ワーママが悩む「職場」と「両親」の問題

田中渉悟氏(以下、田中):ここまでのお話を聞いて、何か「先生に聞いてみたい」という方はいらっしゃいますでしょうか?

チャット欄にも感想が来ていますかね。「産休しかない時代の子育てでした。出産後1ヶ月で復職し、昼休みは授乳で職場と保育園の往復を続けたところ、原因不明の病気になって入院」。はあ、こういうこともあるんですね。ここまでの話を聞かれて、何か感想等ございますでしょうか?

質問者1:下園先生のおっしゃる通り、上司とか周りの環境がワーママをどう支援していくかという環境作りが大切で、なぜ私がここまで無理をしたかと言うと、育休は取れたんだけど、給与は出なくて無給になってしまって。

しかもちょっと特殊な職種だったので、少しでもブランクがあると業績がなくなってしまう。自分のキャリアが保証されてないのでどんどん落ちるという怖さから、休めないということに陥って、こういうことになってしまったんです。今はだいぶ改善されたようなんですけども、そんな感じです。

田中:なるほど、ありがとうございます。先生、いかがでしょうか?

下園壮太氏(以下、下園):「育休」「産休」という言葉に含まれている「休業」という言葉は、変えたほうがいいという議論がありますよね。

田中:ありますね。

下園:ワーママは本当にそうなんだろうなと思うんですね。私がいろいろクライアントさんからお話を聞くと、まずは会社の問題があるじゃないですか。もう1個、ご両親ですよ。親世代の子育ての価値観との差でけっこう悩まされる方もいまして。

親はずっと長いことその価値観でいるので、それがいいんだろうなと思っている。それとネットでいろいろ得られる最新の子育て知識が違ったりすると、ここでちょっとバトる。バトるから、逆に援助ももらえない。

本当は親からの支援はとても重要になるんですけども、なかなかそこがうまくいかないというのがみなさんの今の大きな悩みです。職場と家庭、そこにいる親との関係は、調整する必要がある2大テーマですね。

政治の世界は「子育て経験のない人」が圧倒的に多い

田中:ありがとうございます。今「休暇」「休業」という用語を変えたほうがいいという。これはいつも大隈塾のゲスト講師としてお出になっていただく本間正人さん。本間先生、話していただくことは可能でしょうか?

本間正人氏(以下、本間):こんにちは。

田中:どうもこんにちは。お世話になっております。

本間:やはり政策決定に携わる人たちが、厚生労働省の幹部の方も政治家も、まず子育て経験のない人が圧倒的に多い。ワーママはただでさえ大変なんだけれども、だからこそワーママ経験のある人が政策形成に参加するようにするべきです。そういう人を政治の世界に送り込むことが重要だと思いますね。わかんないんだもの。

田中:確かに。本間先生は京都造形芸術大学の先生をされていて、松下政経塾にもいらっしゃったということで。

本間:政経塾出身の女性の政治家もいるんだけれども、うーん、子育て経験のない人のほうが多かったりするものですからね。現職の方も含めて。そういう意味では、やはり子育て経験のある人が本当にもっともっと、大変だけれども、お互いに支え合って参入していくということが、切実に課題だと思います。

田中:ありがとうございます。

本間:政党がもっとちゃんとサポートしなきゃダメよ。茂木敏充さんが「100万円出します。2人いたら何百万円」と言っているけど、ちょっとピントが外れているよね。

田中:(笑)。今、大きくうなずかれていた向山さん、いかがでしょうか?

向山奈央子氏(以下、向山):そうですね。育休中にリスキリングの提案もあったじゃないですか。「何を言っているんだろう?」と思った次第です。

田中:(笑)。

向山:しかも、私もなかなかの戦場をくぐり抜けたとは思っていますけども、コロナ禍を経て今最前線にいるママさんたちは、だいぶ人数が増えてきたとはいえ、さらに状況としては厳しいのだというところは、今回の本を通じてさらに感じましたね。

コロナは「うつ」になる要素が満載

向山:下園先生に質問なんですけれども、コロナ禍で出産・子育てが重なった人のメンタルヘルスへの影響を、もうちょっと具体的に教えていただけるといいかなと思ったんですが、いかがでしょうか。

下園:ありがとうございます。冒頭でお話ししたように、もともとワーママは大変なんですよね。私の感覚では、コロナではワーママも関係なく、世界中みんな大変だったんですよ。コロナって、実は非常にうつっぽくなりやすい要素満載だったんです。

普通、マラソンで疲労すると、「ああ、これはマラソンで疲労したんだな」とわかるんです。誰も自分を責めません。ところが、何かわからないけど疲労していく段階に、自分を責めるような雰囲気とか出来事とか、自信を失うような出来事とか、不安が重なるような出来事。そして、さらに活動しなきゃいけないような出来事が重なると、これは単なる疲労じゃなくてうつになっていくんですよ。

コロナはマスクをして咳をしちゃいけない、自分を責める感じがすごくあって。自分がもしコロナになっちゃったら「いや、体が弱いからなっちゃったんじゃないかな。もしかしたら死ぬんじゃないかな」とか。

そして、今までのいろんな発散系のストレス解消法も全部我慢する必要があった。これはエネルギーをめちゃくちゃ使うんですよ。「リモートワークで良かった」とか言っているんですけども、実は疲労困憊している人が本当は多いんですよ。

田中:逆に外に出ない方が疲労困憊しているんですか?

