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『転職の技法』出版記念講演― ちょいスラ転職を用いた転職・就職支援とは ―(全4記事)

転職は、業種だけを「ちょっとだけスライド」が成功のコツ 仕事を変えて“失敗する例”と、有効な転職方法のポイント

社会人生活20年間で10回の転職を経験し、現在はキャリアコンサルタントとして活動する森田昇氏。著書『年収300万円から脱出する「転職の技法」』の内容をもとに、転職活動を成功させるノウハウを解説します。本記事では、転職方法として有効な「ちょいスラ転職」のやり方について語りました。

年収を下げてまで、好きなことを仕事にした結果

森田昇氏:ちなみに私は、「これがやりたいから」と年収を下げてまで転職をしたことがあります。3社目への転職だったんですが、何がやりたかったのかというと、今でも趣味で毎週土日にやっている競馬に関わりたかったんです。

3社目が競馬雑誌を発行している会社の子会社で、その競馬雑誌のホームページを更新している会社だったんです。競馬を見ながら、その競馬の結果をサイトにアップする、という仕事に就けたんですね。

競馬を見るのも好きだし、馬券を買うのも好きだし、馬に乗るのも好きだしと、競馬に関わることが全部好きで、新卒の時にJRAも受けています。落ちていますけど。3社目で「好きなことに転職できるんじゃないか」と思ったんですけど、仕事で競馬中継を見るのは全然楽しくないんですよ。

レースが終わった瞬間に、サイトが提供している予想が当たったかどうか、結果をアップしなきゃいけなかった。なので、アップすることを考えながらレースを見ているからまったく楽しくないですし、レースの合間にそういったアップ作業をしているので、馬券も買える時間がない。

「ユーザー側」と「提供側」の視点はまったく違う

今まで楽しいと思っていたことが、仕事になった瞬間楽しくなくなった。やりたいことを仕事にしたら、やりたいことが楽しくなくなっちゃったんです。サービスの提供側と、ユーザー側ではまったく違うということを知らなかったんです。

ですので、「やりたい」というのはユーザーとして味わいたいのか、それとも提供側として考えているのかは、冷静に分析しないといけないです。

「私、この仕事がやりたくて。どうすれば転職できますか?」という相談を受けた時には、それはユーザー側として楽しみたいからなのか、それとも提供側としてやりたいからなのかを確認しないといけない。

旅行が趣味ですという方が旅行会社に入ったら、「自分の思ったような旅行ができない」「人の旅行のアテンドじゃなくて、自分が旅行を楽しみたいんだ」と辞めてしまうのと同じです。これがユーザー側と提供側との差です。

そこがごっちゃになる方がけっこう多いので、「Will」は転職ではいったん切り離す必要があります。切り離して冷静に考えて、それでも提供側に回りたいのであれば、やはり評価されるのはCanだったりします。

この順番を間違えていたから、私は転職後になかなか適応ができず、転職回数もこれだけ増えてしまいました。

人によって異なる「キャリア」の定義

では、次に行きます。最後の3つ目は「『ちょいスラ転職』の技法」です。まずキャリアに関することで説明したいと思います。みなさんにお聞きします。「キャリアって何ですか?」と聞かれたら、みなさんはどう答えますか?

私たちはキャリアコンサルタントですが、キャリアに詳しくない方から素朴にこう聞かれたら、みなさんはなんて返しますか?

(視聴者コメントで)「その人の仕事でできることや経験したこと」。職務経歴という意味でもありますよね。

「人生」。そうですよね、キャリアは人生そのものですし、生き方ですよね。「仕事の経験だけでなく、それも中に入る人生や生き方」。けっこう「人生」が多いですね。私もキャリアは人生だと考えています。

「仕事の中で年を取っていくのがキャリアです」。仕事の中、というところがポイントですね。いろんな捉え方があります、ありがとうございます。それだけキャリアという言葉の意味は広いです。

なので、キャリアコンサルタントのことを私は「人生なんでも相談屋」と言っちゃっています。幅広くいろんな相談に乗れますけど、やはり仕事は外せないですよね。

人生設計を考えて苦痛になってしまうことも

「職務経験」もありますよね。仕事でのキャリア、キャリアウーマンとかキャリア官僚を思いつく方も多いです。このようにキャリアと一言で言っても、解像度が人それぞれ違うんです。

職務経験でキャリアを考えると、「職人」とか「プロフェッショナル」という言い方をしますが、職人やプロフェッショナルになれるぐらいに集中して・熱中して、自分の意思でそれを獲得できる人は、まだ少ないと思います。

