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PLAYABLE〜『あそび』が導く新しい働き方〜(全3記事)

”本気で遊んだ”プロジェクトの結果が、会社の武器になる チームの中で好奇心を作り続ける「playable」の考え方

従業員にとってのより良い体験を考える「EXデザイン」をテーマに行われた、株式会社mct主催のイベント「EX Design Week」より、ワウ株式会社 鹿野護氏の講演の模様をお届けします。一見相反するように見える「仕事」と「遊び」。組織や働き方、働きがいを考える上でなぜ「遊び」が重要なのか、「playable」の考え方が語られました。本記事では「遊び」の要素について解説されました。

「遊び」の4大要素

鹿野護氏(以下、鹿野):(今までの話で)「好奇心」に触れていたんですけど、今度は「遊び」についてお話をします。『ホモ・ルーデンス』という書籍の中で、ヨハン・ホイジンガという方が「人間とは遊ぶ人である」という記述をしているんですね。

「遊びは文化に先行して発生して、遊びの中からさまざまな文化が生まれていった」という考え方だと思いますし、「遊びこそが人間活動の本質である」というお話が書いてあります。

実際、やはり遊びは誰から教わることもなく、子どもたちは自分たちで自分のやりたいことを少しずつやりながら学んでいく。その学びの過程で遊びがどんどん発生していくと言えるかなと思います。

同じく『ホモ・ルーデンス』の中で「遊び」の定義がされています。「遊びとは何か?」、大枠にすると、「自由な行為」であるし、「虚構の世界」であるし、その中でもやはり秩序とルールが生まれる(「秩序の創出」)し、さらに「非生産的活動」。いわゆるやらなければならないことではなくて、やらなくてもいいことである。

さらには「秘密性」があるというお話があって、これはおもしろい考え方だなと思いました。プロジェクトでも恐らくこれはすごく活かせるし、チームワークでもすごく有効な考え方だなと思います。

また、「遊び」に関しての資料ですが、ロジェ・カイヨワという人が「遊び」を分解していくと、「遊びの4大要素」ということで、なにがしかの、他者とか自分の「競争」である。さらには何か架空の世界をまねるような、ままごとのようなものであると(「模擬」)。もしくは、架空の世界の別の何かに化身すること。

あとは「目眩」ですね。スリルだったりとか驚きだったりとか。あとは「運」要素であるという話があって。このあたりもゲームの中にはすごくたくさん含まれていて、複合的に楽しさ、遊びを作り出しているなといつも感じています。

人間の「遊びたい」という本質が、今の社会を生み出している?

先ほど「みなさんにとって遊びとは?」とお話ししたんですけど、例えば小さい頃はごっこ遊びとか見立て遊びをやりますよね。自分の息子もよくお寿司屋さんになっていたりしました。あとはビデオゲーム。iPhoneでモバイルのゲームなんかもありますけど、さまざまなゲームがありますね。

あと、僕は絵を描くことが好きですけど、絵を描いている時ってすごく遊びを感じてしまうことがあって、無心に熱中して観察をして何かを作っている時とかですね。あとは、僕はスポーツは苦手ですけれども、体を動かすとか何かを競ったりするのも、スポーツというジャンルではあるけれども、大きく見ると何か遊びかもしれないなとか。

あとは、先ほどのミミクリ、模擬で言うと、演劇とか舞踏とか、映画も含まれてくるのかなとか。あと、最大の遊びかなと思うのは祭礼とか祭り、習わしですね。すなわち虚構の世界を作って、その中で何かを演じたり、共同体がいわゆる共同幻想を持って何かに進んでいくことですね。これは大きく捉えると、いわゆる法人とか国家とかにもつながってくると思います。

お金もそうですよね。いわゆる価値がないものに関しても、価値を信頼で、みなさんで共同で作っていく世界なので。もしかすると先ほどの「遊びは文化に先行している」という考え方で言うと、そういった人間の「遊びたい」という本質が、今の人間の住んでいるさまざまな社会規制とか社会規定とかルールとかを生み出しているのかな、なんて、ちょっと話が大きくなりましたが感じています。

「遊び」の観点から見る、ビデオゲームの特徴

話を少し具体的にして、ゲームに小さくフォーカスを当てます。(スライドに)「を」が2回あって誤植がありますが......、ゲームとは、デジタルメディアを使うことによって架空の世界のいわゆる虚構を、人間の同意なしに作ることができるんですね。

