大転職時代の今は、国も転職を支援している

森田昇氏:大転職時代では、国も転職させたがっています。みなさん、「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」をご存知ですか? 学び直しで新しいスキルを身につけてキャリアップしましょうという事業なのですが、この支援事業では「33万人を転職させる」ことを目標として掲げています。

リスキリングって、別に新しいスキルを習得したからといって転職しなきゃいけないわけじゃないんですが、国の政策になったら「転職しなさい」になっちゃったんですね。それはなぜかというと、過去の政策からの流れがあるからです。

ここ10年で「リスキリングに関わるキャリアアップ支援事業」に至るまでに、これだけの施策・政策があったんですね。

このような施策で何をしたいのかというと、(スライドの)一番上に出ている「日本再興戦略」を焼き直していることが多いのですが、「雇用を維持させる」のではなくて「成長産業に人を移動させていこう」なんですね。

そのことによって、日本の経済の底上げ、GDPを上げていこうということを、10年前から手を替え品を替えずっとやっています。

「労働移動って、男性だけじゃなくて女性もだよね」と、女性活躍推進が出ました。「女性だけじゃなくて、老若男女みんなで働かないとGDPは上がらないな」と、次に一億総活躍になりました。

その次には「生産性を上げるためには働き方改革をしないといけない。そうじゃないとGDPも上がらない」と、働き方改革が出ました。

働き方改革の真の目的は、みなさんもご存知のとおり会社の生産性を上げることです。その結果、GDPを上げることまで含みますので、決して「休みを増やす」「残業を減らす」ではないですよね。それらはあくまでも手段であり、目的とは違います。

リスキリングを通じたキャリアアップ施策

その次には、人生100年時代構想会議がありました。「会社に預けるキャリアではなく、キャリア自律をしていこう」という旗印。これも「私たちが主体的に会社を選択することによって、成長産業に労働移動していこうよ」と。政策ですから一貫性がありますね。

その次に人的資本経営が出てきました。資本の論理で企業文化を変革し、生産性を上げてGDPを上げていこうというものです。そしていよいよ、DXという言葉が出てきたのとほぼ同時に、リスキリングが登場しました。

デジタル人材になるために、足りないスキルをリスキリングさせることによって、成長産業に労働移動させようといったものです。

今、新しい資本主義が岸田内閣で出てきまして、「リスキリングとジョブ型雇用と労働移動をセットにしたことをやろうよ」というのが、先ほど出てきた「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」です。

ジョブ型雇用が主流になっていくから、リスキリングさせることによって成長産業に労働移動させていくことを国は目指していくようです。

ただ、こう聞くと「国は労働移動を本当にさせたがっているんだな」と思いますが、実際に今まで労働移動が起きているかといったら、あまり起きていないですね。笛吹けど踊らず、といったことがこの10年ずっと続いています。

ですが、もしかしたら今回の「リスキリングに関わるキャリアップ支援事業」で動くのかもしれない。というのは、今まで担っていなかった省庁がやっているからです。これまで労働関係は厚労省がやっていましたが、今回は経産省なんですね。

経済を司っている省がやる事業ですので、もしかしたら今までと違って本当に労働移動が起きるのかもしれません。

転職を考えている人にはどんな言葉をかける?

ここで、みなさんに考えていただきたいことがあります。キャリア相談あるある事例として、こんな相談を受けた時ってみなさんはどう対処しますか?

「転職を考えているんです」と相談されたら、みなさんはどうしますか? 最初の質問はどうします? もしくはどんな見立てをします? 「転職を考えているんです。それで相談しに来ました」と言われた時に、みなさんはどういう受け答え・見立てをされますか? 簡単でいいので、教えていただければと思います。

(視聴者コメントを見ながら)「職場でどんなことがあったのですか?」。これは聞きたくなりますよね。転職を考えた理由が必ずあるはずですからね。「なぜ転職を考えたのですか?」。もう少し抽象度を上げた質問ですよね。もしかしたら仕事以外にも、家庭でも何かあったのかもしれないですもんね。

「その理由は何でしょうか?」「なにがあったのか」「きっかけは」「どうして」「なんでこういうことを考えたのかな」と、私たちはまず確認しますよね。本当にそのとおりだと思っています。

「いつ頃転職されるご予定ですか?」という質問であれば、転職すること自体が本当に決まっているかどうかの確認にもなりますね。「いや、実は予定とかじゃなくて」「いやいや、とりあえず言っただけなんです」みたいに言われるかもしれないですから、より真因に近づく質問なのかもしれません。

