いんですよね。慢性的な寝不足は必ずしも自覚しないで、いつの間にか自分の脳のパフォーマンスが落ちて、生産性が落ちている。

入山:だから、僕がKindleでクソつまんない本を読んでると寝られるのは、大丈夫だってことだ(笑)。

(一同笑)

柳沢:それは良いと思いますよ(笑)。