じゃんけんでグー・チョキ・パーのどれが勝つかお互いに認識して、ルールに合意してプレイしないとじゃんけんは成立しないんですけど、そのルールをコンピュータ側が、デジタルメディアが自動的に生成してくれるのがビデオゲームの特徴かと思います。

さらに、こちらの『現代ゲーム全史』という本に、非常に興味深いことが書いてあります。ビデオゲームが生まれて50年ぐらいですかね。人類のあらゆるタイプの遊びを、もうエミュレートしているのではないかとコメントが書いてあって、確かにそうかもしれない。いろんな遊びが、ゲームの中でいろんなかたちでエミュレーションされている。

だからこそ、2年後に27兆円の市場規模になるといわれているゲーム業界ですけど、本当に大きなコンテンツ産業になっていて、さらにはAIだったりとか、本当に優れた才能の技術者、デザイナーたちが集結している領域とも捉えることが可能かなと思います。

ということで、資料のお話をしました。

「playable」な働き方の事例

「好奇心」「遊び」「仕事」をかけ合わせて、プロジェクトの運用をしたり、遊びやゲームのデザインをうまく活用することで、円滑にチームワークを作ったり、あとは好奇心をチームの中で常に作り続けることができるのではないかなということが、今私の中で捉えているキーワード、「playable」の定義になります。

1つ事例をお話ししたいと思います。先ほど紹介したワウ、「WOW」、驚きという意味の名称を持つ会社ですが、こちらの特徴的なところで、社内のオリジナルプロジェクトを強く推奨している組織体なんです。業務を直接考慮しなくてもオッケーというプログラムがある。

以前は、例えば以前、長期間通常の業務から外れて、やりたいことを企画して、それをやってみよう! みたいな、そんなことがよく行われておりました。なので、いわば遊びだったりとか、「作りたい」という初期衝動を見直すような状況を、スタッフに常に作り続けている組織になります。

これはもともとは自分が始めたことでもあるんですが、自らというか、自分が常に何かを作っている性分だったので、そこからスタートした考え方ですが、その後デザイナーたちによってさらに洗練されていきました。個人の持っている個性とかフットワークの軽さ、また初期衝動みたいな個人の持っている力は、やはりすごく強いと思うんですね。

だけれども、それを組織でないと実現できない、大勢でないと実現できない組織力をかけ合わせた時に、何かソーシャルなクリエイティビティが生まれるのではないかなとすごく感じていて。それを今ワウのスタッフたちは、常に実践的に行っている状況だと思います。

この重ね合ったオレンジ色の部分(スライドに六角形にデザインされた「Company」と「Personal」が重なって「Social Creativeity」となったベン図が描かれている)が、次のページの「Original Works」になって、さまざまな可能性につながっています。

今まで出会うことのなかった方と出会ったりとか、新しい仕事を創出したりとか、ネットワークが意外なかたちでつながりを持っていたりとか。あと、教育関係につながっていったりということで、可能性につながっているなと感じています。

本気で遊んだ結果を蓄積して、会社の武器に

実際の実例ですけど、2007年に私が作った「Light Rain」という作品があるんですけれども、それを地元の宮城県の美術館で展示したんですね。そうするとすぐ、「韓国のソウルデザインフェスティバルに展示しませんか?」という話が来ました。

その後2009年に、なんとロンドンのヴィクトリア&アルバートミュージアムという、由緒ある美術館での展示が決まりまして、北京、また日本でというかたちで次々と話がつながっていったんですね。

これは、みんなで本気で遊んだ結果をしっかり、いわゆるアーカイブしたのが1つポイントになるんです。蓄積したんですね。遊びとか好奇心をただそれで終わらせるのではなくて、アーカイブして知識とか、いわゆる会社の武器のようなものとして使ったことによって、このような流れになりました。

こういう動きは今も続いています。2022年、WOWは25周年事業ということで展覧会をやりました。こちらも短い映像なのでご覧ください。

こちらは寺田倉庫という場所で開催されたんですが、、本当にワウの中にいる若手のデザイナーたちが、「表現についてもう一度考えてみよう」という機会を作って、それぞれ本当に仕事ではできないんだけれども、「こういう展覧会ではやったらおもしろいのではないか」という作品をたくさん作った展覧会になります。