今だと大谷翔平選手や藤井聡太名人といったプロフェッショナルな方もいらっしゃいますが、誰もがああなれるわけじゃないですもんね。「ああなりたいから、人生設計をしっかりと考えないと。中長期的なプランが必要!」となったら、人生自体が苦痛になる方が多いのでは? 人生楽しめない、みたいな。

自分の人生が楽しめないと、「では、何のために生きているんですか?」「この先の人生をどう考えますか?」といった人生のキャリア相談やキャリアデザイン研修が必要になります。

「キャリアデザイン研修」というと、私はキャリアデザイン研修でこういうシートを作っていただきます。「10年後にこうなる姿を目指したいので、3年後にこうなる事を目標にして、1年後はこうなることを目標にして、そのためには3ヶ月間毎日こんな行動していきますよ」といったものです。

これだと中長期的すぎて大変だなというのと、「10年後になりたい姿」をなかなか思い描くことができないことがあります。

中長期的な目標より、まずは短期目標を考える

企業でこういった研修をやると、だいたい企業に所属し続けていることを前提に10年後を考えます。ですので、シート作成の前にこんな質問をしています。

「10年後、私たちの企業はどうなっていると思いますか? そして社会はどうなっていると思いますか? その2つを想像しながら、10年後のみなさんはどういう姿になりたいと思いますか?」。すると、技術革新が早すぎるから、10年後は予測不可能になるんですよ。

となると、少なくとも今から1年後、長くても3年くらいの短期目標を考えたほうが、キャリアデザインも現実味が増すなと思っています。

もちろん10年後を考えること自体否定はしないんですが、そのキャリアプランに実効性があるのかどうかと言われると、ちょっとやり方を考えないといけないなと思っています。

転職も、「10年後を考えて、中長期的なキャリアを考えて転職します」ではないんですね。「今、ここ」の状況を打破する、「今、ここ」を打開する一手段が転職です。

業界・会社によって年収の上限は決まっている

本(『転職の技法』)に書いてある「今の年収300万円、あなたのせいじゃありません」というのは、入った業界と会社が悪いという意味です。

入った業界・会社によって年収の上限が決まっていますので、どんなに優れた人材でも、業界・会社が儲かっていない限り年収300万円以上を経営者が出せないんです。10年経っても年収300万円から脱出できないんです。

だったら、「今、ここ」を打開するには転職するしかない。年収300万円のあなたは悪くないんですよ。選んだ会社や業界が悪かっただけです。なので、「中長期的なキャリア形成のため」という転職の方はすごく少ないですし、転職するのであれば何度も協調しますが「Can」一択です。

転職で得られるものは給料・年収以外にもありますが、年収帯が高い会社、かつホワイト企業であれば人間関係も良い会社が多いです。従業員の年収帯と人間関係ってけっこう比例するんです。

「今、ここ」を変えるためには年収を上げないといけない。それくらいの待遇を提供できる会社であれば、従業員に投資できるし、教育もできるし、研修も受けさせられます。そうすると(個人や組織の)成長にもつながってきます。

それだけの待遇を提供できるのは儲かっているからです。で、儲かっている会社というのは無駄な残業をさせませんから、私たちはライフワークバランスまで手に入れられる。だから、年収を上げるための手段としての転職が正しいと思っています。

(年収を)下げる転職を否定するわけではないですし、やりたいことをやるために下げるという手もありますが、それだと年収以外の待遇や人間関係も悪化する可能性があるよと伝えています。儲かっていない、お金がないと精神が荒みますから。

職種は変えず、業界を変える転職方法がおすすめ

儲かっている会社にいかに転職するかですが、年収はだいたい「業界×職種×ポジション」で決まります。つまり入った会社と関係なく、業界と職種とポジションでだいたい年収は決まっています。

スライドでは人事を例にしていますが、同じ人事の仕事なのに、業界が違うと年収が変わるという現実があります。

その人の持っている能力に関わらず、業界・職種・ポジションで決まっちゃうんです。もちろん例外の会社はありますが、大部分はこういった仕組み・構造になっています。なので、年収帯の高い業界・職種・ポジションに転職しないと年収が上がらないし、逆に言えばそういったところに転職すれば年収は上がりやすいんです。

この考え方を「軸ずらし転職」というのですが、私が思うに「軸ずらし転職」はリスクがあります。業界や職種も変える転職って、適応が難しいんです。

内定の難易度も高まりますし、運よく入社できても適応できずに、元の業界や元の職種に戻っていく。そういった人たちを何人も見ていますし、実際に私も年収を300万円ダウンさせてまで元の業界と元の職種に戻ったことがあります。仕事に適応できなくて、精神的に病む寸前だったんですね。