「ご自身の将来を真剣に考えているのですね」。いったん承認するのはいいですよね。承認されると、「転職を考えていいんだ」と、うれしくなります。

真の悩みは「会話」だけではわからない

いろんな答えが出てくると思うんですが、例えば「転職を考えているんです」に対して、「それってすごくいいことですよね」と返したら、「いやいや。現職の愚痴を聞いてほしいんです」「『今の仕事に何かあったんですか?』って聞いてほしいんです」と思う方もいれば、逆の方もいらっしゃると思います。

「現職の愚痴じゃないんです。もう転職するって決めたから応援してほしいんです」という方もいらっしゃいますし、「ぜんぜん転職とかじゃないんですけど、実は家庭で介護の問題があって、親を看るために家の近くに転職しなきゃいけないんです」とか、いろんなことがありますよね。

何が言いたいのかと言いますと、クライアントの真の悩みや真因はこの会話だけではさっぱりわかりません。ただ、そこを見立てるためにも、今の転職市場の状況とか、転職にまつわる世の中の動きがどうなっているのかを私たちが知っておく必要があるのかなと。より見立てに近づけるのかなと思って、こういった質問をしてみました。

みなさんの受け答えはすばらしいですね。特に「ご自身の将来を真剣に考えているのですね」は、私も使いたいです。

どうしてもまずは「なんでそんなことを考えているんですか?」って聞きたくなるんですが、いったん承認して、いったん受け入れなきゃと、私も学びになりました。ありがとうございます。

入社1年目で「もう辞めたい」

では、次に行きます。2つ目は「3つの輪で考える転職の捉え方」です。ここでまた質問です。キャリア相談のあるある事例として、「入社1年目なんですが、もう辞めたいんです」と言われたら、みなさんはどう質問しますか? どう承認しますか? 承認は難しいかな?でも、もしかしたら承認もあるかもしれません。

ちなみに私は、新卒で入社1年目の時は辞めようと思っていなかったです。なぜなら、ずっと教育してくれていたから。とはいえ、2年目から3年目にかけてブラックな本性を現してきて、毎月300時間労働超え、週に2回夜勤、月の休日は4日、みたいな感じが2年続いて、さすがに限界でやめました。

それだけ働いても残業代ゼロ円、ボーナスは最低。当時、労働基準法を知っていれば労働基準監督署に駆け込めたのになぁ。

(視聴者コメントを見ながら)「そう思われたきっかけがあれば教えてください」「やりたいことが見つかりましたか?」。これ、いいですよね。「何年目かは関係ない」。うん、私もそう思っています。

「職場で何かあったのだろうか?」と聞くのが、王道だと思っていますが、もちろんそれ以外の受け答えでも正解ですよね。

「何年目かは関係ない」というのは相談者を受容していますね。将来を真剣に考えているなら、1年目でもそういう結論になることもありますよね。ありがとうございます。

「会社をすぐに辞めたらキャリアが詰む」は幻想

普通の人であれば、きっとこう思います。「いや、石の上にも3年でしょ。1年で辞めるなんて早すぎるよ」「いやいや、桃栗三年柿八年じゃん。そんなんじゃ何も身もつかないでしょ」と。

実はこれ、昭和の価値観の1つだとは思っています。ある程度の期間勤めないと、仕事ができる・できないとか、楽しい・楽しくないとか、仕事に対する価値基準が自分に身についていない状態だから、3年はいたほうがいいのではないかという考え方。

私たちはキャリアコンサルタントですので、自分の価値観が仮にそうだとしても、その価値観をいったん手放す、もしくは価値観といったフィルターを外して相談者の方と相対します。それがキャリアコンサルタントのすばらしいところだと思っています。

こういう人もいますよね、「履歴書に傷がつくんじゃないの」。私の履歴書なんか、もう傷がつきまくっています。転職遍歴を履歴書に全部書いたことがあるのですが、スペースが全然足りませんでした。

「会社をすぐに辞めたらキャリアが詰む」みたいな発言も幻想です。「キャリアが詰む」という言葉自体が私たちにとってはおかしいですが、1年で辞めたところでキャリアには何の問題もないですからね。