例えば東北の祭りをテーマにしていたりとか、「回す」というインタラクションに着目していたりとか。あと、屈折を擬似的に作って、見えるものが本当なのか偽物なのか曖昧にしたりとか。あと、照明を人の動きに合わせてコントロールしたりとか。これはいわば大規模な遊びですね。大規模にワウのスタッフが遊んで、それが新しい表現の可能性につながっている事例になります。

「遊び」が「自分たちの可能性を広げていく」ものに

このオリジナルワークの考え方ですけれども、もともと始まった当初はですね、技術的挑戦という意味合いが強かったんですね。「自分たちがやれていないことは何だろう?」「自分たちに欠如していることは何だろう?」「成長するためには何が必要だろう?」と毎年作って、自分たちのステップを上げていく感覚だったんです。

そのステップを上がった、踊り場ぐらいのところですかね、2017年ぐらいから、「いや、そうではなくて、一直線上に上っていく流れではなくて、自分たちがこれから向かっていく方向を決めるものじゃないか」と、ちょっと感覚が変わってきていると思います。

メディアが多様化していたりとか、映像だけではなくてユーザーインターフェースとかサービスのデザインとか。いろいろなものに関わらせていただく中で、可能性を拡大していく動きになっていったのが興味深いです。遊びが何かの学びだった時期から、今は自分たちの可能性を広げていくものに変わっているのが、1つポイントになるかなと思います。

その中で1つ生まれた特殊な事例が、今みなさんに見ていただいている「Breakfast」という資料共有ツールになります。今回は時間があまりないので、このツールの説明はできないんですけれども、62番の映像を見ていただいて、どんなことをやっているのか、どんなオリジナルのプロジェクトなのかを見ていただければと思います。

何をしているかと言うと、オリジナルのワークの延長線で、「資料製作とかプレゼンとかにあまり時間をかけないんだけれども、半自動的に縦スクロール型のいい感じのスライドを作れないかな?」というところから始まったプロジェクトになります。

「じゃあパワーポイントの良さってこういうものがあるよね」とか、「いろんなプレゼンツールってこういう良さがあるよね」といろんな調査をして、「うーん、ちょっと縦スクロールで、いわゆるWebサイトに慣れているから、こういったのもアリなんじゃない?」というような感覚で作っているツールになります。

これも自分の中では、遊びと言ってしまうとあれですけれども、遊びの一環として作っています。スライドを作ったり、投影してくれたり、クラウドにアップしたり、簡単に共有したりというサービス、ツールになっています。

これからちょっと機能をいろいろと加えていきたいなと思っています。インタラクティブな機能ですよね。先ほどのおみくじのような、サイコロを振るといろいろ出てくるとか、ちょっと意外性のある表現が出てきたりとか。スライド・資料作りの中で自分も遊べるような、遊びながらスライドを作れるような感覚になれないかなというかたちで、このBreakfastを今作っているところです。

プロジェクトが「好奇心のタネ」に

今後は、例えば今Zoomとの連携に挑戦しているんですけど、資料の中にZoomが組み込まれていて、この資料にアクセスすれば教員が出てくるとか。あとは複数のスライドをまとめてWebサイトとして公開する。すでに実現ができているんですけども、たくさんのスライドが自動的に並んで、説明があって、Webサイトとして、コレクションとして公開できたりとか。

あとはインフォグラフィックスとか図みたいなものをビジュアライズするような仕組みだったりを今採り入れようとして、スタッフたちとコラボレーションしているところです。

こちらも、もちろんビジネスインとかサービスインして収益を上げていくのも今後考えていくんですけども、やはりチームの中で、「じゃあインフォグラフィックスって何なの?」とか、「図ってどういう役割があって、どういう歴史があって、今どんなものが使われているの?」みたいな、好奇心のタネになるような1つのプロジェクトになっているんですよね。

こういった余白を感じるプロジェクトが社内にあるだけでも、だいぶ知識の共有の風通しが良くなってくると感じているところです。興味のある方は、まだベータ版で無料で使えますので、BreakfastというWebサイトにアクセスしていただいて、お試しいただければと思います。

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