「このまま定年を迎えたら満足しない」大企業からベンチャーへ

司会者:「『ピクニック紀』におけるビジネスの在り方について」と題しまして、株式会社スマイルズ代表・株式会社The Chain Museum代表、遠山正道さんよりご講演いただきます。遠山さん、よろしくお願いいたします。みなさま、拍手でお迎えください。

遠山正道氏(以下、遠山):これから世の中、個人の時代やプロジェクトの時代になっていくと思うんですね。ということは、現実的には中小企業の時代。私自身も中小企業の代表をいくつかやってエンジョイしています。

だから、中小企業の代表はすごくいいと思うんです。一方で、2代目、3代目はいろんなすばらしいものを受け継ぎながらも、同時に縛られてる要素もすごく多いと思うんですね。

私自身は、三菱商事という大きな会社からベンチャーに至った。それはある種、私自身の場合は大企業じゃつまらなくて、(大企業の世界から)抜けてきたところがあるんですけど、2代目、3代目の方は、その環境よりもさらに根深いというか。

私自身の話をさせていただくと、スマイルズという会社をやってます。最初は商社に入って、10年経った時に「このまま定年を迎えたら満足しないな」ということがはっきりしたかなと思います。

商事の会社や上司とかを見ていると、本当にすばらしいんです。文句なんかもちろんないし、すばらしいし、優秀だし、品がいいし、めちゃくちゃいい人だし。なんだけど、当時の私は「尊敬するけど憧れない」って思ったんですね。

今のキャリアに疑問を感じたら、変化しないといけない

遠山:要するに、このままあと10年、20年かけて部長をやって、本部長をやってそうなりたいかと思うと、ちょっと違うなと。

仮にですよ、仮に商社の社長になったとしても、60歳までガーッと走って最後にバトンを渡されて、数年やって終わる。それがやりたいかなぁって思うと、「うーん。ちょっと違うかな」って思ったんですね。でも、どうしていいかわからなくて。

ちなみに今の話は、みなさんにも当てはまるんじゃないかなと思うんですね。私はサラリーマンだったけど、2代目社長や3代目社長も同じような気がするんですね。それぞれですから、わからないですけれども。

あるいは今、専務さんとかをやっていて、このまま社長になっても、それが本当にやりたいことややるべきことなのかなって。社長になりたいのだったら、あとはもうアクセルを踏むだけなので最高ですよね。どうぞやってくださいっていう感じ。

だけど、「うーん。果たしてそうかな?」って思ったら、やっぱり何かを変化させていかなきゃいけないと思うんですね。

アーティスト活動で、初めて自分の「意思表示」をした

遠山:私は、何をやりたいかわからないし、どう変化していいかわからなくて。学生時代に絵を描いてたので、とりあえず絵の個展をやったんですね。それがきっかけで、スープストックトーキョーの起業につながったんです。

いくつか絵の個展をやって気づいたんです。私は33歳で絵の個展をやったんだけど、初めて意志表示をしたんだなと。それまでは自分のことを一人称で語ることがなかったんだなと、逆に気づかされた。

そして、初めての自己責任。サラリーマンだったから、当然上司が「遠山くん、絵の個展をやりなさい」なんて言ってくれるわけもなくて。家庭も子供が生まれたばかりだから、もう四面楚歌。別にアーティストになりたいわけでも、そのことでサラリーマンとしての何かが発達するわけでもなくて、理由はよくわからないんです。

あえて言うなら、「何か変化をしたかった」とか「やりたいからやってるんですけど、何か?」ぐらいしか言えなかった。だけどそういう中で、私は逆に自己責任というか、誰のせいにしないでも済むことを初めて知ったんですよね。

上司からの(仕事)もクライアントワークも大事なんだけど、うまくいく仕事やうまいことばっかりなんてことはなくて。うまくいかない時には、例えば「先代が作ったミッションだから」「この商品が〜」とか、誰かからの都合や、その人のせいにしちゃうんですよね。

私は誰にも頼まれていない、自分でやった個展だったので、自己責任というのかな。誰のせいにもしないで済むし、そしてうまくいった時には自分がめちゃめちゃ嬉しい。すごくやる気が出た。

スープストックトーキョーが生まれた背景

遠山:そしてその結果、スープストックトーキョーが生まれたんですね。要するに、自分で発意して、自分で作って、直接手渡して評価を得ることの喜びを得ちゃって。

絵の個展は5回ぐらいやっていて、ニューヨークとかでもやったんですが、「これってビジネスでもできるな」と思って。

私は商社の情報産業グループにいたんだけど、リテールがやりたくて、関連会社のケンタッキーフライドチキンさんに無理やり「1,000店舗に情報配信しませんか?」ってプランを持っていって、なんとか首尾よく出向させてもらって。ただ、1,000店舗に配信するつもりなんて1ミリもないので、「いや、実は新しいことをやりたくて」と言いながら。

それである時、スープをすすってほっとしてる女性のシーンが思い浮かんで、「これが中心にあると共感を生めそうだな」というところから企画書を書いて、スープストックトーキョーが生まれたんですね。

今は(創業して)25年目ぐらいかな。やってみたら、絵よりもビジネスのほうがめちゃめちゃおもしろいってことに気づいたんですね。

絵も好きで、今もまた再開してるんですが、絵は自分が描いたらある1人の人が買ってくれる。この関係性もすごく嬉しいけど、ビジネスはもっと広い人たちに伝播しながら、「ありがとう」と言われる数がすごく多い。