ですので、「ちょいスラ転職」でもそうなのですが、「軸ずらし転職」では、職種は変えないで業界だけ変えるのが有効です。

身近な業界に「ちょっとだけスライド」する転職

私はエンジニアという職種だったので、エンジニアという職は変えないで、年収帯の高いほかの業界で社内エンジニアになれば、年収は上がりやすかったです。ただそれでも、経験したことがない業界は適応には苦労するんです。

だったら経験がある業界、もしくは今までの経験が使える業界であったり、これまでの取引先や仕入先、発注先、受注先、協力会社とか、今私たちの身近にある業界にちょっとだけスライドすれば適応に困らないのではないか、という考えで生まれたのが「ちょいスラ転職」です。

ちょっとだけスライドする業界の図は本に載っています。図の解説をすると、年収の高い・低いの横軸と、商流の上・下の縦軸があります。

業界によって年収の高い・低いがありますよね。そして、商流が上になるほど年収は上がっていき、ブラック企業は少なくなっていく。逆に商流が下がっていくと年収も下がっていき、ブラック企業が増えていきます。

「商流が下」とはどんな業界かというと、対個人、いわゆるtoCと言われているところですね。「商流が上」、はtoBになります。個人相手だと労働集約型にどうしてもなるので、ブラックにもなりやすいですし、年収帯も低くなってしまうんですね。

転職相談や就職相談の時に、もちろん相手の希望はありますが、この図を私たちが知っておくと、こと年収上げたいとなったら「この図の右上のほうを考えたらどうですか?」という情報提供ができます。そうじゃないと転職しても年収が上がらない、上がりにくくなってしまう。

年収を上げるためには「商流を上げる」

(スライド)一番の右上である「環境・エネルギー」は、例えば電力とか、生活に不可欠なインフラ会社ですから、自分たちの意思で値上げできます。ビジネス的に強いんですよね。インフラですから、消費者たる私たちに拒否権はありません。

「高かったら使わなきゃいい」「買わなきゃいい」ができない商品。そういった業界は商流が上ですし、年収帯も高いです。

この中に異様にでかい三角形が2つあります。金融・保険が大きいのは外資の金融とか保険も含んでいるからです。街の信金さんや保険のおばちゃんとかになると商流が下になりますけど、年収帯は高いです。

もう1つの三角形が大きいIT業界は、「IT土方」と言われる人力でがんばっている方々は年収帯が低く、商流も下流。二次請け、三次請け、四次請けになるので商流がどんどん下にいくのですが、これが元請になると一番右上にいきます。業界の中でも商流はけっこう異なるので、業界ごとの商流を把握していただきたいと思います。

商流は物や人の流れです。人材紹介や派遣、IT業界のSES、建設業はピラミッド構造な業界ですので、こういった業界の構造を把握していくと、どこに転職すれば年収が上がりやすいのかがわかります。

商流が上に上がるほど、年収が上がりやすくなります。逆に下がると年収が下がりやすくなります。ですので年収を上げるためには、商流を上げるのが王道で、下げるのであればせめて役職を上げてほしい。こういった考えをまとめたのが、このポジション移動図です。

書き方は本のおまけに全部載っていますし、PDFでダウンロードできます。自分で書いてみると、どこに転職すれば年収が上がりやすいのかが一目でわかります。

ちょいスラ転職を成功させるために

ポイントは「ちょいスラ」です。私がちょいスラで失敗したのが、1社目から2社目に転職する時です。2社目で1社目とはまったく違う業界に転職してしまったので、適応できずに1ヶ月で辞めざるを得なくなってしまった。

当時の私が自分のポジション移動図を書いてみたら、ちょいスラの中に2社目の業界や職種、ポジションはまったく出てきませんでした。完全なる「軸ずらし転職」になってしまったので、適応できずに1ヶ月で「この会社、もう無理」になっちゃったんです。

このポジション移動図を自力で書けるようになると、年収を上げる転職にすごく役に立つと考えていますので、ぜひ有効活用していただけると嬉しいです。

「ちょいスラ転職」には幅広い知識が必要になってきます。商流を知っていなければいけないので、いろんな業界や職種を知らなければいけないんです。

ただ、幅広い知識と「ちょっとだけスライドさせる」という考え方は、ビジネスで価値を出す考え方とも同じですので、「ちょいスラ」のポジション移動図や考え方はビジネスでも使えます。

ですので、最新の世界観を知りつつ、社会の基本構造を今後も把握していただければと思います。それが私たちの相談者に対する価値にもなるからです。講演は以上で終わりにしたいと思います。ありがとうございました。

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