下園:そうです。だって、コロナでむちゃくちゃ自分を責めて、不安が強くて、そして我慢して。これはめちゃくちゃ感情を使っているんです。心のエネルギーを使っていると思ってください。

知らない間に蓄積されていく「ステルス疲労」

田中:満員電車に乗って、対面で会社でやりとりしているほうがストレスがたまりそうな気もしますけど。

下園:もちろん個人差はあるんです。それはわかりやすい疲労ですよね。でも私が言ったのは、私が名付けた「ステルス疲労」というやつなんですね。

田中:ステルス疲労。

下園:ステルスのように、知らない間に蓄積されていく疲労です。その状態で、ワーママは出産・子育て。実は出産・子育ても昔から「マタニティブルー」とか「産後うつ」と言われていたように、先ほどの4つの要素をすごく刺激しやすいポイントがあるんですよ。

まずは、子どものことをみんな不安に思うわけじゃないですか。「ちゃんと育つんだろうか」とか、あるいはコロナだったら特にそうですよね。それと、ネットを見たら自分の子育てが正しいのか正しくないのか。

そしてちょっといろんなデータを見たら、「やっちゃいけない子育てをもしかしたら自分がしているんじゃないか」みたいに、ずっと自分を責めるわけですよ。さらに睡眠不足と、もっともっとやらなきゃいけないこと、仕事との両立とかいろんなことがあって、疲労も重なる。

その4つがあるから、もともとうつっぽくなりやすかったのに、さらにコロナがあって。だからこの本がこのタイミングで出たのも、少し運命的なところもあったんじゃないかなと思っています。

『ワーママが無理ゲーすぎてメンタルがやばいのでカウンセラーの先生に聞いてみた。』(時事通信社)

人間が命懸けでも「出産」に向かうわけ

田中:なるほど、ありがとうございます。今ちょっと手を挙げている方がいるので。何か話されますでしょうか? ありがとうございます。

質問者2:はじめまして。向山さまのご案内で本日のことを知りました。

田中:ご質問でしょうか?

質問者2:はい、質問兼感想なんですけれども、私は今独身で子どももいないのですが、今のステルス疲労の話を聞いて、独身ですらちょっとそれを感じています。

自分自身のことで精いっぱいなんですけど、結婚とか子育てのことを考えると、自分で今いっぱいいっぱいなのにちょっと恐怖心を感じるところがあって。それについてアドバイスなどをいただきたいです。

田中:ワーママじゃない、独身女性としての恐怖心ということで(笑)。

質問者2:はい、そうですそうです。ぜひ(笑)。

田中:いかがでしょうか?

下園:まさに怖いことだと思いますよ。一方、例えばですよ、私はいつも原始人で考えるんですけども、100年ぐらい前まで出産というのは女性にとって命懸けだったんですよ。だけど、人間は出産のほうに向かうんです。それはなぜかというと、恋愛という感情がパワーを持つからなんです。

恋愛してないときは、負担もあるしコスパも悪いしといろいろ考えちゃう。でも恋愛をすれば、逆に言うと理性的な考え方ができなくなるので、怖さもなくなって、「すべてを捨ててもいいんだ」ぐらいのモードになるものなんです。

田中:(笑)。いや、よくわかるなあ。

下園:だから、あまりご自分だけのイメージで考えずに、出会うところでもし運命の人と出会えば、だいたい自然にそっちのほうに流れていくものだから。そんなに心配しなくてもいいんじゃないかなと思いますよ。

質問者2:わかりました。じゃあ、まず恋愛を楽しもうと思います。

下園:そうそう。

田中:ありがとうございます。まさか恋愛アドバイスもいただけるとは思っておりませんでした。ありがとうございました(笑)。いいですね、こういった話題の広さ。

結婚と子育ては「こうすればいい」が効かないもの

田中:もうお一方、ご感想です。「男性育休を取得した社員さんがいて、奥さんが『精神的にとても安心できた』と言ってくれたのがうれしかったです」。男性の育休事情というところですかね。

では時間も近づいてまいりましたので、そろそろクロージングに入らせていただきたいと思います。あらためて、今日は下園先生、ありがとうございました。最後のまとめに一言いただいてもよろしいでしょうか。

下園:ワーママさんたちが、要はがんばり過ぎるんです。結婚と子育ては、だいたい、いわゆるいろんなところでハウツーがあって、「こうすればいい」というのが効かないという最初の体験なんですよ。だからいろいろ検索しても、ChatGPTに聞いても、あなたに適切な答えは出ないんです。

全部試行錯誤なんですよ。つまり、失敗ありきなんですね。だから、1回の失敗でそんなに自分をあまり責める必要がない世界。ちょっとつらいかもしれませんけども、これは人生の中で学ぶための1つの成長の機会なんじゃないかなと。

この歳になってですね、ワーママさんたちの悪戦苦闘を見ていると、そういう側面もあるんじゃないかなと思います。

がんばっていただきたいというのと、この本書で伝えていることとして、「自分1人でやるのを越えて、とにかく援助を借りまくって、うつにさえならなければ、あなたの子育ては大成功です。お母さんがうつになることだけを防御すればいいですよ」ということを、最後に強調しておきたいと思います。

田中:ありがとうございました。下園先生、今日はお越しいただきありがとうございました。みなさまもありがとうございました。そして今日、たくさんの知らない方たちがいる中でご発言いただいたみなさまも、ありがとうございました。