転職で大事なことは「守破離」の考え方

ただ、「守破離」は知っておかなきゃいけないなと思っています。守破離ってあるじゃないですか。まずは決められた型を守って、繰り返し基本を習得する「守」、基本をベースにしながら自分なりの工夫をしていく「破」、そして型や教えから離れてまったく新しいモノを生み出していく「離」。

入社1年目での転職も全然OKだと思ってはいますが、守破離の「守」の時点で辞めるのは勘弁してほしいんですね。「入社1年目ですが、仕事がつらいからやめたいんです」と違う会社に転職しても、入社1年目での実力がまだ「守」の段階であれば、結局は転職しても仕事はつらいままなんですよ。

仕事で何かしらの成果を出すこと、そしてその成果を自分なりに出せるようになるといった、「破」の段階まできていれば、1年目で辞めてもいいと思っていますが、「守」の段階で辞めてしまうと次の会社でも仕事がつらいままです。仕事を覚えていないわけですから。

私は10社を渡り歩いて、20ヶ所以上のプロジェクトを経験しています。特にIT業界にいた時は、SES(システムエンジニアリングサービス)といった派遣の契約形態でいろんな客先に常駐してきました。

それだけ渡り歩いて気がついたのが、「やっぱり、守破離の『守』は大切だな」ということです。「守」から「破」「離」まで仕事ができるようになると、自然と人間関係や職場環境も良くなってきて、どんなにプロジェクトを渡り歩いてもノーストレスなんですね。

社会人生活の最初の3年間で「守」が終わっていて本当に良かったです。ある意味、ブラックだった1社目に感謝ですね。

「就職」と「転職」では評価される力が違う

この本の表紙には「『給料が少ない』『自由が少ない』『人間関係ギスギス』は転職でクリアできる」と書いているんですが、それはあくまでも守破離の「守」が終わっている段階まで来れば、です。

これが、まったく未経験の業界や職種に転職してしまうと、また「守」からやり直しになります。「守」をクリアしているのであれば、「破」や「離」から入れる業界や会社に、「ちょいスラ転職」すれば年収アップできるんじゃないのかというのが、この本でアピールしているところです。

この守破離の考えについては本の中には書いていません。ページ数が多くなったのでカットしましたが、まずは「守」をクリアしなければいけない。今は天職の輪の話ですので、「転職に限っては、自己理解は『Can』一択でいい」というところにこのあとつながっていきます。

「Can」とは何かというと、「できる」ですよね。「できる」をもう少し細かくしていくと、スキルとノウハウ、強み・弱みです。

スキルは専門性。ノウハウはいろんな職種に使えるような多様さを持っているもの。強み・弱みは言語化しないと表せられないポータブルスキル。

この3つが「Can」だと本の中では書いています。もう少し砕いていくと、専門性というのは「資格」。名前がつくものです。

多様さ・ノウハウというのは、職業や職種で身につけた名前がつかない幅で、いろんな職種で使える幅のことです。強み・弱みはポータブルスキルですが、ほかの言い方をすると「社会人基礎力」とか、私たちの業界でよく使う「エンプロイアビリティ(雇用されうる力)」です。

このスキル、ノウハウ、強み・弱みの3つを合わせたらどんな言葉になるのかというと、「仕事をうまくやる力」だと私は思っています。

転職ではこの力が評価されるんですね。それが就職とは違うところです。

転職は「やりたい気持ち」より「できること」が評価される

こと転職に限っては、私たちは「やりたい気持ち」よりも、「できること」が評価されます。うちの会社に入って何ができるのか。何をうちの会社もたらしてくれるのか。

もちろん「やる気があるからがんばります」という方も評価はされるんですが、「やりたい気持ちはあるけど、求人票に書いてある業務は経験がない」という人と、「求人票に書いていることができます。ただし、それをずっとやりたいと思っているかどうかは言いません」という方だったら、中途採用である限りは後者の「できる人」を評価するわけです。

就職だったら逆になる可能性もありますよ。学生のうちにできることってそんなにないので、むしろ入ってから育てていこう、伸びしろに期待しよう、とするのが今の日本の採用ですから。

でも、ジョブ型雇用に変わるとそれがなくなっちゃうんです。伸びしろじゃなくて、今できることだけ評価される。ですので、「学校や大学でもっと専門的なことを学んでいこう」となるんですよね。

IT業界はジョブ型雇用が多くなってきています。データサイエンティストとかの専門分野の技術を持っている学生・大学院生であれば、新卒で年収1,000万円ですからね。ジョブ型雇用が進んでいくと、そういった採用になってくるはずです。