母親の最期の食事はスープストックの商品

遠山:私の母親も5、6年前に亡くなりましたけど、(亡くなる)前日の夜に私も一緒に自宅にいて、うちのサムゲタンのスープを飲んで、寝て、次の日の朝に亡くなりました。最後の食事がうちのサムゲタン。そういういろんな物語を生んだりもするし、だからビジネスってめちゃめちゃやりがいあるなと思うんですね。

だけどそれには、「何をもって、何を届けたいのか、(その目的が達成)できた時に嬉しい」っていう当たり前の構造があったほうがいいというか、ないとできないですね。

みなさんもいろんな業界をやられていると思います。私は、コンサルの仕事もだけれど、今は女子美(女子美術大学)の特任教授もやっていたり、企業さんの課題解決をする場面もあって。

例えば、これは始まったばっかりですけど、ひな人形の伝統的な企業があって、売り上げも右肩下がりになっていると。(時代的に)そうでしょうね。それをどうしようかといった時に、1つは「ひな人形をクリスマスみたいにもう1回盛り上げるにはどうしたらいいか?」というのが(アイデアとして)1つありうる。

もう1個は、「もともとひな人形って何のためにあったっけ?」というところに遡る。ひな人形は、子どもの健やかな健康を祈るためにあって、我々はそれをずっと100年やってたんだよねっていうところに立ち戻ると、現代で自分の娘が健康に過ごすことを願うには人形じゃなくてもいいよねと。

ひょっとしたらアプリかもしれないし、何かぜんぜん違うサービスがあるかもしれない。そういうふうに根っこに戻って、自分たちが次に提供できることは何かを考える。傍から見るとぜんぜん違うものに見えるかもしれない。でも、根っこは一緒。そういうふうに(原点に)戻って、別のことを考えるのもすごくおもしろいと思います。

マーケティングより大事なのは「何をやりたいか・やるべきか」

遠山:私は、のり弁屋さんもやってるんですね。「刷毛じょうゆ 海苔弁山登り」というんですが、「のり弁、いいよね」と言って、GINZA SIXで1号店を始めたんです。

オープンする1週間前に経営会議で、「そういえば、東京駅だったら新幹線で食べるイメージが湧くし、丸の内だったらOLさんが会社で食べるイメージが湧くんだけど、銀座ってどういう人が買ってどこで食べるんだっけ?」と責任者に聞いたら、「わかりません」と。「だよね」とか言ってオープンしたんですね。

でも、おかげさまで非常に好調で、今は分社化してJRさんがメイン株主で、これから全国に展開していきます。

うちの会社はアートから始まっちゃっているので、ちょっと特殊です。自分たちが何をやりたいか・やるべきかが大事になっていて、マーケティングはないんですよ。

マーケティングをやってもいいのかもしれないけど、「何かのため」という変なバイアスがかかっちゃうんですね。我々は、自分たちがやりたくて・やるべきことをちゃんとしっかり伝えてます。

「なんでこの仕事をやってるんだっけ?」と思うならやめたほうがいい

遠山:一度、Twitter(現:X)にも書いたんですけど、この文字(スライド左側)は私が自分で書きました。

「自分で書いた字はさすがに自分も好き。好きに書いているから当たり前か。自分たちで作ったブランドは自分も好き。好きで作っているから当たり前だ。その当たり前が、いかに少ない世の中か。誰のものでも、誰の好きでも、誰の責任でもないものたち。できれば、誰かの好きに溺れたい」。

要するに、「なんでこの仕事をやってるんだっけ?」と、自分でもわからないようなことだったら、本当にやめたほうがいいと思うんですよね。

「ぜひこれを食べてほしいよね」とか、BtoBだとしても「これがあるためにこういう機能が広まって、だからみんなの幸せが実現するよね」とか、そういうところはすごく大事ですよね。そういうところに戻ってもらえたらいいと思います。

ビジネスマンって、判断はマーケット、意志はミッション、単位は組織、指示は上司がやってくれます。会社にはあらかじめミッションがあったりして、それはそれでいいと思うんですが、我々はアートから始まったので、アーティストは全部「自分」しかないんですよね。

ミッションも自分で考えなきゃいけないし、単位は自分だし、ジャッジもしなきゃいけない。「明日の朝は何時に起きる」「何時に出社しなさい」とか、会社が決めてくれないので、指示も自分。なので、全部自分ごとなんです。

合理的な説明は、合理的な説明で打ち返されて終わる

遠山:うちのスマイルズという会社は、「自分ごと」としょっちゅう言います。2代目の人は、2代目の人なりに自分ごとで考えたほうがいいと思うんですね。責任も自分にくるし、喜びも発意も、自分があるから突破できるというか。

これもちょっと特殊だけど、私の絵の個展がうまくいったのはなんでかな? と思うと、合理的な説明ができないから突破できたんじゃないかな、という気がしてるんですね。

合理的な説明でやることって、合理的な説明で打ち返されて終わるんですね。それ以上にもっと、「今はこれをやらないとダメ」「めちゃめちゃやってみたい」「その可能性にかけてみたい」とか。うちの新規事業はだいたいそうですね。

「新宿でバーをやりたい」という武くんっていうのがいて、経営会議で「自分には娘が2人いて、小さい娘がおっきくなって『チャレンジしたいんだけど』って相談された時に、自分がチャレンジしてないとそれに応えられないからチャレンジしたいんです」と、泣きながらプレゼンされて。「わかったわかった、やろう」みたいな。なんぼ儲かるとかは、やってみないとわからない。